マイクロ発電とNAS電池
昨日に続いて、電気関連のエントリーを・・・
1.やまホタル構想
「やまホタル構想」というものがある。
これは、太陽光・風力・水力などの自然エネルギーを利用し、自然と共存する産業を育むという考えで、日立などが提唱している構想で、その中にエネルギーを回収するシステムとして、「マイクロ水力発電」という技術が開発されている。
これは、会社のビルや病院、学校、工場などのように空調や設備のために、冷却水や工業用水を使っているところなんかは、水を屋上などにポンプで汲み上げてから、下層に供給したり、冷水又は温水を循環させてビルの冷暖房を行なったりするのだけれど、水を下層に供給する際の落下のエネルギーを使って発電してしまおうというのが、「マイクロ水力発電」。
その仕組みは以外と簡単で、水を循環させる配管に、発電機と一体になった水車を取り付けて、回転させるだけ。これで発電する。
現在、ビルなどでは、9kWのマイクロ発電が実用化されていて、たとえば、埼玉の富士ゼロックスの岩槻事業所では、空調設備の冷水を利用したマイクロ発電システムを採用し、2003年から稼動しているのだけれど、年間約4万2千キロワットの電気を発電して、廊下やエレベーターの照明などに利用している。
このマイクロ水力発電方式は、水流の高低差さえあれば発電できるから、ちょっとした段差のある小川や、上下水道、農業用水からでも発電できる。
山形県鶴岡市では、2009年1月に、市の下水道水路に、直径1.2メートル、幅1.3メートル、重さ300キロの水車を設置して、毎時3キロワットの発電実験を行なったのを皮切りに、公園など他の場所での発電に取り組んでいるし、栃木県那須の百村では、農業用水路に設置したマイクロ水力発電が導入され、百村第一の30キロワット設備と百村第二の90キロワットの設備が実運用されている。
とりわけ、富山や長野でも小水力発電が広がっているようだ。
以下は、都道府県別の2008年度の自然エネルギー自給率を示したものなのだけれど、自給率の高い大分県では25%以上、富山や秋田で16%以上となかなかの自給率がある。
尤も、どの自然エネルギーを使うのかについては、地域ごとに特性があって、たとえば、自給率が25%を越える大分では地熱発電が7割を超えていて、小水力発電(一般的には2,000kW以下)は15%程しかない。それに対して、富山、長野での小水力発電の占める割合は8割以上で、地熱発電は10%にも満たない。
日本では、大規模な水力発電、要するにダムのことだけれど、それを建設する立地を見つけることが難しく、また地熱発電も、温泉旅館等の反対もあって、大規模に進めることが難しいと聞く。
だから、マイクロ水力発電のように、ちょっとした水路やビルの冷却水の循環系などを利用して、ちょこちょこ発電する方式は今の日本には向いているように思う。
2.電気を蓄える
ただ、自然エネルギーによる発電にはひとつ欠点があって、それは、自然に頼った発電システムであるがゆえに、発電量が自然任せになり、不安定になりがちだということ。
太陽光発電だって、曇りや雨の日には発電効率が落ちるし、風力発電は風がなければ発電不能。波力発電も津波で設備が流されたらそれっきり。
だから、自然エネルギーによって発電した電気を安定供給するためには、どうしても、電気を一時的に蓄えておく仕組みとセットで考えておく必要がある。
つまり、大容量の蓄電システムの開発も必要になるということ。
電流は電荷を持った粒子、すなわち電子などの流れのことだから、電子が流れなくなったら、その途端電流はゼロになる。つまり電気は、風と同じようなもので、流れなくなった時点で電気でなくなる。だから、電気はいくら貯めたくても、貯める行為それ自体が電気の流れを止めることになるから、電気を電気のままで貯めることは非常に難しい。
そこで、電気を貯めるために、その電気エネルギーを一度別のエネルギー形式に変換してから貯める手法が使われる。
たとえば、ダムなんかの水力発電では、水の落ちるエネルギーを利用して、発電するけれど、発電したら、その分ダムの水が少なくなるから、水が全く補給されないと、ダムは干上がって、それ以上発電できなくなる。
そこで、ダムは水を流す量を調整したりするのだけれど、中には、上下に水をためるプールを作って、電力消費が落ちる夜間の間に、余剰電気を使って、ポンプで下から水を汲み上げて、貯めなおすタイプのものがある。これは、揚水発電と呼ばれるもので、夜間の余剰電気、いわゆる余剰の電気エネルギーを水の位置エネルギーに形を変えて貯める大型の蓄電システムと見做すこともできる。
これは、電気エネルギーを位置エネルギーとして貯めた例だけれど、他にも電気を運動エネルギーに変換したり、磁気エネルギーに変換したり、化学エネルギーに変換したりして蓄電する。
今では、円盤を回転させつづけることで運動エネルギーとして蓄える技術や、超伝導状態を作って、電気抵抗がゼロになったコイルに電気を流して強力な磁界をつくり、磁気エネルギーとして蓄える技術(SMES)などが開発されている。
ただ、これらの技術は、回転運動をキープするために摩擦を極力ゼロにしたり、超伝導状態を作ってやらなければいけない関係からある程度、冷やしてやらなければならず、実用化までは、もう少し時間がかかる。
したがって、現時点で一番実用化に近いのは、やはり、電気を化学エネルギーとして蓄える方法。ひらたくいえば電池。
現在開発されている、充電池の中で有力視されているのが、NAS電池。
NAS電池(ナトリウム硫黄電池)とは、負極にナトリウム(Na)、正極に硫黄(S)、仕切りとなる電解質の層にはベータアルミナセラミックスを使用した電池で、300度付近で、放電および充電動作を行なう。
この電池の特徴は、エネルギー密度が、鉛電池の約3倍と非常に高く、小さくとも大量の電気を充放電できることや、2500回以上の充放電に耐えるなど、寿命が長いこと。
このNAS電池は既に実用化されていて、たとえば、青森県六ヶ所村の風力発電所には、定格出力34MWのNAS電池が使われているし、UAEのアブダビでは、2014年を目標に、実に300MWの蓄電システムを設置する計画が進んでいる。
自然エネルギーと蓄電技術の組み合わせ。未来の日本を支える技術の一つになると思う。
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この記事へのコメント
sdi
・一つ一つの導入コストは比較的低廉
・社会的に問題意識が浸透しやすいの節約運動が同時発生的に励行しやすい
問題点は
・運用・保守コストも「チリも積もれば」いつのまにかボタ山に
・システムの各拠点がそれぞれ僅かずつ性能低下していった結果、何時の間にか全体での性能低下が無視できない数値になりかねない。
でも、やはり最大の問題点は絶対的な発電量が小さいことです。
現状、日本がやるべきなのは天然ガス火力発電所の早急な建設でなるべく早期に今の窮屈な電力事情を改善して社会の気分を前向きすることと、大規模蓄電技術の開発に国家の総力を挙げることだと考えます。あと、政治的に可能なら老朽化した原発の置き換えですね。
環境エネルギー資源による発電はあくまで補助的な手段、と割り切っておいたほうが良いでしょう。なにしろ「風まかせ、波まかせ」なのですから安定供給に難がある本質は変えられません。それらを計算の上で出来る範囲で活用するべきです。
クマのプータロー
almanos
白なまず