アメリカの自動車戦略 前編のエントリーで、mor*y*ma_*atu様から示唆的なコメントをいただいたので、補追エントリーします。
アメリカの企業や政府が本気を出して自身の製造業の立て直しを行ってきたら、日本は絶対立ちうちできないのか。
ここに、日本の製造業の絶対的強さの秘密の一つは、その部品の精度。これはなかなか真似できないところ。
部品の精度を表す目安として「公差」というものがある。
公差(こうさ)とは、機械工学に代表される工学において許容される差のことで、基準値に対して、許容される範囲の最大値と最小値の差を公差という。
たとえば、基準寸法50mm、公差±0.3mmと設定された部品があったとしたら、その許容寸法は、50mm-0.3mmから50mm+0.3mmの間、即ち、49.7mm以上50.3mm以下ということになる。
設計寸法は理論値だから、実物の寸法はどうしても少しはズレる。そのズレ分を考慮しながら、設計をするのだけれど、そのズレ分をどこまで許すかが公差の値となる。
部品の公差を厳しくすればするほど、製品の組み立て工程でも使用時にも、問題は発生しにくくなるけれど、部品の単価はうんと高くなる。逆に公差を甘くして、単価を下げ言おうとすればするほど、組み立て後に装置が動かなかったり、トラブルの原因となる。
ここの公差に対する出来上がり寸法の精度が日本の製造業の強み。
公差±0.3mmと設定された部品を作るとき、海外メーカーだと、公差指定が±0.3mmなのだから、それを満たしてさえいれば、問題なし、として納品してくる。図面通りの出来上がり。契約どおりで何の問題もあろう筈がない、と。
だけど、日本の製造業、特にその道の匠がいるようなところは違う。
たとえ、公差±0.3mmと設定されていたとしても、匠はど真ん中を狙って、公差±0.1mmくらいの部品を作ってしまう。それも、殆ど全数にわたってその精度で仕上げて納品してくる。
だから、同じ公差±0.3mmの図面を渡しても、方や公差ギリギリの何時トラブルかも分からない部品が納められ、もう一方は、同じ値段、同じ納期で、本当は何倍もの値がするであろう超高精度の部品が納められることになる。
中には、あまりにその加工精度が凄くて、世界でその人しかつくれない匠だって、日本には沢山いる。重心が完全に真ん中にある辻谷砲丸なんかもそのひとつ。
こうした部品精度に支えられた日本製品の信頼性が低かろう筈がない。
地球に帰還しつつある、宇宙観測機「はやぶさ」のイオンエンジンが、耐用年数5年のところ、宇宙空間で7年持って運転しつづけたというのも、こうした部品ひとつひとつの精度の賜物ではあるまいか。
日本で実績十分の部品の図面をそのまま海外に持ちこんで、現地のメーカーに作らせても、そりがあったり、バリがあったりして、後で問題になることも多いと聞く。
同じ図面を使って、同じ部品をつくって、同じ機械を組み立てたとしても、同じ性能が出ないというマジック。
公差の魔術は日本人が使う。

この記事へのコメント
mayo5
日比野
おおっ、スルドイ突込みありがとうございます。0~マイナス公差を指摘するあたり、今の図面を見てないと言えない台詞かと・・
わかり易さのために±としましたが、現実の公差の値にすればよかったですかね。
公差ネタは明日のエントリーで続けて取り上げる予定です。