再読に耐える文章とは何か(文章について 最終回)

 
3.読みやすい文章になっているか

記事を書いたあとは、声を出したりはしませんけれども、大抵音読をします。音読して、読みやすいように、語呂が良いように、心地よく響くように、などに注意して、文章を手直しします。

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ただ、最近は時間がとれず、あまり出来ていないのが正直なところです。

けれども、やはり、音読をすることで、より読みやすい文章になるのは確かなことだと思います。特に、堅いテーマや、専門用語が頻発するような記事ですと、音読して、語感の響きも考慮しておかないと、中々読みやすくならないような気がします。

因みに、次の記事は、音読して大分直した記憶があります。

人として生きるということ

というのも、記事の性格上、専門用語を使わなければならないケースが多かったからです。特に6章の「意識の受動性」などは、心理学用語やら、受動意識化説の説明もあり、何度も書き直しました。(それでもまだ堅い文章ですね。今読み直してみると…)

語感の響きのよい文章の最たるものは、おそらく、詩とか古典などになるのだと思いますけれども、優れた詩や古典が、何故、後世に語り継がれていくかといえば、その内容もさることながら、語感が良いあまり「何度も読み返される」からだと思うのですね。

音痴の歌など誰も聞きたがらないように、語感の響きが良くない文章も、やはり、読み返す気には中々ならないものだと思います。

仮に、同じ内容の文章が二つあったとして、片方は詩篇のように美しく、もう一方は汚い文体(そんな文体があるかどうかは知りませんけれども)だったとしたら、やはり前者の文章が語り継がれていくことになるだろうと思われます。なぜかというと、読んでいて心地がいいからです。

実は、万葉集や百人一首などの古典に類する文章には、人を癒す効果のある1/fゆらぎのリズムが含まれています。

これは、小林恒夫農学博士が、万葉集や百人一首の歌の文字を一文字づつ分解して、あいうえお順に番号を振り、それぞれの文字がどれ位の頻度で出現するかを解析した結果分かったことなのですけれども、これなどは、文章の語感が良いものが語り継がれ、残ってゆくひとつの証左だと思います。

この辺りについては、「文章の格調について考える」の記事で考察しています。



筆者は、この「何度も読み返される」ということを重視しています。なぜなら、何度も読み返されるということは、即ち「何度も読み返されるに足りうる」文章でなければならない、ということを意味するからです。

そして、何度も読み返されるに足りうる文章というのは、先に述べた語感の響きが良いことは勿論のこと、内容そのものについても、息の長い、時が経っても通用する普遍性を含んだものでなければなりません。でなければ、歴史の風雪に耐え、残ってゆくことは難しい。

つまり、ある文章が、賞味期限の長い情報を含んだものであるかどうかの一つの指標として、「何度も読み返されるに足りうるかどうか」があると思うのです。

筆者は、「情報」、ひいては「知」には性能がある、と考えています。それは、市場性、専門性、賞味期限の3つの軸で表され、それぞれの値がどれくらいあるかによって、その性能を測り得ることが可能だと思っています。

特に、政治経済などの時事評論に類する文章は、「時事」というだけあって、その時、その時のものが殆どで、賞味期限は決して長くはありません。それはそれで仕方ないことかもしれませんけれども、必然的に、書いては消えてゆく一過性の言論になってしまいがちです。

この知の性能、情報の性能については、「知の性能」、「情報の性能」というエントリーで考察しています。

筆者は、どちらかといえば、賞味期限の短い文章はあまり好みではありません。なぜなら、賞味期限の短い文章は「思考の土台」になることが難しいからです。賞味期限が短いから、足を乗せた途端に崩れてゆくのですね。

賞味期限の長い文章は、1年後も、3年後も、10年後も、その内容が生きていますから、思考の土台にすることが出来る。昔考えた内容であっても、その知の賞味期限が長ければ、それを土台にして新たな思索を起こすことが出来る。そう考えています。

ですから、読みやすい文章と一口に言っても、その奥は、実に深いものがあり、とことんまで突き詰めれば、古典に匹敵するところまで到達するのではないかと思っています。



4.さいごに

文章について、過去いくつかエントリーした記事を最後に紹介して結びといたします。

ブログの記事と知性について
知性の発揮について
文章の格調について考える
知の性能
情報の性能

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この記事へのコメント

  • mor*y*ma_*atu

    本お題とは間接的に関係するかな?
    最近気になっているブログといいますか、CDと言いますか、、、が御座います。
    和歌に秘められたポテンシャルが分かった様な気がします。

    ご参考までに、「心からの思いが伝わる」
              http://www.itokazuo.com/weblogs/?p=78

    母音物語
    「生命の音である母音に存在する倍音そして高周波異質の世界、異質のもの同士を和して溶け合わせる時の玉手箱として”現代”に送る日本文化和歌披講作品」

    参照URL:和歌・歌人 伊藤一夫公式ウェブサイト
    http://www.itokazuo.com/index.html
    2015年08月10日 16:48

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