今日は少し趣向を変えて、総選挙に向けて、民主党の絶対優位と見られる中、ネットと世間一般の乖離を考慮しつつ、与党の立場からみて、いかなる選挙戦を行うべきかについて、考えてみたいと思います。
ここで、私が、明確に、自民党支持だ、と言わないのは、麻生総理以外の全ての自民党代議士が「日本を守る」スタンスでいるかどうかいまひとつ不明であるからです。したがって、諸手を挙げての現与党政権全面支持でもないということは、予めお断りしておきたいと思います。
まずは、現状把握から。
1.世代別投票率と有権者数
財団法人「明るい選挙推進委員会」が第44回衆議院議員総選挙における年齢別投票率のデータを出していますが、そこから、各年代別の投票者数だけを抜き出してみますと次のとおりになっています。
日本の20歳以上の有権者年代別人口構成はどの年代もほとんど同じであるのに、投票率に著しい差があるため、中高年の投票の影響が大きいことが分かります。
詳しくは、こちらを参照ください。
・第44回衆議院議員総選挙における年齢別投票率(財団法人 明るい選挙推進委員会)http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/s44.html
次に、ネット使用者比率を見てみます。総務省による平成17年「通信利用動向調査」にて、世代別のネット使用者のデータが公表されています。
少し古いですが、次の表をご覧ください。
50代以下では、ネット普及率が9割を超えています。しかし、それ以上の世代では急速にネット使用率が減っていっていることが分かります。
詳しくは、こちらを参照ください。
・総務省による平成17年「通信利用動向調査」http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060519_1_bt1.pdf
そこで、若年層と中高年層の境界を45才と設定して、投票者数を足してみると、
年齢層 投票者数
若年層(20~44歳) 65459
中高年(45歳以上) 128128
と、なります。
45歳以下の投票者合計が6万5千強であるのに対して、45歳以上の中高年の投票者合計は12万8千余りあります。要するに、若年層の政治に対する影響力は、「中高年層の半分程度しかない」ということですね。
まず、この現実を認識することが出発点になると思います。
2.ネットの現実世界への影響力
次に政治系ブログが、現実世界にどれほど影響があるのかについて述べてみたいと思います。
2年も前の分析になりますが、まずはこちらを参照ください。
「ネットの現実世界への影響力を検討する その1」
「ネットの現実世界への影響力を検討する その2」
「ネットの現実世界への影響力を検討する その3」
「ネットの現実世界への影響力を検討する その4」
ポイント1.政治系ネットブログの現実世界への影響力は6.66~0.66%程度である
ポイント2.政治系ネットブロガーは、新製品普及過程論でいえば、「革新者」のレベルに留まっている
ポイント3.ネット上の各カテゴリーは独立しており、相互間の交流は極めて希薄である
ポイント4.ネットから現実世界へ影響力を発揮するには、新製品普及過程論からみれば、オピニオンリーダーを狙うべきである
と、当時は分析しています。
さて、これらの分析は2年前のものなのですが、果たして今はどうなのか、を検証するために、先日の都議選について、大手マスコミとネットの世論調査結果を調べてみますと、次のとおりでした。
読売:自民党16.9%、民主党29.4%、公明党5.1%、共産党4.5% (RDD方式:有効回答1444人)
東京:自民党25.4%、民主党38.0%、公明党12.0%、共産党8.7%、生活者ネット2.3%、社民党1.0%、その他の党派-、無所属3.2%、分からない・無回答9.4%(RDD方式:有効回答1529人)
毎日:自民党13%、民主党26%、公明党6%、共産党4%、生活ネット1%、社民党1%、その他政党1%、無所属2%
朝日:自民党15%、民主党28%、公明党6%、共産党4%、生活ネット0%、社民党1%、その他政党0%、無所属1%(RDD方式:有効回答999人)
ニコニコ動画:自民党31.1%、民主党11.8%、公明党2.3%、共産党4.4%、生活ネット1.1%、社民党0.5%、その他政党4.6%(回答数12507)
この比率を元に、浮動票も同じ比率で投票されたと仮定して、世論調査ベースでの予想獲得議席を計算すると、次のとおりになりました。
読売:自民党38、民主党67、公明党12、共産党9、その他1
東京:自民党38、民主党57、公明党17、共産党6、生活者ネット3、社民党1、無所属5
毎日:自民党31、民主党63、公明党15、共産党11、生活者ネット1、社民党1、その他1、無所属4
朝日:自民党41、民主党59、公明党16、共産党10、生活者ネット0、社民党1、その他0、無所属2
ニコニコ:自民党75、民主党29、公明党5、共産党8、生活者ネット1、社民党1、その他8
そして、実際の獲得議席は次のとおりです。
自民党38、民主党54、公明党23、共産党8、生活者ネット2、社民党0、その他0、無所属2
東京新聞の予想が一番近いですね。ニコニコの支持率とは大きくかけ離れた結果となっています。まだまだマスコミの力は健在だということです。つまり、政治家はマスコミの世論調査をあてにし、マスコミはネットなんてゴミ溜めだ、とバカにすることになるわけです。
したがって、ネットの影響力は2年前と殆ど変わっていない、という結論が導かれます。
3.世の中へのアプローチについて
そこで、次の衆院選挙において、具体的に世の中にどうアプローチしていくかについてですが、その前に、有権者を年齢と政治への関心という二つの基準で分類してみます。すなわち、年齢では、若年層と中高年層の二つに、政治への関心では、関心のある・なしの二つに分け、合計4つのセグメント分けをしますと、次のようになるかと思います。
A)若年層で、政治への関心がある層
B)若年層で、政治への関心がない層
C)中高年層で政治への関心がある層
D)中高年層で政治への関心がない層
それぞれの層の方々は、置かれた環境が異なっていますので、当然、それぞれに合ったアプローチが大事になってくると思います。
このうち、第44回衆院選の投票数データから、AとBの投票数の合計は65459票。CとDの投票数の合計は128128票になります。
ですから、AとBには、与党支持を集めつつ、投票に行ってもらうことが基本戦略になりますし、CとDには、民主党のヤバさをうまく伝えていくかが基本戦略になると思います。
次に、A)~D)の各層の特徴およびアプローチについて述べてみたいと思います。
A)は、比較的自民支持が多く、民主党の危うさを十分知っている層です。しかし、同時に自民の利権政治には絶対NOだ、という強固な層もいます。しかしながら、有権者比率では、6.66%以下しかいない、という層ですから、基本的に何もする必要はないと言ってよいと思います。
自民党支持者は、勝手に周囲に広めてくれますし、必ず投票には行ってくれるでしょう。また、情報がふんだんに溢れている、ネットの世界にあって、なお、強固な反自民の方を親自民に説得するのはとても難しいことは明らかで、かえって時間効率が悪くなると思われます。
B)は、若年で政治への関心がない層です。今は、若年層のテレビ離れが進んでいますから、おそらく偏向メディアのプロパガンダに毒されていないでしょう。普段からテレビなんか見ませんから、何も知らない反面、政治的色はついていない。したがって、きちんと説明すれば、理解してくれる可能性は高いと思います。
彼らが政治的無関心である理由は、彼らが現状維持を好み、今後もこの現状が維持されさえすれれば良いと考えているからであろうと私は推測しています。したがって、政権交代することによって、現状維持どころか現状が破壊される可能性が高い、ということを理解させることが何よりも大切ではないかと思います。
この層は投票率が極めて低いと思われますので、如何に今がヤバイ状況にあるのかを、うまく伝え、かつ投票行為によって、世の中が現実に変わるのだ、ということをきちんと伝えるかがポイントになってくると思われます。先の郵政解散の例を引き合いにだして説明するのも良いかもしれません。
C)の中高年でかつ政治に関心のある層の方々は、おそらく、基本的にオピニオンリーダーが中心であると思われます。中小企業の社長であるとか、土地の名士であるとか、要するに地元の有力者ですね。
彼らは、経済政策に敏感である反面、今は、団塊の世代の方も多く、民主党外交の危うさについては感度が鈍い可能性があります。しかし投票率は高い。ですから、如何に民主党のヤバさを理解していただくかが大切です。普通に言うだけなら、おそらく相手にしてくれないものと思われます。やはり、緻密なデータを元に、論を紡いでゆく、例えば、作家の三橋貴明氏の著書を元に、理論で説得する形が有効かもしれません。彼らは、まがりなりにも、オピニオンリーダーですから、細かいデータを駆使した議論から逃げるということはないものと思います。まぁ、感情的には傷つくかもしれませんが。
D)は、TVを一日中みているような層です。悪い言葉でいえば、B層ですね。即ち、分かりやすく一言で言わないと、なかなか御理解いただけない方々です。ですがこれも投票率は高い。しかもネットは使わない。したがって、こちらの層には、チラシや口コミをベースにした、真実の情報伝達が大事になってくると思います。
ここで重要な点がひとつあります。それは、テレビは嘘しか言わない、と決して批判してはいけないということです。彼らにとって、基本的な情報源はテレビだけなのですから、それを丸ごと否定されるということは、なかなか素直に受け止められることではありません。感情的に反発される恐れがあります。
ですから、テレビを批判するのではなくて、テレビが報道しない事実を伝えるのが大事です。例えば、民主党は、子供手当てを出すと言っているけれども、配偶者控除をなくしてしまうから、実質増税ですよ、とか、高速道路を無料にすると言っているけれども、自動車税が上げると言ってますよ、とかいう具合にです。要するに、テレビは報道しないけれど、マニフェストには書いてあるようなことですね。これを分かりやすく伝えることが大切になるかと思います。
こうしたセグメント分類によるアプローチの変化を考慮していくのが良いかと思います。
麻生総理が争点として「生活の安全、国民の安全」を出していますように、ポイントは、民主党で本当に「安全」になると思っていますか? ということを何処まで納得させられるかにかかっています。
まずはたたき台として、本分析を提示させていただきたいと思います。
明日は、もう少し別の角度から考えてみたいと思います。

この記事へのコメント
snow
目から鱗が落ちる指摘です。
データを示されると確かに納得です。
いかに中高年を説得できるか?
私が親と話した限りだと、テレビの麻生批判が効いているらしく、
麻生総理を毛嫌いしているようです
。
データで功績を示すか、
それとも「麻生太郎の挑戦 ~中東に平和と繁栄の回廊を描け」
のようなでかい夢を語るのが有効なのか?
日比野
中高年の説得はなかなか難しいかもしれません。私はこのエントリーで中高年の方のタイプを二つにわけて、アプローチを検討してみましたが、ほかのみなさんもいろいろ、苦心されているご様子。前向き新聞さんのブログでの分析も参考になさってみては?
SY
今後高齢化により、高齢者の方々の票数はどんどん増えていくわけで、そうなると高齢者の方に受けの悪い「後期高齢者医療制度」を掲げる自民党には圧倒的に不利になるのでは。。。
とはいえ「後期高齢者医療制度」の廃止を掲げる民主党の政策は実現可能かといわれると疑問符が付くわけで。。。やはり民主党に政権を任せる、という選択肢を選ぶことにはどうしても抵抗があります(それより以前に「2大政党制」という「1か0か」みたいなところが間違ってると思いますが)。
コメント主(私)は20代後半ですが、やはり回りの知人友人にこのような話をしようとしても、なかなか聞く耳を持ってくれず、日本の将来に非常に危機感を感じています。