「第三の道」という名の表紙に変えた成長戦略

 
「私たちが追求するのは「第三の道」です。これは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとして、それを成長につなげようとする政策です。」
菅首相 於:6/11 所信表明演説

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当たり前のことだけれど、国が経済発展を目指すときには、国家100年の計、すなわち、国としての「成長戦略」の確かさが求められる。

だから政府は、自らが示す「成長戦略」がそれだけのものであるのか、しっかりと国民に説明する義務がある。

菅@けものへん殿は、所信表明演説で、財政再建と経済成長、社会保障の充実に三位一体で取り組む「第三の道」を歩むと宣言した。

「第三の道」とは、「公共事業中心」の経済政策である「第一の道」、市場原理主義に基づいた、生産性重視の経済政策である「第二の道」とも異なった、「課題解決型」の国家戦略だという。

具体的には、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野に設定し、これらを支える基盤として「科学・技術」と「雇用・人材」に関する戦略を実施する、としている。

これだけ聞くと何やら立派で新しい国家戦略のように聞こえるけれど、中身をよくよく見てみれば、目新しくともなんともないことが分かる。というのも、これらの内容は、麻生政権が2009年4月に提示した「未来開拓戦略」を焼きなおしたに過ぎないものだから。

麻生政権時の未来開拓戦略菅@けものへん政権の新成長戦略の比較をしたのが以下の表。

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この表は、各々の資料の目次をベースに整理したものだけれど、まぁよく似ている。

菅@けものへん殿は、自民党政権の経済政策を「第一の道」だの「第二の道」だの批判して、自分は違うんだ、と胸を張ってみせるけれど、何のことはない、麻生さんの示した戦略をほとんどそのままパクってきて、表紙を付け替えて「第三の道」だ、と言っているだけ。

尤も、今の日本の現状を踏まえて、その強み弱みを精査して、有識者達が成長戦略を立てると、同じ戦略になってしまうかもしれない、というのは分かる。だけど、そうであれば、自民党政権の成長戦略を参考にしながら、大部分を継承した、というべきであって、いちいち「第三の道」などと勿体つける必要なんて何処にもない。

批判を受けそうな、消費税の増税については、自民党の案を参考にした、と言っておきながら、成長戦略のほうは「第三の道」という。なるほどやはり、けものへんの字である「狡」はここにも表れている。

ニッセイ基礎研究所のエコノミスト櫨 浩一氏は、菅@けものへん殿の新成長戦略を指して、「供給面の対応がかなり具体的で詳しいのに対して、内需の拡大策は第一の道型の事業を除けば具体策に欠ける。・・・第三の道を模索したものと言いながら、残念ながら、第一の道と第二の道の継ぎ接ぎの様相を示していると言わざるを得ない。」と指摘している。

それはそうだろう。何しろ、パクっているのだから。

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さて、「第三の道」というカバーがかかっているとはいえ、中身は麻生政権の案で、「第一の道」+「第二の道」なのだから、やってみれば、上手くいくのではないか、というとそうとも限らない。

なぜなら、麻生政権の「未来開拓戦略」と菅@けものへん政権の「新成長戦略」との間には、その施行方法について、大きな違いがあるから。それは順番があるかないか。

麻生政権の「未来開拓戦略」にしても、菅@けものへん政権の「新成長戦略」にしても、その中身は、投資や研究開発を通じて「イノベーション」を行うものであり、今日やったから、明日効果がでる類のものじゃない。

実現までには、それなりに時間が必要。

だから、麻生元総理は、まず、財政出動して、3年間は景気対策を継続。同時に未来開拓戦略に着手して、3年後に40~60兆円の需要を作り約200万人の雇用を創出する、というプランを出していた。未来開拓戦略の実現までに3年という時間をちゃんと取っていた。そして、3年後、景気が回復した後に、消費税引き上げを行う、という計画だった。

つまり、景気回復の次に財政再建を行う、という順番がある。

ところが、菅@けものへん殿はというと、その辺りの計画が曖昧で、そのプロセスが見えてこない。恐らくは、景気対策は、子供手当てなどの社会保障をもって対策とするくらいで、新成長戦略のための財源は、事業仕分けと消費税増税で賄おうという腹ではないかと思われる。

こちらは、景気回復も財政再建もいっぺんにやろうとしていて、順番がない。

だから、菅@けものへん殿の新成長戦略は、景気が回復すれば、進めることが出来るかもしれないけれど、景気が回復しなかったら、にっちもさっちもいかなくなる。もし強引に推し進めようとすれば、消費税増税だけで賄うことに成りかねないという、最悪のケースも起こり得る。

日本総研の山田久主席研究員は、菅@けものへん殿の新成長戦略について、「経済のパイが大きくならないと、成長の持続性はない。増税が先行すれば、家計は所得を貯蓄に回すので逆に景気を冷やす。まずは1、2年は新興国の需要を取り込んで日本の所得を増やす政策をとらなくてはならない」と述べているし、大和総研の熊谷亮丸シニアエコノミストは「規制緩和などを並行して進めなければ、いずれは行き詰まってしまう」とコメントしている。

いずれも、まず景気回復させないといけないと警鐘を鳴らしている。

麻生元総理は、その辺りを充分認識していて、昨年行われた、友愛殿との党首討論の中でも、「成長して、経済のパイを大きくして、その上で配分を考えるというのが我々の考えだ」と述べていたのだけれど、菅@けものへん殿が、それを何処まで理解しているのか非常に心許ない。

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画像「第三の道」は増税路線? 菅政権の経済政策にエコノミストらが警戒感 2010.6.8 20:05

 「強い経済、財政、社会保障を一体として実現する」。菅直人首相が8日の会見でこう述べた新内閣の経済・財政運営は、予算を家計や社会保障の充実、環境分野などの市場に振り向け、内需を拡大する「第三の道」を選ぶ。「日本で誰もやったことがない」(大手証券)といわれる未知の成長シナリオだけに、その効果は読み切れない。増税論だけが先走ることへの警戒感がエコノミストらからあがっている。

 「第三の道」は、国の公共事業支出をてこにした自民党歴代政権の景気浮揚策を「第一の道」、規制緩和に活路を見いだそうとした小泉改革を「第二の道」と位置付け、それらと一線を画することで政策運営の違いを鮮明化させることを狙った菅政権の造語だ。

 しかし、マーケットからは「概念先行。本来両立しない財政健全化と景気回復をしなくてならない事情から出てきた考え方だろう」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)と冷ややかな声がきこえてくる。

 予算の重点を家計に波及しやすい分野に置くことで将来不安が緩和すれば、家計の財布が緩み、内需を底上げする-。そんな論理を押し出す「第三の道」は、その前提になる財源確保につまずけば、単なる大増税路線へと化けかねない。

 だからこそ、エコノミストには「菅首相の経済運営の焦点は消費税にある」(第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト)との見方がすでに定着している。その消費税率の引き上げを念頭に置いた上で、菅政権の政策のかじ取りに対する注文は多い。

 「経済のパイが大きくならないと、成長の持続性はない。増税が先行すれば、家計は所得を貯蓄に回すので逆に景気を冷やす」。日本総研の山田久主席研究員はこう警告し、「まずは1、2年は新興国の需要を取り込んで日本の所得を増やす政策をとらなくてはならない」と成長戦略の重要性を訴える。

 大和総研の熊谷亮丸シニアエコノミストも「規制緩和などを並行して進めなければ、いずれは行き詰まってしまう」と「第二の道」との融和を求めている。

 また、「第三の道」の議論につきまとう市場メカニズムへの嫌悪と増税路線は、日本経済の競争力をむしばむ「大きな政府」に流れていく恐れを常に内在している。このため、「官がコントロールするなら、かつての護送船団時代と同じ。結局、『第一の道』に逆戻りしてしまうのではないか」(上野氏)と危ぶむ見方もでている。

URL:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100608/mca1006082005043-n1.htm



画像新成長戦略は日本経済を蘇らせるか?~第一+第二=第三にはならない~ 2010/06/22号

エコノミストの眼

1.第三の道の模索

菅内閣は6月18日、「新成長戦略」を閣議決定した。これは昨年12月に当時の鳩山内閣で菅総理が、国家戦略担当大臣・副総理として取りまとめた「新成長戦略(基本方針)」を具体化したものである。菅総理は、この新成長戦略と財政赤字縮小の姿勢を示す中期財政フレームを携えて、今後のサミット、G20に臨むことになる。
基本方針では、これまでの経済政策が採用してきた、公共事業中心の経済政策という第一の道、行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の経済政策という第二の道、このいずれでもない第三の道を目指すとされていた。建設国債の発行による公共事業の増加や赤字国債の発行による減税や給付金は、景気浮揚効果はあるが、財政赤字による政府債務の累積を招いており、持続性の問題があることは明らかだ。こうした第一の道の限界が意識されたからこそ、規制緩和や民営化による生産性向上という第二の道の考え方が出てきたわけだ。第二の道による成長戦略で一時は日本経済は立ち直ったかに見えたが、リーマンショックのような海外経済の落ち込みに対して脆弱だという内需の弱さや格差の拡大や雇用の不安定化という問題が目立つようになっている。第三の道が模索されるのは、当然の流れである。

2.第一+第二=第三にはならない

新成長戦略は、「生産性の向上は重要であるが、同時に需要や雇用の拡大がより一層重要である」と述べているが、果たして第三の道を提示するという課題に応えているだろうか?残念ながら、新成長戦略から菅総理の考えている第三の道がいったいどのようなものなのか、明確な考え方を読み取ることは難しい。
新成長戦略が述べているように、社会保障には雇用創出を通じて成長をもたらす分野が数多く含まれており、社会保障の充実が雇用創出を通じ、同時に成長をもたらすことが可能である。菅総理は、増税しても使い道を誤まらなければ経済成長に役立つと言っているが、これが負担を増やしても子供手当てなどの社会保障を増やせばGDPが増えるという意味なら、それは国民負担の増大を招く第一の道と同じだ。
新成長戦略が掲げる「21の国家戦略プロジェクト」は供給面の対応がかなり具体的で詳しいのに対して、内需の拡大策は第一の道型の事業を除けば具体策に欠ける。需要面の対策の中でも、急拡大するアジアの需要の取り込みなど、規制緩和や生産性の向上による外需拡大という、第二の道と同じ考え方も随所に見られる。
新成長戦略は、第三の道を模索したものと言いながら、残念ながら、第一の道と第二の道の継ぎ接ぎの様相を示していると言わざるを得ない。1+2=3という単純な足し算はここでは成立せず、第一の道に第二の道を加えても第三の道にはならない。今回の新成長戦略のような、網羅的な政策リストではなく、第三の道による経済成長の姿を具体的に示す必要がある。筆者は、第三の道の一つの候補は、これまでの生産優先の考え方を捨てて、消費優先へと経済政策の考え方を大きく転換することだと考えているが、それについてはまた別の機会に詳しく述べたい。

3.問われる政治的リーダーシップ

さて、新成長戦略(基本方針)では、過去10 年間だけでも10 本を越える戦略が世に送り出されながら日本経済が低迷を続けていることについて、その原因は「失敗の本質は何か。それは政治のリーダーシップ、実行力の欠如だ」と喝破している。「21の国家プロジェクト」には「幼保一体化」が18番目の項目として登場するが、これこそ、それぞれの団体、関係者、所管省庁のしがらみを押し切る政治的なリーダーシップが問われる課題だ。鳩山内閣では、普天間基地問題など、政治的なリーダーシップの問題が大きかったが、菅内閣がこの問題を克服できるのか、試金石となるテーマと言えるだろう。

URL:http://www.nli-research.co.jp/report/econo_eye/2010/nn100622.html



画像〔情報BOX〕新成長戦略における「7つの成長分野」と「21の国家戦略プロジェクト」2010年 06月 18日 10:26

 [東京 18日 ロイター] 政府は18日午前の閣議で新成長戦略を決定した。菅直人首相が提唱する「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を実現するため、グリーン・イノベーションやライフ・イノベーション、アジア経済などを7つの戦略分野に位置づけ、それぞれの具体策から経済成長に特に貢献が高い21の施策を「21世紀の日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト」として強力に推進する。7つの戦略分野の目標と21の国家戦略プロジェクトの内容は以下のとおり。


1.グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略

 ○2020年までの目標

  ・50兆円超の環境関連新規市場

  ・140万人の環境分野の新規雇用

  ・日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とすることを目標

・木材自給率50%以上

 ○国家戦略プロジェクト

  1)「固定価格買取制度」の導入などによる再生可能エネルギーの急拡大

  2)再生エネルギーや電気自動車など関連予算を集中する「環境未来都市」を創設

  3)森林・林業再生プラン


2.ライフ・イノベーションによる健康大国戦略

 ○2020年までの目標

  ・医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出

  ・新規市場約50兆円、新規雇用284万人

 ○国家戦略プロジェクト

  4)医療の実用化促進のための医療機関の選定制度など

  5)国際医療交流(外国人患者の受け入れ)


3.アジア経済戦略

 ○2020年までの目標

  ・アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築

  ・アジア成長を取り込むための国内改革の推進、ヒト・モノ・カネの流れ倍増(外国人学生受け入れ30万人、外資系企業雇用倍増200万人、アジアにおけるコンテンツ収入1兆円)

  ・「アジアの所得倍増」を通じた成長機会の拡大

 ○国家プロジェクト

  6)パッケージ型インフラ海外展開

  7)法人実効税率引き下げと外資系企業のアジア拠点化推進など

  8)グローバル人材の育成と高度人材の受け入れ拡大

  9)知的財産・標準化戦略とクール・ジャパンの海外展開

  10)アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略


4.観光立国・地域活性化戦略

 ○2020年までの主な目標

  ・訪日外国人を2020年初めまでに2500万人、将来的には3000万人

  ・2500万人による経済波及効果約10兆円、新規雇用56万人

  ・大都市圏の空港、港湾、道路などのインフラの戦略的重点投資

  ・食料自給率50%、木材自給率50%以上

  ・農林水産物・食品の輸出額を2.5倍の1兆円(2017年まで)

  ・中古住宅流通市場・リフォーム市場の規模倍増

  ・耐震性が不十分な住宅割合を5%に  

 ○国家プロジェクト

  11)「総合特区制度」の創設と徹底したオープンスカイの推進など

  12)「訪日外国人3000万人プログラム」と「休暇取得の分散化」

  13)中古住宅・リフォーム市場の倍増など

  14)公共施設の民間開放と民間資金活用事業の推進


5.科学・技術立国戦略

 ○2020年までの目標

  ・独自分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数の増加

  ・理工系博士課程修了者の完全雇用を達成

  ・官民合わせた研究開発投資をGDP比4%以上

 ○国家プロジェクト

  15)「リーディング大学院」構想などによる国際競争力強化と人材育成

  16)情報通信技術の利活用の促進

  17)研究開発投資の充実


6.雇用・人材戦略

 ○2020年までの主な目標

  ・20─64歳の就業率80%、15歳以上の就業率57%、20─34歳の就業率77%

  ・若者フリーター数124万人、地域若者サポートステーション事業よるニートの進路決定者数10万人

  ・25─44歳までの女性就業率73%、男性の育児休業取得率13%

  ・60─64歳までの就業率63%

  ・障がい者の実雇用率1.8%、国における障がい者就労施設などへの発注拡大8億円

  ・最低賃金引き上げ、全国最低800円・全国平均1000円

 ○国家プロジェクト

  18)幼保一体化

  19)「キャリア段位」制度とパーソナル・サポート制度の導入

  20)新しい公共


7.金融

 ○2020年までの主な目標

  ・官民総動員による成長マネーの供給

  ・アジアのメインマーケット・メインプレーヤーとしての地位の確立

・外国企業による日本での資金調達促進のため英文による開示範囲の拡大

  ・国民が豊かさを享受できるような国民金融資産の運用拡大

 ○国家プロジェクト

  21)総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設を推進

URL:http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK042125820100618

この記事へのコメント

  • uncorrelated

    第三の道はどうやら、所得再配分を進めることで、消費性向の低い金持ちから、消費性向の高い貧乏人に所得を移転させ、国全体の消費を向上させて景気を拡大する作戦のようですよ。
    拡張的財政と大きな政府を主張するケインジアンでもなく、財政規律と小さな政府を主張する新古典派経済学でもないので、第三の道となるようです。
    2015年08月10日 16:48

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