海上保安官の逮捕見送り

 
尖閣ビデオ流出事件で、警視庁と東京地検は、自分がやったと名乗り出た神戸海上保安部の海上保安官について逮捕を見送り、任意捜査を続けることを決定した。

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証拠隠滅や逃亡の恐れが少ないことと、保安官の証言から、ビデオ映像が海保内で広く閲覧可能だったことから、「秘密性」が薄れてきたことなどがその理由だという。

また、世論の大多数が、ビデオを流出させた海上保安官を支持していたことも、少なからず影響したものと思われる。実際、捜査当局の中からも世論を考慮して逮捕する必要はない、との声もあったようだ。

その世論の声についてなのだけれど、共同通信社が12、13日に全国の1千人に実施した電話意識調査では、実に88.4%が「尖閣ビデオを政府が公開すべきだ」と答えているし、映像についても81.1%が「秘密には当たらない」としている。

更には、映像の流出においてすら、83.2%が「よかった」と答えている。

ここまで、世論が公開を支持しているとなると、仮に逮捕するとしても、それ相応のしっかりした説明をしなければ、世論の納得は得られなかっただろう。

しかも、逮捕の名目が、国家公務員の守秘義務違反だから、件のビデオが機密になるという確固たる理由が必要になるから、単に、政府がそう決めたからという理由だけで押し切るのはちと苦しい。なぜなら、政府自身がなぜそうしたのかの説明を一切していないから。

元々、件のビデオは、事件が発生した9月7日午前の時点では、いつでも公開できるよう海保が準備を進めていたところ、官邸から映像の公開をやめるよう働きかけがあったといわれている。

だから、この官邸からのストップが事実であれば、ビデオを機密扱いにしたのは明らかに官邸であって、それを説明する責任は政府にある。

ところが、その政府は、なぜ尖閣ビデオを機密扱いにしたのかの理由を一切説明しようともしなければ、責任を取ろうともしない。

せめて、政府閣僚が先に自分から辞任でもしてくれれば、喧嘩両成敗的に、検察も逮捕にふみきることも出来たかもしれないけれど、現政権には、閣僚の辞任なんて全くその気がない。

結果的に、保安官を逮捕してしまうと、世論の非難は一気に検察に集まることになる。その時は、政府はきっと、中国漁船船長を釈放した時のように、検察の判断を尊重するとかなんとか言って、一切の責任を検察に押し付けるのは目に見えている。

検察が、そうなるのが嫌だと考えたのかどうかは分からないけれど、結果として逮捕は見送られた。



そんな中、毎日新聞政治部編集委員の古賀攻氏は、11月15日の毎日新聞の記事で、ビデオを非公開とする日中間の密約に触れ、中国に対する、外交的配慮の介在を隠すために、刑事訴訟法の世界に逃げ込んでいると指摘しているのだけど、その中に気になる箇所があった。

それは、次の部分。
…しかし、菅政権は真相を国民に説明することなく、刑事手続きを理由に一部の国会議員限定で不満のガス抜きを図った。44分間の映像はその姑息さを抉り出すようなタイミングでネットに登場した。
 機密扱いの映像流出は、捜査関係者が関与したと考えるのが自然だろう。みんなの党の渡辺喜美代表は「国家経営の内部崩壊が始まった」とコメントした。…

ここで、「機密扱いの映像流出は、『捜査関係者が関与した』と考えるのが自然」としているのだけれど、なぜここで唐突に「捜査関係者」が出てくるのか。

前後の文脈を読んでも、海保や検察の職員による内部告発の可能性に触れてはいても、「捜査関係者が関与した」証拠などなんにも記されていない。なのに何故か「捜査関係者が関与したと考えるのが自然」となっている。

前後がロジック的に繋がっておらず、この文だけ浮いている。

だから、もしかしたら、公に出来ない何らかの証拠を掴んでいて、それを暴露せんが為に、こんなところにするりと紛れ込ませたのではないか、とさえ疑ってしまう。

仮に、これが本当であれば、かなり重大なこと。検察による現政権への倒閣運動と取られてもおかしくない。

そして、考えたくはないことなのだけれど、先月末に、国際テロ対策に絡む公安資料が流出した件と、今回の尖閣ビデオ流出がリンクしているとしたら…

疑い出せばキリがないのことは重々承知している。だけど、こういう事態にまでしてしまった責任を政府は感じるべきだと思う。

空き菅殿が謳っている「国民全体で考える主体的で能動的な外交」とやらが本気なのであれば、国民の8割以上が、尖閣ビデオは秘密ではなく、政府が公開すべきだ、と意思表示をしていることに対して、何らかの回答をする必要がある。

万が一、この件に「捜査関係者」が絡んでいて、その目的が現政権への倒閣運動だとしたら、今の内閣の責任を取らない態度は、更なるリークを招くことになるだろう。

たとえば、未だ公開されていない、中国漁船船長の逮捕に絡むシーンの流出とか。

それは、断末魔の民主党に痛恨の一撃を与えることになる。


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画像【海保職員「流出」】逮捕の可否、先送り 2010.11.15 15:17

 沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事故をめぐる映像流出事件で、捜査当局は15日、流出を認めた神戸海上保安部の海上保安官(43)について、国家公務員法(守秘義務)違反容疑で逮捕すべきかどうかの判断を先送りすることを決めた。

 警視庁と東京地検は10日から12日まで3日間にわたり、保安官から任意で事情聴取。15日午前も聴取した。保安官は「自分が流出させた」と認め、記録媒体「USBメモリー」で持ち出し、神戸市内のインターネットカフェから投稿したとする説明をしている。

 これまでの捜査で、法務・検察当局は「職務上知ることのできた秘密を漏らしてはいけない」と定めた国家公務員法に違反した疑いが強いとの見方を強めている。15日中に逮捕するか、書類捜査を視野に任意の捜査を続けるか方針を協議したが、さらに慎重な検討が必要と判断したもようだ。

URL:http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101115/crm1011151518022-n1.htm



画像海保保安官の逮捕見送り、任意で捜査継続 警視庁と地検 2010年11月15日17時13分

 沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁と東京地検は15日、「自分が流出させた」と名乗り出た神戸海上保安部の男性海上保安官(43)について、国家公務員法の守秘義務違反での逮捕を見送り、任意で捜査を続けることを決めた。

 保安官の説明に基づいて流出の経緯について裏付け捜査が進み、証拠隠滅や逃亡の恐れが少ないことが主な理由とみられる。

 また、保安官が「映像は、ほぼ誰でも見られる状態だった」と語るなど、海保内部で広く閲覧、入手できたことも判明。「秘密性」が薄れてきたことも、任意で捜査を進めることにした理由のひとつとみられる。

URL:http://www.asahi.com/national/update/1115/TKY201011150198.html



画像【海保職員「流出」】88%が「公開すべき」 81%「国家秘密ではない」 意識調査 2010.11.13 17:34

 共同通信社が12、13日に全国の1千人に実施した電話意識調査で、88.4%が尖閣諸島付近の中国漁船衝突事件の映像を政府が「公開すべきだ」と答えた。「公開の必要はない」としたのは7.8%で「分からない・無回答」は3.8%だった。

 事件の映像が国家の秘密に当たるかどうかでは、81.1%が「秘密には当たらない」とし、「秘密に当たる」としたのは13.2%だった。「分からない・無回答」は5.7%だった。

 インターネットやテレビで映像が出たことについては、83.2%が「よかった」と答えた。

 調査は、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけた。千人の内訳は男性464人、女性536人。

URL:http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101113/crm1011131736013-n1.htm



画像【海保職員「流出」】14日も聴取はなし 5管周辺にはデモ隊も 2010.11.14 21:45

 沖縄・尖閣諸島沖の中国船衝突をめぐる映像流出事件で、主任航海士(43)は流出を認める告白をしてから5日目となる14日も、神戸海上保安部と第5管区海上保安本部が入る神戸第2地方合同庁舎(神戸市中央区)に閉じこもったままだった。

 5管本部によると、主任航海士に対する捜査当局の取り調べは13日に続き14日も行われなかった。主任航海士は庁舎8階の一室で出前を食べるなどして過ごしており、落ち着いて元気な様子だという。

 一方、庁舎周辺では14日午後5時過ぎ、数百人が参加したデモが行われ、参加者は日の丸を手に「政府はビデオのすべてを公開しろ」「sengoku38を守り抜くぞ」などとシュプレヒコールを繰り返した。

URL:http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101114/crm1011142146016-n1.htm



画像政権を直撃した「尖閣ビデオ」の流出 刑訴法に逃げた「菅-仙谷」外交の破綻

 ◇古賀攻(こが・こう=毎日新聞政治部編集委員)
 ナショナリズムと外交は切っても切れない関係にある。ただし、両者は常に同じ方向を向いているわけではない。

 政府が重要な対外政策について国民の支持を取り付けようとする時、ナショナリズムは頼もしい精神的基盤になる。ところが、時としてナショナリズムは危険な排外主義と結びついて暴走し、政府を突き上げることだってある。

 領土問題が厄介なのは、それが当事国のナショナリズムを過度に刺激し、外交から柔軟性を奪う可能性があるからにほかならない。

 ◇甘すぎる領土問題への認識
 尖閣諸島や北方領土をめぐる中国、ロシアの粗野な振る舞いは、それぞれの国民感情を背景にしている。外交の基軸が揺らいだ日本の足元を見て、領土問題で政権の求心力を高める好機とにらんだのだろう。ナショナリズムを身にまとっているだけに、力ずくの動きになりがちだ。

 9月以降、中露両国に手を焼き続けている菅直人政権が、こうした領土問題の特性をどれだけ自覚していたかというと、はなはだ怪しい。

 11月3日、辛亥革命百周年記念行事実行委員会(委員長・福田康夫元首相)による日中関係のシンポジウムが東京・一ツ橋で開かれた。米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授はパネリストの1人としてこう警告した。

 「ナショナリズムに一番火がつきやすいのが領土問題だ。民主党はそれを甘く見ていたのではないか」

 同教授はさらに尖閣沖での中国漁船衝突事件について「日本政府の対応には大きな疑問が2つある」と指摘した。

 (1)日本は中国のリアクションを考えたうえで中国人船長を逮捕したのか。相手国のリアクションを考えるのが領土問題の危機管理なのに、民主党政権にその能力があるのか。

 (2)船長の逮捕後、日本は「国内法に基づいて粛々と処理する」と言っていたのに、那覇地検が発表した釈放理由は、国内法とは関係のない「日中関係への配慮」だった。

 海上保安庁の巡視船に体当たりした漁船の「悪質さ」を当初は強調し、中国の抗議をはねつける姿勢を示しておきながら、中国が次々と繰り出す恫喝に慌てて不透明な決着を図ったことを指している。

 カーティス氏は首尾一貫しない菅外交の不手際に、領土問題を扱う覚悟の乏しさを見て取ったのだ。

 これは、ナショナリズムや国益といった問題に正面から向き合わず、それゆえに外交・安全保障の政策論議を怠ってきた民主党の抱える本質的な弱点だ。

 動画投稿サイト・ユーチューブに「sengoku38」と名乗る人物が、44分間の生々しい映像をアップロードしたのは、11月4日午後4時過ぎのことだ。中国漁船が敵意を剥き出しにして海保の巡視船に2度も体当たりする様子を収めた映像は、翌5日には政府を揺るがす大事件に発展した。

 senngoku38は、「仙谷左派」とも「仙谷さんパー」とも読める。仙谷由人官房長官が事件処理の総元締めであることを意識しての当てこすりだろう。政府の調査で、映像は沖縄県の石垣海上保安部が検察庁向けに編集したものと同一であることが判明した。

 菅政権は中国人船長の刑事手続きと同様に、海保が現場で撮影した映像の扱いでも二転三転した。

 野党の公開要求に押されて、いったんは国会決議があれば公開に応じる方針を示したものの、なかなか事態が動かない。結局、衆院予算委員会が10月13日に決議を採択し、予算委理事ら30人限定の「視聴」が実現したのは11月1日になってからだった。約10時間に及ぶオリジナル映像は6分50秒に短く編集されていた。

 国民向けの一般公開を拒んだ理由について、菅政権は「映像は刑事訴訟法上の証拠物にあたるため」と説明した。中国人船長の釈放理由を「刑訴法248条の起訴便宜主義によるもの」と強弁したのと同じだ。

 外交的配慮の介在を隠すために、菅首相-仙谷官房長官のラインが刑事訴訟法の世界に逃げ込んでいることは、もはや疑いようがない。

 ◇日中間の密約
 実は、尖閣映像の扱いをめぐって日中間の「密約」があった。

 9月29日夜、日本政府の「密使」として北京に到着した民主党の細野豪志前幹事長代理ら3人は、中国外交部の用意した車に乗って釣魚台迎賓館に入った。この訪中は仙谷氏が日本外務省を通さず、旧い友人である民間コンサルタント、篠原令氏に依頼してセットさせたものだ。釣魚台では中国外交を牛耳る戴秉国・国務委員らが待っていた。

 この場で中国側は、直後のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で日中首脳が接触する条件として「衝突映像の非公開」と「仲井真弘多・沖縄県知事による尖閣視察の中止」を求めた。細野氏の帰国後、仙谷氏と戴氏が電話で協議した結果、ブリュッセルでの日中首相懇談(10月4日)が実現した。

 衝突映像を公開した場合、日中双方でナショナリズムが沸騰し、関係改善が一層難しくなる可能性があった。それゆえに公開を見送るという外交判断はあってしかるべきだ。

 しかし、菅政権は真相を国民に説明することなく、刑事手続きを理由に一部の国会議員限定で不満のガス抜きを図った。44分間の映像はその姑息さを抉り出すようなタイミングでネットに登場した。

 機密扱いの映像流出は、捜査関係者が関与したと考えるのが自然だろう。みんなの党の渡辺喜美代表は「国家経営の内部崩壊が始まった」とコメントした。11月8日には海上保安庁が、国家公務員法(守秘義務)違反などの容疑で氏名不詳のまま東京地検と警視庁への告発に踏み切った。

 政府内では、海保や検察の職員による内部告発が疑われていた。動機は十分にある。両組織とも職務に忠実であろうと努めてきたのに、政府の判断ミスによって原則をねじ曲げられたからだ。それは菅外交の尻ぬぐいである。

 機密の漏洩は犯罪だ。11月10日には神戸海上保安部の職員が「自分が流出させた」と告白した。しかし、菅政権は本気でこの職員を糾弾できるだろうか。「国民全体で考える主体的で能動的な外交」(10月1日の所信表明演説)の虚構性が暴かれるだけのように思えてならない。

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URL:http://mainichi.jp/life/money/kabu/eco/tohonseiso/news/20101112org00m020037000c.html

この記事へのコメント

  • Tea and Coffee Time

    『尖閣ビデオ』流出問題に垣間見る通信の秘密の法律・傍聴法の無力化(URLかリンクマークの参照お願いします)。
    2015年08月10日 16:47
  • almanos

    逮捕見送りに対して現政権がどういう反応をするか? 例えば、空き管は逃げるでしょうが仙石氏はそうは行かない。担当検事を呼びつけて口汚く罵り逮捕しろと迫るかもしれない。で、そこでこれは法治国家としての危機だと思って、担当検事が辞職覚悟でそこらへんを発表時にぶちまける。ぶちまけてから「日本は法治国家であり、法に従って不起訴といたします。後は海保の内規による処分となります」となったりして。で、仙石氏が呼びつける事から万が一を予想して録音して、罵っている録音を公開されて致命傷という展開もありえるでしょうね。多分、マスゴミは無能な身内に対する近親憎悪でここぞとばかりに叩くでしょうし。で、複数コピーがある事が確実な映像の残りが流出して全編公開となるともっと良いのですが。
    2015年08月10日 16:47
  • 田舎のダンディ

    中国に不利な情報は、中国を追い詰め、結果として日本に不利益をもたらすので・・・・国民に明らかに出来ない(政府)・・・報道できない(有力メディア)という姿勢は、両者とも同じで、一貫性があるといえます。
    たまたま今回の事件が国民の関心を呼んだために、国会でもマスコミ内部でも意見が分かれて混乱しています。中国政府の本質が垣間見られて、日本国民も少し目覚めたと思いますが、長きにわたる左翼的洗脳はなかなか解けません。
    アメリカの情報は暴け、中国の情報は隠蔽せよの姿勢が、異常だということに気づけば、今回の事件自体は国益につながる結果になると思います。
    2015年08月10日 16:47
  • ス内パー

    件の変態新聞記事自体はただの記者の願望(検察sage)ですがさらなるリークはあるでしょうね。
    2015年08月10日 16:47

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