電子書籍についての雑考を・・・ 前後編の2回シリーズでエントリーする。
「今や数百万という人たちがKindleを持っている。Kindleユーザーはよく本を読む。両方のバージョンがある時、紙の本10冊につきKindle本6冊が売れている。これは過去1年間の有償の本だけのデータで、無料Kindle本を含めればさらに数字は増える。わくわくする27ヵ月間だった。」ステファニー・イーシア氏 In-Statアナリスト
書籍の電子化が急速に進んでいる。2007年に登場したアマゾンのキンドル(Kindle)はすでに50万台の大台を超え、近いうちに100万台に達するという。
全世界の電子書籍リーダ市場を見ると、2008年には92万4000台だった出荷台数は、2010年には、2860万台にも上ると予測されている。
冒頭のステファニー氏のコメントによれば、Kindleユーザーは、同じ本で紙と電子書籍の両方のバージョンがある時、紙の本10冊につきKindle本6冊が売れているという。つまり発行部数の1/3は電子版のものが読まれているということ。
この割合が将来どうなるか興味が尽きないところもあるのだけれど、このデータを見る限り、少なくとも現時点では、電子書籍のニーズは確実にあるといっていい。
日本でも、こうした電子書籍の販売が増えてくるものと思われる。
日本雑誌協会は、パソコンや携帯電話、専用端末への雑誌記事の有料配信を目指す、共同サイトの実証実験「parara(パララ)」を今月28日から始めている。
これは、公募で選ばれた約3100人のモニターに、疑似通貨「パララ」を配って、お気に入りの記事を検索して「購入」するシステム。
ここで注目したいのは、販売するのが、雑誌一冊丸ごとは元より、任意の記事を選んで買うことが出来るということ。平たく言えば、記事のバラ売り。これを可能にしたことは大きい。今のニーズをよく捉えていると思う。
確かに雑誌は、その名のとおり、大まかなカテゴリーはあるものの、その中には複数本の「雑多な」記事を纏めてセットにしたもの。
だから見方によっては、雑誌は、「個別記事のカタログ」だともいえるし、特定記事だけを目当てに買う人にとっては、目当て意外の興味ない記事なんかは、所謂「抱き合わせ販売」されているともいえる。
本当に記事が読みたい人や、後々まで取っておきたい人は、それこそ後で単行本になるのを待って購入したり、雑誌の該当部分だけ切り抜いてスクラップにしたりして、保存する。だけど、それ以外の記事は不要だから、残ったものは捨てられたり、廃品回収行きになったりする。
だから、純粋に商品だけで考えると、カタログというのは非常に無駄が多くて、そのカタログに乗っている「商品」を買ってくれなければ意味がない。
実際、マンガ雑誌なんかは、カタログ販売に非常に近い存在で、毎週発売されるマンガ雑誌は赤字で、その後に出る単行本の売上で黒字にしていくというビジネスモデルになっている。
なんでもマンガ雑誌の原価率は300%とか400%とかいう信じられない価格設定になっていて、印刷した部数が全部売れても絶対赤字になってしまうらしい。
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iPadが出てもKindleは死なず――In-Stat予測 1月29日16時35分配信 ITmedia エンタープライズ
米Appleが1月27日に発表した新タブレット「iPad」は、短期的にはKindleを脅かすことはないだろう――。米調査会社のIn-Statが29日、iPadが電子書籍リーダー市場に及ぼす影響について、こんな予測を発表した。
iPadはカテゴリーとしてはタブレットPCと位置付けられるが、Apple独自の電子書籍ストア「iBookstore」から書籍を購入できるという電子書籍リーダーとしての側面を併せ持つ。
だがiPadの登場により、電子書籍リーダーというセグメントが消えると考えるのは早計だとIn-Statは指摘する。米Amazonやソニーによる製品ラインアップの拡張、新規競合の参入、新聞の電子版の発行、国際市場の拡大などにより、電子書籍リーダー市場は今後も拡大していくという。
「短期的には、iPadがKindleの売り上げを脅かすことはないだろう。最近の電子書籍リーダーにはカレンダーなどPC的機能が搭載されているが、電子書籍リーダーの顧客は書籍の検索から購入、ダウンロードまでのシームレスな操作性に重点を置いており、そうした操作性が高いKindleやソニーの電子書籍リーダーを購入している」とIn-Statのアナリスト、ステファニー・イーシア氏は分析する。「iPadがKindleに及ぼす当面の影響は、iPadがタブレット市場に火を付けることで、電子書籍リーダーとタブレットの境界があいまいになることだろう。これは、Kindleだけでなく、すべての電子書籍リーダーの将来に影響を与えることになる」
In-Statは、2008年に92万4000台だった世界での電子書籍リーダーの出荷台数は、2010年には2860万台に上ると予測している。 最終更新:1月29日16時35分
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100129-00000047-zdn_ep-sci
Apple、タブレット型デバイス「iPad」を発表~499ドルから販売 1月29日16時51分配信 japan.internet.com
米国 Apple は2010年1月28日、Web 閲覧、電子メール、写真の鑑賞、ビデオや音楽の視聴、ゲーム、電子書籍の読書など、数多くの用途に使えるタブレット型デバイス「iPad(アイパッド)」を発表した。
「iPad」は、厚さ約1.3cm、重さ約680gと薄く軽量ながら、高解像度マルチタッチディスプレイで、iPad 専用に設計された12のアプリケーション、および App Store で提供されている14万以上のアプリケーションを利用できる。
価格は、499ドル(16GB/Wi-Fi)からで、3月下旬より販売するという。(日本における通信会社および販売については後日発表)
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100129-00000025-inet-mobi
Amazon、4Qの収益は42%増、ベゾス曰く「数百万人がKindleを持っている」 Share by Erick Schonfeld on 2010年1月29日
Amazonには良い休日だったようだ。2009年第4四半期の収支が発表された。収益は42%増の$9.5B(95億ドル)、純利益は71%増の$384M(3億8400万ドル、1株当たり85セント、大方のアナリストの予想72セントを大きく上回る)、フリーキャッシュフローは113%増の$2.9B(29億ドル)だった。年間では収益が$24.5B(245億ドル)、純利益$902M(9億0200万ドル)となった。
Amazonは収支報告書の中で、Kindleの成功を大きく取り上げていたが、昨日(米国時間1/28)Appleが発表したiPadとの比較がこれだけ言われていることを考えれば当然だろう。CEO Jeff Bezosが報告書でKindleに触れている、「今や数百万という人たちがKindleを持っている。Kindleユーザーはよく本を読む。両方のバージョンがある時、紙の本10冊につきKindle本6冊が売れている。これは過去1年間の有償の本だけのデータで、無料Kindle本を含めればさらに数字は増える。わくわくする27ヵ月間だった。」
Kindleユーザーの数が、何「百万」人なのか(2百なのか2千なのか)かをはっきり言わなかったことはさておき、AmazonはKindle向けの本が現在42万冊になったことにも触れた。この品揃えの深さと広さは、Kindleの最大の強みだ。また、同社のデジタルブックをKindleファミリーの間で同期できるだけでなく、PCや「iPhone、iPod touch、近々はBlackberry、Mac、iPad」でも可能であることを強調した。
Kindleの会計基準が今期から変更され、デバイス価格全体が繰延べされることなく計上されるようになった。収支会見で、前期出荷分から$500M(5億ドル)の繰延べ収益があり、今後の四半期にも組み入れられることが説明された。競合状況に変化があったかという質問に対して、Amazonは、これまでの出版社との関係と「読書に特化して作られた」デバイスに今後も重点を置いていくことを強調し「読者は、専用デバイスと豊富な書籍の品揃えを、すばらしい価格で手に入れられるべきである」と語った。しかしそれ以外、競合機種(咳、iPad)についても、Kindleの価格への影響についても一切口にしなかった。しかしAmazonは、iPhone用KindleアプリはiPadでも利用できることを再確認した。
収支のスライド資料を以下に貼ってある。
URL:http://jp.techcrunch.com/archives/20100128amazon-4q09-earnings-kindle-millions/
雑誌のネット有料配信 実証実験「parara」始まる 2010年1月29日4時13分
パソコンや携帯電話、専用端末への雑誌記事の有料配信を目指す、共同サイトの実証実験「parara(パララ)」が28日、始まった。日本雑誌協会(雑協、東京都千代田区)内の「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム(共同事業体)」が進めるもので、講談社や小学館など、58の出版社の雑誌91誌が参加している。
公募で選ばれた約3100人のモニターには、疑似通貨「パララ」が5千ポイントずつ配られる。「雑誌別」「ジャンル別」「キーワード」による検索でお気に入りの記事を選んで「購入」し、読むことができる。雑誌1冊まるごとの「購入」も可能だ。
コンソーシアムの大久保徹也議長(集英社)は「実験を通じて、出版業界のデジタル化の方向性も見えてくる。業界全体の問題として、みんなで考えていきたい」と話す。
来月28日まで実験を続け、閲覧ソフトの使い勝手に関するアンケートや売れ筋ランキング調査などを行う。データを詳細に分析し、ネット配信のあり方を探る予定だ。
コンソーシアムでは2年後の実用化を目指すが、課題も多い。権利関係が複雑な著作権問題の解決や、統一フォーマットの導入が実現できるかどうかが鍵になりそうだ。(竹端直樹)
URL:http://www.asahi.com/national/update/0128/TKY201001280393.html
2008年11月20日 (木) マンガ雑誌に「元をとる」という発想はない
現在コメント掲示板の「たけくま同人誌計画」のスレッドで、同人誌と商業誌の関係をめぐる議論が続いています。俺も参加しているのですが、ISBNコードを付けた本はコミケでは扱えない(商業誌と見なされるため)という話題から、商業雑誌が売れていない現状の話、雑誌の未来についての話題にシフトしてきています。
http://www2.atchs.jp/test/read.cgi/takekumamemo/136/122-134
↑たけくま同人誌計画・コメント掲示板での議論(抜粋)
これについては近いうちに自説を書きたいと思っていましたので、ちょうどいい機会です。これは同人誌ネタだけにとどまらない、マンガ雑誌全般の議論になる話題だと思いますので、スレッドを分ける意味でも新エントリを立てたいと思います。
俺がかねてから主張しているように、マンガ雑誌は売れていません(正確には、売れても儲からない価格設定になっている)。昔からマンガ界は、雑誌は赤字で維持しておいて、そこで連載した作品を単行本化して利益を出す、というビジネスモデルをとっています。一般雑誌の場合は単行本で利益を出すわけにはいかないので、代わりに広告を掲載して、雑誌の売り上げと併せて本体を維持するシステムになっています。マンガ誌、一般誌ともども、典型的な薄利商品であり、単体商品としての価格では利益を上げにくい構造であることにはかわりはないといえます。
それがここにきて、不景気によって広告出稿が落ち込み、マンガも単行本が売れなくなって、本格的にヤバイ感じになってきました。
しかし、このマンガ雑誌が売れていないという問題なんですが、ことは売れないから問題だという単純なものでもありません。出版社にとって、マンガ雑誌が儲からないことはある意味想定の範囲内であって、雑誌によっては原価率400%という、他業界が聞いたら耳を疑うようなものもあります。全部がそうではないでしょうが、1誌や2誌ではないことも確かです。以下は、早稲田大学人物研究会のサイトに掲載されている、「コミックビーム」編集部の奥村勝彦氏と岩井好典氏の質疑応答(2006年)からの抜粋です。
《 学生 先程「赤字を出したことがない」と仰いましたが、それは雑誌単体ですか?
奥村氏 無理。
学生 コミックスを出す際にその発行部数はどうやって決めるんですか?
奥村氏 それは原価を考える前にまず営業と相談するかな。
岩井氏 経験則の中から、基準となる部数を、B6と言ってわかるかな? B6等のそれぞれのサイズの基礎部数のようなものを作るんです。データのない新人はそこに当てはめます。一回本を出せば、その売り上げがデータとして残るので、それを元にその作家の次の作品の部数を決める。今の「雑誌単体で黒字が出るか?」って話なんだけど、前に聞いた大手のK社の編集の話だと、「K社の全漫画誌の中で、雑誌単体で黒字が出ているのは2誌」って言ってましたね。30~40誌出ているはずだけど、ほとんど雑誌単体で黒字にはならない。『ビーム』はもちろん雑誌単体では真っ赤っかです。
奥村氏 燃えあがっとるね(笑)
学生 損益分岐点というか、実売率はどのくらいに設定されているんですか?
岩井氏 そういう事を考える事自体に意味がないと考えてます。なぜかというと、多分競合誌も同じくらいだと思うけれど、原価率が300%とか400%だから。つまり今の数倍刷って全部売れて、ようやくトントン。
奥村氏 ということは採算分岐点なんてない。
岩井氏 そのポイントははるか遠いから(笑)。ハナから意図の中に入ってない。
奥村氏 原価とるには、多分一冊千円以上で売らんと。
岩井氏 今は刷った本が全部売れても赤字なんだから、採算分岐点なんてないよね。
奥村氏 原稿料っていうのは全部雑誌につくのよ。で、二次使用の単行本は印税だけやから。だから単行本で稼ぐ、みたいな仕組みには、どうしてもなる。雑誌単体の黒はほぼ奇跡やな。漫画の場合、広告もそんなに入らないでしょ。
(中略)
岩井氏 広告料に頼って我々は商売してないし、テレビでCMして漫画が売れたことはないし。つまり、広告代理店の意図とはまったく関係がない。我々は、漫画家が描いてくれたものを商品にして、それを読者の皆さんが数百円とかで買ってくれた、そのお金の集積だけで生きているから。こんなメディアはどこにもないよ。》
(※ http://www.jinbutsu.org/ 早稲田大学人物研究会「奥村勝彦・岩井好典会見録」より引用。直リンク禁止なので原文はトップページから探してください)
さすがコミックビームというべきか、マンガ雑誌の原価率の問題が具体的な数字で赤裸々に語られたものは、俺の知る限りこの会見録が初めてです。業界内では常識に属する話なのですが、驚かれた他業種の人もいるのではないでしょうか。
原価率400%ということは、1号あたり制作費2000万円かかっている雑誌の売り上げが、たったの500万円しかないということです。どうやったら、このような「商品」が維持できるというのでしょうか。
それは奥村さんが言うとおり、副産物としての単行本がそれなりに売れているからとしか考えようがありません。それくらいマンガ出版にとって単行本は「おいしい」ということになります(赤字雑誌を維持するには、それ以外の理由も推測できますが、ここでは割愛します)。
従いまして、タイトルに掲げた「マンガ雑誌に『元をとる』という発想はない」というのは、雑誌単体で考えた場合でして、正確には、「マンガは、雑誌を赤字で出して単行本で元をとる」ということになります。
あえて言うならば、出版社にとってのマンガ雑誌とは、単行本用に原稿をプールする機能が第一であって、第二に作品の宣伝でしょうか。雑誌にマンガを連載することそれ自体が、単行本を売るための宣伝になっているのです。つまり雑誌の発行部数が多いほど、マンガの宣伝効果が高いことになります。
以前あげた「マンガ界崩壊を止めるためには」のエントリで、マンガ雑誌の売り上げは12年連続で減少し続けていることを俺は紹介しました。あのエントリでは詳しく触れることができませんでしたが、12年連続で減少しようが、出版界にはマンガ雑誌で「元をとる」という発想がないので、目に見えるダメージはなかったということが言えます(しかしボディブローは効いています)。
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_4da3.html
↑マンガ界崩壊を止めるためには(1~6)
上の(5)のエントリで紹介した図表(松谷創一郎作成)を見るとよくわかるのですが、マンガ雑誌の売り上げは12年間続落しているものの、単行本売り上げは微増しています。
しかしこれは出版点数を増やし続けたことによる見かけ上の増加だと言われています。単行本一冊あたりの売り上げは、雑誌と同じく減少傾向にあることはマンガ界の人間であれば「実感」しているところではないでしょうか。この方面の正確なデータを持っていませんので、この程度しか言えないんですが。
ここに来てのマンガ界最大の問題は、本当は雑誌の減少ではなく、単行本の売り上げ減であることは間違いのないところです。しかし雑誌が読まれなくなることは宣伝力の後退ですから、単行本の売れ行きにも影響が出てくるはずです。長い目で見れば両者は相補関係にあり、雑誌の売れ行き減少は単行本の売れ行きにも悪い影響があるでしょう。
いずれにしても、ここ数年で業界は、マンガ出版の利益構造を根底から見直す局面に立たされるでしょう。いや、もう立っているのですが。
本来ならそのあたりの話を書くつもりでしたが、またしても長文になってしまいました。続きは今度のエントリに回します。
付け加えておきますと、俺が今作っている同人誌『マヴォ』は、完全に俺の趣味の本ですので、これで利益を上げようとか、業界をどうにかしようと思っているのではありません(笑)。なんせ同人誌ですから。俺も「編集家」と名乗る以上は、編集のカンを取り戻しておかねばならないと個人的に考えているのですよ。こちらについては、同人誌の宣伝かたがた別エントリで書いていきたいと思います。
URL:http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-442f.html
この記事へのコメント
日比野
マンガも千差万別ですからね。今は若い人が少なくなっていますから、往年の名作を復活させてはかつての若者を取り込もうとしてますよね。(北斗の拳とか)
ponpon
私も子供の頃はマンガをよく読んでいましたが、大人になってからは全く読まなくなりました。大人になって世間のことをあれこれ知ってくると、マンガの中の世界が幼稚に見えてくるんですよね。読んでても途中で馬鹿馬鹿しくなって、読むのをやめてしまう。
結局、若い人が減るのに合わせてマンガも売れなくなってるのかな?という気がしますね。
日本の主要都市の年齢別人口グラフ
http://homepage3.nifty.com/joharinokagami/010006.html