アメリカの新抑止能力について、全2回でエントリーする。
オバマ大統領が、昨年のノーベル平和賞を受賞した理由のひとつに「核なき世界を構想し実現へ向け努力したこと」というものがある。
核なき世界の構想をぶちあげたのは、かのプラハ演説なのだけれど、抑止力の観点から考えると、核なき世界なんて、簡単にいくとはとても思えない。
核の脅威から自国を守ろうと思えば、仮想敵国に核兵器を使わせないか、万が一使おうとしたとしても、発射前に破壊できる手段を有するかのどちらか。
今の戦略核による抑止力は、核による報復攻撃を行ったときの被害が甚大すぎるが故に使えない、という前者にあたるけれど、後者ともなると、原潜にでも戦術核ミサイルを積んで、敵国近海に常駐しているか、大規模通常兵力でも付近に展開するしかない。
だけど、敵国の核ミサイルの発射サイロが地中奥深くにあったり、深度のある国土の奥地なんかにあったりすると、確実な破壊を期待することは難しい。
一番望ましいのは、相手の攻撃が届かない超遠距離から攻撃でき、更に、目標を正確にピンポイント且つ、地中深くまで破壊できる兵器。できれば、軍事施設のみを破壊して人的被害を出さないものが望ましい。
これまでそれに一番近いものは、戦略核、大陸間弾道弾くらいだった。それでも、戦略核は目標を広範囲に破壊して、さらに、周囲を放射能汚染してしまうから、ピンポイントじゃないし、なにより今の世界では、実使用のハードルは高すぎる。
もう2年も前のエントリーになるのだけれど、「核兵器は時間をも破壊する」において、核は被害国の時間をも破壊すると述べた。以下に該当部分を引用する。
通常弾頭は、爆撃範囲を破壊しておわるけれど、核兵器は爆撃範囲を破壊したあとで更に、周囲を放射能汚染する。
核兵器は、爆裂による破壊範囲を「空間的に破壊」し、また放射能汚染とそれが消えるまでの期間、その一帯と放射能を浴びた人を苦しめつづける、いわゆる「時間的に破壊」する両面を持つ。
広島・長崎での原爆、その惨事があまりのことに人々の心に深い傷を与えたのは勿論、その後の後遺症や汚染浄化までの2,3世代の時間ずっと広島・長崎の時間を破壊し続けてる。
だから、人々の心から消えない。被爆者の姿と後遺症。それが原爆投下を思い起こさせつづけてる。
後遺症が完全に消え、かつ原爆被害を語り継ぐことが途絶えない限り、見えない原爆投下は絶え間なく、日本人の意識の中で続いてる。
通常兵器と違って、核は何世代にも渡るほどの時間破壊効果がある。話にならない。2007.8.6 日比野庵 本館 「核兵器は時間をも破壊する(抑止力について考える その2)」
今の世界は、命の値段が上がっていて、大昔のように簡単に人命を失うなんてことが許されなくなってきた。特に先進国ではそう。だから、核は、あっても使えない兵器に段々なりつつあり、「あるだけ抑止力」の意味合いが強くなってきた。
だから、もし、核と同等の抑止力があって、時間破壊効果がない兵器があれば、既存の核を、それに置き換えてゆくことは十分にあり得る話。
そこにあるのは、単に「核はない」世界であって、抑止力がない訳じゃない。
実際、アメリカは、核兵器に代わる新抑止能力を模索している。


ノルウェーのノーベル賞委員会が発表したオバマ米大統領に対する平和賞授賞理由要旨は次の通り。
一、オバマ氏は国際的な外交と協調を推し進めるため、並外れた努力をしている。核なき世界を構想し実現へ向け努力したことに対し、ノーベル賞委員会は特別な重要性を見いだした。
一、国際政治に新たな環境を生み出し、多国間外交を再び中心に据えた。最も困難な国際紛争ですら、対話と交渉を解決の手段として優先させた。
一、核なき世界の構想は軍縮と軍備管理交渉を力強く推し進めた。オバマ氏が主導権を握ったことで、米国は深刻な気候変動に対処する上でより建設的な役割を果たしている。
一、オバマ氏と同じように世界から注目を集める人物はほとんどおらず、世界の人々により良い将来への希望を与えた。
一、オバマ氏の外交は、世界を主導していくには、世界の国の大多数と価値観を共有して行動しなければならないとの考えに基づいている。
一、委員会はオバマ氏の「今こそ地球規模の課題には地球規模で対応し、責任を分かち合うときだ」との訴えを支持する。(共同)
URL:http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009100901000917.html
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