「デジタル中継局などの施設整備を促進するために有効な税制支援を継続実施するために必要となるもの。改正が遅延すれば、デジタル化の仕上げに取り組んでいる全国の民放局を不安に陥れることになる」民放連 広瀬道貞会長
国会延長がなくなり、政局と選挙一辺倒になった感のある、カンガンス政権だけれど、その反面というか、怪我の功名となった部分もある。
それは、いくつかの「怪しげな」重要法案が次々と廃案に追い込まれていること。
その一つが、放送法改正案。
これは、「通信・放送分野におけるデジタル化の進展に対応した制度の整理・合理化を図るため、各種の放送形態に対する制度を統合し、無線局の免許及び放送業務の認定の制度を弾力化する等、放送、電波及び電気通信事業に係る制度について所要の改正を行う。」という名目のもとに、これまで分離していた、通信と放送を一体とした法体系で運用しようというもの。
これらの見直しは実に60年ぶりになる。
主な改正事項は次のとおり。
(1)放送法改正関係
①放送の参入に係る制度の整理・統合、弾力化
②マスメディア集中排除原則の基本の法定化
③放送における安全・信頼性の確保
④放送番組の種別の公表
⑤有料放送における提供条件の説明等
⑥再放送同意に係る紛争処理に関するあっせん・仲裁制度の整備
(2)電波法改正関係
①通信・放送両用無線局の制度の整備
②免許不要局の拡大
③携帯電話基地局の免許の包括化
(3)電気通信事業法改正関係
①紛争処理機能の拡充
②二種指定事業者に係る接続会計制度の創設
これらの中で、放送事業者への「アメとムチ」と言われているのが「マスメディア集中排除原則」の部分。これには、基本的な事項の法定化を巡る出資規制の緩和と、免許の取り消し権限の追加がされれている。
集中排除原則とは、放送をする機会をできるだけ多くの人が確保できるようにするために、一つの資本が複数の放送局を傘下に置くことを禁じる仕組みのことで、ある放送局の株主議決権を10%を超えて保有する企業や個人は、その放送対象エリア内の別の放送局の株主議決権を10%以下しか持てないと定められている。
今回の改正案では、この上限を3分の1未満として、経営基盤の弱いローカル局救済のため在京キー局などによる出資がしやすいようにという配慮がなされている。その一方、放送免許については、免許期間(5年間)内でも違反が発覚した場合には、総務相が免許を取り消すことができるようにしている。
まぁ、実に民主党らしいというかなんというか、予算(金)が欲しかったら言うことを聞け、とどこかの元幹事長のようなやり口。だから、辞任しようが何をしようが、これが民主党の体質だと警戒をした方がいい。
放送免許については、以前「新聞メディアへの公的支援論議 」で、免許更新云々も国民に審査して貰えばいいと言ったことがある。次に一部引用する。
公的支援といえば、聞こえは良いかもしれないけれど、要は税金で、新聞社を救ってくれということ。だから、新聞社が、税金を使うほどの存在なのか、ということは厳しく問われなくちゃいけない。
これは、テレビにも言えることなのだけれど、仮に、一万歩譲って、もしも、放送メディアに対して、税金による支援を行うというのであれば、その是非の審判は国民に委ねるべき。
つまり、何某かの新聞社なり放送局が、公的支援を希望するのであれば、すべからく選挙して当選しなければならない、ということ。
いっそのこと、4年なり2年なりごとの衆院選や参院選と一緒に、各放送局や新聞社の信任投票をすればいい。
最高裁判所の裁判官は総選挙のときに国民審査を受けることになっている。投票者の過半数が×印をつけられた裁判官は罷免される。
同じように、過半数が×印をつけた新聞社や放送局は公的支援は受けられないようにすればいい。さらには、7割とか8割以上×印が付くようなところは、公共の益になっていない、として、次の選挙まで、放送免許取り消しや新聞発行禁止とかにすればどうか。
そんなことをすれば、多くの社員が路頭に迷うなどと、彼らはきっと反論するだろうけれど、そのあなた方が常日頃叩いて、晒し者にしている政治家は、そういう職業であり、そうした世界に生きているのだと身に沁みて頂く方がいい。
マスコミは権力を監視する役目があるというのなら、その『「権力を監視する役目」という権力』を国民に監視してもらうべきだろう。
また、逆に、いい番組を作っているのに、お金が無い余りに、全国ネットで放送できないようなところでも、国民からの信任を得られれば、公的支援を受けられるようにすればいい。その方が、よほど公共の益になる。
そしてそうした信任を受けた局なり新聞社が、落選して免許を取り消されたところの社員を雇って再教育を施せば、有為な人材として生まれ変わらせることもできるだろう。日比野庵本館 2009.8.26 「新聞メディアへの公的支援論議」
今、テレビ局を始めとするメディアは赤字続きで倒産のピンチにあるらしい。民放連の調べでは、08年度の中間決算で、テレビ事業者127社のうち55社が赤字で、特に地方局はかなりヤバいらしい。
冒頭のコメントで触れたように、民放連会長でテレビ朝日顧問の広瀬道貞氏「放送法等の一部を改正する法律案」の、今国会での成立を求める声明を発表しているけれど、キー局から系列局への出資比率を引き上げて救済する腹積もりがあると言われている。
それが、今回の友愛殿辞任から、カンガンス政権と選挙対策による政局のゴタゴタで、空中分解しようとしている。
だけど、それが悪いとは一概には言えない。
強行採決は絶対いけない、とまでは言わないけれど、民主党政権になってからの法案審議時間が異常に短すぎるのがとても気になっている。
郵政民営化を見直す郵政改革法案の審議時間が6時間。地球温暖化対策基本法案が18時間。今回の放送法改正案だって、10時間しか審議していない。
60年ぶりの見直し法案の審議が10時間で全て終わるなんて、ちょっと考えられない。だけど、その10時間しか審議していない放送法改正案も強行採決で衆院を通過させている。
ここまでくると、麻生元総理が指摘しているように、「民主党は国家権力を私物化している」ように見えて仕方がない。
こうしてみると、野党自民党はきちんと仕事をしている。自民党政権時の野党であった民主党は「審議拒否」を繰り返すばかりで仕事を放棄していたけれど、自民党は審議に応じて、もっと審議必要だといっているところを民主党が無視して強行採決している構図になっているから。
今国会への閣法の新規提出は63本で、成立したのはこれまで35本。成立率は60%前後になるそうだけれど、これまで通常国会では9割ほどだった自民党政権当時を大幅に下回っている現状が何よりもそれを示している。
剛腕殿が居なくなっても、全体主義的傾向がちらちら見える民主党が政権についている限り、政局が不安定な方が、怪しげな法案が通らなくていい。
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放送法改正案 総務委員会で与党が採決強行 2010.5.25 20:36
衆院総務委員会は25日、通信と放送の融合に向けて関連法を再編する放送法改正案を与党の賛成多数で可決した。改正案は27日の衆院本会議で与党の賛成多数で可決される見通し。
与党は同委員会で次に郵政改革法案の審議入りさせる方針を固めており、野党側の審議継続要求を無視し、強行採決に踏み切った。与党側は郵政改革法案を来週中にも衆院通過させ、会期中に成立させる構え。この法案が終盤国会最大の争点となりそうだ。
放送法改正案をめぐっては、総務相の諮問機関「電波監理審議会」の調査・提言機能を強化する条文をめぐり、野党側が「番組内容への政治的な介入が懸念される」などとして削除を要求し、与党側は応じた。しかし、NHK経営委員会メンバーにNHK会長を加えるなど会長の権限強化については、削除を求める野党側との修正協議がまとまらなかった。
URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100525/plc1005252036025-n1.htm
「今国会での放送法等改正案の成立を求める」、民放連の広瀬会長が声明
日本民間放送連盟の会長である広瀬道貞氏(テレビ朝日顧問)は2010年6月7日、「放送法等の一部を改正する法律案」(第174回国会で審議中)の今国会での成立を求める声明を発表した。
広瀬氏は今回の改正案を、「2006年から続けられた官民による真摯(しんし)な議論を経て、『通信・放送の総合的な法体系』として法案化されたもの」と位置付けた。そのうえで、法案に盛り込まれた「マスメディア集中排除原則の緩和方針」や「電波の柔軟な活用などの諸施策について、「デジタル化政策と2008年からの世界不況による広告出稿減で二重の経営的打撃を受けた地方局において早期成立と施行が期待されている」として、早期成立の必要性をアピールした。
さらに放送法等改正案とともに審議中である「高度テレビジョン放送施設整備促進臨時措置法の一部を改正する法律案」についてもコメントした。「デジタル中継局などの施設整備を促進するために有効な税制支援を継続実施するために必要となるもの。改正が遅延すれば、デジタル化の仕上げに取り組んでいる全国の民放局を不安に陥れることになる」と指摘した。
(長谷川 博=日経ニューメディア) [2010/06/07]
URL:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100607/348944/
地方のTV局がバタバタ潰れる 2010年06月12日10時00分 / 提供:ゲンダイネット
●迷走するテレビ経営と報道姿勢
テレビ業界がマッ青になっている。首相交代による政局混乱の影響で、地方局の経営支援策などを盛り込んだ放送法等改正案が廃案の危機に直面しているためだ。日本民間放送連盟(民放連)は7日に「今国会での成立を強く求める」との声明を出した。鳩山前政権を追い詰め、政局を混乱させた張本人はテレビメディアのくせに勝手なものだ。とはいえ、この法案が通らないと、地方局は本当にヤバイらしい。
審議中の改正案は、在京キー局の地方局への出資上限を現在の「20%未満」から「3分の1未満」に緩和する規定や、地上デジタル放送の設備設置を進めるテレビ局の法人税や固定資産税を軽減する規定などが含まれている。仮に廃案になれば、すでに地デジ対策と広告収入減でフラフラの地方局の経営は大ピンチだ。
「民放連の調べでは、08年度の中間決算で、テレビ事業者127社のうち55社が赤字。『放送設備を持つ不動産会社』と揶揄(やゆ)されている在京キー局はともかく、不況の影響をモロに受けている地方局は経営がかなり厳しい状況です」(放送ジャーナリスト)
改正法が成立すれば、キー局は系列局の出資比率を引き上げて救済するハラだった。その計算が完全に狂ったのである。
この法案は、鬼っ子のような改正案だ。
「改正案の中に電波監理審議会の権限強化が盛り込まれていたことに対し、テレビが『番組への政治介入』と噛み付く問題もありました。しかし、法案が通らないと困るという。テレビ業界は身勝手でいいかげんです」(総務省事情通)
民主党のある国会議員がこう言う。
「今年4月に党議連で『情報通信八策』というマニフェストを作成しました。その中に電波の有効利用のためのオークション制度が盛り込まれたのですが、テレビは自分たちの権益を侵すので大反対。この部分は一切報道されなかった。系列局が厳しいなら、キー局社員の給料を下げればいい。テレビ局はあまりにもご都合主義です」
テレビの迷走ぶりは目に余る。
(日刊ゲンダイ2010年6月9日掲載)
URL:http://news.livedoor.com/article/detail/4823207/
放送法改正案・問題点を探る:/上 通信との融合視野、表現の自由に懸念
衆院で今月中にも審議入りする放送法等改正案に対し、放送の自由への制約懸念が出ている。改正案は通信と放送の融合を目指し60年ぶりの大改正と言われるが、表現の自由や独立性などに関しての本質議論はほとんどなされないまま閣議決定された。2回に分けて同改正案の問題点について考える。【臺宏士、内藤陽】
■唐突な条文公表
今回の放送法改正案は、インターネットをはじめとするメディア環境の激変に対応するため、通信と放送の垣根を越えたサービス整備などを幅広く想定。総務省情報通信審議会が昨年8月に答申した「通信・放送の総合的な法体系の在り方」を下敷きに立法化が進められてきた。さらに、民主党が米連邦通信委員会(FCC)のような、政府から独立性の高い機関が放送・通信政策を担うことを志向していたり、NHKの経営委員会の権限が強いことを疑問視していたため、昨年9月の政権交代後、原口一博総務相が主導、意向を反映する形で、電波監理審議会(電監審)の権限強化やNHK会長の経営委員会参加の条項が追加された。
しかし、これら電監審の機能強化やNHK会長の経営委員会への参加規定などは昨年8月の答申にはなく、同法案の詳細な条文は今年3月5日の閣議決定後に初めて公表された。放送事業者に対しても十分な事前説明はなかったといい、ある民放関係者は「唐突感がある」と驚きを隠さない。
民放労連は先月23日、「放送法制定以来という全面的な大改正であるにもかかわらず、過程での議論がほとんど公開されなかったことに強い遺憾の意を表明する」との見解を発表した。また、同14日の自民党総務部会でも佐藤勉前総務相が「(放送法改正案に)余計なものが入ってきたという感じだ」と述べた。総務省は「閣議決定の前後2回、総務政策会議で議論した」(情報通信政策課)としている。
◇電監審の機能強化
■介入「隠れみの」?
電監審の機能強化のどこが問題なのか。
「大所高所に立って放送行政の在り方をチェックしていただくようにするものだ。個別の放送番組に介入させる意図も全くない」。先月27日の衆院本会議で、原口総務相はそう答弁した。
放送法はその目的について「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と明記している。ところが、改正案では電監審が諮問を受けることなく自ら調査審議し、総務相に建議できる権限を新設した。また、関係行政機関に対しても資料の提出や説明など必要な協力を求められるようにした。原口総務相は「マスメディアをチェックするものではない」と放送規制の意図がないことを繰り返した。
しかし、過去に総務相が権限行使する「隠れみの」として電監審が利用されたとされるケースは少なくない。最近では、放送事業者への行政指導を通じて関与を深めた菅義偉総務相(当時)が06年、NHKの短波ラジオ国際放送で北朝鮮による日本人拉致事件を重点的に取り上げるよう放送命令を出した問題がある。具体的な内容を盛り込んだ初めての命令だった。
これに対して、菅氏は電監審に諮問し「適当」との答申を得たことを正当な権限行使だと主張する根拠にした。また、菅氏は民放の番組捏造(ねつぞう)問題をきっかけに、07年、再発防止計画を提出させる権限を総務相に与える改正案を提出した。行政の番組内容への関与につながると批判されたが、電監審に諮問する手続きを設けることで「恣意(しい)的な発動の歯止めとなる」と説明していた。結局、与野党議員の反対にあって、この行政処分条項は削除された。
果たして今回の権限強化はどうなのか。先月14日の自民党総務部会では、ヒアリングを受けた城所賢一郎・民放連放送計画委員会特別小委員長(TBSテレビ副会長)は「民放連の中には不安視する向きもある」と述べた。また、早河洋・テレビ朝日社長も先月の会見で「放送番組への介入も起こり得るのに、大きな議論がなされずに法案として出てきた。BPO(放送倫理・番組向上機構)が機能していけば建議など必要ない」と批判した。これに対し、総務省情報通信政策課は「建議には法的拘束力はないが、放送行政のあり方についてまんべんなく意見を言ってもらう」と話す。
◇NHK会長に議決権
■07年には経営委強化
放送法等改正案がそのまま成立すれば、NHKの会長も、委員長の選任や会長本人の任免を除く議決権を持って経営委員会に参加できるようになる。元々1950年の放送法制定時は会長も委員会の一員だったが監督する機関と番組をつくる執行部の役割を明確に分けるため、59年除外された。以来、会長はじめ執行部は、経営委員会では提案議案の説明などのために出席する仕組みが定着した。
今回の変更理由について、原口総務相は衆院本会議で「経営委員会と執行部との関係が敵対的というか、いびつな形になっている(ため)」と説明した。
原口氏の念頭には08年に策定された経営計画を巡る対立があったと思われる。
当時の委員長は、古森重隆・富士フイルムホールディングス社長。安倍晋三首相(当時)の意向で委員長に就任し、「強い経営委員会」を目指した。その一つが受信料の値下げ問題だ。値下げ幅の明記に難色を示す執行部に対して、議決権を有する経営委員会は、事実上の10%の受信料値下げを決めた。また、経営委員会には07年の法改正で、経営委員から選任される監査委員会が役員の職務執行について監査し、不法行為を差し止められるなどの権限を与えられていた。こうした強化の背景には、海老沢勝二会長時代の04年、受信料の着服など不祥事が相次ぎ、経営委員会の監督権限の弱さが指摘されたことなどがある。
古森委員会時代の権限強化が今度は執行部との対立を深めた。福地茂雄・現会長は今年3月の国会で「経営と執行の完全分離がNHKのガバナンス(企業統治)にふさわしいのか疑問を持っていた」と述べた。
一方、先の自民党総務部会(先月14日)でもこの問題は取り上げられた。山口俊一衆院議員は「(会長権限が)強大すぎたと言って(経営)委員会を強化したかと思えば今度は弱すぎるという。制度をコロコロ変えるものではない」と批判した。また、3月の経営委員会では法案の立案過程への疑問も出た。弁護士である小林英明委員は「経営委員に意見を求めることなく政府の改正案が示されたことは残念だ」と述べた。
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◇放送法改正などをめぐる主な動き
《06年》
6月 総務相の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」が通信と放送の融合を進めるための融合法制を提言
11月 菅義偉総務相はNHKの短波ラジオ国際放送で、電波監理審議会の答申を受け北朝鮮による拉致問題を重点的に取り上げるよう放送命令を出す。個別事項での命令は国際放送の開始(52年)以来初めて
《07年》
1月 民放バラエティー番組による納豆にダイエット効果があるという捏造問題発覚
4月 捏造番組を流した放送局に行政処分できる放送法改正案、衆院に提出
6月 古森重隆・富士フイルムホールディングス社長がNHK経営委員長に就任
12月 行政処分条項は、自民・民主議員による共同修正で削除して改正放送法は成立
《08年》
4月 NHKが監査委員会設置
10月 NHK、受信料の10%還元を明記した経営計画を経営委員会の修正動議で議決
《09年》
8月 総務省・情報通信審議会が「通信・放送の総合的な法体系の在り方」を答申
《10年》
3月 政府が放送法等改正案を閣議決定
毎日新聞 2010年5月10日 東京朝刊
URL:http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:XSP1q7CvTBcJ:mainichi.jp/select/seiji/news/20100510ddm012010035000c.html+%E6%94%BE%E9%80%81%E6%B3%95%E7%AD%89%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%A1%88&cd=18&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
放送法改正案・問題点を探る:/下 総務相の権限強化、番組への規制懸念
放送法等改正案が11日、衆院総務委員会で審議入りした。同委では、本欄で前回(5月10日朝刊)指摘した電波監理審議会(電監審)の権限強化などについて、与野党から疑問の声が上がった。今回は総務相の権限強化の懸念について検証する。【臺宏士、内藤陽】
■与党からも疑問
放送法改正案の国会審議は冒頭から波乱含みだった。11日の衆院総務委員会は運営手法を巡り野党が反発、趣旨説明は自民党委員が欠席の中で行われた。13日に始まった本格審議では、権限が強化される電監審に関して質問が集中。原口一博総務相は「放送と通信が融合する中で、放送の自由を確保するための法改正だ」「個別の番組内容に介入することは一切ない。行政機関の長をしっかりとコントロールするためのものだ」などと防戦に追われた。
しかし、連立を組む社民党からも「放送行政のチェックが番組への介入となる心配がある」(重野安正委員)などと疑問が出された。
■極めて異例
「巧妙に放送に対する行政権限の拡充を図るものであり、極めて危険な法案だ。番組内容を理由とする直接的な業務停止命令など目に余る」。4月に東京都内で開かれた放送法の専門家らが集まった研究会。NHK出身で、メディア評論家の山本博史さんは今回の改正案について厳しく批判した。法案には実は、総務相の権限強化規定も盛り込まれている。
現行の電波法には、地上放送局に対して放送法違反などについて電波を送出する無線局(ハード)の運用を、総務相が3カ月以内の期間を定めて停止(停波)できる規定がある。
一方、番組(ソフト)の内容を理由に停波できるかは見解が分かれている。総務省は▽報道は事実をまげないですること▽政治的公平--などを定めた番組編集準則違反を根拠に停波できるとしているが、放送事業者側は、準則は倫理規定で除外されていると主張。これまで準則違反を理由とした停波処分の例はない。
これまではハードとソフト面を一体的に施設免許として交付されてきた。改正案は、通信と放送の融合を促す観点から原則として分離し、多額な投資を要するハードを持たなくても総務相から「認定」を受ければ番組を流せる仕組みとした。その結果、放送法自体に番組内容を理由として業務停止できる規定が新たに盛り込まれた。対象には衛星放送やケーブルテレビも含まれている。
既存の放送局は現行制度での申請ができるため運用上の大きな変更は当面なさそうだが、先進諸国では政府から独立した行政委員会が放送行政を担当しており、直接監督する総務相による番組内容規制の強化は極めて異例だ。
広瀬道貞民放連会長(テレビ朝日顧問)は今年3月の会見で、改正案について放送事業者の反発を踏まえ現行の免許制度も残した点を評価した上で、「総務省(相)が放送電波の停止を放送局に命じたりすることができることなど問題点もある」と懸念を表明した。
山本さんは「新たな業務停止規定が盛り込まれたとしても、現実に放送を止めることは難しいだろう。ただ、その時の政権に都合が悪い放送を流せば、学説にも邪魔されず、電波監理審議会への諮問という手続きも不要で、総務相による威迫が可能になる。現行制度が適用される地上放送局も影響を受けないわけがない」と指摘する。
■アメとムチ
一方、今回の放送法改正案で、放送事業者への「アメとムチ」と言われているのが「マスメディア集中排除原則」の基本的な事項の法定化を巡る出資規制の緩和と、免許の取り消し権限の追加だ。
集中排除原則とは、放送をする機会をできるだけ多くの人が確保できるようにするために、一つの資本が複数の放送局を傘下に置くことを禁じる仕組み。ある放送局の株主議決権を10%を超えて保有する企業や個人は、その放送対象エリア内の別の放送局の株主議決権を10%以下しか持てない。現在は総務省令の「放送局に係る表現の自由享有基準」で定められている。
今回の改正案ではこれを省令ではなく法律で定めるとともに上限を3分の1未満とした。出資の上限を緩和したのは、経営基盤の弱いローカル局救済のため在京キー局などによる出資がしやすい環境整備を図る狙いだ。しかし、緩和の一方で規制強化も用意されている。現行制度では、申請や再申請の際にこうした基準を超えていた場合は免許が与えられなかっただけだったが、改正案では免許期間(5年間)内でも違反が発覚した場合は、総務相が免許を取り消すことができるようにした。総務省情報通信政策課は「例えば、免許申請時に在京キー局がローカル局への出資率を低く抑え、免許の交付後に増やすなど形骸(けいがい)化させないよう順守の実効性を高めるためだ」と説明した。ある民放関係者は「法令違反を理由にした処分について、正面から反対するのは難しい」と困惑する。
先の山本さんは「一時的な違反も絶対に許されず、ずっと守らなければいけないルールなのかについては論議があるところだ。無線局の運用停止や業務の停止といった措置を取ることなく一足飛びに免許を取り消す仕方がいいのかどうかの議論が全く足りない」と指摘する。また、佐藤勉・前総務相(自民)は一連の放送法改正案に盛り込まれた総務相の権限強化について、「原口さんは『適切に運用する』と言うかもしれない。しかし、総務相が代わった後も果たして適切に運用できるのかは疑問だ。時の総務相によって恣意(しい)的に運用される余地を残すことになる」と懸念を示した。
URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100517ddm012010034000c.html
今国会での政府提出法案、成立6割 自民政権時を下回る 2010年6月12日0時8分
通常国会では会期の大幅延長がなくなり、多くの法案が成立しなくなった。政府提出法案(閣法)の成立率は、この10年の通常国会で最低となる見通し。民主党の拙劣な国会運営や、突然の首相交代に伴う混乱で、昨年の衆院選マニフェストにもとづく目玉法案もいくつも廃案となる。
今国会への閣法の新規提出は63本で、成立したのはこれまで35本。会期内にあと数本成立しそうだが、それでも成立率は60%前後だ。通常国会では9割ほどだった自民党政権当時を大幅に下回り、参院で与野党が逆転して初の通常国会で、様々な混乱があった2008年(79%)よりも低い。
民主党が与党として初めて臨むこの通常国会は、3月までは思惑通りだった。新年度予算は「戦後5番目に早い」(当時の鳩山由紀夫首相)24日に成立。子ども手当、高校無償化といったマニフェストの柱の政策を実現する法案も年度内に成立した。
だが、ここから重要法案をめぐる迷走が始まる。郵政改革法案は3月中旬に提出のはずが、閣内で民営化見直し方針をめぐる調整に手間取り、4月末に。官邸機能を強化する政治主導確立法案も、野党が反対する国会改革関連法案との並行審議に民主党の小沢一郎幹事長(当時)がこだわったため、審議入りが5月中旬にずれ込んだ。
「交通整理」もずさんだった。会期末まであと1カ月の5月中旬、郵政改革法案を扱う衆院総務委員会で、表現の自由との関係で野党が問題視する放送法改正案が先に審議入り。参院先議の地域主権改革推進法案も審議入りを待ち、同委員会では重要法案が団子状態になっていた。
追い込まれた民主党は5月中旬から、衆院の各委員会で野党の同意なく審議を打ち切る採決を連発した。また、与野党での法案作成が慣例の国会改革で与党案を単独で提出。野党は態度を硬化させ、国会は荒れる一方だった。
法案の優先順位で官邸と民主党の詰めの甘さが露呈するなか、とどめを刺したのが鳩山首相の辞意表明だった。
民主党代表選や組閣などで6月上旬の法案審議はストップ。また、参院選日程がずれることを嫌う民主党の参院側が会期の大幅延長に反対。参院へ送られた郵政改革法案などは審議時間が確保できず、慣例により廃案となる。
外国人地方選挙権付与や選択的夫婦別姓など、与党内でも意見が割れ、政権にとってやっかいな法案は閣議決定もできなかった。混乱は議員立法にも及び、選挙でのインターネット利用を解禁する法案は与野党で内容に合意しながらも、審議の場が整わなかった。
URL:http://www.asahi.com/politics/update/0611/TKY201006110544.html
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