「丸暗記」より「書くこと」(学習と理解について その1)

 
学習と理解について、全3回シリーズでエントリーする。

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「サイエンス」に興味深い研究結果が発表された。

1月21日付で掲載されたこの研究は、学習したものを記憶するには、どのような方法が最も効果があるかを調査したもので、学習した内容を題材にして文章を書くことが一番良いという結果が得られたという。

研究は、大学生200人に対して、科学に関する短い文章を5分間読ませた後、それぞれ「詰め込み勉強風に何度も読み返す」、「概念等の相関を表す地図(コンセプトマップ)を作成する」、「読んだ文章に関してエッセイを10分で書く」の3つのいずれか1つを行うよう指示が与えられた。
※コンセプト・マッピング法は1960 年代にコーネル大学のJ. D. Novak 教授によって開発された手法で、事象間の関係をあたかも地図のように図示して整理する方法である。川喜田二郎氏の「KJ法」近い手法。

そして、1週間後、学生達に覚えていることに関する簡単なテストを行い、また、書かれていた事実を基に論理的な結論を引き出す質問をした。

その結果、一番成績が良かったのは、エッセイを書いたグループで、次が何度も読み返したグループ、最後が概念等の相関を表す地図を作成したグループの順となった。

次に、それぞれのグループに、記憶を頼りに概念等の相関を表す地図(コンセプトマップ)を作成するよう指定したところ、これも一番成績が良かったのはエッセイ書いたグループで、次がコンセプトマップを作成したグループ。最後が何度も読み返したグループという結果となった。

これらの結果を見る限り、エッセイを書くという行為は、学習したものを理解する最良の方法の一つだといえる。

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特に面白いと思うのは、コンセプトマップを書くという課題でさえも、エッセイ書いたグループの方が、一週間前にコンセプトマップを作成したグループを上回ったという点。

自分で考えて書くという行為が、これほどまでに、学習した内容を理解するのに有効なのかを示していて、興味深い結果だと思う。

さて、この研究を行う過程で、学生達に指示され3つの課題、すなわち、「何度も読み返す」、「コンセプトマップを作成する」、「エッセイを書く」の3つを行う際に頭がどう働いているかを考えてみると、それぞれ次のような特徴があるように思う。

まず「何度も読み返す」方法については、反復繰り返しによる記憶の定着に主眼があると思われるのだけれど、反復繰り返しであるがゆえに、文章中の概念やその定義、また、概念同士の繋がりや関係などについて、左程注意は払われておらず、読んだものをそのまま理解するという、強弱の少ない"平坦な"学習になるきらいがある。

それに対して「コンセプトマップを作成する」方法は、逆に"概念等の相関を表す地図"を作成しなければならないから、文章中の概念や概略とそれらの相関関係に注意を払うことになるから、読んだ文章が何について書いているのか、その概念はどの概念と関係があるのか、という具合に、何が大事で、何が大事でないかを峻別して、文章の構造を見てゆく、いわゆる"強弱をつけた"、あるいは"立体構造的"な学習になってゆくと思われる。

そして、最後の「エッセイを書く」という方法は、読んだ文章の内容に関して、自分の見解なり批評を下すということだから、「コンセプトマップを作成する」方法で行うような、文章中の概念同士の関係を見るだけじゃなくて、更にその概念の"定義"がどうなされているのか、すなわち、如何なる論理によって、その概念にたどり着いたのか、という行間も読んでいく読み方、いわゆる「作者の考え方に足を踏み入れる形」での理解の仕方をするのではないかと思われる。

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こうして、3つの方法それぞれの頭の使い方を推測してみると、少なくとも一番頭を使っていると思われるのは「エッセイを書く」という方法になることは間違いないだろう。

残りの2つに関して、どちらが頭を使っているのかについては、少々難しいところで、それは頭の使うベクトルから違っているからに起因するように思う。

丸暗記型の「何度も読み返す」方法は、何が大事で、何が大事でないか、といった"強弱"はあまりつけない代わりに、漏れなく全部覚えようとする方向に頭を使うから、概念同士の関係には多少疎くなるけれど、記述されていることに対する取りこぼしは少ないように思う。

それに比べて「コンセプトマップを作成する」方法は、逆に、概念の相関を捉えるのに主眼が置かれているから、文章の構造を把握するのには向いているのだけれど、文章を読む際に、大事な部分とそうでない部分を"本人の主観"で峻別していくために、ともすれば、折角把握した概念構造が"骨組み"だけになってしまって、ディテールの部分が抜け落ちてしまう可能性がある。

つまり、「何度も読み返す」方法と「コンセプトマップを作成する」方法は、それぞれどちらも、それなりに頭は使っているけれど、互いに一長一短の部分があると捉えたほうがよいかもしれない。

それが、先の研究で、覚えていることに関する簡単なテストや、書かれていた事実を基に論理的な結論を引き出す質問では、「何度も読み返した」グループが「コンセプトマップを作成した」グループより良い結果となり、また、コンセプトマップを書くという課題では、その逆の順位になるという結果として現れたように思う。

この、丸暗記型の「何度も読み返す」方法と「コンセプトマップを作成する」方法は共に、学習方法のひとつとして使われているけれど、現実には、それぞれの学習目的に合わせて使い分けられているのではないかと思う。

その意味では、日本の学生の伝統的な勉強方法でもある"丸暗記"は、日本の学校のテストが、幅広い範囲の記憶力を問う、いわゆる「穴埋め」式テストが主流を占めていたからで、単にそれに最も適した学習方法を選択したに過ぎないともいえる。

もし、日本の学校のテストが"穴埋め式"から"コンセプトマップを作る式"に替わることがあれば、それに対応した学習方法が流行るのではないかと思われる。


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画像「書くことの効果」実証される 2011年1月25日

学習し、記憶するには、それを題材にして文章を書くことが一番良い効果があるようだ。

1月21日付けで『Science』に掲載された研究では、大学生200人が科学に関する短い文章を5分間読むように求められた。

学生にはその後、次のいずれかの指示が与えられた。テスト向けの詰め込み勉強のように何度か読み返す、題材に関する「コンセプトマップ」[概念等の相関を表す地図]を作る、読んだ文章に関する自由形式のエッセー(小論文、作文)を10分間で書く、という指示だ。

1週間後、学生は覚えていることに関する簡単なテストを受け、また、書かれていた事実を基に、論理的な結論を引き出す質問をされた。この成績は、最初にエッセーを書いたグループが1番良く、次は詰め込み勉強のグループ、最後がコンセプトマップ作成のグループだった。

学生は次に、記憶を頼りにコンセプトマップを書くように求められた。ここでも成績は、エッセーを書いたグループ成績が1番で、もともとコンセプトマップを作成したグループを上回った。

この結果は限定的なものではあるが、同研究で「検索練習(retrieval practice)」と呼ばれている「エッセーを書く行為」が、学習の強力なツールであることを示唆している。[検索練習では、「思い出す」という行為を能動的に行なうことで、記憶へたどり着くための経路が強化され、記憶が取り出しやすくなるとされる]

進歩的なカリキュラムの中では、コンセプト・マッピング(日本語版記事)のようないわゆる「精緻化(elaborative)」の手法が強調されているが、検索練習の効果は過小評価されている可能性がある。

一方で、コンセプトマップの作成や詰め込み学習も、少なくともある方向においては有用であることが証明された。学習の自己評価を問われたとき、これら2つの手法を用いたグループが報告した理解の自己評価は、エッセーを書いたグループよりも高かったのだ。理解度はともかく、理解したという気分にはなっていたということになる。

参考論文:“Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping.” By Jeffrey D. Karpicke and Janell R. Blunt. Science, Vol. 331 No. 6015, January 21, 2011.

[日本語版:ガリレオ-緒方 亮/合原弘子]

URL:http://wiredvision.jp/news/201101/2011012520.html

この記事へのコメント

  • mohariza

    大学時代、「KJ法」で、みんなで案を出そうとしましたが、根本的なことは創出 出来ませんでした。
    キーの言葉の抜き書きをいくら並べ変えても、その言葉を繋ぐものが大事だと思います。
    考えを深めるには、文章化するのが、一番で、
    箇条書きも良いですが、やはり、接続詞によって、論理展開することが、
    肝要と思います。
    頭の良さも、その人の文を読めば、分かります。
    特に、短い文にまとめられる人ほど、頭がよく、論理性が分かると思います。
    キーになる言葉を見出すのが、大事なことは当然ですが…。
    2015年08月10日 16:47
  • mayo5

    日本の技術者が好きなのが箇条書き。向こうの技術者は、だらだら文章を連ねてくる場合が結構多い。日本語はAND, ORの記述があいまいになるせいなのだろうか。

    箇条書の項目同士をそれらしく結べばコンセプト・マップが出来上がる。それらしく、それらしく。

    ただし、その関係を言葉で論理的に表す作業を省略してしまうと理解度が半端になってしまう。プレゼンなどでは、適当に補っているつもりでも、台本が無場合はやはり独りよがり。やはり言葉は大切なんです。それも「母国語」が。

    書くことは考えることです。でもタイプする事はちょっと違うんですね。万年筆の写真が出ているのはその暗示でしょうか。日本語には日本の万年筆の方が相応しいですよ。

    最近、コンセプト・マップしか作っていないから、見かけはできても実体がない状況です
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 学習した内容を題材にして文章を書くことが一番
    > 良いという結果が得られたという

    これ当然. 優れた結果を出している塾ではやっていること.
    米国には塾がないからわざわざお金をかけて研究する訳.

    「お母さんは勉強を教えないで」(見尾三保子, 新潮文庫)
    という本がある. それによれば, 文章を読んで要約する
    作業を徹底的に行なう, つまり, 学生の書いたものを
    添削し, 理路整然とした内容になるまで書き直させると
    驚くことに全ての教科の成績が良くなる.

    当然ですな. 算数でも理科でも国語でも, 核心は
    理路整然と考えること. 勿論, 高等教育でも同じ.

    最近, 大学では最先端教育と称して, プロジェクタに
    よる授業が増えている. 中身は確かに最先端かも
    知らないが, 学生は最先端の授業を受け, あたかも
    最先端の能力が付いたように勘違いする. そして,
    授業の資料を download して一見落着.

    江戸だろうが, 明治だろうが, 平成だろうが,
    効率の良い勉強のやり方は変わらない. 教えられた
    内容を自分の中で再構成して整理すること.
    始めから頭の回転が良い人はそれが分か
    2015年08月10日 16:47

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