石破無双


「公開するかしないかの基準は、公開しないことによって、何が守られますか、ということ・・・。それよりも、出さないことによって守られる公益というものがあって、だから出さないのだという説明をすべきなのではないですかと言っている」
石破茂 10/12 衆院予算委員会

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10月12日の衆院予算委員会での、自民党石破氏の質問が見事だったと一部で評判になっている。

具体的には、例の尖閣沖衝突事件のビデオの公開に関してのもので、そのやり取りについて、産経新聞の記者である阿比留瑠比氏のブログに詳しいけれど、次に引用する。
※実際のやり取りは、こちらの「12日予算委員会・午後 (石原、石破、河野氏)」を参照されたい。

石破氏は、まず、菅直人首相が所信表明演説で外交について「国民一人ひとりが自分の問題として捉え、国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開していかなければなりません」と主張した点を取り上げ、菅首相にお礼を言わせます。そして、その上で、

「憲法上、外交権は内閣に所属している」

ことを強調し、いい加減な反論を試みる菅首相の言葉を「内閣の職務に関する首相の解説はどんな憲法の本にも書いていない」と切って捨てます。さらに、返す刀で、仙谷由人官房長官に、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件と中国人船長の逮捕が重大な外交問題に発展するという認識があったかどうかを尋ね、こう言わせました。

「当然ながら、外交問題になるなと予測していた」

その上で、仙谷氏から、検察官の裁量に任せる「起訴便宜主義」の考え方のもとで、日中関係に配慮したという検察の判断を「諒(了)とした」というこれまでの主張を再確認させます。どうやら、これらの流れは石破氏の想定通りのことだったようで、ここで石破氏はこうたたみかけます。

「起訴便宜主義で検察官に裁量を与えているのはなぜか。起訴しない方が犯罪人の更正にとってよい場合がある。あるいは、訴追しなくても社会秩序が保たれる。この二つだ。今回は一体どうなのか」

そして、石破氏は今回の事例がいずれにも当て嵌まらないことを論証しました。さらに、中国人船長がすでに中国に帰っている上、日中間で犯罪人引き渡し条約が結ばれていないこと、刑事事件の第一審では必ず被告人が出廷しなければいけないがそれが無理なことを指摘し、こう意味づけました。

「処分保留にした時点でもう公判は開けないという決定を成したに等しい」

これに対しては、仙谷氏もいやいやこう率直に認めざるを得ませんでした。

「事実上、そういうことになるだろうと私も思う」

で、石破氏はこの点を確認した上で、政府・与党が渋っている衝突ビデオの公開に話を移します。仙谷氏たちが、これまでビデオを公開しない理由として裁判の証拠物件だと繰り返していた点の矛盾をついたのです。

「官房長官はいま、この先、船長を訴追し、公判が開かれる可能性はほぼないと思われる答弁をした。それなら、なぜ公開しないのか」

次に石破氏はロッキード事件当時の議事録を全部読んだと述べた上で、当時の法務省刑事局長、法相、内閣法制局長官が次のように国会で繰り返していた点を指摘します。検察にすべてを追わせることの無理を押さえた形です。

「検事には、検察には判断できない場合は当然あるだろう」

押しまくられた仙谷氏はまた、次のように認めてしまいます。

「検察当局が判断を、あるいは相談を持ちかけてきた場合は、相談に乗らなければならないと考えている」

ここまできたらもう、お決まりの「現場が適切に判断するだろう」という無責任な答弁は通用しません。さらに、石破氏が「公開するかしないかの基準は、公開しないことで何が守られますか、ということだ。出さないことによって守られる公益があって、だから出さないのだという説明をすべきだと言っている」と追及すると、とうとう仙谷氏はこう言っちゃいました。

「出さないなんて一言も言ったことはありません!」

仙谷氏はその後も、「国会に提示することはやぶさかではないが、時期がいつか、さらに進んで、どのような開示が行われるか考慮、配慮しなければいけない」などと四の五の言っていましたが、予算委はテレビ中継され、国民は見ていました。これで出さないなんてことは許されませんね。

国を憂い、われとわが身を甘やかすの記 「尖閣ビデオ公開問題・石破氏の追及と仙谷氏の答弁 」より引用


とまぁ、外堀がじわじわと埋める形で、着実に逃げ道を防ぐ見事な論旨展開で、仙谷氏から、「出さないなんて一言も言ったことはない」と言質を取った。

これで、ビデオ公開をしないと突っ張り続けることは難しくなったかもしれない。



喜ぶべきなのかどうなのか分からないけれど、自民党の追及も、随分野党らしくなったと思わなくもない。まぁ、漢字テストをする何処かの党とは大違いで、こちらのほうが全然良いのは確かなこと。

筆者が何故、例の衝突ビデオの公開について取り上げるかというと、世界からみると、既に尖閣問題は完全に係争地化していて、しかも、日本の言い分が理解されるどころが、中国の言い分に耳を傾けているのではないかと思われる節があるから。

10月12日に、ベトナム・ハノイで開かれる拡大東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議に参加した北沢防衛相が、その前日の11日に、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、タイ、シンガポールの国防相とハノイ市内で相次ぎ会談して、尖閣諸島について「日本固有の領土だ。歴史的にも国際法上も疑いようがない」と説明したのだけれど、各国の国防相はそれに全面的な賛同を示すどころか、「国際法に基づき平和的に解決することを望む」などと、慎重な対応を求める発言が相次いだそうだ。

既に、日本の言い分に、耳を傾けて貰えていない。

まぁ、それはそうだろう。

ASEAN各国からみれば、日本の主張に賛同して、中国から報復を受けるようなことはしなくない。

ASEANの本心としては、「今回の尖閣沖衝突事件で、日本が中国の無法振りを咎め、きちんと対処するならば、兎も角、あっさりと膝を屈したではないか。尻尾を巻いて逃げたのは貴方の方だ。だから日本がちゃんと私達を守ってくれるなら賛意を示さなくもないけれど、そうではなかったではないか。」

こういう風に思っているいるのではないかと思う。

要するに、日本の価値観、世界観が問われてる。

中国の無理を通させて、道理を引っ込めた日本。これからも、中国の無理を唯々諾々と受けるのか。そうしたことを見られている。

それに対して、ノーベル平和賞を贈ったノルウェーは筋を通した。政治介入などしなかった。ノーベル平和賞の授与決定後、ノルウェーは、中国から会談をキャンセルされたりしているようだけれど、平然としている。

政治判断をするときに、よく「大局から判断」というフレーズを使うことがあるけれど、少なくとも日本にとって、今回の事件とその後の展開を、本当に大局からみたら、どう判断するべきなのか。

経済的及び何らかの損失を被っても、正義を貫くのか。それとも、金に誘惑されて、正義を捻じ曲げるのか。

大局からみたら、法の支配。民主主義を守るのかどうかの選択を迫られているのではないのか。

はっきり言って、中国は民主主義とは明らかに異なる一党独裁国家。その一党独裁国家が民主国家を否定しようと挑戦してきている。そういう見方もあるのではないのか。

筋を通さない姿勢、正しいと思うことを主張しない姿勢こそが、何を言っても信頼されなくなる原因。

今後、日本がビデオを公開することになったとして、中国から経済制裁措置や何か受けて、経済的損失を受けたとしても、筋を通すのか。正しさを主張するのか。

そういう意味での「大局的判断」があってもいい。


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画像首相答弁要旨=衆院予算委

 12日に開かれた衆院予算委員会での菅直人首相らの答弁要旨は次の通り。

 【2010年度補正予算案】
 城島光力氏(民主=神奈川10区) 重要政策課題に取り組んでいく考えを。
 首相 野党の皆さんにも真正面から論争の場に参加してもらいたい。批判は批判で大いにやっていただいて結構だ。(補正予算案は)単に目先の景気対策という考え方ではなくて、次の成長路線につながっていく。この国会で成立させて、来年1月から実行できるようにぜひお願いしたい。

 【中国漁船衝突事件】
 山口壮氏(民主=兵庫12区) 中国の振る舞いをどうとらえたか。
 首相 中国が経済的に大きくなりつつあるというのはしっかり認識しないといけない。それだけに国際的なルールをしっかり踏まえて行動してほしい。欧米だけではなく、アジアにもそういうふうに思っている国が多い。日中は戦略的互恵関係という形で、アジアの平和や安定にもつながるような関係として発展していくことを双方が努力しなければならない。

 【村木氏無罪】
 川内博史氏(民主=鹿児島1区) 厚生労働省元局長の村木厚子内閣府政策統括官の無罪が確定した郵便料金不正事件について、えん罪であると認めるか。
 西川克行法務省刑事局長 結果として無実の人を起訴した場合も(えん罪に)含まれるということであれば、村木さんの事件はこれに当たる。
 仙谷由人官房長官 自分の40数年の法律家としての経験から言うと、(最高検で検証中の)現時点でも、極めてえん罪のにおいの濃い事件だったと言える。

 【小沢氏の証人喚問】
 石原伸晃氏(自民=東京8区) 民主党の小沢一郎元代表を国会で証人喚問し、(政治とカネの問題を)徹底的に究明すべきだ。
 首相 正式な提案があれば、幹事長や国会対策委員会で本人の意向も確認の上、どういう形で説明の場を設けるのか、対応を協議したい。

 【経済対策】
 石原氏 経済対策について首相の決意を聞かせてほしい。子ども手当、高速道路の無料化、農家の戸別所得補償をやめる決意はあるか。
 首相 09年の衆院選マニフェスト(政権公約)実現のために誠心誠意努力をする。どうしても実現できないものは、その理由を国民にしっかり説明していく。(景気、成長、財政の健全化などの課題は)どの党が(政権を)取ろうとも、どなたが首相になろうとも避けて通れないという認識は共通だと思う。熟議の中から合意を目指して野党にも努力をお願いしたい。

 【外国人の代表選への投票】
 石破茂氏(自民=鳥取1区) 民主党代表選は外国人も投票できる。
 首相 政権を担当することになって、(問題があるとの)ご指摘もいただいてるので、しっかり議論していきたい。

 【普天間問題】
 下地幹郎氏(国民新=沖縄1区) 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設には、(国の権限で海面の埋め立てができる)特別措置法をつくる以外ないが、地方分権の中でそこまで踏み込んで国ができるかとなるとそれも厳しい。
 首相 特措法という言葉も出たが、決して沖縄の皆さんの声を無視した形の強引なやり方をすることは念頭にまったくない。
 石破氏 沖縄を訪問する予定はないか。
 首相 基地負担の軽減につながることをやろうという提案を持って訪れることができればと(考えている)。

 【公務員制度改革】
 河野太郎氏(自民=神奈川15区) 野党との合意なしに国家公務員制度改革基本法改正はやらないと明言してほしい。
 首相 総合的、抜本的な公務員制度改革の具体像を検討している。次期通常国会に関連法案を提出することを検討している。(2010/10/12-19:58)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010101200835



画像北沢防衛相の「尖閣は日本の領土」に全面賛同なし 5カ国国防相 2010.10.12 00:09

◇政界地獄耳

 北沢俊美防衛相は11日、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、タイ、シンガポールの国防相と滞在先のハノイ市内で相次ぎ会談、尖閣諸島について「日本固有の領土だ。歴史的にも国際法上も疑いようがない」と説明した。しかし、全面的に賛同した国防相はなく、「国際法に基づき平和的に解決することを望む」(インドネシア)など慎重な対応を求める発言が相次いだ。

 北沢氏は各国との会談で、中国の活発な海洋進出に触れ「連携して対処することが重要だ。緊密に意見交換したい」と提案したが、いずれの国も「広い意味での連携」(同行筋)への賛意にとどまり、中国を名指しする発言はなかったという。

 南沙、西沙諸島の領有権を中国と争うベトナムのフン・クアン・タイン国防相は南シナ海情勢に一切言及しなかった。(共同)

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101012/plc1010120010000-n1.htm



画像ビデオの提出要求を議決=衆院予算委

 衆院予算委員会は13日夕、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のビデオ映像について、政府に提出を求めることを全会一致で議決した。ビデオの扱いについては今後、理事会で協議するが、政府・民主党は全面公開を見送る方針を固めている。(2010/10/13-17:38)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010101300717



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 自民党の脇雅史参院国対委員長は12日の記者会見で、中国漁船衝突事件の状況を撮影したビデオについて、自民党が委員長の参院国土交通委員会で政府に提出を要求することもあり得るとの考えを示した。「海上保安庁の所管である国交委で決議し提出してもらうこともあり得る。衆院でうやむやにするなら参院でそれなりに対応する」と述べた。

 ただ国土交通委員会は、ビデオ公開に慎重な公明党を入れれば野党で過半数。実現するかは見通せない。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101012/plc1010121720009-n1.htm

この記事へのコメント

  • almanos

    ま、あの年で左翼思想にかぶれている御仁達ですからねぇ。情熱は足りていても知性が足りていないのでしょう。チャーチルが言ったという言葉の元ネタであるディズレーリの「16歳で自由党員にあらざる者は、心を持たぬ。60歳で保守党員にあらざる者は、頭を持たぬ」にあるようにね。若さ故のあやまちに60越してもはまっている方々ですし。言質をとられてもビデオ公開は見苦しく逃れようとするでしょう。公明党は慎重になるでしょうが、彼らも団体票に無党派層の票を上乗せしないと難しくなっている。だから最終的には流れに乗る。ただ、今回の件で海保は相当頭にきているでしょうから、自ら流出を画策してもおかしくない。ファイル交換ソフト経由でビデオが流出して出たら最後、公開しない理由は無くなる。なぜ誤魔化したかという非難をかわす為に、公開以外の選択肢が無くなる。で、そこまで嫌がって長引かせた仙石氏の能力が疑われて色々危なくなるでしょう。空き管は誰も期待していませんしね。そして、小沢氏は動かない。無能より悪党がマシという状況をじっと待っているのでしょうね。民主党の終わりは思っていたよりも近いのかもしれません。
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 自民党の追及も、随分野党らしくなったと思わなくも
    > ない。

    産経新聞を見たら首相の代わりに官房長官ばかりが返答
    していたと言う. こんなことを許す野党がどこにいるの
    だろう. 石破氏は確かに自分の論理構築に関しては「旨い」
    のかもしれないが, 野党としての自民党の体制を構築する
    のに失敗している. ビデオに関する言質くらい, 無敵の
    官房長官の前には野に咲くタンポポ位の攻撃力しかない.
    自民党首脳のヘたれ具合がますます明らかになっている.
    幹事長は稲田朋美議員に交代です.

    > ASEAN各国からみれば、日本の主張に賛同して、
    > 中国から報復を受けるようなことはしなくない。

    日本の民主党の異常さがASEAN各国に分かってきたので
    北沢氏とまともに議論する気がないのであろう.
    2015年08月10日 16:47
  • グー

    まるで基礎学習からお勉強しなければならない生徒さん相手の講義ですね。
    2015年08月10日 16:47
  • opera

    「尖閣問題の係争地化」についてですが、この問題は正確に理解しておく必要があります。
     日比野さんは、中国は係争地化を狙っており、事実上すでに係争地化しているという判断のようですが、私はまだ係争地化はしていないと考えるべきではないかと思っています。
     これは、竹島や北方領土と比較するればよく分かります。
     竹島や北方領土は、日本側に充分なまたは相当程度の領有の根拠があるにも拘らず、実効支配を相手国に奪われている状態です。したがって、日本は領有の根拠を明示し、その返還を相手国及び国際社会に訴えているがゆえに、係争地化しているわけです。
     これに対して、尖閣諸島は未だ日本が実効支配しています。したがって、尖閣諸島を係争地化させないためには、その実効支配を中国に奪われないようにすること以外ありません。そうであるなら、日本側がやるべきことは簡単です。まず、国境・離島防衛、防諜・情報収集に対する国内法制や態勢の整備が必要(最終的には憲法改正)であり、また、中国に対する経済依存の縮小、そして日米安保体制の実質性の向上と特にインドやオーストラリア、ASEANといった海洋アジア諸国との提携の強化を粛々
    2015年08月10日 16:47

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