小惑星探査機「はやぶさ」が27日、地球帰還軌道に乗った。
度重なるトラブルにもめげず、よくぞここまで動いてきたものだと思う。満身創痍のイオンエンジンは運転を終了させ、慣性飛行で地球に返ってくることになる。
「はやぶさ」は、昨年11月のイオンエンジンDが止まるトラブルに見舞われ、イオンエンジンAとBをニコイチで動かすウルトラ裏技を駆使して運転を続けていた。
もちろん本来の使用法ではないから、中和器の状態などをモニタできず、苦心の運用を続けていたそうだから、予定通りのイオンエンジンの運転終了に関係者は胸を撫で下ろしているだろう。
今後は地球に近づくにつれ、軌道を微調整しつつ、内蔵のカプセルをオーストラリアのウーメラ砂漠に落下させる。それをもって、「はやぶさ」のミッションは完遂する。
カプセルに見事、小惑星「イトカワ」の砂やちりが入っていれば、太陽系の成り立ちなどの研究に多大な貢献をすることになり、関係者からは多いに期待されている。
「はやぶさ」は、地球近傍までは、およそ秒速12kmで近づき、月軌道程度まで来たところで、カプセルを分離する。
分離されたカプセルは約10時間の単独飛行を行なった後、極超音速で地球に再突する。落下したカプセルは、高度約10kmでパラシュートを開いて降下。パラシュートを開くと同時にカプセルからビーコン信号が発信され回収されることになっている。
再突入カプセルは、直径約40cm、重量17kg で蓋のついた中華鍋のような形をしている。
カプセルはアブレータと呼ばれる繊維強化型プラスティックの耐熱材料で覆われ、さらに「はやぶさ」の軌道上での熱制御のために、太陽光の反射率と吸収率が正確に管理された、アルミ蒸着カプトンが表面に貼られており、金色に輝いている。
高速で地球に再突入するカプセルが曝される空力加熱は、スペースシャトルのノーズの30倍、使い捨てライターの炎の300倍にも達し、表面温度は1万度にもなるという。
スペースシャトルの耐熱タイルでもこんな高温には耐えられないし、耐えられる材料も存在しない。したがって、カプセルの耐熱は逆転の発想で「熱に耐えないで溶ける」ことで熱を防ぐ、アブレ―タ耐熱材を使用している。
繊維強化型プラスティックであるアブレータ最表面は、再突入時に分解して炭になるのだけれど、表面からすこし内側の繊維層は熱分解してガスとなり、同時にアブレータから熱を吸収する。発生したガスはアブレータ表面に噴出して1万度にもなる空気との間を漂って空力加熱を遮断するという。
勿論、アブレータは最後には、溶けて無くなってしまうのだけど、完全に溶け切る前に地表に落下できれば、カプセルを守るという役目は十分に果たしたことになる。
実に面白い発想。人間困ったら色々と考えるもの。「はやぶさ」は6月に地球に帰還する。その時を楽しみにしている。


小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰るために行っていた軌道変換が、27日午後3時過ぎに完了した。
宇宙航空研究開発機構が発表した。故障続きのエンジンを動かし続けるという最大の山場を越え、地球帰還へと大きく近づいた。今後は、基本的にエンジンを動かさない慣性飛行で地球へ向かい、6月に大気圏内へ突入する予定。
はやぶさは、2003年5月に地球を出発。05年11月に小惑星「イトカワ」に着陸した後、燃料漏れや通信途絶、エンジン故障など様々なトラブルに見舞われた。不調のエンジン2台を組み合わせて1台分の推進力を得るなど、曲技のような手段を駆使して、地球への帰路を進んでいた。
今後は、正確な軌道に乗せるための微調整を行い、徐々に地球へと近づく。宇宙機構は、内蔵のカプセルをオーストラリアのウーメラ砂漠に落下させる計画。豪政府の許可が下りれば、大気圏突入の約10日前にエンジンを短時間噴射させて、突入角度を最終調整する。
カプセルには小惑星「イトカワ」の砂やちりが入っている可能性があり、太陽系の成り立ちなどの謎を解く手がかりになるとして期待されている。
(2010年3月27日15時52分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/space/news/20100327-OYT1T00563.htm

はやぶさは、順調にイオンエンジンの運転を続け、南極側を地球への衝突をさけつつ、夜側を通過する軌道に移ることに成功しました。
残る加速量はわずかです。27日中に、昨年春からの長かったイオンエンジンの連続運転を終了します。
BR-BT 面上での距離は換算が必要ですが、目標点に到達した時点で、最接近距離は地心から約2万km になります。
残るは、多数回の軌道の微調整で、現在、それにむけて準備を整えつつあります。
「はやぶさ」プロジェクトマネージャ 川口 淳一郎
URL:http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

6月の帰還・再突入にむけて運用もしだいに秒読み状態になってきました。再突入カプセルの担当の方々には、本当にお待たせいたしました。これからが本番です。再突入と回収は、「はやぶさ」計画を代表する目標の1つです。なにしろ、スペースシャトルなどの地球周回軌道からの再突入に比べると1桁も高い熱の条件にさらされ、それに耐える新規技術ですので、これは大きなステップですし、また大きな関門でもあります。
多くの方は、「はやぶさ」が地球の近くに帰ってくれば、再突入はパラシュートを開けば完了するかのようにお考えの方も多いのではないでしょうか。「はやぶさ」から切り離されたカプセルは、高度が70-80kmという高々度で最大の熱の環境にさらされます。パラシュートを開くのはずっと低い高度ですから、なんといっても耐熱技術こそがまさに真価を問われるわけです。「はやぶさ」は、まず、これに挑戦することになります。
この帰還・再突入にむけて、今月から来月にかけて、「はやぶさ」探査機の運用は佳境を迎えます。よく受ける質問に、これからどんな難しさが待っていますか?というのがあります。
大変心配しているのは、
1.ホイールの寿命、
2.イオンエンジンの運転性、
3.漏洩燃料の再ガス化、
4.イオンエンジン運転中の軌道決定、
5.耐熱材の状態、火工品の環境、分離バネの経年変化です。
ホイールは、ほかの同一設計・製造の2つのホイールが4年前に故障していて、現在残っている1つが稼働できていることは奇跡的なことです。イオンエンジンは昨年11月、幸いにも代用の方法で運転を再開できましたが、本来の使用法ではないために、中和器の状態などがテレメータで情報が見えない運転を余儀なくされていて、かりにダメージを受けやすい運転状態に置かれていたとしても、それを把握できないなど、不安な運用が続きます。ご報告しているようにAエンジンは、電子レンジでいえば空だき状態で、その寿命も心配なところです。2005年から2006年にかけて探査機を襲った燃料の漏洩についても、これまで何度か残存ガスの排気を行うべくベーキングを行ってきましたが、5月以降は、地球公転軌道よりも内側に入るため、探査機上面の温度がどんどん上昇して、再びガスが噴出しないか心配なところです。「はやぶさ」運用で確立をはかってきたイオンエンジン運転中の軌道の推定技術は、ある程度の精度を確保できる段階までに到達しているのですが、のこりの地球帰還に向けての推定精度を確保できるかどうか、これも大変気がかりなところです。カプセルの耐熱材は、担当者は自信をもっていますが、探査機の飛行が7年間に延びたことから、性能への影響などやや心配な点があります。火薬類を用いる機械的なデバイス(火工品)やカプセルを分離する高分子材料製のバネの経年劣化など、分離の機能が発揮できるかも大いに心配なところです。
この帰還と再突入のイベントが、やり直しのきかない1回かぎりの運用だという点は、あまり認識いただいていないかと思います。ロケットの打ち上げも、また軌道上での通常の衛星の運用も、不具合が起きれば翌日に延期して対処が可能です。しかし、この再突入の運用には待ったがありません。どこか途中で運用できない状態が起きれば、その原因が、搭載系であればもちろん、かりに地上系にあったとしても、再試行ができないか、あるいは再試行が間に合わないことになって、失敗してしまいます。スペースシャトルの再突入では、地上系に問題があれば、また着陸点の天候が悪ければ延期すればよいわけですが、この「はやぶさ」の再突入には延期はないのです。ですから、地味ではありますが、この「はやぶさ」の帰還・再突入は、大変に厳しい運用で、とりわけ傷を負った「はやぶさ」にとっては、かなりの難関になります。
「はやぶさ」の帰還、カプセルの再突入に先立ち、5月には、「あかつき」、IKAROSの打上げがあります。すでに、「あかつき」へのお名前、メッセージの受付は終了していますが、IKAROSの方は、まだ応募が可能です。IKAROSは、「はやぶさ」の意志を継承して臨むもう1つの新たな挑戦です。みなさん、IKAROSキャンペーンへも参加をお願いします。
URLは http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_cam/j/index.htmlです。
6月は、サッカーのワールドカップの月ですね。でも、「はやぶさ」も精一杯がんばります。みなさんの声援を期待しています。
「はやぶさ」プロジェクトマネージャ 川口淳一郎
URL:http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0309.shtml
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