鳩山さんの問題の前には、仙谷さんに事業仕分けについて聞いていた。彼は事業仕分けの最高責任者だ。そこでは視聴率が8.5%にまで上がった。だが、鳩山さんの献金問題に入ると、視聴率は5%台まで落ちた。…仙谷さんの後には、厚生労働省の問題を長妻昭大臣に聞いたのだが、そこで視聴率はまた上がった。なんと、鳩山さんの金の問題のときだけ視聴率が下がったのだ。私はいろいろ考えてみて、こう思った。「視聴者は、この問題に触れてほしくない、聞きたくないのだ」と。田原総一郎「時評コラム」より
社会心理学用語で、「認知的不協和」という言葉がある。認知的不協和を説明するのによく使われるたとえ話として、喫煙者の話がある。
大概の喫煙者は、煙草が身体に悪いことを知っている。身体に悪いことを知っていながら、禁煙できない状態(不快感)のことを「認知的不協和」という。禁煙すれば、その不協和は解消されるのだけれど、煙草が止められないがために、その不協和が発生している。
人間は、その不協和をなんとか低減しようと試みるのだけれど、往々にして、禁煙するのではなくて、煙草が身体に悪いという認知そのものを歪める方向に心理が働くのだという。
すなわち、「タバコを吸うことでストレス解消になっている」とか、「タバコを吸わなくても肺ガンになる人はいる」とかいう具合に、喫煙の良い面を殊更に意識したり、都合の悪いことは意識しないようになったりする。
要は、人間は、自分の選択した道が“良いはずだ”と思いたいというメカニズムを持っていて、その証拠を集めようとする心理作用があるということ。
たとえば、自分の買ったパソコンが、これで正解だったと思いたいがために、買った後も、何度もカタログを見直しては、性能の良い部分を確かめたり、知人に如何に自分のPCが良かったかを力説したり。こうした行動は、認知的不協和を低減するための行動として説明される。
冒頭の視聴率の問題も、この認知的不協和が起きているのではないかと思われる。
以前、「ソース・ディバイド」のエントリーで紹介したように、鳩山内閣を支持する人は新聞・テレビ報道を主体に政治に関する情報を得ている人たちだから、冒頭の視聴率の問題は、おおよそではあるけれど、鳩山内閣を支持する人たちにとっての、認知的不協和に相当すると言えるだろう。
つまり、鳩山首相の献金問題が悪いことは分かっている。だけど、自分達が民主党を支持したことが間違っていないと思いたい。だから、評価の高い事業仕分けに注目して、それを高く評価するのだけれど、献金問題になると、途端に見たくないという心理が働く。見ないことで、認知的不協和を軽減しようとしている。
だから、そうした人たちは、献金問題はもとより、今の鳩山不況や、不安な政権運営を責め立てられることがあったとしても、これまでの自民党の負の遺産を清算しているのだ、とか、事業仕分けで頑張っているじゃないか、と反発する可能性が高いと思う。
そして、この認知的不協和は、おそらくは、ネットを中心とした民主党を支持しない人たちにも当てはまる。世論調査では、まだまだ鳩山政権への支持率が高いのだけれど、その結果が出る度に、民主党を支持しない人達は、やれ調査数が少ないだの、やれRDD方式で平日昼間に調査に出てくれる層なんて偏っているだの、色々理由をつけてそれを否定しがち。
これも、一種の認知的不協和の軽減作用と思われる。
したがって、今の鳩山政権に対しては、支持する側も支持しない側もどちらも、認知的不協和を感じていて、互いに自分の都合のいい部分しか見ず、都合の悪いところは軽視する傾向にある。
ある意味、世論が二分されつつあって、その溝は深まるばかり。
来年の予算編成、外交、問題は山積してる。どこかで均衡点が崩れる時が来る。それに備える時が近づいているかもしれない。
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これだけ報道されても鳩山献金問題には関心なし 2009年12月3日
今、各新聞が鳩山首相の献金問題を一斉に書き立てている。
少し前までは、鳩山さんの事務所が亡くなった人や献金をしていない人の名を献金者の名簿に載せていたということで、騒ぎになった。
▼実母から9億円の資金
この発端は、元第一秘書があまり仕事をしないのはよくないからと、勝手にいろいろな人の名を取り出して、それを献金していると偽装記述をしたというものだ。
鳩山さんがだらしないとは言え、献金されたのはすべて鳩山さんのお金だ。元秘書が立件されるだろうと話題にはなったものの、それ以上の問題はなかった。
しかし、実は鳩山さんの個人献金の中に母親からの献金があった。
11月25日の朝日新聞は夕刊で、鳩山さんの母親からの個人献金は「数千万円」と報じた。
鳩山さんの実母はブリヂストンの創業者の長女であり、ブリヂストンの大株主でもある。だから金はあり余るほどあるだろう。その母親から献金をもらっており、その額は数千万円だと書いた。
すると翌日、産經新聞が「十数億円」だとケタが2つも上がってしまった。
また、母親からの資金を隠すための偽装だったと元公設第一秘書が供述した、とも報道された。
その後、2004年から2008年までの5年間にそのお金は9億円となったと、今、各紙は足並みをそろえてきている。
個人から1つの政治団体に献金するときは年間150万円が上限だ。それ以上の献金があると、政治資金規正法違反となる。
さらにわかったことだが、鳩山さんは母親から月に1500万円づつ献金されていた。年間1億8000万円。約2億円だ。
そうなると、生前贈与として税金を払わねばならなくなる。
だが、どうも税金を払った気配がない。つまり脱税になる、と各紙は書き立てている。
今、鳩山さんは法律的には非常に追いつめられているだろう。法律的には脱税、しかも巨額の脱税となる。
▼鳩山献金問題には関心がない?
この問題を11月29日の「サンデー・プロジェクト」で扱った。そして出演してくれた行政刷新担当大臣の仙谷由人さんに聞いた。
彼は弁護士でもある。
また、彼以外の民主党の議員はこの問題について一言も言えないだろう。「これは鳩山さんの問題です。私は全く知りません」と。
だが仙谷由人さんなら、言えるのではないか。事前に「このことを聞くよ」と断わってはいたが、彼ならばと、この問題をぶつけた。
ところがそのとき、驚くべきことが起こった。
鳩山さんの問題の前には、仙谷さんに事業仕分けについて聞いていた。彼は事業仕分けの最高責任者だ。そこでは視聴率が8.5%にまで上がった。
だが、鳩山さんの献金問題に入ると、視聴率は5%台まで落ちた。
私は、今、各紙が連日1面トップの扱いで書き立てているのだから、国民の関心が高いと思って献金問題を取り上げた。しかし、視聴率はどーんと落ちた。
いったい、これは何なのだろう。
仙谷さんの後には、厚生労働省の問題を長妻昭大臣に聞いたのだが、そこで視聴率はまた上がった。
なんと、鳩山さんの金の問題のときだけ視聴率が下がったのだ。
私はいろいろ考えてみて、こう思った。「視聴者は、この問題に触れてほしくない、聞きたくないのだ」と。
つまり国民はまだ民主党に期待をしている。
特に事業仕分けだ。その様子を毎日のように新聞が取り上げ、ワイドショーが取り上げた。
事業仕分けの評価は、なんと80%以上と、圧倒的な評価を受けている。
そして蓮舫議員は朝日新聞によれば、「旬」の女になった。
国民は民主党に大きな期待を寄せている。だから、こんなときに鳩山さんの問題に触れるなんて、「民主党をけなすな」となったのだろう。
現に、鳩山さんの金の問題が出てきても、11月29日に発表された共同通信の世論調査では「鳩山首相は政治責任を取って辞めるべきだ」と回答した人は11.4%しかいなかった。
「こんなことで鳩山よ、へこたれるな」。そういう国民の意識が、わかってきた。
▼「私は持っておりません」と鳩山氏は答えた
さて、鳩山さんは献金問題で法律的には相当、追い詰められている。逃れる術はほとんどないと言っていい。
だが鳩山さんの立場になってみると、違うことが見えてくる。鳩山さんは今年の5月に民主党代表になるまで幹事長だった。
現在、どの党に対しても、国民の税金から政党助成金(政党交付金)が出されている。今年は約320億円が出される。
このお金は政党各党の議員数や選挙での得票率を元に出されるので、民主党には相当な額の政党助成金が出されているわけだ。
自民党も、社民党も、共産党以外の党は全て政党助成金を受け、それを幹事長が運用している。
政党助成金は党に支払われる。自民党政権のときは自民議員1人あたり約3000万円程度だったと聞いている。これは自民党の場合だが、その中から1000万円程度が議員に渡される。そして、残りは党運営などに充てられる。これは民主党はじめどの党も同じだろう。そして、どの党においても政党助成金は幹事長が取り仕切っている。
かつて鳩山さんが幹事長だったころ、私は「サンデー・プロジェクト」で、鳩山さんに「政党助成金は当然、あなたが持っているのですね」と聞いたことがある。
ところが「いえ。私は持っておりません」と彼は答えた。
「では誰が持っているんですか」「小沢代表です」。
つまり、小沢代表が金を持ち、幹事長は一銭も持っていなかった。
幹事長には、党の運営のためのさまざまなお金が当然必要となる。
鳩山さんはそれを、お母さんからの献金で賄っていたのではないか。
つまり、政党助成金からもらわないで、鳩山さん自身のお金で賄っていたということになるだろうか。
実は、母親からの献金が多くなったのは2002年からのようだ。この年、鳩山さんは代表選に立候補し、応援した議員たちが第一秘書に多額の金を要求し、秘書が母親に求めたのだと言われている。
もともと鳩山さんは弟の邦夫氏らとともに民主党を設立したときも、その資金を鳩山さん自身のお金で賄った。
自分たちで作った党、いわば「私党」とも言えるのだから、自分のお金を出すのが当然だと思っていたかもしれない。
どの党も政党助成金は幹事長が握っているが、民主党は小沢さんが握っていた。
それを「サンデー・プロジェクト」で彼は語った。
法律的には鳩山さんは献金問題で逃れる術はない。
しかし、幹事長時代のことを知ると、むしろ私は彼に同情したくなるのだ。
しかも、民主党の議員たちも、それをわかっていたはずだ。
わかっていて、唯々諾々としてそれに従っていた。
実は、国民もそのことをある程度、わかっているのではないだろうか。だから鳩山さんには同情しているのではないか。
▼あまりにもだらしない事務所の処理
鳩山さんは偽装問題について「全く驚いた」と言っている。「確かに私はないと信じていたし、今でもないと信じていたい」と。
だが、鳩山さんが驚く前に、何より国民が驚いているだろう。「そんなことがあったのか」と。
それにしても、鳩山事務所はどうしてこんなにだらしないのか。
偽装記述は5年間にもわたってのことだ。しかも、10年前から続いている。
当然のことながら、政治家の事務所なら法律違反にならないようにきちんと処理するはずだ。処理の方法はいくらでもあっただろう。
秘書がだらしないと言えば、だらしない。しかし、鳩山さんは秘書に任せっぱなしだったのだろう。
鳩山さんは、お母さんから相当なお金が来ていることを「知らなかった」「驚いた」と言った。
お母さんからのお金が来ていることは知っていただろうが、それを秘書がきちんと処理しているのだと思い込んでいたのだろう。だが、全く処理はなされていなかった。
だから、本当に驚いたのかもしれない。
鳩山事務所には、金があるためのだらしなさがあった。
かつて鳩山さんは「わが事務所は困るんですよ。企業や個人からの献金を頼みに行くと、あなたのところはいらないでしょう、とほとんど断わられる」と語ったことがある。
だから秘書も、献金が集まらないために、鳩山さんのお金をいかにも個人献金があったかのように名簿を虚偽記載したのではないか。
それにしても、お母さんからのお金を何も処理せずにいたとは。
秘書は、これをお母さんからの借入金ではないかと言っている。
だが、鳩山事務所の資産を会計報告で見ると、借入金がゼロだった。
鳩山さんのお母さんから貸し付けてもらっていたとするなら、それを返済しなくてはならないが、例えば返済に関する契約書などがあったとは思えない。
矛盾があり過ぎる。
▼本当は党の体質の問題では?
だが、そんな民主党はいかがなものか? と言いたくなる。
今、多くの民主党議員が「あれは鳩山さん自身の問題だ」と言っている。
だが、それは違う。これは党の問題なのだ。鳩山さん個人の問題ではない。
新聞各紙は、ただ法律違反だと書き立てているが、私の考えは違う。民主党の体質をこの事件は雄弁に物語っている、と感じるのだ。
鳩山さんは、この献金問題で追い詰められていくだろう。法律的には、どうしようもない。
そうなったとき、民主党内からおそらく同情は出ない。民主党の議員たちは、「鳩山さん個人の問題」ということで逃げるだろう。
そして、新聞も同情はしない。
だが私は、かつての鳩山さんの事情もわかっているからか、心から同情を覚えるのだ。
さて、鳩山首相だけの話をしてきたが、母親としては兄貴だけにお金を渡して弟に渡さないわけにはいかない。
そう思っていたら、鳩山兄弟の弟・邦夫さんも、母親から年間1億8000万円の資金提供を受けていたと報道された。そのことを付け加えておこう。
URL:http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091203/198946/
この記事へのコメント
university-boy
情報弱者が目覚めていけばいいんですけどね・・・