本を読む本(学習と理解について その2)

 
「本を読む本」という名著がある。

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これは、「読む」ことによって知識を得、理解を深め、優れた読書家を志す人のために書かれた本で、良書をより深く理解するための、積極的な読書技術について書かれた本。

著者は、シカゴ大学哲学教授を務めたM.J.アドラー(1902年生)と、コロンビア大学英文学教授、エンサイクロペディア・ブリタニカ・インコーポレイティッド副社長を歴任したC.V.ドーレン(1926年生)の二氏。

この「本を読む本」は1940年の発行ながら、各国語に翻訳されて読みつがれ、その内容は今もなお古びていない。

「本を読む本」によると、読書には四つのレベルがあるという。

そのレベルとは、次のとおりで、レベルが上がるほど高度な読書法になる。
レベル1:「初級読書」…その文は何を述べているか理解する読み方
レベル2:「点検読書」…短時間に本の内容を把握する読み方
レベル3:「分析読書」…理解を深めるための読み方
レベル4:「シントピカル読書」…あるテーマについて複数の本を関連付ける読み方

まず、初級読書なのだけれど、これは本に書いてある内容を"読める"というレベルの基本中の基本を指す。初級読書にはさらに4つの段階があって、下から、文字を目で認識できて、簡単な文を話すことができる「読み方準備期」、次に、単語の語彙数が増え、文章の意味を取れるようになる段階、更に、文脈を辿って知らない単語の意味を推測できて、他の分野の本にも手を伸ばす段階。そして最後に、本に書いてある概念を消化して次の本を読むようになる段階があるという。

この初級読書は、小学生か中学卒業までに修得すると著者であるアドラーとドーレンは説く。

第2のレベルの点検読書は、限られた時間内で出来る限りの情報を取る読書技術で、なによりもまず、その本の概略を掴むことを目的とする。

やり方としては、俗にいう「拾い読み」「流し読み」を駆使して大まかに内容を掴む方法。具体的な方法として、次のような例を挙げている。

 ・表題や序文を見ること
 ・本の構造を知るために目次を調べる
 ・索引を調べる
 ・カバーに書いてあるうたい文句を読む
 ・その本の要(かなめ)と思われるいくつかの章をよく見る
 ・ところどころを拾い読みする
 ・理解できない部分は読み飛ばして、さっと通読する

こうした技術を駆使することで、自分にとって"読むべき本"を抽出できるようになるという。

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第3のレベルである分析読書は"読むべき本"の内容をより深く理解するための読み方で、そこには3つの段階とそれぞれにいくつかの規則がある。それは次のとおり。
分析読書の第1段階(概略を掴む段階)
 規則1:読んでいる本がどんな種類の本か知ること
 規則2:本の内容を2~3行、若しくは数行で表してみること
 規則3:本の主な内容がどのように配置され全体を構成しているか示す
 規則4:著者の問題としているのは何であるかを知る

分析読書の第2段階(解釈する段階)
 規則5:著者の言葉の使い方を理解し、折り合いをつける
 規則6:最も重要な文に注目して、命題を見つける
 規則7:見つけた命題に対する著者の論証をチェックする
 規則8:著者の提示した命題の中で解決したものは何かを検討する

分析読書の第3段階(批評する段階)
 規則9:本の内容が分かる迄は、賛成・反対・保留かの判断をしない
 規則10:反論は筋道立てて行い、けんか腰の反論はしない
 規則11:判断にはその根拠を示し、知識と個人的意見を区別する
 規則12:著者の知識不足の点を明らかにする
 規則13:著者の知識に誤りがある点を明らかにする
 規則14:著者が論理性に欠ける点を明らかにする
 規則15:著者の分析や説明が不完全である点を明らかにする

これらの規則はあくまでも理想ではあるけれど、こうした分析読書を行い、本を本当に自分のものにすることで、読み手は書き手の水準に到達できるのだという。

そして最後の第4のレベルのシントピカル読書(比較読書法)になるのだけれど、これは、ひとつの主題について複数の本を関連づけて読むことで、それらの本に「明確には書かれていない」主題を自分で発見して分析するレベルに到達した読書法で、読者に対して最高度の積極性を要求する方法になる。

このシントピカル読書には、5つの段階がある。それは次のとおり。
シントピカル読書の第一段階:それぞれの本の関連箇所を見つける
シントピカル読書の第二段階:それぞれの著者の"言葉の使い方"の整合をとる
シントピカル読書の第三段階:それぞれの本に対する質問を明確にする
シントピカル読書の第四段階:それぞれの本の意見の違いを見極め、論点を定める
シントピカル読書の第五段階:それぞれの本の論考を分析する

シントピカル読書でも、分析読書の第1、第2段階で行っていた、概略を掴み、それを解釈するというプロセスを同様に行うのだけれど、その前に、まず、それぞれの本を同じ"まな板"に乗せて料理するための下準備をする必要があり、そのためのプロセスが追加されている。

その上で、更に、分析読書の第3段階で行う批評というプロセスをシントピカル読書でも行う。

これらの読書法を身につけ、熟読に値する本を一度じっくりと読むことで、その本が与えてくれるものは残らず吸収できると説く。

こうしてみると、読書方法及び読書レベルによって、その理解の程度に明らかな差ができるであろうことは疑いない。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    戦場にならなかった国は学問が連続していて羨ましい.
    日本は米国の占領政策で高等教育が断絶したため,
    学問の連続性が失われた気がする.
    日本の教育を良くするためには, 案外, 江戸時代の
    寺子屋教育にヒントが発見できるかも知れない.

    レベル1の大学生が結構存在する. 参考書も視覚的に
    しないと学生が分かった気にならない. 考えることを
    忌避する, 或は「考える」と「思う」を区別できない
    ことが多い.

    米国の大学では20年ほど前から critical learning が
    真面目に検討されてきている. 上記のレベル4に相当
    すると思う. 年齢的には, 大学生の2, 3年からレベル4
    に移行するらしいが, それでは近代の大学教育に
    ついて行けないので, 初年度で critical learning を
    行なう. その伝統は現在の米国大学のカリキュラムに
    しっかりと組み込まれていると思う. 高い授業料を
    とるだけあって, 人間を育てることを真面目に
    考えている.

    逆に, 日本のようなほぼ全入の大学は別の次元で考え
    なければならないのかも知れない.
    2015年08月10日 16:47

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