民主主義のコストを薄く広く負担する(政治家の世襲問題について考える その8)

 
「日本列島は日本人だけの所有物じゃないんですから。もっと多くの方々に参加して貰えるような、喜んで貰えるような、そんな土壌にしなきゃ駄目ですよ。」  
ニコニコ動画より


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日本では、まったく畑違いの分野から新人が政界に入ろうしても、民主選挙がある限り、地盤・看板・鞄の『三バン』に代表される民主主義のコストをどうクリアしていくかという問題に直面する現実がある。

これまでの選挙では、民主主義のコストが莫大になって、三バンを持っていないと物凄く不利な立場に立たされていた。その傾向は小選挙区制になってから、益々酷くなった。

基本的に小選挙区制の定員枠はひとつしかない。唯一人しか勝ち残れない。莫大な民主主義のコストを支払って、全力で応援したとしても、一票でも足りなければすべてパー。だから一票でも多く票を確保しようと躍起になる。そんなとき選挙区が狭いと、より念入りな選挙活動ができる。街頭演説なんかでも、同じところで何回もできるし、お願い電話だって何度でもできる。必然的に選挙に投入できる人員と金が多ければ多い候補はどんどん有利になってゆく。

中選挙区のように広い選挙区だと、移動に要する時間があるから、逆に選挙活動の正味時間を減らすことになって、金のない候補のハンデを緩和する効果はあったのかもしれない。それに定員がひとつじゃないから、2番手、3番手でどうにかこうにか当選する目もあった。だけど小選挙区だとそれがないから資金力の差がより選挙力となって現われる。

そんな状況を、ネットが打ち破る可能性が出てきている。

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2008年のアメリカ大統領選挙では、オバマ氏のネット戦略が絶大な威力を発揮した。

オバマ氏はMIXIのような16の有名コミュニティーサイトに登録して、有権者とコミュニケーションを取る姿勢をアピールした。そしてそのサイトの中で、自身の最新ニュースやビデオを配信しながらユーザーとコミニュケーションを取る戦略をとった。その結果、大統領選挙当日には、オバマサポーターズと呼ばれる、友達リストは230万人にも達し、09年4月には600万人を超えたという。

また、オバマ氏は選挙期間中にネットによるオンライン献金を活用して総額7億4500万ドル(約735億円)もの選挙資金を集めている。

ネットで選挙活動をする場合、民主主義のコストは、ネット接続使用料という形で、有権者がその大半を支払ってくれる。候補はカメラの前に立ち、そこそこのスペックのノートパソコンとそこそこのスピードがある回線を用意すれば、いちいち街頭に立たなくても、同時多発的に演説ができる。しかも有権者からの反応も得られ、それに答える用意さえあれば、いくらでも答えることができる。

選挙カーが候補者の名前を連呼するだけなんかより、よっぽど密度の濃い選挙活動ができる。

最近になって、政治家がネット動画などに出演して、自らの政策などをアピールするケースがちらほら出てきているけれど、日本のネットユーザーはレベルが高いから、変なことを言おうものなら散々に叩かれる。だけどそれはより確かな民主主義を行なう上で喜ばしいことなのだと受け止めるべきだろう。

ニコニコ動画で「日本列島は日本人だけの所有物じゃないんですから。」と言い放った政治家は、ネットコメントで見事に炎上した。

これからの選挙においてネットを使う政治家がいるとしたら、その意味を十分に知っておく必要がある。だけど、ネットを相手にしない政治家は、その意味すら分からない。これからの時代、そんな政治家は社会そのものから取り残されてゆく恐れすらある。

尤も、ネットを使う人々も民主主義のコストを自覚して、献金なり、投票なり具体的行動に結びつかないとその人達自身が取り残されてしまう可能性も同時にあることはある。

昨今はNHKへの集団訴訟に見られるように、ネット発の抗議行動なんかも行なわれている。まだまだ端緒にしか過ぎないのだけれど、注目すべき現象ではあると思う。

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画像【ネット】ネットを使った選挙運動 「オバマの成功」にどう学ぶか 2009年6月10日 筆者 伊地知晋一

 2008年11月の米大統領選挙でのバラク・オバマ候補の圧倒的な勝利の原動力は、インターネットでの世論を勝ち取ったことだった。

 オバマ大統領の公式ホームページ(http://www.barackobama.com/)には「OBAMA EVERYWHERE」というコーナーがあり、オバマ氏自身が参加するコミュニティーサイト(日本でいえばミクシィのようなサイト)のリストが掲載されている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「Facebook」、「MySpace」、動画投稿サイト「YouTube」、写真共有サイト「Flickr」など16に上るこれらのサイトは、どれも多くのユーザーを持つ有力サイトだ。

 オバマ氏はこれらのサイトに登録することで、有権者とコミュニケーションを取る用意があるという姿勢をアピールした。中でも最も貢献したとされるのが、会員数1億5000万人以上(09年1月現在)のFacebookである。ここでオバマ氏は、自身の最新ニュースやビデオ、ブログが配信でき、そうしたコンテンツを簡単に友だちと共有(紹介)できるアプリケーションを提供し、ここから人から人へと紹介の輪が広がった。その結果、08年11月4日の大統領選挙当日、オバマ氏の友だちリスト(サポーターズ)が230万人にも達するまでになった。このとき、対立候補である共和党のジョン・マケイン氏の友だちリストは62万人で、選挙結果が出る前にネットの世界での支持でも大差がついていたのである。ネットを利用する若者の間では、Facebookでオバマ氏を応援することがクールであるというような風潮すら生まれた。大統領就任後の今もオバマ氏の友だちリストは増加を続けており、09年4月に600万人を超えている。

 オバマ氏は選挙期間中にネットによるオンライン献金を活用して総額7億4500万ドル(約735億円)もの選挙資金を集めた。これは大統領選で候補者が集めた選挙資金として史上最高の金額だ。前回04年の大統領選の際、共和党候補のブッシュ前大統領と民主党のケリー候補の2人が集めた資金を合わせても6億5300万ドル(約648億円)。オバマ氏の集金力を支えたネットの威力は絶大だった。献金したい人はオバマ氏の公式ホームページにアクセスし、住所、氏名、メールアドレス、職業を入力して、献金額を指定、クレジットカードの種類と番号を入力すれば献金は完了だ。小額な献金を簡単にできることもあり、延べ395万人という膨大な数の個人からの献金を集めることができたのだ。

 日本では、民主党が小沢一郎前代表の巨額献金事件を契機に企業献金を全面禁止とする方向性を打ち出したが、米国のようなオンライン献金が可能になれば、個人からの献金が増え、政治家は企業献金に頼らずに済む可能性がある。

 米国では、有権者が選挙の際に参考とする情報源もインターネットが中心となりつつある。特に20歳代後半から40歳代半ばでネットを重視する傾向が強く現れてきた。今後は、全世界でネットによる情報発信が選挙に大きな影響を与えることになるだろう。

◆解禁前夜の状況にある日本のネット選挙運動

 現在のところ、日本ではインターネットを利用する選挙運動もオンライン献金も公職選挙法で禁止されている。しかし、すでに人口の9割が何らかの形でインターネットを利用していることや、他の選挙運動よりも低コストであること、英、独、仏、韓国などでもネットを使う選挙運動が解禁されていることからも、日本で解禁される日も近いとみられる。

 現在でも、選挙運動はできないものの、ネットを政治活動に取り入れる動きは着実に増している。国会議員がブログで有権者に向けて情報発信することは、もはや当たり前だ。また、政治関係の情報を取り扱うサイトも増えている。ヤフーが運営する「みんなの政治」(http://seiji.yahoo.co.jp/)では、すべての国会議員の経歴や関連ニュース、ユーザー評価を見ることができる。評価には、各項目を点数で評価するものと、コメントを書き込むコミュニティー的なものがある。残念ながら、全般的には書き込みが少なく活性化しているとは言えず、コメントもネガティブなものが中心だ。

 ミクシィでは、政党や政治家に関するコミュニティーが数十件できている。「民主党」というコミュニティーでは1284人が参加し一日20~30件のポジティブなコメントが寄せられる。一方、「自民党」というコミュニティーでは1209人が参加しているが、コメントが一日0~1件と少なく、民主党の勢いが勝っている。「小沢一郎を総理にしたい!」というコミュニティーもある。949人が参加し、毎日、小沢氏を応援するコメントが数件書き込まれている。しかし「アンチ小沢一郎」コミュニティーにも704人が参加している。麻生太郎首相関連のコミュニティーもある。「麻生太郎」コミュニティーには4675人が参加、「麻生太郎を次期も総理に据える会」でも1524人が参加していて、ここでは麻生氏が優位といったところだ。ただ、1万1717人が参加する「麻生太郎氏の口の悪さを楽しむ会」コミュニティーもあって、これは応援されているのか、けなされているのかわからない。

 動画投稿サイト「ニコニコ動画」(http://www.nicovideo.jp/)では、政党が運営するチャンネル(コーナー)が複数ある。「麻生自民党チャンネル」で配信されている「国会に行こう特別編『新藤義孝と平和を語ろう』開催レポート」では1週間の再生回数が約940回、コメント数が約350となっている。対して「小沢一郎チャンネル」では同じく1週間の再生回数約400、コメント数約140。麻生氏のほうが小沢氏よりも多少見られている。もっとも、どちらのコメントも冷やかしが多く、これが政党の支持率アップにつながるかというと微妙である。

 ネットによる政治活動は、ブログが有権者とのコミュニケーション手段として一定の成果を上げているようにみえるが、それ以外の部分ではあまり成果がないようだ。ただし、インターネットの中では過去の政策や失言がアーカイブとして記録され、ことあるごとに2ちゃんねるなどの掲示板で情報が掘り起こされるので、政策をコロコロ変える政治家や過去に問題があった政治家には、やりにくい時代になったと言える。

◆ネットでの情報発信が政治を左右する時代に

 日本では、政党や候補者がネットを活用したことで選挙にプラスの影響があった例はまだ少ない。

 だが、マイナスに働く可能性は十分ある。発表した政策やブログによる情報発信に対してネット上で抗議が殺到し、ブログのコメント欄を閉じる政治家も実際に出てきている。もし、このような事態が選挙間近で起きたならば、選挙結果を左右するかもしれない。今後は選挙前のネットコミュニティーにおける世論に注意を払う必要があるだろう。

 また、対立陣営のブログやコミュニティーに故意にネガティブな書き込みを行い、イメージダウンを狙う者が現れる危険もある。従来も選挙期間中に怪文書が流れるということはままあったが、ネットを利用すれば、その威力は倍増するに違いない。

 ネットによる選挙運動が解禁になれば、日本でもSNSを利用した支援者集めや公式ホームページで選挙資金集めをする候補者が現れるだろう。そうした選挙戦に臨むとき、重要になるのがネットを使ったコミュニケーションのテクニックだ。よいクチコミを集めるためのポジティブなテクニックはもちろん、悪いクチコミを招くようなネガティブなコミュニケーションを起こさないテクニックが、選挙の勝敗に影響し、ひいては、国政を動かす時代がすぐそこに迫っている。(「ジャーナリズム」09年6月号掲載)

※文中の再生回数やコメント数などの数値は2009年5月5日時点のもの

URL:http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY200906090271.html

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