直き真心持ちて 道に違ふことなく(政治家の世襲問題について考える 最終回)

 
子曰:“道之不行也,我知之矣:知者過之,愚者不及也。道之不明也,我知之矣:賢者過之,不肖者不及也。人莫不飲食也,鮮能知味也。”

孔子曰く「私は道の行われないわけを知っている。智者はその智が高遠に過ぎて、道を行う必要がないと思い、愚者は智が及ばず、道を行う方法を知らないからだ。また私は道が明らかにならないわけも知っている。賢者は人情に通じ過ぎて、道を行う必要がないと思い、愚者はその行いが及ばず、道を行う方法を知らないからだ。何人も飲食しないものはないが、真にその味を知るものが少なきがごときものである」
『中庸』 第四章より


画像




孔子は、徳は智・仁・勇の三つが揃って始めて完成すると説いた。智は知識や智恵、仁は愛情や仁義、勇は勇気や意思のことだと広く知られているけれど、これらはそのまま政治家に必要とされる要素。

政治家には理念と政策が必要だと良く言われる。そしてそれを現実のものとする政治手腕も。これらを、それぞれ孔子の智・仁・勇に対応させると、理念が「仁」、政策が「智」、そして政治手腕が「勇」に相当するだろう。

天下の正道を行なう為には、道を知り(=智)、人情に通じ(=仁)、実際に道を行なう意思(=勇)がないといけない。故に、政治家は智・仁・勇を全部持ってないと務まらない。智だけでも駄目だし、仁だけでも駄目、そして勇がないと何も行なうことはできない。全部揃って始めて、民を安んずることの出来る政治家になれる。

徳ある人には、必ず協力者が現われる。それは徳治主義でも民主主義でも同じ。だけど、民主主義は民の数の分だけその人の徳を知らしめる工夫が必要。

民主主義の一番の強みは身分や経歴に関係なく、能力如何で上に立つことができること。たとえ政治家であってもそれは同じ。

世襲が良い悪いというのではなくて、有為の人物を選挙できちんと選べているかどうかが大切なこと。だけど、民主主義というシステムそのものに付随するコスト負担をしっかり自覚しておかないと、その有為な人材が逆に政界に出ることを難しくするというパラドックスは知っておかなくちゃいけない。

それを解く鍵は、国民が民主主義のコスト意識をどれだけ持てるかどうか。この問題を上手く解消したとき、民主選挙においても有為の人物、徳ある人物が選ばれるようになってゆく。

画像


民主主義のコストは何もお金だけじゃない。時間だってそう。候補者の演説を聞きに言ったり、事務所にいって質問したりして、どの候補なら支援できるか自分なりに決めていくのだって、時間という立派なコストを支払っている。

多分に理想の話だけれど、もしも有権者の殆どが候補者の名前は勿論のこと、その政策や実力を知悉していたとしたら、選挙カーに乗って名前を連呼するなんて何の意味もなくなる。政策や実力そのものが問われるから。

Jリーグのチームサポーターの様に、試合毎にあの選手のパフォーマンスはどうだったとか、あのクロスは絶妙だったとか、プレー内容そのものを振り返って一喜一憂するように、政治家の中身そのものに踏み込んで支援するようになったなら、選挙そのものの意味が変わる。

突き詰めていえば、民主主義のコストとは、ひとりひとりの参加意識。政治に参加してゆく意識を持つことが、民主国家において国民が支払うべきコスト。

今よりほんの少しだけ、政治に興味を持ってみる。

今よりほんの少しだけ、社会がよくなることを考える。

そんな意識を持つだけで、社会は確実に変わってゆく。

そして、民主選挙において、徳ある人を選ぼうと思ったら、出る側も選ぶ側も、「利」から遠く離れていないといけない。損得などに興味がない人であればこそ、徳ある人を応援できる。己が利権で身動き取れない人は、徳ある人を必ずしも選べない。

国民ひとりひとりが、しっかりと民主主義のコストを払うこと。

利権による票の割合を、相対的に低くすること。


そのときはじめて、天の岩戸は開きはじめる。


素の心、直き心で、道にたがわぬ人物を選んでゆくこと。

徳ある国民が、より神近き人物を選んでゆくこと。


国民(くにたみ)が直(なほ)き心で選ぶとき 神近きもの政(まつりごと)為さん。


徳治主義と民主主義が融合した姿がそこにある。

画像

画像 ←人気ブログランキングへ

画像日比野庵の電子書籍 「日本的価値観の構造」(定価399円) 購入ページはこちらから

この記事へのコメント

  • 日比野

    こんばんは。はるぺる様。

    >議員事務所を一つの有限会社として考えると・・・
    そのとおりです。ですがそう考える人が少ないこと又はマスコミ等がそうであることを少しも知らせないこともあるかと思います。

    好きなアーティストには金を払って足を運ぶのですが、政治家にはそうではないですよね。どぶ板選挙が効果をあげるのは、まだまだ有権者側に、政治家に来て貰うというお客さん意識が残っているのかもしれません。
    2015年08月10日 16:50
  • はるぺる

    議員個人ではなく、議員事務所を一つの有限会社として考えると、このコストの問題は分かりやすいと思うのですよね。
    スタッフの人件費やら、テナント代、光熱費、交通費、その他諸々の会社を運営するのにかかる経費と同じ経費がかかるわけで、そうやって電卓を叩いていくと自ずと答えが出ると思うのですが・・・
    監査が入って、透明化されれば良い事だと思いますし。
    単に「政治は金がかかりすぎだ!」と叫んでる人は、正直言って社会に出て働いた事がないか、それとも働いていたにしても自分だけで仕事が出来ると思ってる方のような気がします。
    2015年08月10日 16:50

この記事へのトラックバック