北朝鮮を締め上げる2つの戦略

 
北朝鮮の韓国砲撃に関して、アメリカ視点から考えてみたいと思います.

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28日に黄海で行われる、米韓合同演習に参加するため、アメリカ海軍のイージス艦「ステゼム」と「ラッセン」の2隻が、26日、横須賀を出港しました。

アメリカは、この演習に原子力空母「ジョージワシントン」とその艦隊を参加させることを発表してますけれども、この意味について考えてみます。

まず、黄海での米韓合同演習についてですけれども、アメリカの空母艦隊が演習する意味は大きいです。勿論、第一には、韓国が北朝鮮の砲撃を受けたからということになるのでしょうけれども、黄海といえば、北京にも近く、いわば中国の喉元にあたります。

ですから、黄海での米韓合同演習は、北朝鮮はもとより、中国に対しても、強烈な牽制になるのですね。

「ジョージワシントン」の作戦半径は600キロ、艦載機の作戦半径は1000キロだと言われています。

距離の話でいえば、韓国の仁川から中国の天津までは約800キロ、北京まで約940キロしかありませんから、アメリカ空母が黄海に陣取ると、北京までもアメリカ空母の作戦半径に入ってしまうということです。

更には、アメリカイージス艦が搭載しているトマホークミサイルですけれども、この射程は、約1600キロですから、北京も射程内に収めてしまいます。要するに、北京を攻撃しようと思えばいくらでもできてしまうというわけですね。

ですから、中国にとってみれば、黄海にアメリカ艦隊を入れるわけにはいかない。自身の安全保障に関わるからです。



「ジョージワシントン」は、今年の7月に、例の天安沈没事件を受けた、米韓軍事演習に参加していますけれども、その時は黄海ではなく、日本海側で行っています。

なぜかというと、中国が黄海での演習に強行に反対したからですね。

ところが、今回の米韓合同演習では、黄海で行います。中国は「中国の排他的経済水域内での軍事演習に反対する」と発表してはいますけれども、排他的経済水域内での演習は反対、と一歩後退しています。

それは、今回の北朝鮮の砲撃が、先の天安沈没事件のように誰がやったかはっきりしないものではなくて、明らかに、韓国領土に対する攻撃であり、実際に被害が出ているからです。この状況では、流石に中国とて、あからさまには北朝鮮を庇いにくいというわけですね。

ですから、今回の北朝鮮の砲撃を切っ掛けとして、米韓が黄海で合同演習するというのは、政治的には物凄く大きな意味を持っています。

そこで、アメリカ及び韓国側からみた、これからの戦略についてなのですけれども、北朝鮮にダメージを与えられるであろう戦略として、合同演習演習が終わっても「ジョージワシントン」を黄海上もしくは、黄海近辺に固定しておくことが考えられます。

それは何故か。

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まず、黄海にアメリカ空母がいることで、北朝鮮には、海からの物資が入らなくなります。

アメリカ軍にとってみれば、北朝鮮に向かう怪しい船があれば、片っ端から臨検すればよいのですから、事実上の海上封鎖と同じです。

では、陸路はどうかというと、これも難しいのですね。

それは、今回の砲撃を建前として、アメリカ軍および韓国軍が「おおっぴら」に警戒活動ができるからです。

偵察衛星からの監視によって、陸路、すなわち、中国経由で北朝鮮に運び込まれる物資があれば、それを公表し、中国、北朝鮮を牽制することができます。

要するに、黄海にアメリカ空母を浮かべておくだけで、北朝鮮に対する経済制裁が行われるというわけです。

その上で、更なるアメリカの戦略として、北朝鮮との外交交渉には一切乗らない、ということが考えられます。

それはなぜかというと、今回の北朝鮮の攻撃は、金正日の後継者とされた金正恩の実績作りだ、という見方がありますけれども、この見方が正しいとして、それに対抗するためには、彼に実績を作らせなければよいわけです。

では、金正恩に作らせたい実績とは何かというと、それは、韓国への攻撃、又は、核開発を止める見返りに何かを得るということですね。

それは、たとえば、アメリカとの二国間協議かもしれませんし、食糧援助をせしめることかもしれません。

それをもって、金正恩の実績とする。そうしたことを狙っているものと思われます。



けれども、そうしたことは外交交渉を行って始めて得られるものであって、外交交渉自体が行われなければ、見返りも何もないわけです。

要するに、北朝鮮の要求に一切応じない、交渉しないことで、金正恩に実績を上げさせない、という手があるということです。

いわば、豊臣秀吉の小田原城の水攻めのようなものですね。北朝鮮の狙いを逆手にとって締め上げる。アメリカはそれをやってくる可能性があります。

そうした場合、北朝鮮としては、実績を上げるためには、益々「過激な」挑発行為に訴えるしかありません。場合によっては、更なる攻撃やミサイル発射を行ってくる可能性があります。

ですから、韓国はこれから一時的ではあっても軍備を増強、拡大して、北朝鮮の二次攻撃に備えるだろうと思われます。

もしも、痺れを切らした北朝鮮が再度攻撃の動きを見せたとしたら、今度は大義名分がありますから、アメリカ軍が空爆に出る可能性があります。

けれども、これはオバマ大統領の決断に帰するところが大きく、今の段階では、まだなんとも言えないですね。

ともあれ、多少長期戦にはなりますけれども、「ジョージワシントン」を黄海に浮かべて、北朝鮮の要求にはしらんぷりする。この2つの戦略で、北朝鮮は窮地に追い込まれることになると思います。


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この記事へのコメント

  • sdi

    彼らの要求は「貴様らの要求を聞くつもりはない、でも俺たちには金をよこせ」ということですから、シカトするのが要求された当人(アメリカ)にとっては最良です。アメリカかずそれを続けると周辺諸国もそれ幸いとばかり追随するでしょう。そうなると、北朝鮮はさらなる緊張度上昇のための手を打つかこのまま周辺諸国から見向きもそれなくなる道を選ぶしかなくなるわけで、それはそのまま現体制の足元を揺さぶりますね。
    2015年08月10日 16:47
  • 田舎のダンディ

    北朝鮮の体制と言動は、中国の歓迎せざるところかも知れませんが、その存在は中国にとって都合のいいものである以上、あらゆる口実を使っても存続させるでしょう。中国が空母を保持し、日米と対峙する日こそ本当の有事です。アメリカが本当に必要になった時、いてくれる戦略を続けるか、いなくてもいい自前の戦略を取るか、その選択肢は二つしかありません。その瞬間では間に合わない長期の構想だから戦略なのです。
    しかし、戦略なき政権にとっては、出たとこ勝負の一方的譲歩のことを戦略互恵関係と定義しているようです。
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > けれども、これはオバマ大統領の決断に帰するところが
    > 大きく、今の段階では、まだなんとも言えないですね。

    忘れてならないのは韓国世論. 北からの工作を受け, 若い
    厭戦世代が騒ぎ出す可能性はどうだろうか. また, 北朝鮮
    が内乱に突入して崩壊する可能性に対する心構えはいかに.

    > ともあれ、多少長期戦にはなりますけれども、「ジョージ
    > ワシントン」を黄海に浮かべて、北朝鮮の要求にはしらん
    > ぷりする。

    支那の潜水艦の活躍次第かも.
    2015年08月10日 16:47
  • almanos

    問題は、北朝鮮には時間がない事。中国としてもいくら強硬派が庇いたくても、よりによって黄海にアメリカの空母を入れる理由を与えてしまった北朝鮮を庇えば我が身にも飛び火する危険がある。では、北が倒れる事を望むか? 日本は拉致被害者達が戻れば手打ちが出来る。中ロ韓米いずれも崩壊は望まない。でも、現状は困る。金一族を排除して北を存続させるのが北朝鮮以外にはベター。ただし、金一族には最悪の手。空母派遣で見事北は詰まってしまった。兵糧攻めで白旗を揚げるには城主の首を差し出さないとならない。それを避けるには破れかぶれで打って出るしかない。北が何処まで持つか? 兵隊が動けるうちに何とかしないといけなくなる。日本は、空き管は支持率をこれ以上下げたくないから北に日和れ無い。沖縄知事選の結果によっては一気に北の情勢が動くかもしれませんね。おそらく、金一族の首を差し出して核放棄する事で集団指導体制に移行し、緩やかに中国の属領となっていくのが一番穏やかな解決。内部抗争で崩壊したら中国軍には一番頭が痛い展開でしょう。何せ、すぐ側に米軍が控えた状態ですからね。
    2015年08月10日 16:47

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