沖ノ鳥島が持つ戦略的重要性

 
昨日のエントリーで、米中対立における軍事的行動を碁に見立ててみたのだけれど、それについて、ス内パー様より、興味深いコメントをいただいたので、補足エントリーしておきたい。

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まず、いただいたコメントを以下に引用する。(ス内パー様、コメントありがとうございます。)
ふーむ。昔の武将も碁石で策を練ったとか言いますが分かるような気がしますなー。

中国人の碁は基本的に地に辛いので次手はB5→C3(黒1のおかげで生きる目が大きい)から隅を荒らすでしょうねー。グアムの石を思考に入れると動き変わりますが。
自分が白で先番ならA12からC15K16くらいまで足早に打って拠点作る&黒大石を封じ込める作戦を取りたいところです。

逆に下策としては白側は直接黒の大石を取りに行こうとするH7とか(同じ取り行くならK8の方がわずかにまし。いずれにせよ二眼確保してる石を取りに行くのは無謀)
黒側はβ11(白4殺し。利益が小さすぎ一手パスに近い)あたりが下策ですかね。

(斜め上が噛んでる場合は上策だけでなく下策もある程度考えたほうがよいでしょうね)
ス内パー様は、黒の次手として、「B5→C3」、白は「A12からC15K16」とコメントされていますので、そこに石を打ったとして図にしたのが下記。

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この図では、黒の次手は黒7、黒9。白のそれを白6、白8、白10としている。

まず、黒の動きを見てみると、黒7、黒9というのは、近年、中国海軍の艦艇がこのエリアに出没していることと見事に合致している。このことは注目すべきかもしれない。

この図において、B3の位置に沖ノ鳥島があるのだけれど、4月10日に沖縄近海を通過した中国海軍の艦艇がその後に沖ノ鳥島を1周するように航行していたことがあった。これなんか位置的にも、黒7、黒9に打っていることに相当しないかとさえ思えてしまう。

中国海軍は度々、沖縄、宮古島近海を通過しているけれど、これは「リアリズムと防衛を学ぶ」殿によれば、台湾有事を念頭においた、アメリカ海軍の救援を通せんぼする戦略(「Anti-access(接近阻止)」又は、「領域拒否(area-denial)」のようだ。

確かに、この辺りの地を黒で荒らしてしまえば、白からみて、この領域からのC6への連絡は断たれてしまうので、そのとおりのように思われる。奇しくも、碁の観点からみた、ス内パー様の読みと実際の中国海軍の戦略はかなりの程度一致していると見ていいように思う。
※蛇足ながら、本図は通常の北を上に置いた地図ではなくて、意図的に右に90度回転させているのだけれど、これは2009.11.25の「ちょっと変わったアンケート」にて先入観を消す為のもの。これに対して、「リアリズムと防衛を学ぶ」殿の件の記事において、同じく90度回転させた地図にて解説されているのが偶然の一致とはいえ、面白い。

こうしてみると、実際の戦争はいざ知らず、「外交的アピール」若しくは「駆け引き」レベルでは、実際の軍事的行動が持つ戦略的意味と、碁を打つ場合のそれとは非常に似ているように思えてならない。

であれば、戦争以前の段階、駆け引きの段階でそれなりの布石を打っておかないと、気が付いた時には、国益を大きく損なうことに繋がる危険さえある。

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日本が、今後も白石を持つのだ、という国家戦略があるのなら、B3の沖ノ鳥島が持つ重要性をもっと認識してもいい。

なぜなら、B3に沖ノ鳥島があるということは、日本の判断で、此処に白石が打てるということを意味するから。

まぁ、沖ノ鳥島に軍事拠点は無理だとしても、島及び周辺で、何らかの経済活動を行うだけでも、B3に白石が打たれることになる。

2005年1月に、石原都知事が沖ノ鳥島周辺での経済活動の計画を宣言して、5月に沖ノ鳥島を視察して、周辺海域へシマアジの稚魚を放流しているけれど、こうしたちょっとした動きさえも重要な意味を持つことは、もっと知られてもいいように思われる。

筆者個人的には、この海域に、セミサブフロートによる大型滑走路か、海洋温度差発電プラントを設置するなどは有効だと考える。

さて、次に白の次手である白6、白8、白10についてだけれど、在ベトナムアメリカ大使館は、9日、横須賀基地配備のイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」をベトナム中部ダナンに送りこむことを発表している。

これは、位置的にみても丁度、白6の石を置いたことに相当すると見ていいだろう。ス内パー様の読みと実際の軍事行動が怖いくらいに一致している。

とすると、今後は、白8、白10に類する動きもあるのかもしれない。

ただ、気になる事があるとすれば、ス内パー様が指摘している、下策の打ち方。これはもう相手の喉元に切っ先を突きつける軍事行動になるから(距離が近すぎる)、一気に戦争突入への危険が高まると見る。ここまで一気に足を踏み込まないことを望む。
※ス内パー様、いただいたコメントで「斜め上が噛んでる場合…」とありますが、斜め上が具体的に何処を指しているのかよくわかりませんでした。地図上の斜め上なのか、予想の「斜め上」をいつも行く、「かの国」のことなのか、それとも別の何かなのか…

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画像沖縄通過の中国艦艇、その後に沖ノ鳥島近海へ 2010.4.20 01:30

今月10日に沖縄近海を通過した中国海軍の艦艇がその後、日本最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)近海に入り、同島を基点とする日本の排他的経済水域(EEZ)内で島を1周するように航行していたことが19日、わかった。複数の日米軍事関係筋が明らかにした。沖ノ鳥島は島ではなく、EEZの基点とならない「岩」だと主張している中国側による日本への示威行動とみられ、日本政府は中国艦艇の航行記録を慎重に調べている。

 中国艦艇は、東海艦隊(司令部・浙江省寧波)のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦2隻、フリゲート艦3隻、キロ級潜水艦2隻、補給艦1隻など計10隻で編成。10日に沖縄本島の南西約140キロの公海を東シナ海から太平洋に向けて通過した後、11日に沖縄南方海域で洋上補給を行うと、13日ごろに沖ノ鳥島周辺海域に到達した。

 防衛省関係者によると、現在も太平洋上で演習を継続しているという。

 8日には東シナ海で艦載ヘリが監視中の海上自衛隊の護衛艦の約90メートルまで接近している。

 中国軍の機関紙「解放軍報」によると、中国海軍は今回の行動を「近来まれにみる期間と規模の遠洋訓練」と位置づけている。航海中には、艦載ヘリの誘導で空母機動艦隊を攻撃する訓練や対艦ミサイルによる攻撃を電波妨害で防ぐ訓練などのほか、「世論戦、心理戦、法律戦の訓練」も行うという。

 中国は過去、国連海洋法条約で必要な日本への通告を行わずに沖ノ鳥島周辺のEEZ内の海洋調査を進めてきた。今回の行動も独自調査による海流データなどを通じて、同周辺海域で潜水艦を含む軍事行動が可能になったことを誇示するねらいがあるとみられる。

 また、艦艇が同周辺海域に進出したとされる13日には、米ワシントンで日中首脳会談が行われていた。鳩山政権の反応を探る意図もありそうだ。

 日本政府は、中国艦艇の航行について、11日までの情報は日中首脳会談後の13日午前に公表したが、その後のことは、中国政府への対応を含めて明らかにしていない。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100420/plc1004200131001-n1.htm



画像「沖ノ鳥島の戦略的意味」

 文明と技術の進展によって我々はようやく、この地球の構造や未知の経済的可能性について知れるようになってきた。海洋も含めて、その地下資源の開発もその所産の一つだ。そして領土はその可能性の開発推進のための有力な起点となる。

  国連の海洋法条約はそれを踏まえて作成された。しかしそのはるか以前からあちこちの局所でさまざまな国家の営みは行われてきている。沖ノ鳥島が、後発した国連の決めた条約の領土として該当しようがしまいが、我々の先祖はすでに昭和十四年からあの絶海の環礁に資金を投じ手を加え、将来の可能性のための措置を講じてきた。

 戦争中は発進基地としての水路を開き、戦後もまたそれを踏まえ将来の可能性の確保のために、昭和六十二年から三百億円もの国費を投じて岩礁の補強に努め、浅い礁湖を利用し打ち込む波を凌ぐために高い足に支えられた三階建ての住居も構築してきた。さらにその保全のための工事総額は五百五十億円に及び、そのうち百十億円を東京都が負担してもきた。

 その歴史的事実は後から出来た、大ざっぱな国連条約でどう否定され得るものではない。国には国の歴史があり、それを後発の国連がどう否定出来るものでもありはしまい。問題は折角あれだけの施設を作りながらその維持と活用を怠ってきた政治の継続性の欠如と鈍感さにある。

 私の東京知事としての今回の沖ノ鳥島行きをニューズウィークのある記者は中国への挑発を意図した政治的パフォーマンスだなどと書き立てているが、日本をさまざまな不法の言動で挑発し続けているのは中国の方ではないか。こうした手合いには今日の政治情勢におけるこの島の戦略的意味合いが分かっていないようだ。

 先般アメリカ政府内の知己の一人であるボルトン国務次官がその席を退く直前に来日した際、私は彼に西北太平洋の地図を示して、この島がいかなる位置に在り、いかなる地政学的意味を持つかを説明し彼は初めての認識を持った。

 この島と環礁はアメリカの戦略基地であるグアムと、グアムを凌ぐ重要な基地沖縄を直線で結ぶ中間点に在る。原子力空母を含めてアメリカの艦船が何らかの目的で日本周辺に向かって西進する最短の航路の上に在る沖ノ鳥島周辺の海域は、アメリカに対抗し西太平洋の覇権を狙う中国にとっても戦略的に重要なものだ。中国の調査船がこの水域を日本に無断で調査しまくっていた所以は、深い海溝の在る海域の海底資源の調査などではなしに、いつかの将来、西太平洋の覇権を巡ってアメリカとの衝突も辞さない中国の、潜水艦を中心にした戦略展開のためのものに他ならない。

 中国はロシアからの購入も含めて年ごとに潜水艦の保有量を増やしつづけている。アメリカ当局の推定では十年後その数は百三十隻となり、数の上ではアメリカの二十五隻をはるかに凌駕する。その時点でのミサイルを搭載したアメリカの潜水艦はわずかに七隻でしかない。これは日本にとっても看過出来ぬ事態で、冷戦時代アメリカの太平洋艦隊と協力しソヴィエト原潜の追跡監視に効果を上げた日本側にとって、さらに厄介な新しい事態に他ならない。

 私のやったことがあたかも中国を刺激、挑発することでのナショナリズムの高揚のようにいう筋もあるが、それは現今の中国の西太平洋における軍事的野心の実態を知らぬ者の能天気ないい分でしかない。あの浅い礁湖は開発すれば簡単に、US1のような無類の国産飛行艇の離着陸の水路たり得るし係留基地ともなる。あの島の領土としての確保、そのための島周辺における漁業を中心にした経済活動による水域の実効支配は、日米安保を踏まえた自衛のための我々の責任に繋がるものだ。

 仮に、数で勝る中国の潜水艦隊がピラニアのようにアメリカの空母を取り囲み撃沈したとすれば、一挙に五千四、五百という乗務員の生命が失われアメリカの世論は大きく規制され、政府の姿勢もぐらつくだろう。

 そしてあの島周辺の海は、調査による推定では豊穣な漁場たり得る。沖縄や八丈島で行っている種の漁礁は極めて有効だし、すでに国交省が予算づけした、日本人学者による、世界のパテントも獲得した、南の深海の海水と表面の海水との温度差を利用し、アンモニアを混合した溶液の短時間での気化熱による発電装置を島にもうければ、二千メートルの深海の底から汲み上げられた海水に含まれる豊かなプランクトンとミネラルは魚を呼び寄せる巨きな吸引力となり得る。これはおそらく世界で初めての漁業のための深海開発となるに違いない。

 小笠原に属する最先端の日本領土について東京都に出来るのは漁礁の造成と漁業活動限りのことで、発電を含めた開発と維持はあくまで国家の責任である。先般の会談で日本の先端技術を駆使しての開発の可能性について報告した際、総理も強い関心を示してくれた。国民の支持と期待があれば、いやその前に中国への経済進出にうつつをぬかしながらも、彼等の軍事的野心について、他ならぬこの我が身のために懸念する冷静な認識があれば、この試みは容易に遂行されるに違いない。そしてそれは、夜間には獣しか通らないような田舎の高速道路を作って増やすよりもはるかに有効な、国家民族の安全のための投資となるはずである。

 これほど将来を見越しての、有効で穏やかな自己主張はあるまいに。ことあるごとにいってきたが、まさに「天は自ら助くる者をのみ助く」である。

URL:http://www.sensenfukoku.net/mailmagazine/no36.html



画像米イージス艦も訪問 ベトナム中部で軍事交流  更新2010年08月09日 11:15米国東部時間

 在ベトナム米国大使館は9日、米海軍横須賀基地配備のイージス駆逐艦ジョン・S・マケインが10日からベトナム中部ダナンを訪問し、ベトナム側と交流を図ると発表した。両国の国交正常化15年を記念した行事としている。

 同大使館によると、訪問は米第7艦隊とベトナム海軍の軍事交流活動の一環。既にダナン沖合の南シナ海には8日、同基地配備の原子力空母ジョージ・ワシントンが到着。ベトナム側の政府、軍関係者らが同日、同空母を訪問し、空母打撃群を視察したもようだ。

 南シナ海では南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐり、中国とベトナムやフィリピンなどが対立。米国は南シナ海への関与強化を表明したばかりで、空母などの訪問は中国の反発を招く可能性がある。(共同)

URL:http://www.usfl.com/Daily/News/10/08/0809_018.asp?id=81319

この記事へのコメント

  • ス内パー

    エントリー採用ありがとう御座います。

    あー・・・「斜め上」は「かの国」を一応想定しています。

    将棋、囲碁のCOM対戦とかしてると初心者向けAIだと
    こういう「次に取り返されることを想定していない」「次に王手喰らうことを想定していない」悪手を打ってくることがままあるんですね。
    で、そういう悪手って対応誤ると最善手に変わってしまう(というか「妨害されなければ」最善手だからためらいなく打つ)ので
    積極的に読む必要はなくても可能性くらいは拾っといたほうがよかったりします。

    哨戒艇沈没事件とか斜め上が変な石置きかけて関係者総出で火消しに回った例もありますしねぇ・・・
    2015年08月10日 16:48
  • 日比野

    ス内パーさん。お返事ありがとうございます。

    なるほど、悪手もこちらの対応如何では最善手になってしまうのですね。
    それなら、相手が「予想の斜め上」なら尚のこと、やってくる可能性がありますね。
    それに今の政権がちゃんと対応できるか怪しいですし…
    2015年08月10日 16:48

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