昨日のエントリーの続きです。今日で最終回になります。
日比野 先ほどの話に戻りますけれども、Kさんは、日米同盟を修復して、中国とも関係を繋げば、日本の国防は大丈夫だと見ていますか?中国だけではなくて、北朝鮮の問題もあります。
K氏 日本の安全保障を考えた場合、日米同盟が大きな役目を果たしていたことは間違いないよね。今だってアメリカに喧嘩を売る"ばか"はいないよ。今の日本の安全保障に不安感があるんだとしたら、それは、中国が日本に攻めてくるんじゃなくて、アメリカが東アジアから撤退していくんじゃないかという不安だと思うんだな。日米同盟がしっかりしていた間はそんなこと考えなくてもよかったんだけども、去年、鳩山が日米関係を壊しにかかったので、その辺りが怪しくなったんだね。万が一(まんがいつ)、日米同盟が破棄されたとしたら、それは危ないですよ。日本独自で防衛だなんて勇ましくいうのは、気分はいいかもしれんけども、それに掛かる金と人員、あとは教育だな、それを考えてごらんなさいな、とても簡単にいく話ではないことは誰にでも分かる。それに日本が独自防衛をやると宣言したら、それを口実に中国も更なる軍拡に走るだろう。中国からみたら、日本は怖い国なんだよ。何しろ軍隊が強かったからね。北朝鮮にしたって、日米同盟が堅持されている間は直接日本に手は出せない。この間だって、金正日はF-22の爆撃を恐れて隠れていたんだろう。北朝鮮に対しては、日米韓でがっちりスクラムを組むだけで、抑えることができる。そうしておいて、外資を入れて経済的に北朝鮮を変えていくことが一番いいと思うね。北朝鮮は独裁政権だから、簡単には倒れないと見る向きもあるようだけども、意外と独裁っていうのは脆弱なものなんだよ。独裁者がしっかりしているうちはいいけども、"ばか殿"が世継ぎになったら国が無くなっちゃうからね。それが分からないほど側近達も馬鹿ではない。クーデターを起こすなり、上手く隠すなりして、外からは分からないように集団指導体制に移行するようになる。今は丁度、金正恩を"世継ぎ"にしようとしているよね。金正恩が金正日以上に"切れ者"だったらもう少し時間がかかるかもしれないけども、金正日以下の"ばか殿"だったら、北朝鮮の独裁体制が金正日の代で終わる可能性だってある。特に今は核問題で周りから睨まれているんだから、仮に金正恩が金正日並みに能力があったとしても、これまでのように切り抜けられるとは限らないな。アメリカも空母を3隻もアジアに派遣してるんだろう。北朝鮮にとって、昔よりずっと状況は厳しくなってる。経済にしても食糧にしてもそうだな。
日比野 北朝鮮を封じ込めるのは分かりました。けれども、中国を封じ込める事についてはどうでしょう。私はアメリカの戦略として、中国の封じ込めにかかっているのではないかと思っているのですけれども・・・
K氏 封じ込めというのは?
日比野 あぁ、たとえば、昨年9月に、アメリカとベトナムが合同軍事演習をやったように、軍事的に中国を封じ込めて、領土侵略をさせないという意味です。
K氏 軍事的に"封じ込める"って言ったって、あれほどの国土を持つ大国だからね、簡単にはいかないよ。北はロシアとの国境線、南はインド洋から南シナ海、東シナ海まで、常時軍隊を張り付けて置くなんて出来ないしね。だから"封じ込め"というのなら、それは、中国をして、自分達の拡張政策を諦めさせられるかどうかということであって、蟻の子一匹通さないというわけじゃないよな。そんな事とても出来るもんじゃない。昔なら万里の長城があれば、侵入は防げたかもしれんけども、今やあそこは観光地だからな。それに海に長城は作れないしねぇ。
日比野 もちろん、国境封鎖線のようなものを作って、蟻の子一匹通さないようにするのは無理だとは承知してます。ただ、昨今の中国の態度は明らかに領土拡張を志向していると思います。南シナ海の南沙、西沙の両諸島もそうですし、尖閣もそうです。最近は沖縄も自分達の領土だと言いだしてますし。
K氏 中国はああ見えてもね、勝てない喧嘩はしない国なんだよ。絶対勝てると思う相手には、嵩にかかってくるけども、彼我の戦力はちゃんと分析できる国だ。その証拠に口ではなんだかんだ言ってもアメリカには絶対喧嘩を売らないよね。だから、日本が中国に対して抑止力を持とうと思えば、アメリカとよしみを結んで、日米同盟をしっかり繋ぎとめておくことがひとつ。もうひとつは、中国にまだ日本とは差があると思わせることも大事だと思うね。
日比野 中国に日本と差があると思わせるというのは、やはり、自衛隊を増強するということではないのですか?
K氏 そうとばかりとも限らないんだよ。中国がここまで大きくなった原動力はなんといっても経済成長だわな。軍隊より先に経済があるんだ。もちろん軍隊を強くするには金が要るんだけども、大中華帝国をつくろうと思ったら、どうやるのが一番安上がりになるかを考えるといい。それは、なんといっても、自分からは手を出さずとも相手から服従させるように出来れば、それが一番良いわけだね。その為には、先ほどのノーベル平和賞ではないけども、経済的見返りを交渉材料に使う、レアアースなんかの資源を交渉材料に使う。「うちと組んだほうが得ですよ。レアアースがないと困るでしょう。安く売ってあげますよ。貴方の国の品物も一杯買ってあげますよ。」と、経済的な餌をぶら下げて、相手を自分のところへなびかせる。そうしておいて、経済的、文化的、人的交流をどんどん進めていって、相手の国で中国語が通用するくらいにまでになったら、事実上、中華圏に組み込まれてしまうことになる。それはそのまま大中華帝国にもなるわけだね。それだと軍隊を一兵も動かさずに済む。そういうことをあの国はやってくるんだ。だから、中国の経済力が縮小する、又は、日本の経済力が中国を上回ることが出来ていれば、少なくとも経済的には日本は中華圏に入らなくて済むようになる。そして、日米同盟がちゃんとしていれば、軍事的にも中華圏に入らなくて済むわけだね。だから、日本が経済力で中国の上をいくというのは実は大きいんだ。中国にしてみれば、自分達はこんなに大国なんだと思いたいのに、まだその上をいく経済大国が隣にあるんだよ。その国は、自分達の経済圏に組み入れることもできなければ、技術力でも上をいってる。しかも、ほんの少し前までは、戦争しても何処にも負けないくらい強かった。唯一負けたのはアメリカだけで、他には負けてない。それで、アメリカに負けて焼け野原になったかと思ったら、60年やそこらで経済大国、技術大国としてたちまちのうちに復活した。これは怖いよ。化け物みたいに怖い国だよ。今でもハイテク戦争になったら日本には敵わないと思ってるだろう。そんな化け物の国のハイテクの力を削ごうと思ったら、経済的に没落して貰うしかないよ。そうして日本の技術者があぶれたら、皆こぞって中国にきてくれないかとか、そんなことを考えてるよ。
日比野 その意味では、日本の対中輸出がGDPの2.8%しかないというのは中華圏に組み入れられないための保障にはなりそうですね。
K氏 日中の二国間で考えればそうかもしれないけども、他の国はそうとも限らないな。たとえば、中国は一昨年辺りからASEAN諸国に合計100億ドルを超える直接投資をしているし、ASEANにとっても中国は第1の貿易相手になってるよ。それに去年の1月から、ASEAN・中国FTAが始まってるしね。関税なんかもうとっぱらってるんだよ。さっき言ったように、中国は経済的餌をぶら下げて周辺国を自分のとこになびかせようとしてるわけだね。だから、ある意味、大中華帝国への準備はもう始まっているとも言えるんだ。本当は日本もそうしたことを見越した上で国家戦略を考えるべきだと思うよ。
日比野 今の話を聞くと、民主党政権では不安がつのるばかりですよ(苦笑)。でも、せめて良い年であるように、希望だけは失わないようにしたいですね。Kさん、ありがとうございました。今年もよろしくお願いします。
K氏 はい。こちらこそよろしく。

この記事へのコメント
sdi
本年もよろしくお願いします。
K氏の見解は経団連はじめ財界の日中間の経済関係を重視する方々の統一見解のようなものだと拝察します。新聞や雑誌などのコラムより、対談形式になっているので理解しやすかったです。書き起こし感謝します。まあ、国内の論敵(笑)の言い分が良くわかりました。
三橋貴明氏の分析手法と真逆の方向に感じられて興味深いですね。(割合を見よVS絶対値重視etc)
気になると思えるのは「少なくとも中国は自分と同じくらい利口で行動原理も共通。だから馬鹿な真似はしない。」「経済関係が緊密になれば争うことはできなくなる」と判断しているように感じられるところです。いわゆるDQNな判断・行動はありえないと思っておられるのでしょうか。
ちび・むぎ・みみ・はな
> いいかもしれんけども、それに掛かる金と人員、あとは
> 教育だな、それを考えてごらんなさいな、とても簡単に
> いく話ではないことは誰にでも分かる。
投資による経済効果を考えていないのは不見識.
大変なことこそ結果は大きい.
> 中国は経済的餌をぶら下げて周辺国を自分のとこになび
> かせようとしてるわけだね。だから、ある意味、
> 大中華帝国への準備はもう始まっているとも言えるんだ。
日本がその気なら ASEAN は日本に付く. 何故なら,
ASEAN 諸国は支那の圧力を常に感じているから.
全体を通して, K 氏は経済通のようだが, レアメタルでは
支那が下手を打ったことがほぼ共通認識になりつつある
ことに触れていない. 基本的に現状維持を上策とする人か.
ものの言い方から, 分かっているようで重要なところで外す
(気がする)亀井氏を思い浮かべた.