何を伝えるかの取捨選択からソースディバイドは発生する


11月17日の衆院法務委員会で、自民党の棚橋議員が、鳩山首相が株売却所得約7200万円の税務申告をしていなかった問題に関して、「脱税総理」と発言して、議会が紛糾したそうだ。

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時事通信の記事を引用する。

「脱税総理」発言で紛糾=衆院法務委

 自民党の棚橋泰文元科学技術担当相は17日午前の衆院法務委員会で、鳩山由紀夫首相が株売却の所得約7200万円の税務申告をしていなかった問題に関し、「脱税総理」と繰り返し発言した。これに対し、滝実委員長(民主)が「決めつける表現で不適切だ。差し控えてほしい」と注意したが、棚橋氏は「発言を封じるのか」と反発、審議が数回にわたり中断する事態となった。
 首相は同委員会に出席していなかったが、棚橋氏は、千葉景子法相への質疑の中で、首相の献金虚偽記載問題を取り上げ、「『脱税総理』を起訴できないのか」などと追及。法相は「個別の捜査活動について答弁は控える」と述べるにとどめた。
 滝委員長の注意後も棚橋氏は発言を続けたため、理事会で対応を協議することになった。 (2009/11/17-13:02)
URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009111700440

この記事で、どういう感想を持たれただろうか。「『脱税総理』だなんて過激じゃないの?繰り返し言ったのか。自民も質が堕ちたな」とか、「いや事実なんだから当然だ。もっと追求すべきだ。」とか、色々な意見があるかと思う。

だけど、往々にして、直接その場を、見た訳でも聞いた訳でもなく、ついつい、この記事の内容からだけで判断してしまっているかもしれない自分を常に意識することは難しい。

そこで、次の動画を見ていただきたい。その棚橋議員の質問の動画である。




如何だろうか。棚橋議員の質問の中では、脱税総理云々は脱線であって、質問の本旨じゃない。

肝心の棚橋議員の質問とその流れのポイントだけれど、おおよそ次のとおり。

Q1.憲法75条に国務大臣は在任中、内閣総理の同意がなければ起訴されないとなっている。つまり、脱税総理を起訴するには本人の同意がいる。

Q2.本人が同意しない限り、脱税総理は自分は起訴されないのに、脱税問題で説明を求められると、司法の場に委ねられているので説明しないという。これでは、治外法権の人だ。

Q3.脱税総理の違法献金問題は、捜査が及んでいれば一切国民に知らせなくていいのか。政治家として総理・閣僚は疑惑があっても捜査中であれば答えない、でも本人の同意がないと起訴はできない。これはおかしい。

Q4.捜査機関が鳩山さんを起訴するとしたら、あなた(千葉法相)はどうしますか?



これに対する千葉法相の答弁は次のとおり。

A1.「規定を適用すればそのようになる」
A2.「治外法権ではないと思ってます。訴追の権利は免れないというのは憲法でも記載されている。また個別の案件についての答弁は差し控えたい。」
A3.「捜査機関は法に基づいて、公平公正に捜査するものだと思います。」
A4.「仮定の問題、個別の案件についての答弁は差し控えたい。」


こうして質問の流れとそれに対する答弁を並べてみると、そのあまりの違いに驚くほかない。

棚橋議員の理路整然とした質問に対して、千葉法相はそれにほとんど答えていない。

Q1こそ、そのとおりだと認めながら、Q2になったら、治外法権ではないという。でもその説明はない。

Q3.は、そもそも質問と答えが合っていない。総理・閣僚は疑惑があっても捜査中であれば答えない、でも本人の同意がないと起訴はできないのはおかしい、と言っているのに、捜査機関は法に基づいて捜査する、と答えている。捜査機関が基づいて捜査するなんて当たり前の話であって、捜査した結果、起訴したくても本人の同意なしでは起訴できないという矛盾の答えにはならない。

Q4.に至っては、千葉法相は逃げて答えなかった。棚橋議員は、国務大臣は訴追されないという規定上の問題点について、「それを問題と思うか否か」を畳み掛けたのだけれど、それにも仮定の話は答弁を差し控えると答えなかった。

まったく質問と答弁がかみ合ってない。すり替えもいいとこ。

実際起こったことはこうだったのだけれど、記事になったのは、「脱税総理」という言葉に横槍が入ったところだけ。



そういう観点で、他の新聞記事を見てみる。


産経の記事は次のとおり

衆院法務委、「脱税総理」発言で中断 2009.11.17 12:41

 17日午前の衆院法務委員会で、棚橋泰文氏(自民)が株式の売却所得を税務申告していなかった鳩山由紀夫首相を「脱税総理」と呼び、滝実委員長が「使用を控えるように」と注意するなどして紛糾、審議が一時中断した。

 発言に対して滝氏が「不適切な発言であり理事会で協議する」と使用しないよう求めたが、棚橋氏は「首相自身は7200万円(の不申告)を認めている。委員長自身中立公平なのか。鳩山さんの弁護士なのか」と反発。さらに首相の偽装献金問題について千葉景子法相に「疑惑をきちんと起訴するのか」などと質問した。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091117/plc0911171244004-n1.htm



スポーツ報知。

「脱税総理」で審議中断…衆院法務委員会

 17日の衆院法務委員会で自民党の棚橋泰文衆院議員(46)が、鳩山由紀夫首相を「脱税総理」と“口”撃した。株式の売却所得を税務申告していなかったことを批判したものだが、滝実委員長が「使用を控えるように」と注意したため、委員会は紛糾。審議が約10分間にわたって中断した。一方、当の鳩山首相は「(官邸は)息が詰まる」とポツリ。故人献金問題や発言のブレが指摘される中、“宇宙人”首相が何か変だ。

 「脱税総理をきちんと起訴するのか」―。鳩山首相の金銭問題について質問した棚橋氏は、過激な言葉で千葉景子法相に詰め寄った。

 その後も棚橋氏は「鳩山さん」と言ってしまった後、わざわざ言い直してまで「脱税総理」を連発。滝委員長が「不適切な表現は、差し控えていただきたい」と注意しても「ほかにどういう用語を使ったらいいのか」と反論し、さらには「委員長自身が公正中立なんですか。鳩山さんの弁護士なんですか」と声を荒らげた。

 こうした発言に委員会は紛糾。審議は2度にわたり中断したが、その後も棚橋氏の舌鋒(ぜっぽう)は止まらず、「現職総理がここまで『疑惑のオンパレード』だったことはない」「捜査は及んでいるが、起訴はされない『鳩山システム』」など、言いたい放題に攻めまくった。

 これとは別に大島理森幹事長も、首相が外遊中に「(所得税のない)ブルネイに、日本国民は移住したいと考えているのではないか」と述べたことを批判。「われわれは国民の血税で政治、行政を行う立場であり、冗談にしても首相が軽々しく言うべきではない」と発言の撤回を求めた。

 自身にかかわる金銭問題が相次いで噴出。さらに普天間基地の移設問題など、発言がブレまくる鳩山首相は、自民党から集中砲火を浴びている格好だ。内閣支持率も発足当初より10ポイントちかく下落し、首相の表情も心なしか覇気がないようにも見える。

 この日、当の鳩山首相は国会内の民主党幹事長室を訪れ、「官邸もこのように風通しが良ければいいのに。官邸と公邸は歩いて3分だから息が詰まる」と自らの官邸生活をぼやいた。

 小沢一郎幹事長は不在だったが、面会が目的ではなく、時間つぶしだったという。幹事長室内にいた議員らの様子を見た首相は「和やかで仲良くしている雰囲気が、いいですね」とのんきにポツリ。党幹部は「官邸に閉じ込められてストレスがたまり、たまには違う空気を吸いたくなったのだろう」と、首相の心中を察していた。

URL:http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20091118-OHT1T00013.htm



FNN。

自民党、衆院複数委員会で鳩山首相の献金問題について質問 一部紛糾 11月17日13時12分配信 フジテレビ

自民党は17日、衆議院の複数の委員会で、鳩山首相の献金問題について質問し、一部、紛糾した。
自民党・竹本直一議員が「仮に総理本人以外の資金入っていた場合、司法上どのような問題が生じるのか、確認したい」と質問すると、藤井財務相は「個別の問題で、こういうところで語ることにはなっておりませんので」と述べた。
法務委員会では、自民党・棚橋泰文議員の質問の表現をめぐり、しばしば審議が中断した。
棚橋議員が「脱税総理は、自分は起訴されない状況にありながら、一方で自分の違法献金に対しては、司法の場、捜査の場に委ねられているから一切説明しない、こういうことになるわけですね」と述べると、滝委員長は「不適切な表現は、できるだけ差し控えていただきたい」と注意した。
国会の会期延長をめぐる駆け引きが激化する中での野党側のけん制とみられる。

最終更新:11月17日23時9分

URL:http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20091117/20091117-00000735-fnn-pol.html


これらの中で、棚橋議員の「自分は起訴されない状況にありながら、献金問題は司法の手にあるから説明しない」という問題点の指摘を載せたのは、わずかFNNだけ。だけど、その答えについてはどこも触れていない。

マスコミの「報道する権利」や「報道しない権利」はこうした具合に、いつも行使されていることに注意しなくちゃいけない。

こうしてみると、いかに真実を記事で伝えること、知ることが難しいか良く分かる。

政治に関心がある人の間でさえ、ソース・ディバイドは起こっている。


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この記事へのコメント

  • 翻訳者魂

    忙しさにかまけて、情報に対して受身でばかりいると簡単にだまされちゃいますね。気をつけなきゃ。
    2015年08月10日 16:50
  • 例をあげての分かりやすい説明ありがとうございました。
    勉強になりました。
    それにしても動画、おもしろかったです。
    2015年08月10日 16:50

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