パリ郊外Chapet村の山下農園


「わたしがやりたいのは、蕪みたいなフランスにも普通にあるベーシックなもので、日本の野菜のすごさを見せたいんですよ。だって、美味しくないじゃないですか、フランスの野菜」

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パリから20分ほどの近郊の小さな村で、「オートクチュールの野菜」と呼ばれる極上の野菜を作っている日本人がいる。山下農園を経営する山下朝史さんがその人。

彼のつくる野菜にはフレンチのグランシェフたちからのラブコールが絶えない。高名な料理評論家に「奇跡の蕪」と言わさしめた蕪を筆頭に、山下さんの野菜は三ツ星レストランでも手に入らないほどのものだという。

山下さんは、20年ほど前にパリ郊外の家と土地を購入して、2000坪の敷地を自分で開墾した。初めは盆栽を作って販売していたそうなのだけれど、十数年前に日本料理店からの依頼で、野菜作りを始める。

10年ほどたって、その日本食レストランの経営が変わり、取引をやめたのをきっかけにフレンチレストランへの売り込みを考えたという。

彼の凄いところは、いきなり三ツ星レストランに売り込みに行ったところ。しかしそれにはきちんとした裏づけがあった。

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料理の世界は、レシピに著作権がない。一流シェフの味を覚えて、他店が真似をしても誰も文句を言わないし言えない世界だという。すると、トップがトップを守り続けるためには、常にほかの人よりも先に行っていなけれればならない。だからクオリティーが高く、普通のマルシェなんかでは買えない野菜こそ三ツ星レストランが必要とする野菜なのだと山下さんは言う。

そしてさらに、彼の考えの鋭いところは珍しいキワモノではなくて、ベーシックな野菜で勝負しているところ。今のフランス料理の三ツ星とか二ツ星レストランなんかは、日本の山葵を使うようになっているという。でも彼はそんなものには興味を示さない。

そこが凄い。

というのも、キワモノは飽きられれば、それで見向きもされなくなるのだけれど、ベーシックな野菜だとそれがない。いつまでも使ってもらえるものだから。それで他を圧倒する品質があれば、負けることはない。そこをしっかり見極めている。

これはあたかも、基本特許を抑えている企業が長年に渡って特許料収入を得るのと同じ。

きっと、そのための努力には凄まじいものがあるのだろうけれど、淡々とその位置を守っているのには唸るばかりだ。

日本の野菜にはまだまだ可能性が眠っているのかもしれない。

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