今日から何回かに分けて、アメリカの世界戦略についてエントリーします。
「5年で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出する」オバマ大統領 2010.1.27 一般教書演説より
1月27日、オバマ大統領は上下両院合同会議で一般教書演説を行い、雇用不安が解消されず、国民の不満と怒りが募っていることを踏まえ、雇用状況の改善を最優先課題にする演説を行なった。
約1時間15分の演説の3分の2が雇用・経済に関する話で、米国内世論向けの内容に終始した。そのことでアメリカの保護主義を警戒する観測もあるようだ。
だけど、ここ一連のアメリカの動きを見ていると、保護主義どころかモンロー主義へと舵を切り始めたように見える。「モンローシフト」を始めた可能性がある。
モンロー主義とは、第5代アメリカ大統領ジェームズ・モンローが、1823年の教書演説で、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したことに端を発している。
当時は、ラテンアメリカ各地で独立運動が起こっていた時期で、中南米諸国は次々と独立していったのだけれど、ヨーロッパ諸国は独立運動への干渉を強め、自国の影響力を残そうとしていた。そうした動きに対して、一旦独立した国家への干渉や、植民地の新設は許さない、とヨーロッパを牽制したのが、1823年の教書演説でのモンロー宣言。要はアメリカによるラテンアメリカの囲い込み。
当時は、囲い込む対象がラテンアメリカだったのだけれど、今の世界でアメリカが「囲い込むべきもの」は何になるのかを考えてみる。
上図は、アメリカの産業別労働人口の推移と就業者数増減をあらわしたもので、05年度のデータだけれど、労働人口の実に78.5%が第三次産業に従事している。また、01~05年の間に製造業の就業者数が200万人以上減っている。
冒頭のオバマ大統領の一般教書演説では、「5年で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出する」と言っているけれど、これは、01~05年の間に失われた製造業の就業者数200万人分の雇用を、丸々創出するということ。
先頃オバマ大統領は、これまでアメリカ経済を牽引していた、ウォール街を筆頭とする金融業界に対して、強力な規制法案を出した。
これは、預金を取り扱う商業銀行各行が自行の資金で投資する「自己勘定トレーディング」の禁止を定めたもので、銀行が証券会社の真似事をすることを禁止して、きちんと顧客の要求に応じた貸し出し業務、本来の銀行業務をやれ、という法案。
銀行が本来の貸し出し業務を行なうということは、中小企業などからの顧客の依頼案件を精査して、貸しても十分回収できると見込みを立てて貸し出すか、将来有望な産業への投資を行なうことになるから、ファンドのような他人の儲けを当てにして丁半を張るような「虚業」から、きちんと製品を作って、それを売るという形の「実業」へ銀行資金がシフトすることを意味してる。
つまり、アメリカ政府は金融ファンドのような虚業から、きちんと「ものづくり」を行なう実業へと、産業構造の転換を志向し始めたように見える。
だから、今回の一般教書演説で一番時間を割いていたのが、雇用の改善なのだけれど、その改善される雇用は第三次産業だけになるとは限らず、ある程度は、第2次産業のへの雇用シフトがあるものと思われる。
アメリカの実業を考えた場合、世界的大企業を抱える分野は結構あって、エネルギー、小売、自動車産業なんかにやっぱりそういう企業が集まってる。
何がしかの実業が強者であり続けるためには、競争力維持のために「研究開発」を行い、市場シェアをガッチリ握っている必要がある。それには、製品に付随する「知的財産」を持ち、製品を隅々まで供給するだけの「生産及び物流体制」が整っていなくちゃならない。
だから、必然的に交通輸送手段を支える石油と研究開発の成果である特許などはがっちり抑えておく必要がある。
つまり、石油と知的財産の保護は、国内産業とセットで囲い込む必要があって、更に、米国産製品を世界中に売るためには、ドルが信任され世界中で使われなくちゃいけない。従って、ドル覇権体制はまだまだ維持しなくちゃいけない。
だから、アメリカがモンロー主義に舵を切ったとするならば、まず囲い込むべきものは、「国内の実産業」と「石油」と「知的財産」そして「ドル覇権」ということになる。

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オバマ米大統領は27日に発表した就任後初の一般教書演説で「歴史上、最も苦難の時だ」と語り、長引く経済の不振から米国民と共に再起する道を掲げた。大統領支持率が低下する中、今回の演説は、今年11月の中間選挙に向け、超党派を意識した現実路線へとかじを切り、戦略の「リセット(再始動)」を示したものと言える。だが、そうした反転攻勢に、選挙モードを強める共和党の歩み寄りは期待できないのが実情だ。
◇減税強調、選挙を意識
「08年の大統領選キャンペーンのアジェンダ(議題)は不変だ」「人々の問題に焦点を当てた選挙当時の訴えを続けなければならない」。民主党が歴史的敗北を喫したマサチューセッツ州連邦上院補選(今月19日)の後、ホワイトハウス高官らは口々にそう語り、今回の一般教書演説の内容を示唆していた。
選挙戦で雇用・景気を最優先に掲げ、国民の声を政治、経済、社会に反映させるオバマ流の「変革」に世論の期待はしぼみつつある。選挙当時の原点に立ち返り、「オバマのテーマ」を再構築してアピールすることが一般教書演説の狙いだった。
目指す具体的政策は昨年2月の議会演説と大差ない。だがこの1年間、「あれもこれもとすべてのテーマをテーブルに並べ、一つにつまずけば他もつまずいていた」(議会関係者)状況を打破するための「リセット」を大統領は演説に込めた。
大きな特徴は、財政支出の拡大による景気対策に依拠した民主党路線から、財政規律を図りながら減税による雇用確保という共和党路線に軸足を移し始めたことだ。上院補選など最近の選挙で無党派、中間所得層の票が共和党に流れた背景分析に基づいている。
演説に先だって今週、子育て減税、国家安全保障関連を除く政策経費の伸びの3年間凍結などを矢継ぎ早に発表したのはその表れ。経費凍結は大統領選で共和党のマケイン候補が持論とし、オバマ氏が酷評していただけに大きな転換だ。医療保険制度改革も医療費や保険料に四苦八苦する人々の支援に目標を絞り、生活と雇用を向上させる枠組みの柱の一つに位置づけた。
アクセルロッド大統領上級顧問は「医療保険制度改革の議論に多くの要素(提案)を詰め込みすぎた」と指摘し、中小企業への減税や患者の医療費自己負担額の上限設定を重点項目とする方針を示している。国民皆保険という当初の目標は後退する可能性が高い。
民主党が上院で安定多数の60議席を失ったことに触れ、大統領は「共和党も統治の責任を持つ」と、共和党に政策協力の定期協議に応じるよう呼びかけた。新たな政策アプローチは議会審議を迷走させた党派対立を解消し、政権運営を軌道に乗せる上で不可欠だ。
とはいえ雇用中心の政策組み立ては、11月の中間選挙に向けた新たなキャンペーンのスタートでもある。大統領は演説で「我々はあきらめない」「私はやめない」を繰り返し、政策遂行と選挙へ向けて戦う姿勢を鮮明にした。
来月から中間選挙の予備選が本格化し、米政治は選挙モードに入る。米CNNテレビの緊急世論調査によると、テレビ中継視聴者で演説を「支持」した人は83%に達したものの、「目標のすべてが実現可能」と見た人は42%にとどまった。共和党下院のボーナー院内総務は「どうやら失業増加政策は続くようだ」と演説に効果はないと批判し、オバマ政権とは妥協しない姿勢を改めて示した。【ワシントン小松健一、古本陽荘】
◇保護主義台頭に懸念
オバマ大統領の一般教書演説が米国内世論向けの内容に終始したことで、世界各国から保護主義を警戒する声が一段と強まりそうだ。中小企業向けの減税やエネルギー産業などへの公共投資が雇用対策の柱だが、雇用創出のために国内産業を優遇する姿勢が強まるとの懸念は根強い。
大統領は「5年で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出する」とも表明した。自国産業強化を打ち出し、過剰消費に頼らない成長を目指そうとの方針だが、産業育成策には優遇措置や補助金などの政策も含まれるものと見られる。米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のテリー・ミラー氏は今回の演説について、「市場介入の意思を表明しており、自由経済に逆行する内容で、米国にとっても世界経済にとってもマイナスだ」と批判した。
世界経済は、ようやく回復軌道に乗りつつある。だが、民間需要は依然として弱く、各国政府の景気刺激策による下支えで緩やかに回復しているに過ぎない。米国が内向きの姿勢を強めて保護主義に走れば、世界経済再生の前提条件である自由貿易を阻害しかねず、逆に景気回復の芽を摘む恐れもある。【ワシントン斉藤信宏】
URL:http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20100129ddm003030124000c.html

【ワシントン斉藤信宏、草野和彦】オバマ米大統領は27日午後9時(日本時間28日午前11時)過ぎから、上下両院合同会議で昨年1月の就任以来初めてとなる一般教書演説を行い、「(経済を巡る)最悪の嵐は過ぎ去ったが、荒廃の跡は残っている」と指摘した。雇用不安が解消されず、国民の不満と怒りが募っていることを踏まえ、雇用状況の改善を最優先課題に据えた。
支持率が低迷し、主要政策で厳しい世論にさらされている大統領にとって、雇用・経済で失敗すれば11月の中間選挙を乗り切ることができないとの危機意識を投影した演説となった。約1時間15分の演説では3分の2を雇用・経済に費やし、かなり内向きな内容となった。
大統領は「私の政権は政治的挫折を経験したが、国民が直面している挫折に比べれば大したことはない」と述べ、特に「ミドルクラス(中間所得層)」、「スモールビジネス(中小事業者)」の「苦悩」と「怒り」に配慮した政策実行を繰り返し強調した。
政治迷走の大きな要因となった医療保険制度改革について「議論が長引くにつれて懐疑的な人々が増えた。国民に明確に説明できなかった責任を私は共有している」との反省を述べた。その上で、医療保険制度改革、気候変動対策など、これまで掲げた政策を説明責任を果たして遂行することを明らかにした。さらに大統領は「与野党の議会指導部との定例協議を始める」と言明し、議会側の協力を求めた。
雇用対策では、高速鉄道網や道路整備などインフラ投資、代替エネルギー開発に重点的に取り組む方針を表明。特に今後5年間で輸出を倍増し、200万人の雇用を創出する方針を示した。中小企業への減税策などを通じて、短期的には雇用の促進を目指し、中長期的には所得増を図る考えを示した。
財政赤字については、国家安全保障関連分野を除く政策経費の伸びを3年間凍結することを盛り込んだ。国民からの批判が強まっている大手金融機関への規制を強化する金融規制改革や教育改革にも積極的に取り組む姿勢を示した。
外交・安全保障分野は「テロ対策」と「核」が柱。昨年12月に3万人の米軍追加増派を発表したアフガニスタン戦争では11年7月に撤退開始を目指し、イラク戦争では、「今年8月末までに米軍戦闘部隊を帰還させる」ことを改めて確認した。
また、ロシアとの核軍縮交渉や今年4月にワシントンで開催する核安全保障サミットに言及し、こうした外交努力が北朝鮮やイランに対する国際社会の圧力につながっていると強調。「イラン指導部が義務を無視しており、重大な結果に直面する」と警告した。
URL:http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100128k0000e030043000c.html

モンロー主義(モンローしゅぎ、英: Monroe Doctrine)は、アメリカ合衆国がヨーロッパ諸国に対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したことを指す。第5代アメリカ合衆国大統領ジェームズ・モンローが、1823年に議会への7番目の年次教書演説で発表した。モンロー宣言と訳されることもあるが、実際に何らかの宣言があったわけではないので、モンロー教書と表記されることも多い。この教書で示された外交姿勢がその後のアメリカ外交の基本方針となった。原案は国務長官・ジョン・クィンシー・アダムズが起草した。
URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%BC%E4%B8%BB%E7%BE%A9

[21日 ロイター] オバマ米大統領は21日、金融機関のリスクテークに関する諸制限を一段と厳格化する提案を明らかにした。以下は大統領の提案の概要。
◎銀行、または銀行を傘下に持つ金融機関によるヘッジファンドおよびプライベート・エクイティ・ファンドへの投資や出資、保有を禁止。
◎預金だけでなく、それ以外の資金調達源も考慮に入れ、金融セクター全体に対する銀行の相対的な規模に制限を設ける。預金に関しては、特定の銀行にリスクが集中するのを防ぐため既に上限が設定されているが、現行規制では他の資金源に制限はない。
◎銀行の自己勘定取引を禁止。ただ、ホワイトハウスのある当局者によると、マーケットメーキングの一環としての自己勘定取引は認められる。
◎提案に対しては、民間企業に対する政府の規制強化に反対する共和党や、金融業界のロビー団体が反発する公算が大きい。
◎オバマ大統領は、経済再生諮問会議議長を務めるボルカー元連邦準備理事会(FRB)議長にちなんで、新規制案を「ボルカー・ルール」と呼んでいる。同議長は、預金・融資業務を担う金融機関と資本市場での取引や投資銀行業務を手掛ける機関の間の垣根を復活すべきとの立場を示してきた。
商業銀行業務と投資銀行業務の間の法的な境界は、1999年のグラス・スティーガル法廃止によって取り除かれた。
URL:http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-13464820100122
この記事へのコメント
とらよし
初コメ失礼します。
一連の記事を、とても興味深く読ませていただきました。
陰謀論と笑う方も居るでしょうが、モンロー主義のシフトと考えると現実味がありますね。
アメリカには市場原理主義に加え、白人民族と至上とする愚かな傾向があります。
モンローシフトは、当該地域をそのまま植民地化すること。
鳥肌が立つほど恐ろしいです。
視点は違うかもしれませんが、アメリカの脅威を冷静な視点で分析しておられる、カナダのアルバータ大学の名誉教授たる「藤永茂」さんのブログをご存知でしょうか?
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/
植民地問題を描いた、ジョセフ・コンラッドの「闇の奥」の訳者である方のブログです。
日比野庵様は深く共感するところが多いのではないかと。。。
個人的に、お二人のやりとりを拝見したいと思います。
日比野
ご紹介いただた 藤永茂教授のブログは、存じませんでした。この機会に、勉強させていただきますね^^;
どうもありがとうございます。