レアメタルの獲得と再生(エコカーと資源について 後編)


こうした資源獲得にたいする対策として考えられる方法は2つある。ひとつは資源埋蔵場所を新たに探索、発掘すること。もうひとつはレアメタルを回収・リサイクルする技術を開発すること。
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前者については日本の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚延伸可能域内にはレアメタルを含む海底熱水鉱床やコバルト、銅、白金を含むコバルト・リッチ・クラストなどが多数発見されている。海底熱水鉱床では世界第一位、コバルト・リッチ・クラストでは世界第二位の資源量があるという。

コバルト・リッチ・クラストとは深海底に存在する鉱物資源のひとつで、マンガン団塊の一種。コバルトを特に多く含むものをいう。中~南部太平洋などの古い基盤をもつ海山の山頂・斜面に広く発達していることが確認されている。海山の斜面や頂上などの岩盤の露出する場所に形成される特徴がある。

政府も、レアメタルなどを採取するための海底探査を行うことを計画していて、2018年度までの試験掘削などを行うことを目指している。
 
こうした海底資源採掘は、採算性が合わなくてなかなか開発が進んでいなかったけれど、近年の資源価格高騰によって大分採算性も見えてくるようになってきた。

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また、レアメタル回収技術についても近年研究が進んできている。携帯電話や家電の廃棄物の山、所謂「都市鉱山」からレアメタルを回収したり、工業廃水からレアメタルを回収する技術なんかも開発されてきている。

前者の都市鉱山からレアメタルを回収するに当たって問題になるのは、実はリサイクルそのものではなく収集コスト。

携帯電話には「モバイル・リサイクル・ネットワーク」という、通信事業者やメーカーがサポートしている回収ネットワークがある。だけど回収して得られた資源の利益は収集コストでほぼゼロになってしまうという。

それでも国内で携帯電話を回収しなければならないのは、中国が安く買い取るから。彼らは買い取った携帯を分解して、組み立て直し、型落ちの携帯電話として使う。それも壊れたらまた分解して、中の部品を再利用する。そして最後に金属資源を取り出す。まるでお茶を出涸らしになるまで使って、最後の葉っぱまで食べてしまうかのよう。

そんなことをされたら商売にならないから、たとえペイしなくても国内で回収する仕組みを作っている。それでも国内の回収率は20%前後。思い出として取っておいたり、電話帳やデータバックアップ用として使ったり、個人情報の流出の心配から回収に回さないケースが多いという。

このあたりの問題を如何に解決してゆくかが今後の課題。 

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後者の工業廃水からレアメタルを回収する技術は、名古屋大エコトピア科学研究所の伊藤秀章特任教授らが開発した。

レアメタルが入った廃水に、水酸化カルシウムを鉱化剤として混ぜて300℃位にまで熱して、10気圧の圧力を加えると、レアメタルが鉱物化するという。その回収率は99%にも及ぶ。この仕組みは自然界の鉱物が地中のマグマ熱で高温高圧化した地下水の中で固まって作られたことをヒントしたというから、実に理にかなった方法だといえる。

しかも、工業排水から有害物質を分離しながら、レアメタルを回収できるから、採算性さえ合えば非常に有用な技術になるだろう。

今現在、世界のレアメタル資源は中国が握っている。というのも10~20年程前に中国はレアメタルの国内需要がないことを背景に、外貨獲得のためにレアメタルの輸出に補助金を出して安売り攻勢をかけていた。その結果、世界中の鉱山や製錬所が、中国産の安いレアメタルとの価格競争に負けて廃業に追い込まれていった経緯がある。

今や戦略資源として見られているレアメタル。ここを如何に抑えていくかが、今後の日本の成長を支える柱となる。

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画像政府、資源確保に海底探査を実施へ レアメタルなどに期待 2009年01月07日 01:39 発信地:東京

【1月7日 AFP】政府は、電子機器などに用いられる希土類などを採取するために海底探査を行うことを計画している。希少金属(レアメタル)などについて、中国からの輸入への過度な依存を減らしていくことが期待されているという。政府関係者が6日、明らかにした。

 また、政府はこの計画で、石油や天然ガス、メタンハイドレートなどのエネルギー資源の産出能力の強化に取り組んでいくという。こうした海底資源については、2018年度までの試験掘削などを行うことを目指している。

 日本周辺の海底には豊富な資源があるとされてきたが、海底探査技術の開発には膨大なコストがかかるため、これまで探査が行われていなかった。レアメタルに加え、日本周辺の海底には、現在の使用量の5000年分の金や銀、コバルト、さらに100年分のメタンハイドレートも埋蔵されていると見積もられている。

 中国は世界のレアメタルの大部分を産出しているが、こうしたレアメタルは、日本企業にとって重要な分野である半導体やハイブリッド車の部品に用いられる。

 政府関係者によると、政府は3月にこの計画を最終決定し、4月から実施に移す方針だという。(c)AFP

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URL:http://www.afpbb.com/article/economy/2555029/3658026



画像平成19年度携帯電話・PHSにおけるリサイクルの取り組み状況について  社団法人電気通信事業者協会 情報通信ネットワーク産業協会 2008年6月24日

社団法人電気通信事業者協会(TCA)と情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)は、携帯電話・PHSにおける資源の有効利用について取り組んでいます。

TCAと携帯電話・PHS事業者は、平成13年4月から開始した「モバイル・リサイクル・ネットワーク」により、サービス提供事業者、製造メーカーに関係なく、使用済みの携帯電話・PHSの本体、電池、充電器を全国約10,400店(平成20年3月末現在)の専売ショップ等において、自主的に回収を行っています。

また、リデュース(抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再資源化)については、CIAJが「携帯電話・PHSの製品環境アセスメントガイドライン」を制定し、製造メーカーにおける指針として製品アセスメントを実施する等の対応を進めています。

今般、平成19年度のリサイクルの実績に関するとりまとめが完了しましたので、お知らせします。

1.平成19年度リサイクル実績と再資源化状況について

(1)リサイクル実績について

《中略》

平成19年度の携帯電話・PHS本体の回収台数は、前年度実績から179千台減少し、平成12年度の13,615千台をピークに減少傾向が続いています。携帯電話・PHSにおいて電子メールやウェブサイトの利用が可能となったのが平成11年であり、平成13年には第3世代携帯が登場しデジカメ機能が具備されるなど、端末の高機能化、多機能化が進展し、電話として使わなくなった携帯電話・PHSを手元に保管し続ける利用者が増えたことが原因と考えられ、こうした動きに合せて回収数の減少が生じています。

一方、電池の回収台数が増えております。電池につきましては、一部キャリアで会員向けに実施している電池交換サービスなどにより増えたものと思われます。

(2)再資源化状況について
携帯電話・PHSに含まれる金属は、鉄、アルミニウム、マグネシウム、金、銀、銅などですが、金、銀、銅などの稀少金属は素材に戻し、再利用をしています。精錬の過程で発生するスラグは路盤材、湾岸施設(テトラポット中込材)などに利用されています。

また、金属以外の素材(プラスチック、ガラスなど)についてもリサイクル処理を実施しています。プラスチックは低温溶解により樹脂材となり、ハンガー等の日用品、プラスチック収納容器、玩具の筐体等に利用されています。

なお、平成18年度より、リサイクル目標の指標をマテリアルリサイクル率とし、目標値を携帯電話本体の60%以上、電池30%以上と設定して活動し、平成19年度においては、どちらも目標達成しております。また、廃棄処理は行っていません。

(3)利用者の意識・行動に関するアンケート調査結果について
リサイクルに関する実態を調べるため、携帯電話・PHS利用者2000人に対するアンケート調査を昨年に引き続き実施しました(添付資料1参照)。

上記(1)のとおり回収数は減少していますが、これは買換・解約時に端末を処分せず手元に置いておく傾向が強まっているためです。本アンケートにおいても、過去1年間に買換・解約等により端末を処分した人の割合は29.6%で、昨年度より3.2%減少しています。
これは、処分せずに保有し続ける人が増えていることを示してしています。
また、過去1年間に処分した端末の平均使用期間は2年10ヵ月で、前年度の2年8ヵ月からは若干伸びている状況です。
端末を手元に置いておく理由(複数回答)としては、前年度の調査とほぼ同様な傾向で、写真やメールが残る端末を「コレクション・思い出として残す」(59%)が最も多く、若者を中心とした携帯・PHS端末への愛着の強さが伺えます。また、端末の多機能化、高性能化により「電話帳として利用」(22%)「データのバックアップ用」(11%)「デジカメ」(12%)「ゲーム機」(6%)「目覚まし時計」(23%)などの用途で利用している人も半数を超える結果となっています。ICカード(SIMカードまたはUIMカード)の入れ替えによる複数端末利用の影響も少しずつ現われています。また、端末デザインの洗練化も端末への愛着を高める傾向にあります。その他には、個人情報保護への意識の高まりを反映して「個人情報が漏れるのが心配」とする回答も 25%と昨年同様多く見られます。また、「何となく」という回答が63%あり、必ずしも積極的な理由で保有しているばかりでない実態も伺えます。
端末が不要となった際に「ゴミとして捨てた」人は、昨年同様で14%の横ばい傾向、「ショップに引き取ってもらった」人の割合が67%に留まっており、業界としては、リサイクル活動の更なる普及啓発を推進していきます。また、今年度から新たに調査した結果、「中古品として売却した」とする回答が 3.3%あり、今後の推移を見守っていきます。
また、携帯電話・PHSのリサイクルに関する認知度も、まだ54%に留まっており、認知度向上に向けた施策を引き続き推進する必要があります。


2.リサイクル向上に向けた今後の対応について

(1)認知度の向上に向けた施策展開
携帯電話・PHSのリサイクルに対する認知度がまだ十分でないため、買換・解約時にショップ店頭での案内を強化すると共に、カタログ・取扱説明書などにおける周知、媒体広告などに引き続き力を入れていきます。また、ゴミとして処分する人を更に減らすため、ゴミの収集を行政する自治体の周知協力が得られるよう引き続き働きかけを行なっていきます。

(2)回収可能性を高める対策
端末内に保存・蓄積した情報やデータ(写真、メール記録など)に愛着を感じているという回答に対する対策として、保存・蓄積したデータのバックアップや新端末への引継ぎを可能とする措置を強化し、回収可能性を高めていきます。
端末内に残る個人情報を確実に消去する方法・手段を利用者に対して分かりやすく説明・啓発すると共に、専売ショップにおけるサポート(端末破砕など)を強化し、個人情報の漏洩を心配する声に対して、安心して専売ショップに不要端末を預けていただけるようアピールしていきます。
端末の多機能化、高機能化の進展により、他社端末を回収する場合に生じる課題(保存データの移管や電子マネーの精算確認など)に対してどのように対応するか検討を進めています。

(3)3Rに対する取組み
「携帯電話・PHSの製品環境アセスメントガイドライン」を更に充実させ、3R(リデュース、リユース、リサイクル)に配慮した製品設計等を一層推進します(添付資料2)。
携帯電話・PHS業界として平成18年度より、リサイクル目標の指標をマテリアルリサイクル率とし、目標値を携帯電話本体の60%以上、電池30%以上を維持すると共に、部品をリユースする可能性についても検討を進めていきます。

(4)平成20年度における各社の取組み
リサイクル向上に向けた平成20年度における各社の主な取組みは添付資料3のとおりです。

《後略》

URL:http://www.tca.or.jp/press_release/2008/0624_164.html



画像中日新聞:工業廃水からレアメタル 名大グループ開発 高温高圧にして鉱物化:2009年2月17日 朝刊

 工業廃水から有害なレアメタル(希少金属)を資源として回収する技術を、名古屋大エコトピア科学研究所の伊藤秀章特任教授、笹井亮講師らのグループが開発した。地底で鉱物資源を生成した高温高圧の条件がヒントとなった。世界的にレアメタルの需要が増え、価格が高騰する中、資源小国の日本にとって有益な技術として期待される。

 グループは、高温高圧に耐えられるステンレス製の100ミリリットルの容器を設計。クロム、タングステン、モリブデンなどのレアメタルが入った廃水に、水酸化カルシウム(消石灰)を鉱化剤として混ぜ、容器の温度を100-300度にして10気圧の圧力を加えたところ、いずれも鉱物化し、99%回収できた。

 複数のレアメタルが混ざっていても水の温度や圧力などを変えることで段階的に分離できるという。

 グループは地球の鉱物資源が、地中のマグマ熱で高温高圧化した地下水の中で元素が固まって作られたことをヒントに着想した。

 伊藤特任教授は「工業化には容器の大規模化や効率的な処理システムづくりが課題。容器の加熱に工場の廃熱を利用すればコストもかからない」と企業との開発研究を目指す。

◆一石二鳥の技術

 <細田衛士・慶応大教授(環境経済学)の話> 有害な廃水を適正に処理しながら資源も同時に回収できる一石二鳥の、環境にも経済的にも望ましい期待できる技術だ。今後、いかに大量に資源を回収し、処理コストを抑えて採算性を出せるかが鍵になる。

URL:http://www.happy-man.jp/engineer/2009/02/post_293.php



画像四川大地震の影響から見えるレアメタル中国依存からの脱却の必要性 平沼光/東京財団 政策研究部プログラム・オフィサー 更新日:2008/07/08

▼中国に依存する日本のレアメタル供給源

四川大地震から一ヶ月が経過する中、震源地付近を産出地とするレアメタルの供給減少、また価格の上昇が懸念されている。震源地付近では自動車の特殊鋼材の原料となるマンガンやバナジウムといったレアメタルが産出し、日本はその多くを中国から輸入している。既にバナジウムの価格は地震前に比べ大きく値を上げ、日本の自動車、鉄鋼メーカーは今後の動向に注目をしている。
以前より日本のレアメタル供給源が中国に依存していることは指摘されていたが、今回の地震であらためてそれを確認することになった。
備蓄対象や要注視対象になっている主なレアメタルのいくつかを例に、日本への供給国割合を下記表のように整理するとその中国への依存状況がよくわかる。(※下記表は2005年の供給国割合)

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※総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策本部「今後のレアメタルの安定供給対策について」(平成19年7月31日)から筆者作成

レアメタルは産業のビタミンなどと呼ばれIT、自動車をはじめハイテク産業など幅広い分野で日本の産業を支える必要不可欠なものであり、特定の国、地域にその供給を依存しすぎることは資源エネルギー安全保障の面から見ても好ましいことではない。もともとレアメタル自体の埋蔵に地域的な偏在性が強いということはあるが、今回の地震や生産国の政情などに左右されない供給源を確保することが求められる。



▼需要が増すレアメタル

2006年5月に経済産業省が発表した新国家エネルギー戦略によると、運輸エネルギーの次世代化計画として、ほぼ100%石油に依存している運輸部門の石油依存度を2030年には80%程度の依存に引き下げるとされている。そのための施策の一つとして、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車の更なる普及が挙げられている。それに応じるように、トヨタ自動車は2007年の世界販売実績約28万台のハイブリッド車プリウスの販売台数を、2010年の早い時期に年間100万台にまで引き上げる方針である。 ホンダも全世界で年間20万台の販売を見込んだ新型ハイブリッド車を2009年初めに発売し、その後ハイブリッド車の車種を増やし、ハイブリッド車の年間合計販売台数を50万台程度にする見通しだ。

ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車などいずれもニッケル水素電池やリチウムイオン電池など白金、リチウム、レアアースなどのレアメタルを必要とする二次電池が必要である。トヨタ自動車やホンダのハイブリッド車戦略強化の動きは、世界的な自動車産業の動向として今後ますますレアメタルを必要とする二次電池を搭載した車が市場にあふれるということになり、自動車一つとっても今後レアメタルの需要が急増することが容易に予想される。

既に中国は資源保護の強化を国策に、レアアース等の外国企業の採掘の禁止や制限、また2006年9月にはレアメタルの多くについて輸出増値税の還付制度の廃止など、資源の囲い込みを行っているが、世界的なレアメタルの需要増は今後ますます資源確保の競争を激化させる方向にあるといえる。
需要国である日本がとるべき方策として、

①供給国の多元化
②レアメタル備蓄制度の強化
③レアメタルのリサイクルの促進(都市鉱山の活用)
④国内鉱山の再開発
⑤金属代替技術の促進

などが検討されているが、今後のレアメタルの世界的な需要の増大を考えると、日本は上述に限らずレアメタル確保のための様々な可能性を検討し、金属資源確保の手段を多元化しなければならないであろう。


▼中国依存を緩和するレアメタルの新しい供給源

このような状況の中、中国依存を緩和するレアメタルの新しい供給源の可能性として考えられるのが日本の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚延伸可能域内に存在する海底鉱物資源の利用がある。日本のEEZと大陸棚延伸可能域内にはレアメタルを含む海底熱水鉱床、そしてコバルト、銅、白金を含むコバルト・リッチ・クラストなどが多数発見されており、海底熱水鉱床では世界第一位、コバルト・リッチ・クラストでは世界第二位の資源量があるとされている。 

各国の資源メジャーも海底鉱物資源に注目しており、パプアニューギニア、ニュージーランドなどで海底鉱物資源の探査、開発活動を行っているNeptune Minerals社(英)の日本法人、ネプチューン・ミネラルズ・ジャパン(株)は、日本の鉱業法に基づき、伊豆諸島や小笠原諸島、沖縄近海などの日本のEEZ内における試掘権の申請を2007年2月に外資系として初めて行っている。また、資源メジャーのTeck Cominco社(カナダ)、Anglo American社(英)、Epion Holdings社(露)が株主のNautilus Minerals社(カナダ)はパプアニューギニア、フィージー、トンガ、ソロモン諸島などで海底資源探査、開発を行っており、近い将来商業生産者となるべく活動している。 

これまで海底鉱物資源の利用はコストがかかりすぎ実現が難しいとされてきたが、昨今の資源価格高、鉱物価格高により海底鉱物資源の開発・利用の採算性が高まってきたこと、今後、中国をはじめ世界的に資源ナショナリズムの傾向はさらに強くなりあらゆるところで資源の囲い込みが起こるであろうこと、そして、各国の資源メジャーが海底鉱物資源に注目しはじめ、実際に日本近海や太平洋で探査・開発を行っていることを考えると、日本としても海底鉱物資源の利用を資源確保手段の多元化の施策として、これまで以上に実現を視野に入れた検討を行っていく必要がある。


▼海面上昇の危機に晒される太平洋島嶼国の海底鉱物資源の共同開発

金属資源の新たな供給源の一つとして期待される海底鉱物資源であるが、海外の資源メジャーが日本近海にまで触手を伸ばしてきている現状を考えると、今後は日本近海の海底鉱物資源のみならず、海外の海底鉱物資源の確保も検討していく必要がある。海外の海底鉱物資源の確保のためにはどのような外交手段があるであろうか。ここでは、海外の海底鉱物資源の確保のための新しい外交手段として、海面上昇により危機に瀕する太平洋島嶼国との関係強化を一つの可能性として示したい。

国際協力機構と石油天然ガス・金属鉱物資源機構は1985年から2005年にかけて南太平洋のSOPAC(South Pacific Applied Geoscience Committee:南太平洋応用地球科学委員会) 加盟国の排他的経済水域(EEZ)において海底鉱物資源の調査を行った。その結果、クック諸島、キリバス、ツバル、サモアの4カ国のEEZにおいてマンガン団塊の調査を行い、特にクック諸島海域でマンガン団塊の高密度分布を確認、キリバス、ツバル、サモア、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の5ヶ国のEEZではコバルトリッチクラスト鉱床の賦存の把握を行い、特にマーシャル諸島、キリバス、ミクロネシア連邦において顕著な賦存を確認した。また、ソロモン諸島、バヌアツ、フィージーの海域で海底熱水鉱床の賦存を確認するなど、南太平洋の島嶼国には海底鉱物資源開発の可能性が秘められていることが明らかになった。

その一方、ツバルやキリバスをはじめ南太平洋の島嶼国は海面上昇による危機にさらされており、海底鉱物資源の開発以前に国家存続の手立てを考えなければいけない状況におかれている。既にツバルなどでは塩害による被害などが出てきおり、このまま海面上昇が続けば島での居住がさらに困難になるという危機的状況におかれるであろう。国連海洋法条約によると「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」とされており、海面上昇により居住も独自の経済活動生活も出来なくなった島は排他的経済水域、大陸棚といった海洋に係わる権利も消滅してしまう可能性がある。

このように海底鉱物資源の利用の可能性はあるものの海面上昇の危機にさらされている太平洋の島嶼国に対し、島で生活が出来なくなった島嶼国民の日本への受け入れ、また、沖ノ鳥島の経験などを生かし、海面上昇後も独自の経済活動を可能にするための経済的・人的支援などEEZを確保できる島の維持活動を実施するなど、日本が積極的に支援を行い、その関係を強化することで、太平洋島嶼国のEEZを共同で管理し、海底鉱物資源を一緒に開発・利用する合意を得るという外交政策を展開することは、資源外交の新しいオプションとして考えることができる。

太平洋島嶼国のEEZを日本と共同で管理すること、または優先的に利用する権利を得ることは法的に可能であろうか。国連海洋法条約第72条権利の移転の制限の項には、「第69条及び第70条に定める生物資源を開発する権利は、関係国の間に別段の合意がない限り、貸借契約又は許可、合弁事業の設立その他の権利の移転の効果を有する方法によって、第三国又はその国民に対して直接又は間接に移転してはならない。」とあり、関係国の合意が形成されれば資源を開発する権利を得ることが可能といえる。

以上、四川大地震をきっかけに日本のレアメタル供給源が中国に依存している実情をあらためて確認し、それを緩和するための新しい可能性としての日本近海の海底鉱物資源の利用、ひいては海面上昇の危機に晒される太平洋島嶼国のEEZの共同管理の可能性などを記した。

確かに海底鉱物資源の開発は現状では地上の鉱物資源開発に比べフロンティアであり先に手をつけて他国を先行するという可能性を秘めているが、昨今の中国の全方位的な資源外交の姿勢など見ていると近い将来中国もこれまで以上に海底鉱物資源に注目をしてくることは大いに考えられる。地上での鉱物資源獲得で中国に遅れを取っている日本としては、海底鉱物資源の開発では遅れをとらないことが望まれる。

<平沼光/東京財団 政策研究部プログラム・オフィサー>
元日産自動車勤務。現在は東京財団政策研究部にて外交・安全保障分野のプログラム・オフィサー。「エネルギーと日本の外交」研究プロジェクト担当。

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URL:http://www.tkfd.or.jp/research/news.php?id=298

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