鳩山首相の所信表明演説を解析する(鳩山首相の所信表明演説を解析する その1)

 
鳩山首相の所信表明演説が行われたけれど、これについて解析を試みてみたい。

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尤も、巷でも論評されているように、所信表明の内容には、具体的な政策が殆どないから、ほとんど解析らしい解析はできないのだけれど、単純に、言っている内容、やりたいことを実際に行うとどういう結果をもたらすか、ということについて考えてみる。

全文については、こちらを参照されたい。
 http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/200910/26syosin.html

まず、演説の論旨を以下に整理する。

1.はじめに
・政権交代は日本に民主主義が定着してから、実質的に初めてのこと
・しがらみや既得権益で機能しない政治、年金や医療、将来への不安への国民の声が、政権交代をもたらした
・ここまでの政治不信、国民の間に広がるあきらめの感情の責任は、必ずしも従来の与党だけでなく、野党であった私たち自身も責任を自覚しながら問題の解決に取り組まなければならない

#NAME?
・政治と行政に対する国民の信頼を回復するために、政治家が率先して汗をかくことが重要
・政策の決定は、官僚を介さず、「政務三役会議」が担うとともに、政府の意思決定を内閣に一元化した。また、事務次官等会議を廃止し、重要な政策については、各閣僚委員会において徹底的に議論を重ねた上で結論を出すことにした。
・行政刷新会議は、政府のすべての予算や事務・事業、さらには規制のあり方を見直す
・行政の奥深くまで入り込んだしがらみや既得権益を一掃する。また、地域主権型の法制度へと抜本的に変える。国家公務員の天下りや渡りを全面的に禁止し、国家公務員制度を改革する。
・情報面も、国民からの政策提案を募り、国民参加によるオープンな政策決定を推進する。
・複数年度を視野に入れたトップダウン型の予算編成を行う
・国家戦略室において財政のあり方を根本から見直し、「コンクリートから人へ」の理念で、硬直化した財政構造を転換する。


2.いのちを守り、国民生活を第一とした政治
#NAME?
・青森県に遊説に参った際、おばあさんが、息子さんが職に就けず、自らのいのちを断つしか途がなかった哀しみに対して、政治にはその実感が乏しかった。
・支え合いという日本の伝統を現代にふさわしいかたちで立て直す。政治には弱い立場の人々、少数の人々の視点が尊重されなければならない。それが、私の友愛政治の原点だ。

#NAME?
・年金は、新たな年金制度の創設に向けて取り組む。
・医療、介護は、医療費や介護費を抑制してきた方針を転換し、質の高い医療・介護サービスを効率的かつ安定的に供給できる体制づくりに着手する。後期高齢者医療制度は、廃止する。
・子育てや教育は、未来への投資として、社会全体が助け合い負担するという発想が必要。子ども手当の創設、高校の実質無償化、奨学金の大幅な拡充などを進め、生活保護の母子加算復活。障害者自立支援法の廃止。男女共同参画を進め、多文化が共生し、暮らせる社会を実現する。


3.「居場所と出番」のある社会、「支え合って生きていく日本」
#NAME?
・人間は、人に評価され、感謝され、必要とされてこそ幸せを感じる

#NAME?
・地縁、血縁型の地域共同体は、失われつつある。スポーツや芸術文化活動、ボランティア活動、環境保護運動、地域防災、そしてインターネットでのつながりなどを活用した、新しい共同体のあり方、信頼の市民ネットワークを編みなおすこと。

#NAME?
・人を支えるという役割を、「官」だけが担うのではなく、国民一人ひとりが参加する新しい価値観を目指す。 国民生活の現場において、実は政治の役割は、それほど大きくない。

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4.人間のための経済へ
・「人間のための経済」への転換を提唱する。合理性や成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのをやめる。国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済・社会に転換する。

#NAME?
・雇用情勢や消費の悪化、地域経済や中小企業の資金繰りに対応して、日本経済の持続的な成長を確保することは、鳩山内閣の最も重要な課題。そのため、金融機関の中小企業への貸し渋り、貸しはがしを是正するための法案を提出する
・雇用対策に取り組むため、緊急雇用対策本部を立ち上げ、緊急雇用対策を政府として決定した。このような時にこそ、社会全体が、支え合いの精神で雇用確保に向けた努力を行っていくべき。
・子ども手当の創設、ガソリン税の暫定税率の廃止、高速道路の原則無料化など、家計を直接応援する。
・低炭素型産業、「緑の産業」を成長の柱として育てあげ、国民生活のあらゆる場面における情報通信技術の利活用の促進や、先端分野における研究開発、人材育成の強化などにより、科学技術の力で世界をリードする

#NAME?
・いかなる政策にどれだけの予算を投入し、どのような地域を目指すのか、地域の住民が考え、決めるべきこと。地方の自主財源の充実、強化に努め、国が地方に優越する上下関係から、対等の立場の関係に転換
・国が担うべき役割は率先して果たす。戸別所得補償制度の創設、郵便局を地域の拠点として位置付ける。


5.「架け橋」としての日本
・日本は、東洋と西洋、先進国と途上国、多様な文明の間の「架け橋」とならなければならない。
・二〇二〇年に、温室効果ガスを、一九九〇年比で二十五パーセント削減する。そのための国際交渉を主導する。
・先進国と途上国との「架け橋」としての役割を積極的に果たし、世界規模での「環境と経済の両立」の実現、「低炭素型社会」への転換に貢献する。
・世界の「架け橋」として、核軍縮や核不拡散に大きく貢献してゆく。
・緊密かつ対等な日米同盟を目指す。対等とは、日米両国の同盟関係が世界の平和と安全に果たせる役割や具体的な行動指針を、日本の側からも積極的に提言し、協力していけるような関係のこと。
・在日米軍再編については、安全保障上の観点も踏まえつつ、沖縄の皆さまの思いに配慮する。
・アフガニスタンについては、農業支援、元兵士に対する職業訓練、警察機能の強化等で支援を行う。インド洋における補給支援活動は、単純な延長は行わない。
・北朝鮮に関しては、国交正常化を図るべく、対処する。核問題は、国連安保理決議を履行しつつ、六者会合を通じて非核化を実現する。拉致問題は、あらゆる方策を使い解決を目指す。
・アジア太平洋地域には、日本の防災技術や救援・復興についての支援を行う
・東アジア地域には、新たな感染症・疾病対策の充実のため、日本の医療技術や保健所を含めた社会システム全体に対する貢献を行う。
・文化面での協力、交流関係の強化のため、留学生の受入れと派遣を大幅に拡充し、日中韓で大学どうしの単位の互換制度を拡充する。


6.むすび
・大きな自然災害が日本を見舞うときのために万全の備えをするのが政治の第一の役割。
・世界中の人々が、友愛の精神を持って日本に駆けつけてくれるような、愛され、信頼される日本をつくりたい。
・鳩山内閣は「無血の平成維新」。官僚依存から、国民への大政奉還。中央集権から地域・現場主権。
・新しい国づくりは、誰かに与えられるものではない。現在の日本は、外圧もなければ、敗戦による焼け野原もない。その中での断行は大きな挑戦。


こうした内容に対して、経団連会長は、「政治を大きく変えていこうという意気込みが伝わってくる」と評価をしているけれど、評価しているのは「意気込み」であって、政策そのものではないことには注意しておかなくちゃいけない。

次回エントリーから、個別の内容について見てゆきたい。

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画像鳩山首相:所信表明 経団連会長、演説を評価

 日本経団連の御手洗冨士夫会長は26日の会見で、鳩山由紀夫首相の所信表明演説について、「日本の将来の発展を見据えて政治を大きく変えていこうという意気込みが十分に伝わってくるメッセージ性の高い所信表明だ。力強かった」と評価した。

 首相が演説で「人間のための経済」をうたい、経済合理性や成長率に偏った評価軸で経済をとらえない考えを強調したことに対しては、「経済界も目指すところは豊かな国民生活。豊かというのは物心両面という意味なので(所信表明と)一致する」と述べた。

 一方、日本郵政の次期社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎・東京金融取引所社長が内定した人事については「出身にはこだわってない」との考えを示した。【三沢耕平】

URL:http://mainichi.jp/select/biz/news/20091027ddm003010073000c.html



画像鳩山首相の所信表明演説 「あいまいさ」と「甘さ」目立つ 2009.10.26 14:34

 鳩山由紀夫首相の初の所信表明演説からは、政権交代を成し遂げた高揚感と「友愛」にかける首相の強い思い入れは感じられるものの、諸施策に関する具体的言及は乏しい。残念ながら日本が置かれた厳しい国際環境への危機感もあまりうかがえない。

 演説作成にあたり「役所の要望は極力抑え、国民の心に響くメッセージにしたかった」(政府高官)という意気込みは理解できる。だが、通例の1・5倍という12905文字を費やした割には、抽象的で焦点がぼけた印象だ。

 例えば「何よりも、人のいのちを大切にし、国民の生活を守る政治」を掲げているが、これは当たり前すぎてことさら強調する意味が分からない。「大きな政府とか小さな政府とか申し上げるその前に」という表記も、どこを目指したいのか方向性が見えない。

 あるいは、1月のオバマ米大統領就任演説にある「今日問われるべきなのは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではない」との言葉を意識したのかもしれない。しかし、オバマ演説は同時に国民に「忠誠や愛国心」を求め、義務を果たすことが「市民権の代価」であるとも指摘している。上面だけをまねても、本質があまりに違う。

 これだけ長い所信表明演説の中で、教育についてほとんど何も触れられていない点も気になる。その半面、日教組のドンと呼ばれる民主党の輿石東参院議員会長(幹事長職務代行)のキャッチフレーズである「『居場所』と『出番』」は盛り込まれている。

 そして、特に懸念されるのが外交・安全保障に関する部分だ。民主党の政権公約(マニフェスト)通り「対等な日米同盟」をうたい「日本の側からも積極的に提言」する関係を目指すとしているが、それには日米同盟の片務性をただす必要がある。端的に言えば「集団的自衛権の行使を可能にする以外にない」(首相経験者)が、鳩山首相にその考えはないようだ。

 東アジア共同体構想は高らかに主張するが、喫緊の課題である米軍普天間飛行場の移設問題に関しては「在日米軍再編については」と表現をぼかした上で「真剣に取り組む」とあるだけだ。日本は何もせずに“いきがる”一方、「大統領には分かってもらえる」(政府高官)といった、甘えの姿勢すらうかがえる。

 だが、米国は契約(日米合意)を重視する冷徹な国だ。演説からは、改めて鳩山首相の危うさが浮き上がってくる。(阿比留瑠比)

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091026/plc0910261437008-n1.htm

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