昨日の「中国との喧嘩の仕方」エントリーにて、多くのコメントをいただきまして、ありがとうございます。今日は、そのお返事を兼ねて、補追エントリーさせていただきます。
このエントリーでは、「尖閣諸島は日本のパールハーバー発言の意味」と「小沢氏と田中真紀子氏を特使にする理由」の2つについて、取り上げてみたいと思います。
1.尖閣諸島は日本のパールハーバー発言の意味
先ず、いただいたコメントを次に引用します。
日比野庵さん。この記事は、結局この件を領土問題として論じているように読めます。
ところで「尖閣諸島は日本のパールハーバー」というのがまったくの意味不明です。「パールハーバーをめぐるいくつかの不幸な出来事」とか、それを「乗り越える」とか、「自由と平和」の「自由」というのもわからないですね。
「自由」とは、誰の、あるいは何の、誰からの、あるいは何からの自由なのでしょうか。「単純かもしれないアメリカ人」とは偏見ですか。
そもそも、今回の問題は、「領土問題」ではありませんね。中国人船長が公務執行妨害容疑で送検され、彼には外国人漁業規制法違反の容疑もあるということです。
私は、中国人にも中国政府にも、この件を領土問題として論じる日本人にも言いたい。この件は領土問題ではないのだと。せみまる様 2010/09/23 15:20
一連の私の記事をお読みいただければ、お分かりになるかと思いますけれども、私は本件を「領土問題、係争地扱い」にしてはいけない、「日中間に領土問題はない」という立場を貫くべき、というスタンスです。
領土問題にしたいのは中国のほうであって、日本はそれに安易にのってはいけない、と9/11の「威力偵察と実効支配と一国平和主義」、9/17の「中国の尖閣諸島係争地化戦略」のエントリーで既に述べています。
政府は「日中間に領土問題はない」と表明していますから、それは良いとしても、いくら日本がその積りでいても、中国はそうではない。せっせと「領土問題」にしようと宣伝活動をしています。
温家宝の発言といい、マスコミ等の扱いを見るに、いくら日本が「日中間に領土問題はない」と繰り返したところで、それだけで、国際的にそう認知してもらうのはそろそろ難しい段階に来ているのではないかと見ています。
このまま、日本が何も反論しないのであれば、尖閣諸島が係争地として確定し、領土問題として「国際的に」定着してしまう恐れがあります。
ですから、今のうちに、尖閣諸島は領土問題ではない、と釘を刺しておく必要があると考えます。
そこで、「尖閣諸島は日本のパールハーバー」の件になるのですけれども、本文中にもありますように、多分にアメリカ人を意識した発言です。
アメリカ人にとってパールハーバーといえば、勿論、奇襲攻撃を受けたいわばトラウマとなっている場所ですね。
ハワイはアメリカに併合された歴史を持っていますけれども、アメリカ人の意識としては、ハワイはアメリカ領土であることは疑いなく、「他国からいきなりハワイはこっちの領土だ、と言われたら、ふざけるな、という話になるでしょう、中国が日本に言っていることはそういうことなのですよ。」という意味を込めた発言だということです。
つまり、「日本にしてみれば、中国の言い分はバカバカしくて話にならない」というニュアンスをこめているというわけです。
そして、パールーハーバーという固有名詞を出したのは、日本が奇襲攻撃に遭うかもしれないというニュアンスも同時に含んでいますから、尖閣諸島は日米安保の発動対象になる、ということも含みにしています。
けれども、ややこしい事に、パールハーバーへの攻撃というのは、他ならぬ旧日本軍が行った行為ですから、安易にパールハーバーと言うと、「お前がやったんじゃないか」と反発を買う恐れがあります。この辺りに注意しなけばなりません。
その意味で「パールハーバーをめぐるいくつかの不幸な出来事」、「乗り越える」、「自由と平和」の文言を入れています。
「パールハーバーをめぐるいくつかの不幸な出来事」は旧日本軍による真珠湾攻撃の事を連想することになりますけれども、今現在は、それを「乗り越えて」日米同盟に至っているのだ、という意味の文章にしているわけです。
太平洋戦争についての日本の謝罪云々はとうに終わっていますので、「不幸な出来事」だけで通じると思います。
そして、「自由と平和」についてですけれども、アメリカは、戦後、自分達が日本に民主主義を与えたんだ、と思っているところがありますから、今の日本は、確かに「自由と平和」を旗印とする自由主義圏の仲間ですよ、アメリカと同じくそれを守りますよ、という宣言を入れておきました。
その意味では、わざわざ「自由と平和」などと、大袈裟な言い方をするのは、何々からの自由というよりは、アメリカに対して、はっきりと日本は自由主義圏側に属している、と示す意味合いを篭めたということです。
それに、アメリカは正義を標榜する国ですから、その行動に正義がなければ、支持を集めにくいところがあります。その意味でも「自由と平和を守る」というメッセージは伝わり易いと思うのです。
その上で、「アメリカの協力に感謝する」と述べることで、日米同盟の強化を確認する内容にしているわけです。
最後に、「単純かもしれないアメリカ人」についてですが、元ネタは、先日、小沢氏が発言して騒ぎになったフレーズを拝借しただけであって、別に他意はありませんし、私自身アメリカ人に偏見を持っているわけでもありません。
ただ、誤解を招く表現であったことは認めます。訂正して御詫び申し上げます。
2.小沢氏と田中真紀子氏を特使にする理由
まず、頂いたコメントを次に引用いたします。
>中国人船長を即時・無条件で釈放
もしかしたら、中国側はこれをまじめに落とし所に考えている可能性はないでしょうか。彼の国は一党独裁の人治社会なのは周知の通りです。司法ですら中国共産党の「指導」下にあります。それゆえ、司法の判断に政府が介入してそれを変更する、ということの重大さを認識していない可能性はあるのではないでしょうか?
>剛腕殿と田中真紀子氏
前者はともかく後者の必要性が理解できません。人治社会の中国に対して故田中角栄の遺産継承者という点を前面に押し出すためでしょうか?田中角栄と鄧小平の関係を田中真紀子が中共の要人の誰かと維持していれば効果はあるかもしれませんが、私は否定的です。
私は、田中真紀子氏は喋っていいこといけないことの(主として外交・安全保障の観点から)区別がつかないのではないか?、という評価をしています。911事件のとき、アメリカ政府の緊急避難の情報をマスコミに漏らしたり自分の持ってる情報の軽重がわかってない。交渉の席では逆に足を引っ張るのではないでしょうか。この点は父親も同じです。新潮45の7月号付録の田中角栄の演説CDの4トラック目16分あたりから聞いてみると判ります。本人は機密を故意に漏洩しているという意識がまったくありません。sdi様 2010/09/23 14:35
まず、本件の落とし所をどう考えるかという論点があるかと思います。
すなわち、無条件釈放にするのか、それとも、起訴した上で解放又は、その他手続きをとるのか、ということですね。
前者は政治判断ですし、後者は国内法に基づく手続きになりますけれども、日本はこの件に関しては、今のところ、後者の立場を取っています。
ただ、中国は、sdi様の仰るように、この後者の立場を理解していない可能性と、逆に「蒼き清浄なる海のために」様の記事にあるように、理解した上で、あえてやっている、という二つの可能性があります。
だとすると、日本としては、どちらに転んでも、対応できるようにしておく必要があると思います。
その為にはどうするか。
ひとつには、小沢氏のダークなキャラを利用することが考えられます。小沢氏のように「金に汚く、媚中の」政治家であれば、金にものをいわせて、時には、司法さえも捻じ曲げて、政治決着をつけてもおかしくない。少なくとも、日本人の大多数はそう思うでしょう。
ですから、逆に、小沢氏を悪者にして叩いておけば、おさまる部分もあるわけで、基本は、あくまでも司法に政治介入はできないとして、「あれは、小沢という暗黒の政治家がいたから、やれたんだ、彼以外にはとても出来る芸当ではないのだ。」と特例扱いに押し込むことができる可能性があるのではないかということです。
一番拙いのは、どんな政治家でも、どの政権でも、圧力さえ掛けてやれば、いくらでも司法は捻じ曲げられるのだ、と受け取られることであって、そうなってしまうと、今後、いくらでも同じ手で圧力をかけてくる可能性があります。これは中国のみならず、他国も同じ手段に出てくる危険も意味しています。
たとえ、今後、中国と会談なり、交渉なり出来たとしても、その成り行きによっては、船長を無条件釈放することになってしまう可能性もあるわけですから、そのリスクを考えると、あえてダークな政治家を前面に出すことによって、特殊ケースに押し込めるものなら、そうした方が得策ではないかと思っています。
その意味では、随分酷い言い方ではありますけれども、悪者にも「使い道」はある訳です。
ただ、小沢氏は、先に尖閣諸島は日本固有の領土である旨の発言をしていますから、中国側でも一定の警戒をしている可能性があるということと、小沢氏だけですと、本当に条件交渉になってしまって、必要以上の妥協を迫られる可能性も捨てきれません。湾岸戦争当時でしたか、100億ドルの戦費負担した例もありますから。ちょっと不安がある。
そこで、もう一人、田中真紀子氏も送りこんではどうかと思うのです。
田中真紀子氏をセットにつける理由は、大きく2つあって、ひとつは、日本から政治決着をつける意思がある、と中国にメッセージを送るということ。もうひとつは、中国側に振り上げた拳を降ろさせる口実を与えるということです。
まず、前者についてですけれども、田中真紀子氏を特使に立ててきたという時点で、中国は日本が政治決着をつけにきたと分かる筈ですから、交渉のテーブルについてくれる可能性がある。
現状を見るに、中国は、日本と会談する意思はなく、またその段階でもないと考えていると思います。なぜなら、日本の態度が一向に変わらないからです。いくら仙谷氏がハイレベルの協議をと言ったところで、無視されると思います。
会談したければ、それなりのものを整えよ、というのが中国の「メンツ」であって、それを考慮せずに、ただ会談したいとだけ言っていても駄目ではないかと思うのです。
次に、後者の「中国側に振り上げた拳を降ろさせる口実を与える」についてですけれども、これも田中真紀子氏の系譜そのものにそれが含まれています。
勿論、それは、田中角栄の娘ということですね。これは中国にとって、如何に自分が大人(たいじん)の国であり、大国である、ということを逆に日本から試されている、という意味も含んでいます。
どういうことかというと、「田中角栄の娘を特使として派遣する」のだから、日本の「メンツ」も考えるくらいの懐はあるよな、と迫っているわけです。
すなわち、「日中国交回復をした田中角栄の娘が来た、彼女を迎えておきながら、そのメンツを潰して返すのは、大人(たいじん)の国のすることではない。中国は偉大な大国であるのだから、彼女に免じて、『敢えて』ここは退いてあげることにした」という「中国国内向けの口実」をあげるというわけですね。
田中真紀子氏を派遣する際に、日本政府から、「中国は大人の国だから、それなりの対応を取って戴けるものと信じている。」とでも申し添えておけば、それで十分意図は伝わると思いますね。
温家宝が、あそこまで発言してしまったからには、もう退くに退けない状況です。単なる会談では、もう収まらない。たとえ、船長を略式起訴して、早期解放したとしても、おそらく退かないと思います。日本の国内法で処理されたという時点で、国内的にメンツが立たないからです。
であれば、田中角栄の娘という日中間の象徴である存在を特使にすることで、中国が振り上げた拳を降ろし易いようにしておく、というのも一つの手だと思うのです。
田中真紀子氏を眼の前にして、無碍にすることは、田中角栄の顔に泥を塗ることになる。そこまで中国の善意(?)に期待するのもどうかという問題はありますけれども、居ないよりはいたほうがいいのではないかと思っています。
ですから、田中真紀子氏を特使に立てるのは、田中角栄と鄧小平の関係の維持云々というよりは、田中角栄の遺産継承者という点を最大限に利用するという意味合いのほうが強いですね。
尤も、sdi様の御懸念のように、田中真紀子氏が要らぬことをペラペラと喋ってしまう可能性はありますから、充分に注意が必要なのですけれども、田中真紀子氏がいるといないとでは、交渉になる度合いが違うと思うのです。小沢氏とセットであれば、田中真紀子氏のペラペラも少しはコントロールされると見るのは、甘過ぎる見方なのかもしれませんけども。

この記事へのコメント
almanos
ちび・むぎ・みみ・はな
まあ何と言いましょうか.
ベトナム, フィリピン, インドネシア, 皆ため息を
ついているに違いない. 本当に頼りにならない国だと.
> 那覇地方検察庁「日中関係を考慮した」
地方検察庁が国際的政治判断を行なうのは違法.
白なまず
通りすがり
石原慎太郎氏の見立てによると、アメリカから「折れろ」という圧力があったのではとのこと。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100924/crm1009241858027-n1.htm
まったく同感です。
勝手に日本が問題をこじらせて、安保条約を盾に巻き込まれでもしたら、アメリカにとって迷惑この上ないんでしょう。
在日米軍は実は張り子の虎だったなんて、今ここでばらされるにはまだ時期が早過ぎるのでしょう。
アメリカが自分の身を切って、日本の領土を守るために(事実上の)代理戦争などするはずがないと思います。そんな気などさらさら無いでしょう。
アメリカからすれば、有事の際日本は憲法9条を盾に米軍の後方で補給に徹する、なんてこともあり得ると思っているのではないでしょうか。
そんなやつ守るために、強大な中国相手に戦争仕掛けるわけがありません。
グー
このところの日中間の問題の前背景と今後の展開についてですが、政権交代後早々の鳩山前総理とオバマ大統領間の「トラストミー」発言と翌日のひっくり返しつばはきかけ発言、その後の普天間迷走による日米関係の希薄化が今回のことの中国側の初動のきっかけの一部の様に見え、また今後の展開を考えると、その時のルーピー発言、その後のルーピー行動が日本にとってボディブローの様に効いてしまうのではないかと不安に思っております。日本以外の国ではいくら国内で支持率が下がろうとも、また不支持派であろうとも、自国のトップが他国から屈辱的な扱いを受けた場合には国民感情として快くは思っていない様に思います。クリントン国務長官は今回の尖閣諸島問題は日米安保条約の適用範囲と発言してくれた様ですが、同盟関係の順列は日韓が入れ代わってしまっている様ですし、自国の兵士の命を預かるトップが判断することでしょうし世論の向きもあろうかと思いますが、堅く見えていた日米関係は既に過去のものかも知れません・・・。無知の罪は重い。