学術・科学技術予算の削減について


11月24日付けで、東京大学を始めとする、9大学の総長は、事業仕分けで、学術・科学技術予算の削減に対して異議を唱え、見直しを求める共同声明を発表した。

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9大学とは、旧7帝大と早稲田・慶応の9大学だから、日本の学術トップがこぞって削減に反対したと言っていい。

学術・研究分野は、いうまでもなく、1年、2年で簡単に成果が出るものじゃないから、その場で儲かる儲からないといった基準で考えると真っ先に削られてしまう類のもの。

だけど、それでも研究開発されているのは、それが必要とされているからだということは言うまでもない。

現代社会は多かれ少なかれ、専門情報や過去の研究結果を下敷きにして、文明が作り上げられており、それがないと成り立たないから。

たとえば、燃料電池に関する素晴らしい研究が行われていたとする。それが突如研究費がゼロになってそれ以上続けられなくなったとしたら、当然研究開発が進められる環境を探して、そこで研究を続けることを考えるのが普通。

もしも、その研究環境を提供してくれるところが、海外だったら、そこに人材は流出してしまう。

アメリカが偉いと思うのは、あれだけ合理主義で、金儲けだけを考えていながら知識や学問の価値を認め、世界中から優秀な才能を呼び寄せ、研究させていること。

尤も、成果がでないと途端に解雇されてしまうという厳しい社会ではあるけれど、才能および成果には、それに見合った報酬をきちんと支払うという精神が、アメリカをあそこまでの大国にのし上げた。

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今年の4月27日、全米科学アカデミー(NAS)で、オバマ大統領はアメリカの研究開発投資をGDP比2.66% から3%以上に増加させると演説している。

日本の研究開発費は2006年度の統計によれば、18兆4,631億円と米国の43兆4,000億円に次いで主要国中2位だけど、対GDP比だと3.61%で世界一になる。

更に、研究者数では、日本は709,691人で、米国1,838,000人、中国1,224,000人についで3位となっている。

だけど、世界一といっても、この額は民間の研究開発投資額を足したものであって、政府負担の額じゃない。

日本の研究開発の費用負担は、民間の比率がとても高く、2005年の調査では政府は23.9%しか負担していない。だから、政府負担割合でみると、対GDP比率は03年度統計で0.68%となっていて、フランスの0.92%、アメリカ、ドイツの0.80%を下回っている

こうした研究開発投資はただ漫然と行うのではなくて、これから成長する分野、挑戦する分野に対して行うのも重要なことで、オバマ大統領は、「クリーンエネルギー」、「先進自動車技術」、「ヘルスIT」を重視するという。

経済産業省は、「政府研究開発投資の資源配分にあたっては、科学技術が挑むべき課題に対して、重点化を行うことを基本とすべき」としており、対応が望まれる。

ともあれ、今の日本の技術がこうした基礎研究・技術開発に支えられていることを理解した上で、予算を考えるべきだろう。

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画像9大学総長、共同声明「大学の研究力と学術の未来を憂う-国力基盤衰退の轍を踏まないために-」

【共同声明】大学の研究力と学術の未来を憂う -国力基盤衰退の轍を踏まないために- 平成21年11月24日



大学の研究力と学術の未来を憂う(共同声明)

------ 国力基盤衰退の轍を踏まないために -----




北海道大学総長  佐伯  浩

東北大学総長   井上 明久

東京大学総長   濱田 純一

名古屋大学総長  濵口 道成

京都大学総長   松本  紘

大阪大学総長   鷲田 清一

九州大学総長   有川 節夫

早稲田大学総長  白井 克彦

慶應義塾長    清家  篤



 学術は、国家としての尊厳の維持に欠くべからざるものであり、日本の国力基盤を支える科学技術の源泉です。とりわけ基礎研究の中心的担い手である大学の果たすべき役割や使命は益々重要となっています。世界的な教訓として、大学の発展が国富をもたらし、人類文明の高度化に寄与してきたこと、逆に大学の弱体化が国力基盤の劣化を招いた例は枚挙に暇がありません。

 この観点から、諸外国では国家戦略として大学や基礎科学への公的投資を続伸させています。一方、日本では、大学への公的投資は削減されてきており、OECD諸国中、最低水準にあります。この上、さらに財政的支援の削減がなされるとすれば、科学技術立国の基盤の崩壊、学術文化の喪失に至ることを強く憂慮するものであります。

 もとより、私たちは、国家財政の危機的な状況を理解しています。また、政策決定過程の透明性を高める試みの意義を否定するものでもありません。しかし、科学技術予算の大幅な削減の提案など、現下の論議は、学術や大学の在り方に関して、世界の潮流とまさに逆行する結論を拙速に導きつつあるのではないか、それによって更なる国家の危機を招くのではないかと憂慮せざるを得ません。大学は人づくりの現場であり、大学の土壌を枯らすことは次世代の若者の将来を危うくしかねません。このような情勢にあって、学術の中心であることを自らのミッションの要とする研究大学の長の有志9人の連名により、声明を発することとしました。

 私たちは、科学技術立国によってこそ日本の未来が開けるものと信じています。激しい競争の中で、世界の知の頂点を目指すことを放擲するならば、日本の発展はありえません。幅広い国民からの声に耳を傾けつつ、大学界との密接な「対話」により、国の将来を誤らない政治的判断が下されると期待しています。政府関係者におかれましては、下記各事項の重要性をご理解いただき、国家百年、人類社会への日本の役割と責任を視野に入れ、学術政策の推進に当たられることを切に願うものであります。





1.公的投資の明確な目標設定と継続的な拡充

 欧米や中国などの諸外国では、それぞれの国の未来をかけて、基礎研究に多額の投資を続けています。特にオバマ政権は、アメリカ史上最大規模の基礎研究投資の増加を決断しました。中国をはじめとするアジア諸国の積極的な国家戦略、学術面の台頭も看過できません。一方で、日本の投資規模は不十分であり、大学予算に至ってはOECD諸国中最低水準にあり、こうした事態が今後も続くようなことになれば、世界における日本の学術研究の地位の低下は必至と考えられます。そのような事態を回避し、学術の振興及びこれと不可分な大学の発展の振興に向け、公的投資を継続的に拡充していくことが必要です。政治のリーダーシップによって、明確な投資目標を掲げ、着実に実行することを期待します。


2.研究者の自由な発想を尊重した投資の強化

 基礎研究に対する投資の中でも、あらゆる分野にわたって研究者の自由な発想に基づく研究を支援する科学研究費補助金の拡充を図ることは、学術振興の第一の基盤であり、これによって、研究の多様性と重厚性が確保され、イノベーションをもたらす科学技術の発展へとつながるものです。当面、概算要求どおりの規模を確保することを強く望みます。


3.大学の基盤的経費の充実と新たな枠組みづくり

 基礎研究に対する投資については、科学研究費補助金等の競争的資金のみならず、大学に対する基盤的経費を含めて充実を図ることが必要です。国立大学に係る運営費交付金や施設整備費補助金、私学助成、さらには競争的資金における間接経費等を大幅に拡充し、大学における研究基盤を磐石なものとすることが不可欠です。基盤的経費を削減する旧来の政府方針の撤廃が必要です。

 さらに、大学の機能別分化を促進するため、大学をシステム改革できる学長提案型の資金制度の創設が必要です。新たな枠組みづくりに当たっては、国家形成に重要な役割を担っている研究大学の活動基盤について、日本の学術政策上の位置付けに応じた適切な支援が検討されるべきです。


4.若手研究者への支援

 学術振興に向けた公的投資に当たっては、次代の科学技術・学術を担う「人づくり」を併せて充実する必要があります。特別研究員事業など、若手研究者に対する支援、優秀な大学院生、特に多くの博士課程の学生に対する十分な給付型の支援の充実が望まれます。

 また、優れた若手研究者が安心して研究を続けられるよう、大学間の連携で安定的な雇用を実現するための支援をお願いします。



5.政策決定過程における大学界との「対話」の重視

 新たな政権の下、各年度の予算編成に止まらず、学術政策の基本政策がどのように審議・決定されていくかについて、私たちは十分な情報を持っていません。例えば、総合科学技術会議の見直し後、科学技術振興基本計画がどのように策定され、前述のような私たちの願いが反映されるのか、強い関心を持っています。政策決定過程において、大学界との「対話」の機会が十分に確保されることを希望します。


URL:http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_211124_j.html



画像【 2009年4月13日 科学技術研究費対GDP比で日本が世界一 】

公的機関、企業などすべての科学技術研究費を対国内総生産(GDP)で比較すると、日本は主要国中最高であることが総務省の調査で明らかになった。人口1万人当たりで比較した研究者数でも日本は55.5人と同じく1位となる。

総務省が毎年実施している科学技術研究調査によるもので、国際比較は、各国のデータがそろっている2006年度の数値による(研究者数のみ米国だけ2005年度の数値)。

日本の科学技術研究費は18兆4,631億円と米国の43兆4,000億円に次いで主要国中2位だが、対DGP比になると3.61%と首位に立っている。2位は韓国の3.23%で、米国は3位に後退し、2.66%となっている。注目の中国は、研究費総額で10兆8,000億円と米国、日本に次いで3位。ただし、対GDP比では1.42%と日本、韓国、米国さらにドイツ、フランス、英国より下位にとどまっている。

研究者数で見ると日本は709,691人で、米国(1,838,000人)、中国(1,224,000人)についで3位。中国の研究者数が急激に増えているのが目立つ。ただし、人口1万人当たりで比較すると、日本(55.5人)は、2位の米国(46.8人)、3位の韓国(41.4人)を上回る。中国は9.3人で欧州主要国よりさらに下になる。

総務省は、2007年度末時点の日本の研究費と研究者数も発表しており、18兆9,438億円と8年連続の増加、研究者も82万7,300人と7年連続の増加で、ともに過去最高だった。

研究者は、いずれも専従換算値で比較している。例えば、総実働時間のうち研究に専念している割合が40%の場合、研究者であれば0.4人として集計。また研究費は、研究開発に関する国際標準であるフラスカチマニュアルなどに沿って、給与、社会保険料、福利厚生費などの人件費、研究用消耗品を購入した原材料費、研究施設、研究用装置などの有形固定資産の取得費用、コンピュータなどのリース料、賃借料、火災保険料、光熱水道費、印刷・図書費などその他の経費を含んでいる。

URL:http://scienceportal.jp/news/daily/0904/0904131.html



画像第6回 オバマのイノベーション戦略

▼「プロパテント政策からプロイノベーション政策へ」

 次回ご報告しますが、先般筆者が行った「NEDOカレッジ」の講義では、米国のプロパテント政策がどういう過程で起こり、日本にどう影響したかを紹介しました。それを別の観点でわかりやすく解説したのが、『妹尾堅一郎 2009 技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか ダイヤモンド社』です。次回、これに加えてイノベーションの参考書をご紹介しようと思います。

 さて、この本では、米国のプロパテント政策が最近プロイノベーション政策に変化している様を教えてくれます。実際米国は、パルミサーノレポートから最近まで、超党派で新たなイノベーション政策を論議し、オバマ政権になっていよいよ実行段階に移ってきているわけです。


▼「米国イノベーション戦略」

 今月21日には、ホワイトハウス(NEC(National Economic Council)とOSTP(Office of Science and Technology Policy)の連名)から、アメリカイノベーション戦略(Strategy for American Innovation)なる文書が発表されたことが、NEDOワシントン事務所から報告されました。NEDOワシントン事務所の高見牧人所長の今年度NEDOカレッジでの講義は前期に終了していていますので、本件に関する高見所長からのレポートから抜粋してご紹介します。

 「同文書は大きくは四章からなっており、(1)過去のバブル主導の成長の問題、(2)イノベーション、成長及び雇用へのビジョン、(3)政府の適切な役割、(4)アメリカイノベーション戦略、という構成です。今後の具体的な戦略となる第4章はざっと以下の内容です。


 1.イノベーションの基本要素(Building Block)への投資

 ① 基礎研究分野でのリーダーシップ回復(主要政府機関のR&D予算倍増、R&D投資の
   GDP比3%目標等)

 ② 21世紀の知識・スキルの教育と世界クラスの労働力

 ③ インフラ建設(道路・橋等、電力網の近代化、高速鉄道等)

 ④ 先進情報技術エコシステム(ブロードバンドアクセスの改善、次世代IT技術R&D支援、
   Chief Technology Officerの任命他)

 このセクションはイノベーション促進に向けた分野横断的な施策を整理しています。主要政府機関(NSF、エネルギー省科学局、NIST)のR&D予算倍増(←前政権の競争力政策の目玉の一つ。基礎R&D重視の意味合い)、K-12教育改革(=初等中等教育の改革)、STEM教育(科学・技術・工学・数学)の強化など、既にブッシュ政権時代から取り上げられていた項目も多く見受けられます。

また、インフラ整備や先進的ITシステム整備などはオバマ政権で打ちだされたものですが、今回発表で特に新しい政策が加わっているわけではなさそうです。目を引くのは、R&D投資のGDP比3%目標の設定で、政府投資だけでなく民間投資も含めたR&D投資の拡大をR&D税制等を通じて達成しようとのメッセージです。


 2.アントレプレナーシップの活性化に向けた競争市場の促進

 ① 輸出促進

 ② オープンキャピタルマーケットへのサポート

 ③ アントレプレナーシップの奨励

 ④ パブリックセクターイノベーションの改善、コミュニティイノベーションへの支援



 本セクションは、貿易促進(のための通商政策)、アントレプレナーシップの奨励、オープンガバメント等の政府取り組みなど市場環境整備に関する事項を中心に整理されています。

キャピタルマーケット分野の最大の課題は、昨年の金融危機以降に米国内で議論が交わされている金融サービス分野への規制のあり方で、まさに現在進行中の案件です。

また、アントレプレナーシップ関連の一例としては、オバマ政権が商務省に検討指示を出した地域イノベーションクラスターへの支援施策などがあり、具体的にはビジネスインキュベーターのネットワーク構築支援などが入っているようです。
 (筆者注 このセクションに知財戦略についての記述があります。産業時代からデジタル時代の知財に変化しているとの認識のもと、海外での適切な知財保護、国際標準協力を推進するとともに、米国特許庁が効率的なシステムを構築し、イノベーティブな高品質知財を登録する能力を持つこと(保護に値しない特許を拒絶することと併行して)としています。)


3.国家プライオリティへのブレークスルー

 ① クリーンエネルギー革命(再生可能エネルギーを3年以内に倍増、省エネ産業の振興、クリーンエネルギーイノベーションへの投資、温暖化ガスのキャップアンドトレードシステムの導入等)

 ② 先進自動車技術(電気自動車及び輸送の電化関連技術への史上最大の投資、先進自動車技術分野の米国製造業支援、次世代バイオ燃料、自動車燃費改善)

 ③ ヘルスIT(ヘルスIT利用の拡大、医療研究への再コミット、ヘルスケアコストの増加抑制)

 ④ 21世紀のグランドチャレンジへの取り組みへの科学技術の活用


 この章はオバマ政権が重点的に取り組んでいる具体的R&D施策に関して列挙しています。

 まずは従来からオバマ政権で取り組んでいるクリーンエネルギー(スマートグリッド、省エネ、風力・ソーラー等の再生可能エネルギー)やヘルスITが順当に並んでいます。内容的には他と同じく、今まで個々に方針を表明または実施している項目がならんでいます。

 新たに目につくのが「先進自動車技術」で、今までクリーンエネルギー対策の一つとして語られていた次世代自動車技術(蓄電池やバイオ燃料など)を独立した項目として取り上げています。

バッテリー分野の事業者支援策(A123などの米バッテリーメーカーへの工場設置補助金支出等)として先月約24億㌦の支出を発表したところですが、米政権としては次世代自動車技術支援を通じた米自動車産業の復活支援を重視しているというメッセージだと思われます。

上記の24億㌦の内訳を見ると、蓄電池関連の新興企業(A123,Compact Power等々に1~2億㌦のオーダーで設備支援資金を流しており、いくら蓄電池技術は日本が優位との言われても、将来的に何が起こるのか心配な分野でもあります。

 三つ目のヘルスITは、現在のオバマ政権の最大のポリティカルアジェンダとなっているヘルスケア改革とも相まって、医療分野の改革をITのアプローチからも進めようというもので、カルテのIT化などが代表的です。

先日の景気回復法の下でこの分野にも190億㌦の資金が投入されています。最後の「グランドチャレンジ」の項目では、科学技術へのオバマ政権のコミットを通じて野心的目標設定が可能になるだろう、との説明があり、具体的な技術分野例をいくつか列挙しています。

ざっとあげると、全てのガンのDNA解読、塗料なみに安価な太陽光パネル、ゼロエナジーのグリーンビル、教育ソフトウェア、人工光合成などが並んでいます。太陽光パネル、ゼロエナジービル、人工光合成については、確かにそうしたゴールを掲げていますし、そのためにDOE主導で基礎研究が行われているのも事実です。

他の記載例もおそらくそうだと思います。こうした革新的研究は国防総省のDARPAなどではお得意の取り組みですし、それとは別に今年新たにエネルギー省内にARPA-Eを設置してエネルギー分野の革新研究に取り組みはじめているところでもあり、今後、野心的目標とセットになった革新的研究テーマとしてどのようなアイテムが選ばれるかは興味のあるところです。(←ARPA-Eではまさにテーマ設定の公募が現在行われています。)

 今回の戦略ペーパー発表は少々唐突な感じも受けます。競争力強化・イノベーション推進政策はブッシュ政権時代にも取り上げられていますが、その際は産業界・アカデミアなどから競争力強化政策の必要性・対策論についてのレポートがいくつも出され(→有名なパルミサーノレポートなど)、それを受けて政府内での政策検討・策定や議会における関連立法(→「米国競争法」の成立)などが数年がかりで行われていました。

これと比較すると、産業界や大学等でこうしたイノベーション議論が特に今盛り上がっているわけでもありませんし、政府内で大がかりな検討が行われているものでもありません。(今回発表に先だって行われた検討の場としても、確かPCAST(科学技術分野の大統領諮問委員会)で7月に一度そういった会合が開催されていただけだったと思います)

 なぜこの時期にこうした戦略ペーパーの発表がなされたかについてはいくつかの指摘がありますが、一つには経済危機下での守りの政策中心の中で、攻めの政策を通じた前向きなムードの醸成、またそれとは別に、まさにこの戦略ペーパーに盛り込まれた施策を米国政府のイノベーション政策と規定して、今後の具体的な取り組みを政権内に促すとの意味合いがあるとの話が聞こえてきます。

 内容的にも、景気回復法(Stimulus Package)に盛り込まれた各種予算措置を中心に、オバマ政権が今までに発表または実施している個別施策がかなりの部分を占めており、ざっと見る限り目の覚めるような新規政策が新たに提起されているようには見受けられません。

さめた見方をすれば、政権発足後の各種経済施策(単なるアナウンスもあれば、予算措置を伴う具体的措置もあります)をイノベーション政策という切り口で整理し直してホワイトペーパーとして作文的にまとめた、といった風にも読めなくもありません

 それでも、本文書は現時点でオバマ政権が行っているイノベーション強化関連施策の集大成で、ボリュームたっぷりの内容であるのも確かです。

政権発足後から今までは、当面の経済危機対策が中心でしたが、そこが一段落すれば、競争力強化やイノベーション促進への政策検討が始まるのは当然かもしれず、今回発表を機にオバマ政権がこうした政策的取り組みを強化していくのか否か、注視していきたいと思います。

 今回発表の施策そのものにはあまり新味がない、シニカルに申しましたが、見方を変えれば就任僅か半年程度でこれだけ数多くの個別施策を表明または実施しているのも確かです。(←実際、当地の科学技術関係者の評価も「さほど新味がない」との後ろ向き評価と「まさにこれからの政権の取り組みとして注視すべき」との前向き評価に二分されているようです。)

 今後、どこまで具体的な成果を生み出せるかはまさにこれからの取り組み如何のところも大きいですが、いずれにしろ米国はクリーンエネルギーを始めとした各種分野での大々的な資金投下をテコにイノベーション促進を図っており、日本としても無視できないことは間違いないところです。

今のところは、こうしたイノベーション政策がオバマ政権のハイプライオリティになっているわけではありませんが、今後の関連政策動向については引き続き注意が必要です。」


 以上です。高見所長、ありがとうございました。NEDOの所長だけに、エネルギー関連の記述がより詳細ではありますが、ブッシュ政権での議論からの流れも含め、わかりやすい解説になっています。知財のところの記述が簡略なのは、特許庁としては若干心配ではありますが。

URL:http://dndi.jp/21-hashimoto/hashimoto_n06.php



画像★抄訳追加 オバマの全米科学アカデミーでの講演 2009-05-06 19:13:13

立派ですね。ケネディ、カーター、父ブッシュに次いでの講演です。ビデオも、テキストもあります。


http://www.nationalacademies.org/morenews/20090428.html


オバマ大統領が4月27日、全米科学アカデミー(NAS)で行なった演説は歴史に残る名演説という評判です。


科学の重要性を説き、基礎研究と応用研究、教育などを通して米国の科学を再び活気づける計画について所信を述べました。米国国立科学財団、エネルギー省科学局、国立標準技術研究所の3つの機関の予算増加、エネルギー問題を研究するためにエネルギー省に設置するAdvanced Research Projects Agency for Energy、アメリカの学生が科学・数学・エンジニア関連の職に就くことを奨励するイニシアチブなどの新しい計画について言及しました。


抜粋・・・おーい、こんな大事なスピーチ誰か訳してちょうよ。日本の優秀なメディアは何やってんの?


・リンカーンは南北戦争の最中にこの全米アカデミー設立法案に署名した。彼は、アメリカを単に生存のみを唯一の目的とはせず、アカデミーを創設したほか、州立大学(ランド・グラントカレッジ)や大陸横断鉄道を推進したが、新しく有用なものを発見するため、天才の炎に関心の油を注ごうとしたといえる。

・これはアメリカの歴史そのものでもある。最も厳しい時代に、最強の敵たちに対して、悲観論に走らず、運命に国を委ねず、耐え忍び、奮闘し、我々の新たなフロンティアを探し続けてきた。

・今日、科学に投資する余裕はないという者もいるが、私は根っこから不賛成だ。科学は、我々の繁栄、セキュリティ、健康、環境、人生の質にとって、これまでよりも欠かすことができないものである。

・物理学の連邦予算は四半世紀で半分に減らされてしまった。15歳の算数の能力は世界で25位になってしまった。アメリカの性格は追随ではなく、リードすることにある。R&D比のGDP比を3%以上にする。

 注:06年度に2.62%。日本は3.61%だが政府分は約2割。

 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200801/08060518/015.htm#a004

・どんなことができるだろうか。考えてみよう。ペンキより安い太陽電池。消費するエネルギーを製造できるグリーンビルディング。個人教授なみの学習ソフト、人工装具で再びピアノが弾けるようになる。我々と世界への知識のフロンティアが拡大する。

 50年前の発見への探索は我々の繁栄と国家としての成功をもたらした。今日の私のコミットメントは次の50年につながるだろう。バネバー・ブッシュ博士はルーズベルト大統領の科学顧問は、「基礎科学研究は科学的資本」であると言った。しかし、 基礎研究は、1年や10年やそれ以上でも投資回収 できない。しかし、成功した場合には、その成果は広く均霑する。民間セクターでは過少投資になるからこそ、公的セクターが投資しなければならない。

 リスクは大きく、他方で成果は我々の経済・社会に及ぶからである。光電効果は太陽電池につながり、物理学の基礎研究はCTスキャンになり、GPSの計算はアインシュタイン方程式に基づいている。

・学術研究助成のNSF、健康情報技術、二酸化炭素計測、スマートグリッド設計の検証から先進的製造技術の標準を担うNIST、エネルギー省科学局の予算を倍増する。

・21世紀をクリーンエネルギー経済にするために前例のない取組を行う。スプートニクのショックで、NASAが設立され数学教育が強化された。ケネディ大統領は、人を月に送り、安全に戻すと発表した。

 アポロ計画は、様々な技術を生み出した。腎臓透析、水浄化システム、有毒ガス検知器、省エネ建築素材、防火服などがそうだ。しかし、地球環境問題には、スプートニク・ショックはない。2050年までに「炭素汚染」を80%減らさなければならない。

 経済回復計画には、再生可能エネルギーの発電容量を数年で倍増することを盛り込んだ。減税や債務保証や補助金が使われる。この30年間の基礎研究で太陽電池のコストは10分の1になったが、今後の努力によって太陽電池やその他のクリーンエネルギー技術は更に競争力を持つだろう。 予算には10年間で15兆円を再生可能エネルギーと省エネに振り向ける。

・スプートニク対応のアイゼンハワー大統領のときにDARPAが設立されたようにARPA-E(エネルギー先進研究計画庁)を創設することを今日初めて発表する。DARPAでは、インターネットの前身であるARPANET,ステルス技術、GPS技術が生み出されている。21世紀にクリーンエネルギー技術で世界をリードする国こそが、21世紀の世界経済をリードする国となる。アメリカは、そうなることができるし、そうしなければならないのだ。

・診療記録の改革も進めなければならない。NIHの予算も増額するが、その中のがん研究は数年で予算を倍増させる。

・数学と科学の教育も強化しなければならない。高校では、数学では20%、化学と物理では60%もの学生が、専門家以外から学んでいる。数学・科学教育の強化に5000億円を投じ、アメリカをトップ水準まで引き上げる「トップ競争計画」を進める。


・このアカデミーにいる人々の専門性と情熱を教室に持ち込む方法を創らなければならない。NSF研究フェローシップの人数を3倍にする。会場のみなさんの科学への愛情と知識を使って、新しい世代に、科学への驚きと興奮を伝えていただきたい。アポロ17号のミッションでは平均年齢は26歳だった。

 若い世代には可能性がある。アカデミーのみなさんには、是非、子供たちの教室に出向いていただきたい。私はみなさんとともにいる。そして科学への国民理解とアウトリーチ・キャンペーンに参加し、学生たちが、科学、数学、工学をキャリアとして考えるように励ましたい。何故なら私たちの未来はそれにかかっているからだ。

・エネルギー省とNSFは、数万人の学生向けに、啓発イニシアチブを行うが、特にクリーンエネルギーに力を入れている。

・私たちは常に思いを馳せなければいけない。このアメリカのどこかで産業を変えてしまうビジネスを始めようとしている起業家が資金を求めていて、未だ得られていないことを。新しいがん治療法のアイデアを持つ研究者がいて、未だ研究資金を得られていないことを。探究心溢れる子供が夜空を眺めていて、我々の世界を変革してしまう可能性を持っているかもしれないのに、未だ本人も気付いていないことを。

 科学的発見は、偶然の天才のひらめき以上のものがある。長い時間と厳しい努力と忍耐が要るし、訓練も要る。そして国家の支援を必要としている。

・アポロ8号の乗組員のビル・アンダースは、月周回軌道で4週目に「地球の出」を目にした。深い青の球体には、国境も、区別もなく、ただ静かで、美しく、たったひとつのものだった。「我々は月探索のためにここまでやってきた。最も大事なことは、地球を発見したことだ」と語った。

 そう、科学のイノベーションは我々に繁栄に到るチャンスを与えてくれる。45年前にケネディ大統領がアカデミーで語ったように「このチャレンジは、畢竟、我々自らを救うことなのだ」。
 

確かに名演説です。

しかも、中身もあります。

日本はどうでしょう・・・・・

URL:http://ameblo.jp/andykun/entry-10253940326.html



画像2009年 07月 30日 科学技術政策年次フォーラムでのホルドレン科学技術担当大統領補佐官の発言

 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター メールマガジン7月号から引用。

 2009年4月30日から5月1日にかけて、全米科学振興協会(AAAS)の科学技術政策年次フォーラムが、米国首都ワシントンDC で開催された。本フォーラムは、主に米国を中心とする科学・工学・高等教育機関等のコミュニティが最新の政策課題や科学技術に関する国家予算等の概要を知り、科学技術関係者間の議論の活性化や問題提起を行うことを目的に毎年開催されている。今回で34回目を迎えたが、開催史上初めて600名を超える参加があり、オバマ政権の科学技術政策に対する高い関心が窺われた。

 今回のフォーラムでは「世界的経済不況下における科学技術の役割」、「米国GDPの3%以上に当たる科学技術への巨額の増資とその適切な使い道」、「科学と既存メディアの現状と未来」などの内容について議論が交わされた。初日に次年度研究開発予算とその政治的背景の分析が行われ、2日目に科学技術が現在の世界経済下でどのような役割を果たすべきかというマクロな問題がディスカッションされた。

 まあこういう分析を多いに実施するところが米国らしい。また政策反映も盛んなようだし。科学技術者と政治家の間で、科学政策の対話が成立しているようで、うらやましい限り。日本は前回取り上げた食品安全委員人事でも分かる通り、科学バカが科学政策に口を出すからなあ、もっと勉強しろ、もっと対話しろ、と言いたい。

 基調講演者は、オバマ政権下で科学技術担当大統領補佐官という要職にあり、同時に大統領府科学技術政策局長も務めているJohn P. Holdren氏である。彼はAAASの前理事会議長であった。今回はオバマ政権になって初めてのフォーラムであることから、大統領の科学技術政策に大きな影響力を持つ同氏の講演には特に注目が集まった。講演では、オバマ大統領が科学技術の発展を、経済危機を克服するための大きな柱の一つと考えており、大いにリーダーシップを発揮していることが強調された。

 確かにオバマさんの科学政策の考え方は今までの政治家にはない発想で、大変良いのではないだろうか?そういう意味で彼への期待は大きい。

 大統領の示す科学イノベーション計画では、米国の研究開発投資をGDP比2.66% から3%以上に増加させる方針が出されており、これは1964年の宇宙開発競争時代のGDP比2.9%を凌ぐ規模である。各科学技術関連省庁への予算も増額されている。この計画のなかでは、特に基礎科学と応用研究の両方の強化、クリーンエネルギーを活用した経済の実現に向けたイノベーション、ヘルスケア制度の改善、数学・科学教育の強化などに対して重点的に予算配分を行う方針も示されている。

 う~~むすごい。あのケネディ大統領のアポロ計画と言えば、科学技術に(実は軍事にでもあるが)金をつぎ込むことができた米国の最も良い時期だったのであるが、それを超す研究投資をするとはなかなか思い切った政策だ。技術者の私としては、オバマさんの科学政策の考え方には思わずうれしくなるし、日本でもこれくらいの科学政策を考えて欲しいと思わず比較してしまう。

 本フォーラムでは、その他に、世界的な気候変動問題がもたらす現在の化石燃料の使用により深刻化すると予想される「人の健康状態への影響」に関するパネルが開催された。このパネル以外でも気候変動問題に関する発言は多くの講演に見られ、米国においては、これまでの環境政策の方向性を180度転換し、環境問題へ積極的に取り組む姿勢も随所に窺われた。

 環境問題に関してもともと科学者たちは十分に意識し研究してきたので、オバマさんで米国としての方針が出たので、一気に加速した感がある。

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この記事へのコメント

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