驕兵の計と偽兵の計(幸福実現党の選挙戦略について 後編)


今回の幸福実現党の衆院選からの全面撤退方針と、その撤回が計算してのことなのかどうかについてだけれど、正直何とも言い難い。その目的をどう捉えるかによって、その答えが変わるから。

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先日からの、衆院選挙からの全面撤退の方針表明と、その後の撤回までを、全て計算しての計略だとするのなら、それに一番当てはまる計は、おそらく「驕兵の計」になるだろう。

「驕兵の計」とは、簡単にいえば、負けて逃げるフリをしながら退却して、敵を誘い込み、敵が油断して伸びきったところで一気に反転攻勢する、というもの。

今回の一連のドタバタ劇が「驕兵の計」だったとするならば、おそらくは、今回の衆院選に大量の候補者を擁立しながら、幸福実現党について、殆どといっていいほど報道しないマスコミに対して仕掛けたものだと思われる。そして、その計は、一応成功したと見ていい。

一度、衆院選から全面撤退の方針を固めた、といわば「負けたフリ」をすることで、各社マスコミに一斉にそれを報道させ、一般大衆に「そんな政党があったのだ」ということと、「全選挙区に候補者を立てていたのだ」という2点について、マスコミを利用して広く周知させた、というのが「驕兵の計」にあたると思われる。

マスコミは、なんだ、第一党になるとか、強気なことを言っていたくせに、全然大したことないじゃないか、と喜び勇んで報道したかも知れないけれど、その時点でもう罠に嵌っていて、いや撤退しないという会見によって反撃を受けた、ということ。

今回のドタバタ劇が「驕兵の計」だったとするならば、結論として、ほぼ全選挙区に候補者を擁立する第3の政党があることをマスコミに流させた、という戦果を得たことになる。

ただ、本当に当初からの計略だったのならば、「全面撤退しない」、という発表のタイミングが少し早すぎるような気がしないでもない。

というのも、「驕兵の計」であれば、全面撤退するという「負けたフリ」の時間をもう2~3日取るべきであったと思うから。

「驕兵の計」は、いろんなマスコミに、幸福実現党が衆議院から全面撤退する理由を憶測させ、さんざんに報道させた後で、「撤退しない」と反撃してこそ効果が上がるのであって、全面撤退を報道されて、即、否定したのでは、周知させる時間がなさすぎる。計略にしては、少し中途半端な印象を受ける。

だから、もし、マスコミに幸福実現党の存在を報道させる、というのが目的であったならば、これが計略だったのかどうかは微妙なところ。まぁ、党内の動揺を考えると、もしかしたら、ここまでしか持ちこたえられなかっただけなのかもしれない。

また、仮に、これが計略だったとしても、その展開には、少々問題があるように思われる。それは、テンポが早すぎて、周りが誰もついてこれていないということ。

確かに、「兵は神速を尊ぶ」とはいうけれど、あまりに神速すぎて、殆ど、単騎突撃に近くなっているようにさえ見える。いかな豪傑でも、ある程度は、周りに兵がついていないと、その豪勇も、計略も、空回りしてしまう。下手をすれば、その一騎当千の豪傑を見殺しにすることにもなりかねない。

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次に、この一連の動きを、全体の選挙戦略の一過程である、と見るのであれば、また答えは違ってくる。この場合は、おそらく「驕兵の計」は、単なる予想外の生成物にしか過ぎないように思われる。

これまでの幸福実現党の選挙戦略を見る限り、やはり大枠では「3つの三分の計」に沿っているように見える。

「3つの三分の計」の第1計である「政策三分の計」は、自民・民主・幸福実現の3党それぞれの政権公約の違いを強調することで、その公約そのものを国民に認知させることにあった。

既に、世論は単なる政権選択から、政策選択へその関心はシフトしており、「政策三分の計」そのものは、ほぼ成就している。よって、これ以上「政策三分の計」を進めても、大幅な効果は、おそらく見込めない。

だから、今回の衆院選で、「政策三分の計」の成就を持って勝利とする、と党内で設定しているのであれば、公示前のこの時点での、衆院選の全面撤退も理解できなくはない。ただし、この場合、民主党政権を阻止できるかどうかは保証の限りじゃない。

だけど、「3つの三分の計」の第2計、更には、第3計の成就、又は「民主党政権を阻止する」という目的の達成を持って初めて勝利になる、と設定しているのであれば、全選挙区に候補者を立てて、あえて保守票を割ってしまうということは、返って障害となる可能性がある。

最低限一人当選させれば成就する第2計、すなわち、「マスコミ三分の計」のためには、選挙区状況を睨んだうえで、候補者の絞りこみと、選挙活動のための人員を集中投入した方が成功確率が高まるし、第3計である、「政界三分の計」を成就するためには、自民・民主・幸福実現の3党でそれぞれの勢力均衡を図らないといけないから、民主党の単独過半数だけは避けなくちゃいけない。

だから、保守勢力と選挙協力できる所には候補者を出さない、というのは、それなりの妥当性があるように思う。

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この視点からみれば、今回の方針変更に絡んだドタバタ劇、すなわち「驕兵の計」によるマスコミを利用した、幸福実現党の存在の周知徹底は、むしろオマケの部分であって、本当の狙いは、「政策三分の計」から「マスコミ三分の計」と「政界三分の計」へ重点をシフトするための、戦線の縮小ではないかと思われる。

幸福を実現する3つの三分の計」の記事の中の「政策三分の計」で、全選挙区に候補者を立てることは、「偽兵の計」の範疇にあるのではないか、と述べたけれど、やはり幾つかの選挙区は、案山子の兵、偽の兵であった、ということ。

少なくとも、戦略レベルでは「3つの三分の計」は、些かも揺らいでいない。

だから、今回の騒動自体が全体戦略にまで影響することは、あまりないとは思う。だけど、ただ、今回のことで、一般国民や、幸福実現党の公募から立候補を決めた人達など、いわゆる信者以外の人達が、少し気持ちの上で距離を持ってしまった可能性はある。

こうしたことをみるにつけ、準備不足というか、本当にいきなりの結党であったのだな、という印象は拭えない。

宗教団体である幸福の科学が母体であるとはいえ、幸福実現党は公の党として立党している。だから信者だけの考えでどうこうできるものでもないし、党幹部の一存だけで全てが決められるわけでもない。

立党に際しては、確かに、それだけの緊急性があったのかもしれない。だけど、幸福実現党と一般国民との間に、時間の流れ、および、政党に対する意識に、少しズレがあるように見受けられる。このあたりのすり合わせが今後の課題になるように思う。

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画像【日本の検索ワード】幸福実現党撤退報道に「一体何だったんだ?」 Y! V 2009/08/13(木) 11:37

 18日の衆院選を前に、幸福実現党が選挙撤退する事が報道されて関心が高まった。Google「急上昇ワードランキング」に「幸福実現党」が登場した。

  幸福実現党は宗教法人「幸福の科学」を母体として09年5月に結党。結党とともに今度の衆院選にすべての小選挙区・比例区すべてに候補者を擁立して衆院第一党を目指すことを表明し、街頭やポスター、ネット上で積極的な宣伝活動を行ってきた。7月に行われた東京都議選・仙台市長選に候補者を擁立したものの、大差で落選していた。また、憲法の政教分離原則に反するという声が高まっていたが、これに対しては独自の見解を示し、宗教が政治に関与する事を禁止するものではないとしていた。しばらく大川きょう子氏が党首を務めていたが、7月下旬には大川隆法氏が総裁に就任し党のトップに立ち、比例区での立候補を予定していた。

  会見は14日に開かれ、その場で正式な撤退とその理由についての発表が行われると伝えられているが、ネット上ではすでに撤退の件についてさまざまな感想や意見が飛び交っている。まず、公示直前の全面撤退に「降伏実現」と揶揄したり、「いったいなんだったのか」「賢明な判断だろう」といったコメントが多く見られた。理由については、「都議選などの惨敗で集票力のなさに気づいたから」「全選挙区に立候補したとしても当選の可能性は低く、没収される供託金が莫大になることから」「選挙制度の穴を利用した宗教の売名行為目的」といった意見や、解散前日までの公職選挙法違反による警告が4年前の衆院解散時に比べて100倍を越える1390件あったという報道を引用して、「行き過ぎた宣伝でで警告か圧力を受けたか」という分析もある。また、「マスコミが幸福実現党の事をほとんど取り上げてこなかったのはこういうことだったのか」と納得したユーザーもいたようだ。

  巷やインターネット上を大いに騒がした事は間違いない幸福実現党。撤退することで今後の選挙戦にどのような影響が出てくるだろうか。(編集担当:柳川俊之)

URL:http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0813&f=politics_0813_005.shtml



画像驕兵の計 【きょうへいのけい】

驕り昂ぶる+兵士+計略。つまり敵兵を増長させて驕らせ、その隙に足元をすくう計略のこと。

「驕兵悍将」から派生した言い回しで、調子に乗った将兵というのは押さえがきかず、統制も取れない。対陣する敵兵が弱いと思えば自然相手を侮り、自己の戒めを忘れて増長するものだが、その心理を逆用して偽って敗走して敵を油断させ、伸びきったところを討ち取る作戦などを総じて驕兵の計と呼ぶ。

URL:http://chinesegarden.jp/china/tactics.html

この記事へのコメント

  • あおい

    いつも「幸福実現党」のことを好意的に書いて頂いて有難うございます。
    「幸福実現党」に、初めから「驕兵の計と偽兵の計」という深い計略があったとは思えませんが、党内の幹部会議で意見が割れたことは確かなのでしょう。
    その情報を、どこかでマスコミがリークして、その情報が勝手にネット上を騒がせたのでしょう。
    本来、自民党や他の政党が、迫り来る北朝鮮ミサイルの脅威に対し「憲法9条改正」という旗を揚げてくれていたら、「幸福実現党」がこんなに早い時期に政党を立ち上げるというリスクを犯さなくても良かったのですから。
    「民主党政権誕生」を断固阻止する為にはどうしたら良いのか最善の案を模索した結果として「撤退」という意見が出たのでしょうね。

    >ただ、今回のことで、一般国民や、幸福実現党の公募から立候補を決めた人達など、いわゆる信者以外の人達が、少し気持ちの上で距離を持ってしまった可能性はある。

    日比野さんのご指摘される点はご最もです。
    私も信者以外でなかったら、そのような気持ちになると思います。
    そういう点が、幸福実現党の今後の課題とも思います。
    それから、日比野さんのこのブログを貼り付けても良いでしょ
    2015年08月10日 16:50
  • 日比野

    こんにちは。あおい様。

    「民主党政権誕生」を断固阻止であれば、一部撤退はあっても、全面撤退は極端であるとも思うのですけどね。少なくとも自民の批判票を民主に流させない効果はある筈なので・・・

    あと。ブログを貼り付ける件ですが、全然OKです。よろしくお願いいたします。
    2015年08月10日 16:50

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