新「防衛計画大綱」

 
政府は17日午前、安全保障会議と閣議を開き、新たな「防衛計画の大綱」と来年度から5年間の中期防衛力整備計画(中期防)を決定した。

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その内容は、海上自衛隊の潜水艦を16隻から22隻態勢に増強して、南西諸島周辺海域で監視能力を高めると同時に、航空自衛隊那覇基地の戦闘機部隊も1個飛行隊(定数18機)から2個飛行隊に増加。

また、陸自は与那国島に「沿岸監視隊」を配置して、地対艦誘導弾も配備。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)は北海道と東北、沖縄の空自高射群に新たに配備し、全国をカバーさせる方針となっている。

更には、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)搭載型のイージス艦を現行の4隻から6隻に引き上げ、常時、2隻のイージス艦が展開できる態勢となる。

平成16年に策定された現行の防衛大綱との違いとして注目すべきは、事態の展開に間断なく対応するための、新たな防衛政策概念である「動的防衛力」の構築。

これは、仮想敵国からの軍事的兆候が現れてから、実際に軍事行動、および各種事態が発生するまでの時間が科学技術の発達に伴い、どんどん短くなっている現実を踏まえて、即応性、機動性、柔軟性に富んだ、より実効的な抑止力を構築する、というもの。

防衛大綱から該当箇所を一部引用する。
(3)我が国の防衛力―動的防衛力
 防衛力は我が国の安全保障の最終的な担保であり、我が国に直接脅威が及ぶことを未然に防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するという国家の意思と能力を表すものである。

…特に、軍事科学技術の飛躍的な発展に伴い、兆候が現れてから各種事態が発生するまでの時間が短縮化される傾向にあること等から、事態に迅速かつシームレスに対応するためには、即応性を始めとする総合的な部隊運用能力が重要性を増してきている。

また、防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくことが、我が国周辺の安定に寄与するとともに、抑止力の信頼性を高める重要な要素となってきている。

このため、装備の運用水準を高め、その活動量を増大させることによって、より大きな能力を発揮することが求められており、このような防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視していく必要がある。

今後の防衛力については、防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、…このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する。
 …真に必要な機能に資源を選択的に集中して防衛力の構造的な変革を図り、限られた資源でより多くの成果を達成する。



防衛大綱によれば、これまでは、「基盤的防衛力構想」と称した、「防衛力の存在自体による抑止効果」を重視した防衛構想だったのだけれど、今回からそうではなくて、実際に使える防衛力にしようとおうもの。

事実上の大きな方針転換だといっていいと思われる。

尤も、現在の抑止力、軍事力の整備・保持には莫大な費用を必要とする。昔と比べて、兵器開発と運用コスト、人員の育成なんかにうんと金がかかる。

だから、今ある資源を如何に有効に使って抑止効果を発揮させようと考えるのは至極当然のことだといえる。

ある意味、兵士や軍の値段や維持費が高く成り過ぎて、虎の子扱いしては大事に使う時代になったということ。

この「動的防衛力」をより実効あらしめるためには、必要な兵力を必要な場所に、「間に合う」ように投入できなければ意味がない。つまり、部隊運用する側からみれば、兵力の移動と投入の時間をなるべく多く確保したい。

その為には、敵の攻撃の兆候をいち早く掴む体制を作るか、出撃決定からまで戦力投入までの時間を短くするかのどちらかしかない。

前者については、偵察衛星、早期警戒機の拡充が必要になるし、後者については、兵力輸送手段の迅速化と効果的な部隊配置が必要になる。

いくら虎の子の部隊とはいえ、内地奥深くに温存して、肝心な時に投入が遅れてしまっては意味がない。どんなにスピードがある輸送機があったとしても、積載量が少なければ、大規模な部隊投入には適さない。

であれば、最初から、紛争がおこりそうな地域の近くに配備しておくのが合理的。

そういう観点から、今回の防衛大綱をみると、那覇基地の飛行隊の増設と与那国島の「沿岸監視隊」と地対艦誘導弾の配備から、地上部隊による紛争は、主にこの地域と見ていると思われるし、潜水艦を16隻から22隻態勢にすることや、SM3搭載のイージス艦を常時2隻展開できる体制にして全国をカバーできる空自高射群に新たに配備することからは、主にミサイルによる攻撃に対する備えだと言える。

一口にいえば、南西シフトであり、対中国警戒シフト。

中国は今回の防衛大綱に対して、「四の五の言うな」などと反発しているところをみると、今回の防衛大綱はそれなりに効果があるように思われる。

ただ、中国はまたしてもというか、やはりというか、「中国は平和的な発展の道を歩み続け、防御性の国防政策を実施している。誰の脅威にもなるつもりはない」とコメントしているのだけれど、昔からそう言い続けては、軍事費増大と軍の拡大をひたすら続けてきた前科がある。

だから、中国が平和的発展といって、はいそうですかと信用するのは甘い見方にも程がある。

なんとなれば、「中国のいう『平和』とは、一体どこの惑星の『平和』のことなのか。地球の平和とは、軍備縮減や平和交渉といったものだけではなく、ノーベル平和賞に代表される、人権擁護、非暴力的手法による民主化や民族独立、環境保全などをも含んだものだ。ノーベル平和賞受賞者を投獄する国のいう『平和』が地球の平和と同じ意味だとは思えない。劉暁波氏の釈放と、氏の名誉回復を為すことで、中国の平和が、地球の平和と同じであることが証明されるだろう。」とでも釘を刺しておくくらいあってもいい。

現に、日本の周辺国はどんどん軍事費を増やしていっている。その現状を考えると、今回の防衛大綱がより実践的なものに変わったとはいえ、本当にそれで大丈夫なのかどうかはもう少し見てみないといけないし、より安全を考えるなら、今のうちからうんと防衛費を増額しておくべきだと思う。

であるにも関わらず、民主党政権は防衛費を削減しようとしている。時代に逆行している。

いくら過去しか見れない民主党とはいえ、こんなことまで時代に逆行する必要はない。

そして一番大事なことなのだけれど、防衛大綱が即応性、実効性にシフトしたということは、政府官邸側も、同時に即応性、実効性にシフトしないといけないことを意味している。つまり、危機管理体制の充実や必要な法整備をしておかなきゃいけないということ。

この間の北朝鮮による韓国砲撃事件を首相がテレビで知るようでは話にならない。ただでさえ、半島が半戦時体制になっているというのに、政府の対応はあまりにお花畑に過ぎる。

国民を護る意思も能力も無いのであれば、直ちに政権を返上すべきだろう。


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画像防衛大綱が閣議決定 対中シフト鮮明に 沖縄の戦闘機部隊、潜水艦を増強 2010.12.17 10:32

◇アジアの時代
 政府は17日午前、安全保障会議と閣議を開き、新たな「防衛計画の大綱」と来年度から5年間の中期防衛力整備計画(中期防)を決定した。新たに防衛政策の概念として情報収集や警戒監視を重視する「動的防衛力」の構築を掲げた。対中シフトを鮮明にし、南西方面での海・空戦力強化策として沖縄の戦闘機部隊を増強するとともに、先島諸島にある離島への陸上自衛隊の部隊配置も明記した。

 民主党が関係強化を目指す社民党への配慮で明記することは見送った「武器輸出三原則」の見直しについては、装備品の国際共同開発が世界の趨(すう)勢(せい)であることを指摘。その上で「大きな変化に対応するための方策について検討」と将来の三原則緩和に含みを残した。

 南西シフトの半面、戦車を約600両から200両削減することに伴い、戦車を重点的に配備した北海道を管轄する北部方面隊のうち2師団や11旅団などは規模を縮小する。

 平成16年に策定した現大綱との違いとして、事態の展開に間断なく対応することの重要性を強調した。中国が「漁民」を装った海上民兵を尖閣諸島に上陸させるなど「犯罪行為」か「軍事行動」か見極めにくい事態への対処を見据えたものだ。

 日米同盟に加え、価値観を共有する韓国やオーストラリア、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドとの協力強化も特記し、地域や国際社会の「懸念事項」とした中国を強く意識した大綱となった。

 動的防衛力は、部隊を全国に均等配備し、「存在」することによる抑止効果を重視した「基盤的防衛力構想」に代わる概念。新大綱では「運用」に力点を移し、平素からの情報・監視・偵察(ISR)の強化と事態に即応できる態勢に転換を図る。そうした活動の「常続性」も動的防衛力の根幹をなすと位置づけた。

 具体的には、中国海軍の活動活発化を念頭に、海上自衛隊の潜水艦を16隻から22隻態勢に増強し、南西諸島周辺海域で監視能力を高める。航空自衛隊那覇基地の戦闘機部隊も1個飛行隊(定数18機)から2個飛行隊に増やし、領空侵犯に備える。艦船や航空機をレーダーなどで探知できるよう陸自は与那国島(沖縄県)に「沿岸監視隊」を配置。地対艦誘導弾も配備する。

 核・弾道ミサイル開発を進める北朝鮮への対処能力では、弾道ミサイルを迎撃する海上配備型迎撃ミサイル(SM3)搭載型のイージス艦を現行の4隻から6隻に引き上げる。これによりミサイルから日本全土を防護するため、常時、2隻のイージス艦が展開できる態勢が担保される。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)も北海道と東北、沖縄の空自高射群に新たに配備し、全国をカバーさせる方針を正式に打ち出した。

 次期主力戦闘機(FX)については中期防で機種を特定せず、「新戦闘機」として12機導入すると盛り込み、防衛省は年明けにも米側にF35ライトニング2の技術情報開示を求める。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101217/plc1012171032005-n1.htm



画像新防衛大綱に自民「安全確保できず」産経新聞 12月18日(土)7時56分配信

 自民党が、政府の新たな防衛計画大綱と来年度から5年間の中期防衛力整備計画(中期防)について、「日本の安全を確保できるとは到底思えない」とする見解を取りまとめたことが17日、わかった。大綱、中期防ともに「政権奪回後、即時に見直す」と強調している。見解では、日本周辺の安全保障環境について「中国をはじめ各国が防衛費を増額する現状だ」と指摘し、「依然、不安定な状況にある」と分析。「防衛予算の縮減傾向に歯止めをかけ、多様化する任務に対応する人員を確保しなければならない」と訴えている。

 さらに、政府による陸上自衛隊の定員と戦車、火砲の削減方針などを批判。武器輸出三原則の見直しは「(政府は)社民党に配慮してトーンダウンした。防衛力の生産・技術・教育等の維持すらも困難となる」と警告した。

URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101218-00000096-san-pol



画像「四の五の言うな!」 日本の新防衛大綱に 中国外務省 2010.12.17 20:52

 【北京=川越一】中国外務省の姜瑜報道官は17日、日本政府が中国の軍事力を懸念事項とする新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を決定したことについて、「個別の国家が国際社会の代表を気取って、無責任に、中国の発展に対して四の五の言う権利はない」などと批判する談話を発表した。

 姜報道官は「中国は平和的な発展の道を歩み続け、防御性の国防政策を実施している。誰の脅威にもなるつもりはない」として、中国脅威論の再燃を牽制した。

URL:http://sankei.jp.msn.com/world/china/101217/chn1012172053004-n1.htm

この記事へのコメント

  • sdi

    定数ふやすより、充足率を上げるほうが重要だと思うが人員増は財務省がゆるさないだろう。
    「なぜ、防衛省だけ特別扱いして人員増がみとめられるんだ。不公平だ。それなら我々の部局も人員増を認めろ」と言う声が当の財務省の中からまっさきに上がるだろうから。
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    佐藤正久参議院議員の twitter/ブログ によれば,
    新防衛大綱は自民党が作成して鳩山政権が棚ざらしに
    していたものを殆んどそのままホコリを払って
    出してきたものであるよう. これなら民主党が政権
    にいる理由は「全く無い」ですな.
    2015年08月10日 16:47

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