成長か分配か(菅首相の政策 後編)

 
菅首相が、読んだ本にの内容に対応した方針を打ち出してくる、という意味において注目したいのは、「デフレの正体――経済は『人口の波』で動く」という書籍。

画像


著者である藻谷浩介氏は、山口県出身の地域エコノミスト。若き頃から都市の起源や歴史、盛衰に関して興味があり、日本全国の殆どの都市、平成合併前の3200市町村のうちの99.9%、海外59ヶ国をを旅行した経験を持っている。また、2007年までに、開通している日本の鉄道の全線を完乗したという。

その
藻谷氏が、現地を歩き、つぶさに観察した結果導かれた日本に対する「傾向と対策」がこの著書に述べられている。

藻谷氏は、経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だという。

日本の生産性を幾ら向上させたとしても、それを使ってくれる人がいなければ、経済は回らない。ただでさえ、人口が減少し始めた日本であれば尚更のこと。

日本の金融資産の大半は老人世代が持っている。2009年の調査によると、日本の年代別個人金融資産は60歳以上が日本全体の6割(838.6兆円)、50代以上で数えれば、実に全体の8割(1152.2兆円)に及ぶ。

だけど、現役世代と比べて、老人世代はあんまりお金を使わない。

今の日本で老人世代ともなれば、大抵は、持ち家もあるし、子も独立しているから、赤ん坊のオムツの心配もしなくていいし、子供を食わせてやったり、習い事をさせたりする費用も要らない。つまり、そんなにお金を使う必要がない。消費性向は低くなる。

ならば、相続税を軽減するなりなんなりして、遺産相続し易くすれば、いいじゃないかとも思うのだけれど、事はそう簡単じゃない。

藻谷氏は、日本の平均寿命の高さに着目し、遺産相続が、いわゆる「お爺さん、お婆さん」の世代から、「お父さん、お母さん」への世代への富の移転ではなく、「ひいお爺さん、ひいお婆さん」から「お爺さん、お婆さん」へ移転になっていると指摘する。

世界に冠たる長寿国の日本では、相続する側ではなくて、相続される側の平均年齢が67歳になっているという。

老人世代から老人世代への「老々相続」。確かにこれでは、あまり消費には結びつかない。

これに対して、藻谷氏は、日本のデフレを解消する方策として、次の目標および具体策を挙げている。
日本経済再生の目標:
 1.生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める
 2.生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やす
 3.個人消費の総額を維持し増やす

日本経済再生の具体策:
 1.高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進
 2.女性就労の促進と女性経営者の増加
 3.在日外国人観光客・短期定住客の増加

藻谷氏の指摘どおり、日本の長寿が、逆に日本の消費の足枷になっている現状があるのであれば、こうした対策は有効に働くものと思われる。なぜなら、これらの処方箋は日本の現役世代の所得を増やすものであるから。

画像


だけど、これらの方策を、政府が具体的にどう行なっていくかを考えると、大きくは次の2つの方向性があると思われる。

ひとつは更なる経済成長を選ぶ道。もうひとつは所得再配分機能を強化する道。

前者は、これまで日本が歩んできたように、経済成長によって、国民全体の所得を増やすことで、結果的に現役世代の所得も増やしていく方法であるのに対して、後者は、国が税金および税法改正などの手段によって、老人世代の金を取り上げて、半ば強制的に現役世代に所得を移転させる方法。

これまで菅首相は、最小不幸社会の実現だとか、増税による経済成長だとか、現実味のない話ばかり口にしていたけれど、これらは、要するに「所得再分配を強化しますよ」というだけのこと。

だから、もし、菅首相が「デフレの正体――経済は『人口の波』で動く」の本を読んで、それに反応した対応をするのなら、おそらく、経済成長路線ではなくて、所得再配分強化になると思われる。

具体的には、贈与税を下げて、相続税を重くすることで、少しでも現役世代がいるうちに、所得移転を進めてやる政策を打ち出してくる可能性がある。

実は、2011年の税制改正大綱は、既にそちらの方向に進んでいる。

相続税については基礎控除を引き下げ、また課税範囲を広げているし、最高税率も50%から55%にしている。

一方、贈与税のほうは、65歳以上の親から20歳以上の子への「生前贈与」の対象を「子」から「孫」へ広げているから、これにより、現役世代への所得移転促進を狙っているものと思われる。

実際、財務省幹部によれば「若い世代に比べ相続した財産をあまり使わない」のが課題だったというから、明らかに狙い撃ちしていると見ていい。

この方針は、昨年11月11日、政府税制調査会が全体会合で打ち出していたから、その時点で方針は固まっていた。

だから、菅首相が、年明けにのこのこと「デフレの正体――経済は『人口の波』で動く」を買って読んだとすれば、もしかしたら、財務省あたりからの"御進言"によって、読まされただけかもしれない。

増税、増税、また増税。そしてバラマキ。

菅首相が次に何を言い出すのか。空き菅に詰まっているものを見ておく必要がある。


画像 ←人気ブログランキングへ

画像生前贈与の特典、「子」から「孫」に拡大 若い世代に資産引き継ぎ 2010.11.11 18:00

 政府税制調査会は11日、高齢者の資産を若い世代に引き継ぎ、消費を活性化させるため、生前贈与を拡充する方向で調整に入った。贈与税が軽減される「相続時精算課税制度」の対象を「子」から「孫」へ拡大する一方、死後の相続税は増税する。2011年度税制改正で実施する方針だ。

 遺産を残す「親」の年齢は、高齢化の進行で80歳以上が、2008年で61.1%を占め、1989年の38.9%から30ポイント以上も上昇している。親が80歳代だと子の年齢は50歳代以上になると想定され、「若い世代に比べ相続した財産をあまり使わない」(財務省幹部)のが課題だった。

 相続時精算課税制度は65歳以上の親から20歳以上の子への生前贈与が対象。2500万円まで非課税で、超過分に20%が課税される。基礎控除が110万円の通常の贈与税に比べて負担が少なく、税調は同制度の対象を、子から孫へ広げる方針だ。

 一方、相続税は課税対象から差し引く基礎控除額を縮小し、実質増税にする。相続税はバブル期の地価高騰で基礎控除が増額されたが、その後の景気低迷で納税者が減少し、現在は死亡者100人に対し4.2人しか支払っていない。税調では富裕層の負担を増やし、社会保障サービスの財源などに充てたい考えだ。

URL:http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/101111/fnc1011111800018-n1.htm

この記事へのコメント

  • 八目山人

    金融資産が老人に偏っているのは、外国でも同じじゃないの?
    ところでこの人本当に頭良いの?ちょっと疑問。

    諸悪の根源は、東京一極集中ですよ。
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 日本経済再生の具体策:
    >  1.高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進

    やはり高齡層には自らお金を使ってもらうのが良い.
    何故なら, 同じお金をとられるにしても, ハッピー
    になる方がやり易いに決まっている. それに, 金は
    まず使わないと国民経済に寄与しない. だから,
    まず使ってもらうことが政策の第一歩だ.
    単なる所得移転では子供手当と同じ.

    伝統的な日本の観光地をもっと整備して, 高齢者が
    ゆっくりと楽しめるようにすべきだ. 聞くところに
    よると, かつての観光地には支那人・朝鮮人がいっぱい
    押しかけるので日本人は益々いき辛くなっているらしい.
    だから, 観光も日本人が行き易い様にすべきだ.
    私だって, 日本旅館に泊まったらあちこちから
    外国語の怒鳴り声が聞こえるのでは御免だ.

    また高齢層が少しでも損を感ずるような政策は財布の
    紐を緩める点で逆効果だと思う. その意味で, 相続税は
    少ない方が良いし, 相続に関する民法を見直して,
    残す側の意志をもっと尊重するようにすれば良い.
    2015年08月10日 16:47
  • almanos

    更に付け加えるなら老々相続をしても、その次に相続する世代がいるか? という問題があります。何せ少子化を推し進めてしまいましたからね。つまり、老々相続の後は誰も継ぐ者がいないという状況が起きる。だからって、増税してうまくいくか? これも疑問です。少なくともベーシックインカムの大々的な導入で、ただ食って寝てだけなら働かなくても出来ますとするくらい思いきらないと難しい。そして、空き管首相にそういった対策をぶち上げるだけの時間があるか? そっちの方が問題です。
    2015年08月10日 16:47
  • 「ど」の字

    >増田悦佐氏の著作
     あの方の論旨にはほぼ同意いたしますが、田中角栄氏の業績をほぼ否定していることについては自分は異論があります。
     地方共同体の衰退が日本全体の活力を奪いかねない事態に頭を痛めて、田中角栄氏は『日本列島改造論』をぶち上げたのだと自分は考えていますので。
    (ただ、その方法が地方の一次産業に補助金をばら撒く形の手法に終わり、それが日本の産業と経済を歪めかえって地方の活力を殺いでしまったという論には完全に同意します)
     増田悦佐氏の最新著作では、田中角栄氏の出現は世界から一人勝ちの事態を責められ攻撃されないよう、日本という共同体はあえて労農左派思想の田中角栄氏を首相にした(一旦日本の成長力を世界の歩調に合わせて緩めた)という無意識のバランスを指摘しています。自分はこの点においても全く同意します。
    2015年08月10日 16:47
  • mohariza

    金が廻れば、その金に関わる人が潤う。
    金は、高齢者が今は持っている。
    金を出したがる方法(方策)を考えれば良い、こと。
    簡単な理屈です・・・。
    2015年08月10日 16:47
  • とおりすがり

    中国人船長の不起訴処分が来週にも決定するそうです!
    国民を蔑ろにする処分方針を許してはなりません!
    是非、検察庁に抗議の電話・FAX・メールを送り、在宅起訴への道を開きましょう!!
    2015年08月10日 16:47

この記事へのトラックバック