選手交代のない宇宙(小惑星探査機「はやぶさ」について 後編)

 
イオンエンジンとは、アルゴンやキセノンといったガスをイオン化させ、電気の力でそのイオンを加速して後方に押し出すことで推進力を得るというエンジンのこと。

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推進剤がキセノンやアルゴンなどの軽量なため、十分な速度を得るには、長時間の加速が必要で、また瞬間的な推力も低いので、重力や空気抵抗のある地表面での使用には適さない。

その反面、従来のロケットエンジンのように「燃焼」をさせる必要がないから、酸素が要らなくて、少ない推進剤ですむという利点から、惑星探査機など長距離・長時間運用する宇宙機のエンジンとして期待されている。

通常のヒドラジンを推進剤につかったエンジンだと、その燃焼ガスの放出速度は秒速3km程なのだけれど、「はやぶさ」のイオンエンジンは、秒速30kmでイオン化したキセノンを放出する。

プロ野球選手が投げる150キロの速球でも、秒速に直すと41mくらいにしかならないから、イオンエンジンの秒速30kmが如何に凄い速度か分かる。

また、イオンエンジンは燃料の重量占有率に対して、軌道変換能力が高く、従来のヒドラジンを使ったロケットと比較して、推進剤の重量は1/4程度にも関わらず、軌道変換能力は4倍もある。

イオンエンジンは、プラスに帯電したキセノンイオンを電気の力で加速し放出するためのイオン源と、負電荷を持つ電子を放出してキセノンイオンを中和するための中和器から成り立っている。

中和器とは、イオン源から放出されて、プラスに帯電したキセノンイオンにマイナスイオンをぶつけて中性にする装置のことで、中和しないと、折角放出したプラスイオンが、今度は、プラスイオンを放出することで、マイナスに帯電してしまっている「はやぶさ」本体に引き寄せられてしまい、加速することができなくなってしまう。

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今回の故障したエンジン同士を繋ぎ合わせた、というのは、イオンエンジンBのイオン源とイオンエンジンAの中和器を繋ぎ合わせてひとつのエンジンとしたということ。凄い裏技である。

こうした、「こんなこともあろうかと」という数々のフェイルセーフ機能というのは、実に日本人的は凝り性の賜物のように思える。

それは、おそらく、島国で資源もなく、限られたあるもので、兎に角なんとかしようという工夫の精神の発露ではないかとさえ。

アメリカなんかのようにアメリカンドリームを求めて、次から次へと人がやってくる国だったら、駄目だったら、出来そうなのに取り替えればいい、なんて簡単にできるけれど、日本のように、人の入れ替えが効かない国だと、そうはいかない。

今ある人をやり繰りしてなんとかするしかない。まるで選手交代できないサッカーの試合のようなもので、フィールドプレーヤーの誰もがFWもできればMFもDFも出来るみたいな、マルチロールな使い方をすることを考える。

それと同じで、「はやぶさ」の開発チームも、もしこれが故障したら、こうする。ここが壊れたらあっちに切り替えるなど、実に様々なケースを開発段階から、きっちりと考えていたように思われる。

これも、一種の日本文化が貢献した結果なのかもしれない。



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画像小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用再開!

宇宙航空研究開発機構(以下:JAXA)は、2009年11月9日にご報告いたしました、小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンの異常について、その対応策を検討してきました。その結果、今後の運用に対する見通しが得られましたので、イオンエンジンの状況を注視しつつ帰還運用を再開することとしました。

JAXAでは、4つのイオンエンジンについて、中和器の起動確認や流量調整等を実施してきました。その確認作業において、スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合せることにより、2台合わせて1台のエンジン相当の推進力を得ることが確認できました。

引き続き慎重な運用を行う必要はあるものの、この状況を維持できれば、はやぶさの2010年6月の地球帰還計画を維持できる見通しです。

今後もはやぶさの地球帰還に向けて、注意深く運用を続けてまいります。運用状況については,適時報告いたします。

URL:http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2009/1119.shtml

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