ノーベル平和賞と経済的相互依存

 
今年のノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏は、依然釈放されていない。

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1.ノーベル平和賞授賞式というリトマス試験

12月10日に行われるノーベル平和賞授賞式のうち、メダルと賞金の授与部分が延期される可能性があると、18日にニューヨーク・タイムズが報じた。

その理由は、中国で服役中の劉暁波氏はもちろんのこと、中国当局が監視している、劉氏の家族も出席できないことがあるようだ。

ノーベル賞の授与は、原則、メダル、賞状と賞金の1000万クローネ(約1億4000万円)は、受賞者本人か親族などの代理人が受け取らなければならない仕組みとなっていて、ノーベル賞委員会は「授賞式では、ほかの付帯行事は予定通り行われるが、授賞そのものは無期限延期される見通しだ」と話しているそうだ。

それどころか、中国は、劉暁波氏は犯罪者で、ノーベル賞授与は中国への内政干渉だ、という内容の書簡を各国に送って、ノーベル平和賞授賞式典への出席を見合わせるよう圧力を掛けている。

その中には「劉暁波氏を支持する国には相応の結果があるだろう」との脅し文句があり、御丁寧にも、式典で劉氏支持の声明を出さないようクギを刺す文書もあったようだ。

ノーベル賞委員会は、オスロに大使館を置く36ヶ国に招待状を送っていて、15日の回答期限に対して、中国・ロシア・カザフスタン・イラク・モロッコ・キューバの6ヶ国が欠席を表明している。

反対に出席を表明しているのは、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツなど14ヶ国。そして、最終決定のため本国の指示を待っているとして、回答を先送りしているのが、インド・パキスタン・インドネシア・韓国など16ヶ国。

韓国は内々では出席する意向のようだけれど、出欠は公表しない方針だという。中国に気を使ってる。

そして、日本はどうなのかといえば、回答期限の15日を過ぎても、本省からの指示がなく返答できないとして、出欠を「保留」していたのだけれど、前原誠司外相が16日の記者会見で「ノーベル平和賞は大切な賞だ。大使が毎回出席している」と述べて、例年通り駐ノルウェー大使を出席させる意向を表明した。

民主党政権のことだから、柳腰外交とかなんとか言って欠席するかもしれないと恐れていたのだけれど、そうしなかったのは評価できる。誰がこの最終決定をしたのかは定かではないけれど、当の外務大臣が前原氏だということを考えると、前原氏が、中国から益々目の敵にされる可能性はあると思う。

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2.価値観で飯は食えない

さて、授賞式への欠席を発表、あるいは回答を先送りしている国々は、中国の強大な経済力を意識し、様子をうかがっていると、外信各社は分析しているようだけれど、それはそうだと思う。

特に、欠席を表明した中国以外の5ヶ国、すなわち、ロシア・カザフスタン・イラク・モロッコ・キューバについては、中国に逆らえない何かがあるか、ノーベル平和賞受賞式に参加するメリットと中国の御機嫌を取るメリットとを天秤にかけて、後者のメリットが勝るという判断が働いたものと推定される。

もっと深読みすれば、これらの国は表向きの外交関係とは別に、中国との何らかの繋がりや同盟的な何かがあると見ることだってできる。

その意味では、このノーベル平和賞授賞式に参加する、しないというのは、一種のリトマス試験紙の役割を果たしている部分があると思う。

それは、価値観と利益との、どちらを優先するかという意味においてのリトマス試験。

ただ、事はそう単純にはいかない。

確かに、ノーベル平和賞の授賞式に国として招待され、それに出席することは名誉なことだけれど、それで具体的に物質的な利益を貰う訳じゃない。自国から受賞者を出したとしても、メダルや賞金を受け取るのは受賞者本人であって、国ではない。

国が受け取るものは、ノーベルの理念を尊重し平和に貢献した人を支持する、という価値観の表明を世界に向けて出来ること。形なき理念を尊重する精神があるとアピールできること。

それを持って素晴らしいというのは簡単だけれど、実際にそれを行うのは難しい。特に国レベルとなれば、尚のことそう。

なぜなら、国家は国民の生命と財産の安全を守る義務があるから。言いかえれば、国民を食わせてやる算段をつけなくちゃいけない義務があるということ。

だから、仮に、ある国の国民が食べられるかどうかギリギリの瀬戸際にあったとして、そこに、金をやるから俺の言うことを聞けなんて言われたら、価値観なんて糞食らえだ、という選択だって当然あり得る。

価値観で飯は食えない。目の前に横たわるこの現実は忘れちゃいけない。

食うに困ったら、人間何をやるか分からない。阪神淡路大震災で、被災された方が救援物資を受け取るのを整然と並んで待っていたことがあったけれど、あれは奇跡レベルの例外であって、普通はスーパーや商店街なんかが略奪に遭って阿鼻叫喚になるもの。

だから、中国の圧力に負けて欠席する国々があったとして、それを下品だと批難しても何も変わらない。

それは、そう言っている自分の国が最貧国に落ちぶれてしまっても、同じ選択ができるのかどうかを問うてみれば良く分かる。

では、この中国の力の外交に対抗するためにはどうすればよいか。




3.経済的相互依存は抑止力になるか

もしも、対抗する方法があるとすれば、それは、中国が外交カードとして使う「経済力」そのものを無効化する方法になるのだろうと思う。つまり、中国の経済力に頼らなくてもよい国にするか、それを可能とする外交関係を構築する方法。

近年の中国の経済発展とその国際的発言力の増大については誰しも認めるところだけれど、それは中国の経済発展の恩恵に浴する国々が沢山あるからであって、もしも、そんな恩恵が無くなれば、気にしなくても良くなる。他人様に悪ささえしなければ、居ても居なくても別に困らない。

だから、これは、多分に理想に過ぎ、机上の空論であることは重々承知しているけれど、仮に、中国の顔色を伺う国々が、中国よりも経済発展して豊かになってしまえば、中国の顔色をいちいち気にする機会はぐんと減る。あとは、攻め込まれないように軍備を固めておけばいい。

経済的相互依存も度が過ぎると外交カードに使われる。

普通、経済的相互依存は、抑止力として働くものと考えがちではあるのだけれど、それは人権を尊重し、命の値段が高い国同士で通じる話。

たとえば、ある国と経済的相互依存関係を結んでいたとして、その国と関係が悪くなって、互いに経済制裁紛いの嫌がらせをし合ったとする。

普通であれば、こちらも痛みを味わうけど、あちらも苦しい筈だから、どこかで折り合うだろうと考えてしまうのだけれど、もしも、その国が、国民がいくら飢えようが、死のうがお構いなしの国だったとしたら、互いに死ぬまで制裁し合うか、こちらから先に折れるしか選択肢が無くなってしまう。

人命を無視する国相手には、経済的相互依存は抑止力にはならない。

だから、経済的相互依存はしてもいいけれど、その一方で、いつそれを切られてしまっても慌てないですむように、他国との相互依存関係を含めて、多方面にヘッジをかけておく用心深さはあっていいと思う。




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画像ノーベル平和賞メダル授与延期か 劉氏ら出られず2010年11月19日13時34分

【リスボン=望月洋嗣】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は18日、ノーベル賞委員会の話として、中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)氏の受賞が決まった12月のノーベル平和賞授賞式のうち、メダルと賞金の授与部分が延期される可能性があると報じた。中国で服役中の劉氏本人だけでなく、中国当局の監視のため家族も出席できないことが理由という。

 10日の授賞式には各国の駐オスロ大使が招待されている。中国政府は各国に欠席を求めており、36カ国が出席を伝えてきたが、なお16カ国が15日の締め切りを過ぎても回答を留保しているという。

URL:http://www.asahi.com/international/update/1119/TKY201011190279.html



画像ノーベル平和賞、出席するな…中国が各国に圧力

 【ロンドン=大内佐紀】12月10日にオスロで開かれる中国民主活動家・劉暁波氏(54)のノーベル平和賞授賞式典への出席を見合わせるよう、中国政府が各国に圧力をかけていることがわかった。

 AP通信が4日、伝えた。

 同通信によると、オスロ駐在のフィンランドなど複数の国の外交官が「彼は犯罪者で、ノーベル賞授与は中国への内政干渉だ」として出席を控えるよう求める公式書簡を中国大使館から受け取ったことを確認した。式典で劉氏支持の声明を出さないようクギを刺す文書もあった。中国政府は、北京駐在の外交団にも働きかけをしているという。ただ、ドイツなどは出席を明言するなど、働きかけが逆効果となる可能性がある。

 授賞式典には、ノルウェーの国王ハラルド5世や同国閣僚が出席する。駐オスロ各国大使ら約1000人が招待され、招待状も発送済み。ノーベル賞委員会のルンデスタッド事務局長によれば、中国大使館にも招待状を送ったが、あらゆる郵便が開封されないまま返送されてきているという。

(2010年11月6日01時27分 読売新聞)

URL:http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20101105-OYT1T01140.htm



画像劉氏のノーベル平和賞授賞式 日本側出席へ 中国の要請に応じず 2010.11.16 19:28

劉暁波氏 前原誠司外相は16日の記者会見で、12月10日にノルウェーのオスロで開かれる中国の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式に関し、中国側が日本政府に出席しないよう要請していたことについて「ノーベル平和賞は大切な賞だ。(授賞式には)大使が毎回出席している」と述べ、例年通り駐ノルウェー大使を出席させる意向を表明した。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101116/plc1011161929018-n1.htm

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > だから、経済的相互依存はしてもいいけれど、その
    > 一方で、いつそれを切られてしまっても慌てないで
    > すむように、他国との相互依存関係を含めて、多方面に
    > ヘッジをかけておく用心深さはあっていいと思う。

    ベネチア共和国に学べ, と言うことですか.

    政治家が楽をする国は亡びる.
    政治家が国のために血を流す程の苦労をする国は生きる.

    民主党の大臣はどうもロボット猫ほどの語彙も知能も
    ないくせに好きなことしかしないから, 当然危ない.
    2015年08月10日 16:47

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