微生物と植物が地球を救う

 
「生命の定義が広がりました。太陽系で地球外生命のサインを探す時、私たちはより広く、より様々な形を考えなければなりません」
エド・ウィーラーNASA科学ミッション副長官

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1.異質な生命体

先月末、NASAが地球外生命に関する発表を12月2日に行なうとアナウンスして、すわ、宇宙人発見の発表か、と一部で騒ぎになったけれど、その内容は、猛毒である「砒素」を食べて増殖する異質な生命体の発見だった。

NASAの宇宙生物学研究所に所属するフェリッサ・ウルフ・サイモン氏は去年「リンの代わりに砒素を摂取する生物の可能性がある」との論文を発表していて、サイモン氏のチームは、ヨセミテ国立公園南東の火山渓谷にある、アルカリ性で、塩分濃度が高く、砒素の豊富なモノ湖で細菌を採取した。

「GFAJ-1」と名付けられた、この特種な細菌は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄と並び生物に欠かせない元素「リン」の代わりに砒素を摂取して、DNAとタンパク質を作り出すという。正に砒素を食べる微生物。

サイモン氏のチームはモノ湖の細菌をシャーレで培養する過程で、リンの量を徐々に減らして、砒素を増やしていき、放射線トレーサーを用いて化学分析したところ、GFAJ-1は砒素を細胞内に取り込みんで代謝していることが判明した。

この発見で、これまでの生物の定義やDNAの基礎概念を覆しただけでなく、地球外生命探査の可能性も広がったという。



人体にとって有毒な砒素を食べてくれる微生物が実在するということは、これを培養することが出来れば、砒素に汚染された土地や河川を、浄化できる可能性に繋がる。

実は、この「GFAJ-1」のように、砒素を細胞内に取り込みんで代謝している訳ではないけれど、鉛や砒素などの有害廃棄物を「食べる」生物がイギリスで発見されている。

それは、ミミズ。

イングランド地方やウェールズ地方などにある鉱区の土壌から発見された、この「ヘビメタ・ミミズ」は、普通のミミズなら死んでしまうような高濃度の重金属を含んだ土壌に生息し、鉛、亜鉛、砒素、銅などの重金属を好んで食べるという。

イギリスのレディング大学のマーク・ハドソン氏らの研究チームによると、このミミズは、特別なタンパク質で砒素や鉛を包み込んで不活性化して、体に影響のない安全な状態にしているそうだ。

このミミズから排泄された金属は、どの程度の毒性が残っているかはっきりしていないものの、地中から植物が吸い上げやすい状態になっているらしく、将来的には、このヘビメタ・ミミズを汚染地域に放して、更に植物を利用して毒性のある金属を抽出することで土壌の回復や、植物から金属を効率的に取り出せる可能性があるという。

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2.ファイトレメディエーション

この植物を利用して、土壌を浄化したり、金属を回収したりする方法は「ファイトレメディエーション」と呼ばれ、近年色々と研究が進んでいる。

ファイトレメディエーション(phytoremediation)とは、ギリシャ語で植物を意味するphyto- とラテン語で治療・修復を意味するremediation と結びつけた言葉で、植物が根から水分や養分を吸収する能力を利用して、土壌や地下水から有害物質を取り除く方法のことを指す。

ファイトレメディエーションは植物内での浄化方法の特徴から、大きく次の5つに分類される。
 
1)ファイトエキストラクション(Phytoextraction)
2)ファイトスタビライゼーション(Phytostabilization)
3)ファイトスティミュレーション(Phytostimulation)
4)ファイトボラティリゼーション(Phytovolatilization)
5)ファイトトランスフォーメーション(Phytotransfomation)

「ファイトエキストラクション」とは、有害汚染物質に高い耐性と蓄積性を持った植物を利用して、土壌や水に含有される重金属等を植物体内に吸収、蓄積させる方法で、使用に際しては、体内に蓄積できる重金属濃度が高く、かつ、たくさん生える植物が好ましい。

「ファイトスタビライゼーション」とは、根や根細胞表面および根細胞内に無機、有機汚染物質を沈殿・吸収・固定化させる方法で、主に汚染の拡散を防ぐことが目的で利用され、汚染物質の除去・分解は目的としない。

「ファイトスティミュレーション」とは、根から分泌される酵素などによって活性化された根の周りの微生物の働きで、汚染物質を分解、無害化させる方法。

「ファイトボラティリゼーション」とは、植物が無機・有機汚染物質を吸収して、大気中に気化させる方法のことで、例えば、インディアンマスタードは、セレンを無機化して、大気中に気化する能力があることが報告されている。また、ユリノキには、有機水銀を金属水銀に還元して、気化放出する作用があると報告されている。

「ファイトトランスフォーメーション」とは、植物体内の酵素等で、無機・有機汚染物質を吸収・分解し、無害化する方法で、窒素酸化物や硫黄酸化物などの大気汚染物質を植物体内に取り込んで、窒素源・硫黄源などの栄養素に変換する。

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また、これら以外にも、向日葵が、放射性物質を吸収することが知られており、セシウム137を根に、ストロンチウム90を花に蓄積することが判明している。何でも、危険性が失われるまで30年以上かかる放射性物質を、わずか20日間で95%以上除去できる能力があるという。

最近では、ファイトエキストラクションの新しい例として、これまで鉛を体内に取り込むことが知られていた「ヒョウタンゴケ」が金をも蓄積することが分かった。

理化学研究所と非鉄金属大手「DOWAホールディングス」の研究グループは、平成20年から、コケを用いた重金属廃水処理装置の開発研究をしていたのだけれど、その中で、ヒョウタンゴケが金も取り込むことを発見している。

このヒョウタンゴケは、最大で乾燥重量の約10%もの金を蓄積し、鉛なら70%、プラチナでも数%蓄積する。更には、蓄積される場所が大まかに分かれているそうで、回収上のメリットも大きいという。

研究グループは、貴金属をわずかに含む廃液から、金を再回収する技術として実用化を目指すとしている。

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3.実用化が進むバイオリーチング

また、先のヘビメタ・ミミズのように、微生物やバクテリアでも同様の現象が発見されている。

広島大の高橋嘉夫教授らは、15種類のレアアースが解けた溶液に、大腸菌や桿菌などの6種類の微生物を入れると、微生物の細胞表面にレアアースが集まり、1万倍以上も濃縮されることを報告している。

レアアースが集まった微生物を酸にさらせば、レアアースが酸に溶けるので、容易に回収できる。しかも、濃縮率の違いを利用すれば、複数の種類のレアアースが混在した溶液から、狙った種類だけを分離・精製できるというから、元々、科学的性質が似ていて、分離生成そのものからして難しいレアアースにとっては、貴重な技術になると思われる。

さらに、鉱石をエネルギー源にしている、バクテリアの一種には、代謝を通じて鉱石を分解する際に、硫化した金属鉱石や精鋼を排出するものがあるという。

この「バイオリーチング(生物冶金)」と呼ばれるプロセスは、近年、貴重な鉱石を抽出する重要な方法として注目を集めていて、従来の溶融精錬といった費用のかかる方法に対して、ある程度の規模であれば、溶融精錬の半分程度の費用で済むという。

山形県の慶應義塾大学先・端生命科学研究所の冨田勝氏は、「微生物の中には金属イオンに反応するものがあり、うまく利用すれば低品位鉱石から銅を精製することができる。最終的な目標は、低品位鉱石から銅を精製するバイオテクノロジーを確立することだ」とコメントしている。

既に、このバイオリーチングは、世界のおよそ20の銅山で活用されている。

もちろん、バイオだから廃棄物も少なく、地球に優しい。

環境破壊が問題視されている地球を救うのは、微生物と植物なのかも知れない。




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画像DNAレベルでヒ素を使う微生物を地球で発見 2010/12/06(月) 20:25

  米航空宇宙局(NASA)は12月3日、有毒化学物質ヒ素を利用して生息できる微生物を、カリフォルニア州のモノ湖(MonoLake)で発見したと発表した。

  発見された微生物は「GFAJ-1」と名付けられており、アルカリ性で、塩分濃度が高く、ヒ素を多く含むモノ湖の湖底に生息している。NASAによると、「GFAJ-1」はリンの代わりにヒ素を利用して生息し、増殖することも可能だという。

  地球上の生物は主に水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄の6つの元素から構成されており、特にDNAにおいては全て共通で、炭素、水素、酸素、窒素、リンの5つの元素から成り、例外はなかった。

  しかし、「GFAJ-1」はDNAレベルで「リン」の代わりに「ヒ素」を用いていることから、これまでの生物の定義やDNAの基礎概念を覆しただけでなく、地球外生命探査の可能性も広がったという。

  「生命の定義が広がりました。太陽系で地球外生命のサインを探す時、私たちはより広く、より様々な形を考えなければなりません」

  今回の発見について、NASA科学ミッション副長官のエド・ウィーラー(EdWeiler)氏はこのように述べた。

  なお、今回の研究成果は12月2日付けの科学誌「サイエンス」に掲載されている。

URL:http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=1206&f=it_1206_009.shtml



画像重金属を食べる“スーパーミミズ”発見 James Owen for National Geographic News October 7, 2008

 有害廃棄物をエサにする“スーパーミミズ”が見つかった。新たに進化した種とみられており、汚染された工業用地の浄化に役立つ可能性もあるという。

 イギリスのイングランド地方やウェールズ地方などにある鉱区の土壌から、鉛、亜鉛、砒素、銅などの重金属を好んで食べる“ヘビーメタル・マニア”のミミズが発見された。

 新たに見つかったミミズは摂取した金属を若干異なる形に変えてから排泄する。排泄物は元の金属よりも植物が吸い上げやすい形状であり、植物に吸収させた上で刈り取れば土壌を浄化すること(ファイトレメディエーション)も望めるという。

 この研究を率いるイギリスのレディング大学のマーク・ハドソン氏は、「信じられないほどの高濃度の重金属にも耐性があるミミズで、むしろ重金属の存在が進化を促したように思える。何しろ、普通の家の裏庭から採取したミミズを放したら死んでしまうような土壌に生息しているのだ」と語る。

 研究チームが鉛を食べるミミズのDNA分析を実施した結果、このミミズは新たに進化した未知の種であることが確認された。このほかにも、イングランド南西部で見つかった砒素までエサにする個体群など、2種類のミミズに新種の可能性があるという。

 ハドソン氏らのチームは、こうしたスーパーミミズに強力なX線を照射し、塩の結晶の1000分の1の大きさしかない金属の粒子を追跡した。その結果、砒素への耐性があるスーパーミミズは、特別なタンパク質で砒素を包み込んで不活性化し、体に影響のない安全な状態にしていることが示唆された。ウェールズ地方の鉛を食べるスーパーミミズも、同様にタンパク質を使って体内で金属を無害化していることが分かっている。

 スーパーミミズの体内を通過した後の金属粒子にどの程度の毒性が残っているのかは、周囲を包むタンパク質の分解に長い時間がかかるため、いまのところはっきりしていないという。「だが、スーパーミミズが排泄した金属は地中から植物が吸い上げやすい状態になっていることが実験では示唆された。スーパーミミズ自身にとっては排泄物を無害化する必要もないはずだが、まるで植物のために変換を請け負っているかのようだ。採鉱や重工業などで汚染された土地の浄化にスーパーミミズを利用すると有効かもしれない」とハドソン氏は期待する。

 同氏は、「長期的な目標として、養殖したスーパーミミズを汚染地域に放し、植物を利用して毒性のある金属を抽出することで土壌や生態系の回復を促進する方法を考えている」という。さらに研究が進めば、植物を利用して金属を採集することも可能になるかもしれない。

「実現するかどうかは分からないが、いずれは植物から金属を効率的に取り出す方法を開発して、産業に役立てられるようになる可能性もある。植物を刈り取ってそのまま処理工場に運びさえすればよくなるかもしれない」と同氏は話している

 ウェールズ地方にあるカーディフ大学のピーター・キリー氏は、やはり金属を食べる虫を研究する1人だが、この研究について次のように述べている。「新種のスーパーミミズがどんなに有能であっても、1~2年で終わる人工の浄化プロセスには太刀打ちできないだろうが、汚染された土壌に蓄積された金属量の診断に利用すれば、非常に優れた手段となるだろう」。

Photograph by Jane Andre

URL:http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=79572641&expand#title



画像ヒョウタンゴケが金を蓄積、資源回収に応用へ 理研など 2010.8.7 23:41

金を体内に散りばめたヒョウタンゴケの原糸体(DOWAテクノロジー提供) たき火の跡などによく生えるコケの一種が、金を選択的に体内に取り込むことを、理化学研究所と非鉄金属大手「DOWAホールディングス」(東京都)の研究グループが発見した。最大で乾燥重量の約10%もの金を蓄積するという。貴金属をわずかに含む廃液から、金を再回収する技術として実用化を目指す。(原田成樹)

 金を取り込むのは、「ヒョウタンゴケ」というありふれた種。世界中に分布し、特にたき火や火災の焼け跡でよくみられる。

 理研は、文部科学省の「経済活性化のための研究開発」(リーディングプロジェクト、平成15~19年度)として植物を利用した環境浄化の研究に取り組み、ヒョウタンゴケが生物に有害な鉛を回収する能力を持つことを発見。20年からDOWAホールディングスと共同で、コケを用いた重金属廃水処理装置の開発に乗り出し、ヒョウタンゴケが金も取り込むことを新たに見つけた。

 廃液から金や鉛を回収するには、成長した株ではなく、コケの赤ちゃんに相当する「原糸体(げんしたい)」を使う。研究グループは、原糸体を水槽内でクロレラのように培養する技術を開発し、2週間で300倍に増える量産性を実現した。

 家電やパソコンなどの電子部品の配線、電極には金メッキが多く使用されているが、通常の回収処理法では微量の取り残しが出る。研究チームの実験では、リサイクル原料を再資源化処理した後の廃液でヒョウタンゴケを育成、2週間後にはコケ重量の10%に当たる金14・8グラムを取得できた。

 鉛の回収能力は最大で重量の70%。プラチナも数%回収できることが分かった。多種の金属を含む廃液でも取り込む元素は限定され、蓄積される場所が大まかに分かれているので、回収上のメリットが大きい。

 廃液中の微量な貴金属の回収は、従来はコストに見合わないとされてきたが、DOWAホールディングス側から研究チームに加わった中塚清次さん(理研客員研究員)は「鉛の浄化に加え、金回収も視野に実用化研究を進める。化学物質でなく植物を使って処理できることが重要」と語る。

 ヒョウタンゴケが、なぜ金やプラチナを取り込むのかは分かっていない。理研の井藤賀(いとうが)操研究員は「通常の生き物は、そもそも細胞の中に金などが入らない」と首をかしげる。強い酸性やアルカリ性の過酷な環境でも生育するヒョウタンゴケは、進化の過程で有害な金属にも耐える能力を獲得したとも考えられる。

 井藤賀さんは「コケは4億年も前から、環境に適応しながら進化してきた。持続的社会を形成する上で、もっと学ばなければならない」と話している。

 ■ヒョウタンゴケ ヒョウタン形の胞子嚢(のう)を持つコケで、世界中に分布する。灰への耐性が強く、火事場跡など他の草やコケが生えない場所によくみられる。国内では焼却灰などが埋められた廃棄物の最終処分地でも確認されている。

URL:http://sankei.jp.msn.com/science/science/100807/scn1008072342002-n1.htm



画像レアアースに極小救世主? 微生物で濃縮、広大など発見 2010年11月18日9時3分

 ハイテク製品や光ファイバーなどに欠かせないレアアース(希土類)が大腸菌など身近な微生物の細胞の表面で濃縮されることを、広島大などのチームが見つけ、17日に発表した。中国からの輸入に頼るレアアースを回収、精製する技術として期待される。成果は米科学誌に掲載された。

 広島大の高橋嘉夫教授(環境化学)らは大腸菌や桿(かん)菌など6種類の微生物を、レアアースが溶けた液に入れた。すると、微生物の細胞の表面にレアアースが集まり、濃縮されることがわかった。

 15種類のレアアースで実験し、いずれも溶液そのものの濃度より1万倍以上も濃縮されることを確かめた。特にツリウム、イッテルビウム、ルテチウムでは濃縮率が10万倍を超えた。金属イオンの回収に広く使われる「陽イオン交換樹脂」より濃縮の効率は10~100倍も良いという。

 濃縮される仕組みを調べるため、大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県佐用町)で微生物にX線を当てて細部を観察したら、細胞表面の細胞壁にある「リン酸基」にレアアースが結びついていた。

 レアアースが結合した微生物を酸にさらせば、レアアースが酸に溶けて回収できる。また、濃縮率の違いを利用すれば、複数の種類のレアアースが混在した溶液から、狙った種類だけを分離・精製するのにも使えるという。

 ただ、微生物は生き物なので、繰り返し使えないのが弱点。「レアアースがくっつく部分を人工的につくれれば実用化に近づく」と高橋さん。

 ツリウムは光ファイバー、イッテルビウムはガラス着色剤やレーザー、ルテチウムは放射線源(ベータ線源)などに使われる。レアアースは中国が世界の生産の97%を占めている。(長崎緑子)

URL:http://www.asahi.com/science/update/1117/OSK201011170104.html



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 最新の研究によると、ある種のバクテリアは、そのままでは役に立たない鉱石から、少量ではあるが貴重な金属を精製することができるという。鉱石を食べる微生物は、バクテリアの一種で、鉱石をエネルギー源にしている。こういった生物は代謝を通じて鉱石を分解する際、硫化した金属鉱石や精鋼を搾り出す。このプロセスは「バイオリーチング(生物冶金)」と呼ばれる。

 近年、このプロセスは貴重な鉱石を抽出する重要な方法として注目を集めている。溶融精錬といった従来の方法では費用が掛かりすぎるようになっているからだという。また、電子産業が世界中から盛んに銅を求めるようになっていることも、バイオリーチング発展の大きな要因となっている。

 山形県にある慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝氏は、「微生物の中には金属イオンに反応するものがあり、うまく利用すれば低品位鉱石から銅を精製することができる。最終的な目標は、低品位鉱石から銅を精製するバイオテクノロジーを確立することだ」と話す。現在バイオリーチングは、既に世界の銅生産の20%を占めていると見積もられており、世界のおよそ20の銅山で活用されている。

 数千年前の昔から、坑水や赤さび色の川でバイオリーチングが起きていることは知られており、その“結果”自体は目にしていた。しかし、その“原因”がバクテリアにあることが判明したのは1947年のことであった。

 1947年、アメリカ西部のユタ州にある鉱山で、バクテリアが、採鉱廃棄物の岩石を積んだ山から銅を含む青みを帯びた溶液を生み出していることが発見された。その発見以降、ウラン鉱山や火山、温泉地など世界中でバイオリーチングに利用できる微生物が数十種類見つかった。

 初期のバイオリーチングは仕組みも非常に単純で生産量もごくわずかであったが、分子技術の発展に伴い、現在では、金属を好む微生物の増殖や機能を最適化する方法の研究が進んでいる。

 今年初め、冨田氏が率いる研究チームはチリのベンチャー企業バイオシグマ社(BioSigma)の科学者と共同研究を開始した。バイオシグマ社は、世界最大の銅生産者であるチリの国営銅公社コデルコ社(CODELCO)と日本の非鉄金属メーカー日鉱金属が共同出資して設立した会社である。共同研究の目的は、バイオリーチングにかかわるバクテリアの遺伝子やタンパク質、代謝産物を特定して“小さな採掘者”の速度と効率を改善することである。

 研究チームではバクテリアの消化システムの分析が進められており、現在のところ、エネルギー源として鉄や硫黄のみに依存する3種類の微生物のゲノム配列解読が完了している。こういった一連の研究により、目的のバクテリアを特定して増殖することが可能になる。

 微生物を利用した最初の産業レベルの採掘工場は2009年末に操業を開始する予定である。コデルコ社では、今後10年以内にバイオリーチングで年間10万トン以上の銅生産を達成することを見込んでいる。

 バイオリーチングは鉱業に伴う環境への負荷を軽減することもできるといわれている。宮城県にある東北大学の環境学者井上千弘氏は「バイオリーチングや生体酸化を利用した精製プロセスは、従来の溶融精錬に代わるものだ。溶融精錬では、二酸化炭素や二酸化硫黄が大量に排出され、砒素などの有毒物質も数種類発生する。さらに、消費するエネルギー量も膨大なものとなる」と話す。バイオシグマ社のリカルド・バディージャ氏は「バイオリーチングにより、従来の技術と比較してガス排出は10分の1、エネルギー消費量は2分の1、使用水量は5分の1に削減される」と話す。

 また、バイオリーチングは費用を抑えることも可能で、典型的な操業規模の場合、従来の溶融精錬の半分しか費用が掛からないという。ただし、バディージャ氏は次の点も指摘している。「研究しなければならないことがまだたくさんある。バイオリーチングの精製プロセスの改良が進めば、徐々に従来の技術に置き換わっていくだろうが、それまでには15年以上掛かるかもしれない」。

Photograph by Joel Sartore/NGS

URL:http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20230473&expand#title

この記事へのコメント

  • 白なまず

    食物連鎖の頂点に居る人間が最も重金属を収集する世界で最も汚れているのかもしれませんね。微生物、植物のおかげで地球上はクリーンになるのも時間の問題で、人間の浄化が次となると、サプリメント等を使ったデトックスが注目になるかもしれません。また、沖縄の海底の地下にあるメタンガスの湖は微生物によって作られている可能性があると例の「ちきゅうTV」で有ったとおもいますが、資源開発のスタイルが破壊から再生へとシフトするやり方に可能性が有ると実感できるブログ内容で良かったです。
    2015年08月10日 16:47
  • 希土類興味あり

    「さて、「ただ、微生物は生き物なので、繰り返し使えないのが弱点。「レアアースがくっつく部分を人工的につくれれば実用化に近づく」と高橋さん。」
    とのことですが、同様の研究をやっている八戸工大の鶴田さんに聞きました。
    「高橋さんとは学会の会場でお会いしとことがある」とした上で、「微生物は工夫次第で繰り返し使えますよ。別に人工的に作らなくても、と自信たっぷりでした。
    2015年08月10日 16:47
  • almanos

    そういえば、現在の窒素固定法での硝酸の製造に南方熊楠が反対して、微生物を利用した方法を使うべきだと主張していたという話があります。後は麻の利用ですか。麻も重金属を吸収するそうです。ヘンリー・フォードが麻を使ったバイオマス自動車を造って実験したなんて話もありますね。生物利用のほうが負荷が低いので長期的な視点では安全で低コストである場合もあるそうですし。メタンハイドレードでも微生物利用で思わぬ突破口が開かれるかもしれませんね。石炭を液化する微生物がいれば炭鉱採掘に革命が起きるかもしれませんね。ま、その前にスピルリナのような微生物で現在の飼料作物を置き換えられれば世界の食糧事情はものすごく改善するかもしれませんけど。
    2015年08月10日 16:47
  • 日比野

    希土類興味あり様、おはようございます。
    >同様の研究をやっている八戸工大の鶴田さんに聞きました。
    >微生物は工夫次第で繰り返し使えますよ。

    そうなんですか。凄いですね。貴重な情報ありがとうございます。
    今後ともよろしくお願いいたします。
    2015年08月10日 16:47

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