地盤・看板・鞄は民主主義のコストを最小化する(政治家の世襲問題について考える その3)


選挙に勝つためには、「地盤」「看板」「鞄」の所謂、三バンが必要だとは良く言われること。

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「地盤」とは、選挙区内における支持者の組織、団体のこと。

「看板」とは、広く一般にその名が知られていること。知名度があるということ。

「鞄」とは、選挙資金がそれなりにあるということ。

日本の選挙での当落は後援組織の充実度、知名度の有無、選挙資金の多寡や集金力の多少に依存している場合が多く、それらを端的に表したのがこの三バン。

民主主義における選挙において、候補者は本来有権者に何を知らせなければいけないかといえば、その候補者の政策。有権者はその政策を聞き、また候補者の人となりを知った上でその可否を判断しないといけない筈なのだけれど、そのためには避けて通ることの出来ない前提がある。それは、有権者に候補者の存在をまず知って貰わなければならないということ。

何処の選挙区に何々という候補が立候補している、という事実を有権者に知って貰わなければ始まらない。政策云々はその次の話。

この知ってもらうという事だけでさえ、膨大なコストが発生する。

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先に、麻生総理のコメントとして、一枚のパンフレットを10万人に配るだけで2800万円かかるという話を紹介したけれど、2800万円かけてパンフレットを配ったとて、どこまでそのパンフレットを読んでもらえるか分からない。隅々まで読んでくれる人も当然いるだろうけれど、名前だけ見て、あとは忘れてしまう人とか、中には、何にも見ないでゴミ箱にポイする人だっているかもしれない。

しかも、パンフレット程度の大きさだと、多少なりとも公約くらいは書けたとしても、細かな政策を書いたりするだけのスペースは無いし、書いたところで大抵は専門的な内容になる政策を、文章だけで正確に理解してもらうことは難しい。いきおい何々を実現しますとか、これこれを目指します、とかいった当たり障りの無い、抽象的な文言になりがち。

だから、選挙で沢山のお金を使って、パンフレットなり手紙なり、葉書なりを有権者に送ったりしたところで、名前だけでも覚えて貰えば御の字というのが現実。

また、選挙になると、よく家に何々候補をよろしくお願いします、なんて電話が掛かってくるけれど、そのほとんどは名前しか伝えないし、伝えられない。中には政策やら何やらを話すこともあるかもしれないけれど、あまりにも深い内容になると、候補者本人とか政策秘書でないと答えられないし、電話でそんなに一人に時間を取られては効率が悪くてやってられない。大抵は事務所に来てくださいとなる。

そういう現状を考えると、「地盤」「看板」「鞄」の三バンがどれ程のアドバンテージを生んでいるのか良く分かる。

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「地盤」があれば、候補者の名前なんか、支援組織内では衆知の事実。改めて知らせる必要はない。それどころか、友人・知人に候補者の支援をお願いしたり、選挙活動を手伝ってくれたりさえする。「知らせる」コストが殆どタダで済むどころか、勝手に知らせてくれさえする。とても有り難い存在。

「看板」があれば、候補者の名前は既に知られている。有権者に「名前」を知らせる必要は殆どない。唯一必要になるのは、立候補している事実を伝えること。それとて、タレント候補や著名人なんかだと、雑誌やテレビで立候補しましたなんてニュースやインタビュー記事をバンバン流してくれるから、立候補したことを知らせるコストすら最小化されている。

「鞄」があることの優位は説明するまでもない。豊富な選挙資金があれば、それこそパンフレットなり手紙なりをどんどん刷って配って、電話攻勢もガンガンやって、候補者の名前を衆知徹底させることができる。

だから、選挙における三バン、特に「地盤」と「看板」は、最初から名前を知らせるというコストが殆ど発生しない。また「鞄」ですら資金があればあるほど、スケールメリットが働くから相対的にコストは抑えられる。

地盤・看板・鞄は、民主主義のコストを最小化する。

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この記事へのコメント

  • 美月

    いわゆる「費用対効果」ですね。経営的視点から民主主義社会の運営を考える…と言うのは、なんとも興味深いお話です…
    以前、「芸能人候補(またはタレント候補)を立てるなんて!」という騒ぎがありましたが、莫大な宣伝コストを考えると、テレビがタレント候補を面白がって1日中宣伝してくれる場合は、とてもありがたいわけですね。

    日常の身近なところに隠れている情報格差のレベルを考えると、これも空恐ろしいものがあるなと思いました…
    2015年08月10日 16:50

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