レアアース戦争

 
中国がレアアースの輸出停止措置を、日本だけでなく欧米にも拡大したことが波紋を呼んでいる。

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9月26日に、中国がレアアース輸出規制を発表して以来、国際社会では輸出拡大や代替資源開発を求める声がわき上がっていて、米国もWTOに提訴する構えを見せている。

特に、欧米諸国は日本ほどレアアースの在庫を保有していないから、輸出停止は欧米各国の経済に深刻な打撃を与える可能性があると報道されている。

一部には、中国が「元高」など変革を迫る国際社会に対し、レアアースを外交カードにして揺さぶりを掛けているという観測もある。

レアアースとは、希土類元素(きどるいげんそ)のことで、スカンジウム 21Sc、イットリウム 39Y、ランタン 57La からルテチウム 71Lu までの17元素からなるグループのことで、発見された経緯や元素ごとに分離する際の状況によって、軽希土(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム)と中重希土(サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、イットリウム、他)に分類される。

レアアースは、1794年にフィンランドの学者J.Gadolinによって、1787年に発見されていた新しい鉱物中の、未知の元素の酸化物として発見された。その鉱物はスウェーデン産の希少鉱物であったことと、その酸化物が、融点が高くて還元されにくい酸化物であったため、“希な土(rare earth)”と名付けたことが、その語源とされている。

レアアースの各元素は、その科学的性質が非常に似ていて、高融点で熱伝導性が高いことや、通常の金属類より強い磁気を持つという特徴がある。

特に、ランタンからルテチウムまでの15元素については、反応性などの差も殆どなく、元素の周期表の一か所にそれらが納められてしまう形になる。

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従って、レアアースは、通常、鉱物中からは、常に一団となって発見され、しかも、科学的性質や反応性が似ているために、各々の元素の分離はもとより、分析することすら難しい。

現在、レアアースの各元素は様々な用途に使用されているけれど、最も注目されているのは、磁石としての使い道。

ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする、Nd-Fe-B磁石は、永久磁石の中では最も強力とされ、また同性能を持つ、代替材料も見つかっていないそうなのだけれど、これに、中重希土類である、ジスプロシウムやテルビウムを添加することで、Nd-Fe-B磁石の高温域での保磁力や磁束密度が高まるという。

日本において、この、Nd-Fe-B磁石を一番使うのは、パソコンなどのハードディスクで、磁気ヘッドの位置決めに用いるVCM(ボイスコイルモータ)磁気回路にレアアース磁石が使われているのだけれど、日本製のハードディスクのほぼ全てに、このレアアース磁石が使用される。

更に、レアアースは、ハイブリッド車のモータやエアコンの室外機の駆動素子等や、ガラス研磨剤・添加剤、触媒、蛍光体等と幅広く用いられていて、現在のハイテク産業にとっては無くてはならない物質となっている。

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世界のレアアース生産は、現在、その90%以上を中国が占めているのだけれど、その理由のひとつとして、他のレアアース鉱山がその生産量を急減させたことがあげられる。

1997年時点では、レアアース酸化物の供給量は、中国が53300トンで遭ったのに対して、アメリカが20000トンを産出していたのだけれど、アメリカの最大のレアアース鉱山であるMountainPass鉱山が環境問題等で、1998年に生産量を大きく減少させ、2002年には生産休止となっている。

ただ、中国の寡占状態を懸念して、今回の問題が起こる前から、中国以外の供給源を求める動きが世界で様々に行われており、オーストラリアのMt.WeldプロジェクトやカナダのHoidas Lakeプロジェクト、Thor Lakeプロジェクトがあり、アメリカのMountain Pass鉱山も、2009年9月に採掘再開を発表し、2012年にはフル生産をする見込み。

中国国内最大のレアアース鉱山は、内蒙古自治区にある包頭の白雲鄂博鉱山で、軽希土を中心に生産、現在世界で生産されるレアアースの約半分を供給している。

中国は元々、レアアースを国家戦略物資と位置付けていて、中国国内の内需優先と、輸出の高付加価値製品へシフトさせる為の政策を次々と打ち出していた。一覧にすると次のとおり。
2002年:外国企業や合弁企業(中国企業と海外企業)のレアアース産業への参入の禁止
2004年:輸出増値税還付制度撤廃(鉱石について撤廃)
2005年:輸出増値税還付制度撤廃(酸化物について撤廃)
2005年:海外から鉱石を中国に持ち込んで中間製品に加工して輸出する貿易の禁止
2006年:輸出税の増税と輸出許可枠の削減

このうち、輸出許可枠の削減については、中国は毎年のように行っており、今回の輸出許可枠の削減もそれに従ったものと思われるのだけれど、ここまでくると、はっきりとレアアースを外交カードとして使っていると言っていいだろう。

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今、問題となっているのは、先ほども述べた、ハードディスクやモータ等に使用される、Nd-Fe-B磁石の高温域での保磁力・磁束密度を高める、ジスプロシウムやテルビウムといった、中重希土類の生産および確保なのだけれど、その量が多く含有されているのは、現在は、中国の江西省、湖南省、広東省、福建省等で生産される花崗岩風化型鉱床だけ。
※花崗岩風化型鉱床とは、地表に露出した花崗岩が地表水等により風化され土壌を形成、その風化土壌中に含まれる粘土鉱物に希土類元素イオンが吸着されることにより生成した鉱床のこと。採掘しやすく値段が安い。

従って、新たな、レアアース鉱山開発が期待されているのは、中重希土に富む鉱床の開発。

これらについては、独立行政法人産業技術総合研究所が、日本国内のマンガン鉱石の分析によって、海底で噴出した玄武岩とその上に堆積した珪質岩に挟まれた、「層状マンガン鉱床」と呼ばれる鉱床に、中重希土類が大量に含まれている分析結果を発表している。

報告によれば、この鉱床の鉱石は赤鉄鉱を伴う鉄マンガン鉱石の組成を持っていて、これまで希土類元素鉱床開発時にしばしば問題となっていたトリウムやウラン等の放射性元素がほとんど含まていないという利点があるそうだ。

これらの鉄マンガン鉱石に含まれる希土類元素含有量、特に重希土類元素含有量は、中国の花崗岩風化型鉱床のそれよりも一桁高いというから、この層状マンガン鉱床が開発されると、その生産量にもよるけれど、中国産レアアースの戦略的価値は大きく減衰する。

日本では層状マンガン鉱石は既に終掘しているけれど、同様の鉱床は環太平洋地域や南アフリカ等世界各地に広く分布していて、今後の開発が期待されている。

日本も積極的に、層状マンガン鉱床の開発を進め、レアアースの中国依存から脱却していく必要があるだろう。

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画像レアアース、対欧米も輸出停止か=中国が措置拡大とNYタイムズ紙―米は調査へ 時事通信 10月20日(水)6時10分配信

 【ニューヨーク時事】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日、中国がレアアース(希土類)の輸出停止措置を、日本だけでなく欧米にも拡大したと報道した。中国、欧米間の緊張が高まるのは必至としている。
 同紙によると、18日朝から欧米向けの輸出が停止されたもよう。税関当局がレアアースの通関を港で止めているという。欧米諸国は日本ほどレアアースの在庫を保有しておらず、輸出停止は各国の経済に深刻な打撃を与える可能性がある。
 米通商代表部(USTR)の報道担当者は19日、「報道は承知しており、環境関連技術に関する中国政府の輸出政策への調査の一環として情報を収集していく」との見解を示した。
 米政府は先週末、同技術をめぐる中国の通商政策が世界貿易機関(WTO)ルール違反の可能性があるとして広範な調査を開始すると表明しており、この中で電気自動車(EV)などの部品に不可欠なレアアースの輸出制限についても調べる方針だ。 

URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101020-00000021-jij-int



画像米:Molycorp Minerals社、Mountain Passレアアース鉱山に再開の動き

 Molycorp Minerals社(本社:米CO州Greenwood Village)は8月11日、CA州南東部に位置するMountain Passレアアース鉱山の採掘再開について発表した。同鉱山の採掘は2002年を最後に休止しており、現在、貯鉱を処理してREO(レアアース酸化物)等を生産している。
 Molycorp Minerals社は採掘再開準備作業として、露天掘場の排水に12か月、その後、被覆土砂の除去作業に12か月を見込んでおり、フル生産は2012年を予定している。フル生産時には、粗鉱生産量1,000 t/日、REO年産量20千tになる見込みで、採掘再開に併せて今後3年間でプラント9年間処理能力を40万まで引き上げる。
 Molycorp Minerals社は、2012年までプラント操業を続けるために十分な貯鉱があり、また、採掘再開により十分な量の鉱石を確保した後は、2~3年毎に採掘を行うとしている。
 なお、同社は、2009年7月にArnold Magnetic Technologies社(本社:New York)とMountain Passでネオジム磁石等の永久磁石を製造するJV契約を締結している。
(2009. 9. 2 バンクーバー 村上尚義)

URL:http://www.jogmec.go.jp/mric_web/news_flash/09-35.html#15



画像2010年9月27日 14時06分 中国のレアアース輸出規制を各国が批判=中国以外での資源採掘の動き広がる―中国誌

26日、中国がレアアース輸出規制を発表して以来、国際社会では輸出拡大や代替資源開発を求める声がわき上がっている。米国も世界貿易機関(WTO)に提訴する意向を示しているという。
2010年9月26日、新華網によると、中国がレアアース輸出規制を発表して以来、国際社会では輸出拡大や代替資源開発を求める声がわき上がっている。米国も世界貿易機関(WTO)に提訴する意向を示しているという。雑誌・財経国家週刊は中国レアアース学会の林東魯(リン・ドンルー)事務局長、中国有色金属建設株式有限公司の王宏前(ワン・ホンチエン)総経理のインタビューを掲載した。

エコ製品に不可欠なレアアース。その輸出制限はエコ産業の発展にとって障害だと批判されている。こうした意見に対し、林事務局長はレアアースの輸出制限は、資源と環境の保護、世界のエコ産業の長期的な発展を見据えてのものだと話した。中国のレアアース資源は全世界のわずか30%に過ぎず、もし輸出制限をしなければ資源が枯渇し、世界のエコ産業に大きな打撃を与えるという。

輸出規制により外国企業がレアアースなどの資源関連で中国に進出するとの見方もある。輸出には量の制限があるが、中国国内に進出すれば外国企業でも制限を受けずに資源を獲得することができる。王総経理は中国のレアアース関連技術はすでにハイレベルに達しており、外国企業が進出し中国企業と競争したとしても、十分に立ち向かえるとの見方を示した。

国外でのレアアース採掘や代替資源の開発が進むのではとの懸念もあるが、王総経理は資源の価格は下がるかもしれないが、中国企業には影響はない、むしろ歓迎するとコメントした。林事務局長はレアアースといっても軽希土と重希土に分けられると分析。世界各地に分布する軽希土は中国産の需要が減少する可能性もあるが、重希土に関しては問題がないとの見通しを示した。しかし、他国での開発にともない、中国のレアアース精錬技術と技術者が流出される危険があると指摘した。また、他国のレアアース資源に中国が投資することで、資源占有率をさらに高めることも検討するべきだと提言した。(翻訳・編集/KT)

URL:http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20100927/Recordchina_20100927011.html

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > >マンガン鉱と言えば日本の太平洋海底にもあったような気
    > それについては、1年半ほど前に記事にしたことがあります。

    どうもありがとうございます. 昨年はいろんなところで
    話題になった記憶だけはありました.

    海洋開発は総合的な技術が必要とされお金がかかるのですが,
    昨年も「ちきゅう計画」が仕分け対象になったくらい,
    民主党政権が壁になっています.

    もう一つの壁は, 独立研究所の青山氏がいずこかに書かれて
    おられましたが, 大企業のおよび腰. 独自の資源開発によって,
    その資源を独占的に供給している国の御機嫌を損ねたくない
    と言う態度.

    まったく, 政府にしても大企業にしてもトップの自虐的な
    態度が目に余りますね.

    資源開発で小さな会社が頑張るのはトップが自虐に因われ
    ない有能な技術者だからなのでしょう.

    いずれにしても, あと5年も経てば企業のトップは若返ります.
    それまで日本が無事であれば嬉しいことです.
    2015年08月10日 16:47
  • almanos

    もう一つの可能性としては採掘、精錬技術の進歩で条件が変わる事でしょうか? 例えば、神戸製鋼が開発した低品位鉄鋼石から鉄を生産できる「ITmk3」の様な技術が。今までは高品位鉄鋼石でしか製鉄ができなかったのですが、この技術で条件が変わりつつある。
     日比野殿の記事が良くまとまっているおかげですぐに思い出せました。既存技術では引き合わないから開発していなかった鉱床が、採算が合う様になればどの程度の鉱床が採掘されるか? 結果、中国が利用したかった優位が崩れるか? 後は都市鉱山を以下に有効利用できる様にするか? といった所でしょうか?
     都市鉱山活用は例えば、使わなくなった携帯電話をまだ持ってる人が多いですからね。使用されている金やレアメタル等の量に応じて買い取ります。個人情報はきちんと守りますという商売にして回収を進めても良い筈なのですけど。今はタダでやってますから集まらないのかもしれません。
     資源を武器にする戦略は短期的な優位以外は得られない。なぜなら使われた側が必ず対抗手段を作り出す。そして、手段ができた後は安定供給が危うい資源はその分ライバルよりも売値も下がる。その手段が整うまでの
    2015年08月10日 16:47
  • 白なまず。

    昔は使い道が無かったレアアース、レアメタルは、20世紀の日本の発展には大いに役立って、モーターの他にビデオデッキの再生ヘッドや、HDDの磁気ヘッド(TMRヘッド)があり、その延長線上に半導体の中に磁気の要素を埋め込んだ次世代の半導体技術(Fe-RAM,M-RAMなど)ありますが、実用化しているのは日米の独占状態。所詮中国、勧告、その他の国々には使い道が分からない物質でしかない。しかし、ここに来て脱レアアース、脱レアメタルへの研究も加速しているようですね。日本人は人が捨てる物を何とか使って不思議な物を生み出してきたんですが、今後はそれすら使わない技術開発が日本を支えるでしょう。今後の科学技術の発展が楽しみです。
    (久々の科学技術関連の話題で楽しめました。なかなか是だけまとめた上で政治経済に絡める内容を見たこと無かったので、日比野さんナラではの内容で素晴らしかったです。)
    2015年08月10日 16:47
  • 白なまず

    ご存知だと思いますが、海底資源の研究で沖縄が注目されていて以下URLの動画「ちきゅうTV」などは楽しめると思いましたので、ご参考までに。

    http://www.youtube.com/results?search_query=%E3%81%A1%E3%81%8D%E3%82%85%E3%81%86TV&aq=f

    あえて、誤解をおそれずオカルト発言しますと、沖縄の熱水海底下生命圏近くに竜宮城は復活しているようです。日本の地政学的にも、地球の弥勒の世への移行の為にも沖縄近海のこの辺りは日本が守らない先がなくなります。
    2015年08月10日 16:47
  • 日比野

    ちび・むぎ・みみ・はな様。

    >マンガン鉱と言えば日本の太平洋海底にもあったような気が…
    それについては、1年半ほど前に記事にしたことがあります。

    http://kotobukibune.at.webry.info/200906/article_3.html

    御参考まで。
    2015年08月10日 16:47

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