小選挙区制度と水戸黄門

 
今回、確かに、民主党は大勝した。だけど、それが逆に仇なる可能性がある。政権を担当することについて、言い訳できなくなった、というのがそれ。

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連立を組んでなんとか衆院過半数を確保するくらいであれば、連立協議や調整に手間取って、思うような政権運営ができなかった、なんて言い訳ができたかもしれないけれど、民主党単独で300議席越えしてしまったら、どうにもならない。誰のせいにもできない。

ただの推測にしか過ぎないのだれど、民主党執行部、特に小沢代表代行あたりは、自民と連立を組みたかったのではないかと思っている。自民党と連立を組むことで、政権運営のノウハウを取り入れ、若手に勉強させつつ、長期政権を狙っていたのではないかと思われる。そして、あわよくば、自民党を飲み込もうとしていたのではないかとさえ。

だけど、300議席超えしてしまったら、それも出来なくなった。自民党は下野して最強の野党として攻撃してくる。

今回、民主党は勝ちすぎたという声もある。あそこまで勝たせるつもりはなかった、との有権者の声もあるけれど、それが小選挙区制の怖いところ。1か0の世界。小選挙区制については、日本人にはそんな1か0かというやり方は向いていない、中選挙区制に戻すべきだ、という声もある。

ただ、これは、思想的にみれば結構重要な問題を提起している。

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どういうことかと言うと、日本人に対して、物事の白黒をはっきりつけるとか、善悪を定める、という善悪二元論的な考え方を受け入れるか否かを迫っている、ということ。

小選挙区制は、たった一人しか生き残れない制度だから、たとえば政党支持率が51:49であったとしても、全ての選挙区でその割合で投票されてしまうと、51の側の政党が全ての議席を取ってしまうことになる。

今回の衆院選では、300の小選挙区で自民と民主の得票率を見ると、自民が38.7%、民主党47.4%で差は1.22倍くらいしかなかった。だけど、これが獲得議席数となると、民主党73.7%、自民党21.3%で、その差が3.5倍にもなって現れた。

だから、小選挙区制というのは、その政党の、政策や考えに対して、善悪をはっきり決める制度なのだ、と考えるべきなのだろう。有権者もそれだけの責任を負うことになる。極端にいえば、片方が善で片方が悪だ、と選挙のたびに審判を下す制度なのだ、ということ。

日本人はどちらかといえば、「和」を重視するあまり、物事に善悪をはっきりつけない、という考えがあって、悪を「絶対悪」、として断じない傾向が強い。ネガティブ・キャンペーンを日本人が嫌うのも、この辺りが関係しているように思う。

たとえば、「水戸黄門」などがいい例なのだけれど、大雑把に言えば、「水戸黄門」は、悪代官がよからぬことを企んで、悪さをしていたところ、黄門様ご一行がやってきて、「ひかえおろう」とやれば、途端にその悪代官が改心して心を改める、というストーリー。

悪であっても、ちょっと懲らしめてやれば、途端に反省して、善い奴になる。そんな感覚がある。だから、支持政党の反対側の党に「ちょっと、お灸を据えてやろう」なんてことも抵抗なく出来てしまう。無論、中選挙区制ではそれでもよかった、ちょっとお灸を、の「ちょっと」の分くらいしか議席が減らなかったから。

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だけど、小選挙区制での敗者は絶対悪として扱われる、悪は殲滅すべき存在。完全に息の根を止めてしまわなければならない。結果だけを見るとそういう仕組みになっている。

それではあまりにも、ということで比例制を併用して、多少は敗者復活できるようにはしているけれど、小選挙区制そのものに潜む善悪の考え方は、日本の伝統的なそれとは大分違うということは知っておくべきだろう。

だから、小選挙区制度においては、各政党のマニフェストが明快でなければ、その善悪は判断できないし、選挙後「ブレる」というのは、本来あってはならないこと。現実路線といえば聞こえはいいけれど、それでは詐欺になってしまうから。

ただ、そうは言っても、民主党が、今のマニフェストのままブレないでいると、大変なことになるから、政権を取ったのであれば、是非とも、いい方向にブレていただきたい。

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画像衆院選:民主小選挙区、5割の得票率で7割の議席

 衆院選で空前の308議席を獲得した民主党の得票数は小選挙区、比例代表ともこれまでの最多記録を塗り替えた。小選挙区では5割の得票率で7割の議席を獲得したことになり、得票率の差以上に議席数に開きが出る小選挙区制の特徴が顕著に表れた。

 民主党は小選挙区で、現在の小選挙区比例代表並立制が導入された96年以降最多の221議席を獲得した。一方、自民党はこれまでで最少だった03年の168議席にも遠く及ばない64議席と惨敗した。

 定数300に占める獲得議席数の割合(議席占有率)は民主党73.7%、自民党21.3%で、その差が3.5倍だったのに対し、得票率は民主党47.4%、自民党38.7%で差は1.2倍しかなかった。得票が1票でも多い候補が当選し、有効投票数の半分以上が「死に票」となることもある小選挙区制の特徴といえ、前回大勝した自民党の「勝利の構図」と全く同じ形になった。

 衆院全体の議席数では、中曽根康弘首相(当時)が主導した86年衆院選(参院選との同日選)で自民党が獲得した300議席(当時は定数512)が長く最多記録だった。【横田愛】

URL:http://mainichi.jp/select/seiji/09shuinsen/news/20090831k0000e010071000c.html

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