討論の中身の分かりやすさ(党首討論についての雑考 後編)

 
党首討論が導入される前の国会での質疑に対する回答は、政府委員と呼ばれる各省長の局長級、要するに官僚が行なっていた。だけどそれは官僚主導政治であり、国会審議の低調を招くとして、政府委員制度の廃止に伴って、議論が高まって党首討論が制度化された経緯がある。

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それはそれで、制度として政治をオープンなものとするものではあるけれど、それが有効に機能するかどうかはそれを如何に使うかに掛かっている。

麻生総理と鳩山代表の党首討論は、はっきりすれ違っていた。鳩山代表は理念を問い、麻生総理は具体的にどうするのだと指摘した。元から議論の次元が違っていた。それは、野党と責任政党の違いのように見えた。

公開されている、党首討論の内容から余計な部分を省いて論点を整理していて気づいたのだけれど、5/21のエントリー「麻生総理のコメントの特徴」でも述べたように、麻生総理は前提とデータに基づいて答弁する特徴があるから、曖昧模糊とした理念的な質問に理念で返すのは苦手のようだ。友愛の社会と作りたいといっても、じゃあどうするの?という応酬に終始しながらも、一応聞かれたことについては全部答えていたことは分かった。

整理した党首討論の概略を下記に列挙する。全文とダイジェスト版の文章量を比較してみると、ダイジェスト版は全文の2割ぐらいの文章量だった。党首討論であれだけ話していて、肝心な部分がたった2割しかなかったというのは、なんだかパレートの法則を証明しているようで興味深い。

ともあれ、如何に有権者に分かりやすく討論できない限り、政治はなかなか有権者の身近なものにはなり難い。

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--党首討論ダイジェスト版 管理人作成--



鳩山代表「北朝鮮核実験の事前通告について、アメリカから日本に対してすぐに通告があったのかどうか政府内でも混乱しているようだ。事実をはっきり国民に知らせて欲しい。」

麻生総理「核実験そのものの情報はかなり早めに伝わっていたが、いつどう伝わったかについては、言わない約束になっている。それは理解願いたい。一番肝心なのは、この種の問題が起きた後の対応である。」

鳩山代表「閣僚によって、知らなかったとか、知っていたとかバラバラである。もっと情報管理をしっかりしないと心配だ。」



鳩山代表「首相にとって大事な事は国のビジョンに基づいて具体的な政策を作り上げる事だ。総理になるときも、なることが目的であって何をやるか決まってない。だから官僚任せの政治になるのだ。私は友愛社会を建設したい。絆のある社会にしたい。しかし現実はそうなってない。何故か?」

麻生首相「友愛、人に対する情愛を持つことに関して全く異論はない。ただし、現実の経済危機、雇用・住宅問題、朝鮮半島の脅威など、現実の問題が山積している。これにどう対応するかが時の政権の再重要課題と考える。その上で我々は『小さくても温かな政府』という理念を申し上げている。国民からみれば、民主党の方こそ社会保障や安全保障といった問題についてどうしようとしているか不安を抱いているのではないか。」



鳩山代表「三鷹第四小学校では、20人のクラスに1人の先生と3、4人のボランティア教師がついて落ちこぼれをなくしている。こうした居場所というものを一人一人が持てる社会を作らねばならない。今の麻生政権は官僚任せの政権、業界中心の縦国家、古い政治である。それに対して、民主党は市民の連帯を大事にする横社会、地域主権の国造りをしていきたい。なぜそのような新しい政治をつくるという発想にならないのか?」

麻生総理「三鷹第四小学校の例からは全体像が見えてこない。また、居場所というものを一人一人が持てる社会というのも抽象的だ。政治家は、政策として具現化していくことが大切。学者でも評論家でもない。官僚についても彼らには公務員としての仕事がある。その為には国家のために尽くすような誇りを持ってやることが基本。彼らをその気にさせる方法を考えておかないと役人は動かない。」



鳩山代表「政府による解決はお金がかかりすぎるが故に悪平等という弊害に陥る。また市場原理にすべてを委ねると今度は弱肉強食という世界に入る。私達は第3の道を模索をしなければならない。むしろボランティアとかNPOとかに政府が後押しすることでコストが掛からなくなる。その為には国民からの政治の信頼回復と官僚政治を打破しなければならない。政治と金の問題にしても企業・団体献金を3年後には完全に禁止、ダミー献金は即時禁止。世襲は制限。直ぐに法案を出すから成立に協力いただきたい。」

麻生総理「『国民目線』というのなら、国民の最大の関心事は、西松の問題だ。これに対して十分に説明責任を果たしたとお思いか。国民目線からみるとなかなか理解しがたい。企業とか団体献金禁止を打ち出しているが、これも小沢(前)代表の秘書が逮捕されたことがきっかけの筈。法改正の前に現行法を守ってないのが問題だ。秘書の違反を契機に制度の変更というのは論理のすり替え。企業献金、世襲の話については、いろいろ論議があるのはいいことだし、各党でいろいろルールを作るのもいいことだ。安倍幹事長代理のころ公募制度を採用した。選挙区で選ばれた人が有為であれば、それなりの選択をしたということ。党内の議論をきちんと踏まえて行なわれるべきものだ。」




鳩山代表「説明責任については、第三者委員会を作ったけれど検察もメディアも誰も来ない。これはおかしい。近々報告書が出るからそれを見て欲しい。天下りを調査したら4500の天下り団体に、2万5000人天下っている。12兆1000億円のお金がそこに流れていて、その半分が随意契約だ。どう考えるのか。」

麻生総理「後援会には企業献金は出来なくなっている筈なのに、出たということでこういう話になった。それに対して説明責任を果たしているかと聞いている。代表を降りたことはそれなりだが、直ぐに代表代行になっているし、殉ずるときには殉ずるといった人がそのまま代表になっている。話が違うではないか。政治の信頼を回復する上でも言葉は大切にしなければいけない。企業献金そのものは存在意義があり法律でも認められている。そういう形にしようとしたのは我々ではないか。説明責任の話を企業献金の禁止にすり変えるのはおかしい。天下りの話も向こう3年間は認めていたのを本年から禁止にして、それにしっかり対応したと思っている。問題解決は開かれた形でやれるようにしたい。」




鳩山代表「すり替えしている積もりはない。企業・団体献金をすべて悪と決め付けるつもりはないが、全部オープンに、正しいことをしても事件が起きてしまう。政治に対する信頼が失われてしまう。これは避けなきゃいけない。法案を出すから成立していただきたい。それから補正予算が滅茶苦茶である。アニメの殿堂を作るとか、役所にエコカーや地デジテレビを入れたり、役所なんて一番最後でいいではないか。役所や独立行政法人に対する施設整備費が本予算で6490億、補正で2兆8000億つけている。官僚の為の予算だ。補正なんて止めよう。」

麻生総理「本人が正しいと思っていても、間違った場合は逮捕される。だから国策捜査には当たらない。予算については、単年度では今回の経済危機に対応できないと考えている。よって複数年に対応するために基金を使っている。これは経済危機に対するきちんとした対応だと理解して欲しい。東京外環道路のように長期間かかるものは当然かかる。自動車やテレビについては、民主党は温室ガス削減を90年度比22%減という高い目標を掲げているが、それを達成する為には可処分所得で22万円、光熱費で14万円の合計36万円掛かることになる。しかし世論はそのような負担には反対である。だから理想ではなく現実論としてそれに対応しなければならない。」



※ 党首討論全文はこちらの記事を参照ください。

1: http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090527/plc0905271605006-n1.htm
2: http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090527/plc0905271654007-n1.htm
3: http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090527/plc0905271716008-n1.htm
4: http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090527/plc0905271726009-n1.htm
5: http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090527/plc0905271805010-n1.htm



画像政府委員制度

明治時代の帝国議会開設以来、議会における議員から政府に対する質問には、国務大臣のほか、政府職員が「政府委員」(大日本帝国憲法54条)として答弁に当たった。

この政府委員制度は、日本国憲法の下における国会でも維持された。 国会法第69条では、国務大臣を補佐するため、内閣が議長の承認を得て政府委員を任命することを認めており、各省庁の局長級約300名がこれに任命されていた。

国会の委員会審議においては、細目詳細にわたる具体的な問題から重要な問題まで、多くの答弁が「その件につきましては政府委員から答弁させます」という大臣の一言で政府委員によって行われた。この、大臣に代わって政府委員が答弁することこそ、大臣が政策を勉強しない理由の一つともされた[1]。

このように、政府委員制度の存在自体が、官僚主導政治と国会における審議低調の一因と目されるようになった。

そこで、1999年(平成11年)に成立した国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律(平成11年法律第116号)により、2001年から政府委員制度が廃止されるとともに、副大臣・大臣政務官制度が新設されることとなった。 これは当時の政治行政改革気運の高まりを受けた制度改正であり、国会における審議の活性化と、政治主導の政策決定システムの確立が期待された。

URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E5%BA%9C%E5%8F%82%E8%80%83%E4%BA%BA

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