海上発電の可能性

 
原発事故をきっかけとして、その原発以外の発電方式に注目が集まっているけれど、海上で発電する方法についてエントリーしてみたい。

画像


自然からエネルギーを取り出すことについては、まだまだ可能性がある。たとえば、風力発電について見ると、一般によくイメージする、陸地に巨大な風車を立てて、なんてものではなくて、海上での風力発電というものも開発されている。

たとえば、洋上風力発電なんかもその一つ。

洋上風力発電とはその名のとおり、海上での風力発電のことで、大きく着床式と浮体式の2つに分かれる。着床式は深さ50m程度までの比較的浅い海底に風車を固定するタイプで、浮体式は50~200m程度の海に風車を浮かべるタイプなのだけれど、日本は海底が急に深くなる関係もあって、どうやら浮体式のほうが主流と目されているようだ。

既にノルウェーでは2000kW級の浮体式の実証実験を2009年夏に始めていて、日本では、2012年度に2メガワット級の実証機をつくって、16年度の実用化をめざしている。

この浮体式洋上風力発電というのは、簡単に言えば、海に浮かべるブイの上に風車をつけたり、船の上に風車をつけたもので、すごくシンプルな構造になっている。

地上での風力発電は、景観問題や近隣住民への騒音問題があって、あまり大型化することができず、必然的に発電コストが嵩んでしまうという欠点があったのだけれど、海上に設置することで、これらの問題を軽減若しくは無くすことが想定されることから、風車を大型化でき、発電コストも下がる利点がある。

また、浮体式だと、着床式のように、沖合で風車設置のための工事を行う必要がなく、港でほとんど組み立ててしまってから、最後に船で設置予定場所まで引っ張っていけばよいから、建設コストが割安になるとみられている。

画像

環境省は、沖合30キロ未満で水深50~200メートルの海域を対象に海上の風の強さなどを分析して、浮体式洋上風力発電によって生み出せるエネルギーの潜在量は、原発56基分に相当する5600万キロワットになると試算しているそうだ。

まぁ、そこまで頑張らなくても、その10分の1だけでもできれば、福島第一原発の5~6基分の発電量がカバーできることになる。

九州大学の経塚雄策教授のグループは、六角形の浮体を複数連結させるという、「風レンズ風車」を搭載する案の研究を進めている。

「風レンズ風車」というのは、普通のプロペラだけの風車とは違い、風車の前にメガホン状の筒をとりつけた構造を持つ風車のことで、いってみれば、寸詰まりの鯉のぼりの胴体にプロペラを置いた風車とでもいえようか。

この構造を持たせることで、風レンズの中心に効果的に風が集まって、風速がおよそ1.4~1.5倍になるという。通常風車による発電量は、風速の3乗に比例するから、風速が5割増程度であっても、1.5×1.5×1.5=3.375と3倍以上の発電が可能になる。

既に、実験機レベルでは、志賀島自然保護センターに高さ9.5m、定格出力1000Wの風レンズ風車が設置されている。

九州大学の案では、直径60mの鋼鉄製の六角形浮体に100kWの風車を2基載せる実証機の計画を進めているのだけれど、この六角形浮体の内側を魚の養殖いけすに使ったり、浮体の外縁に波力発電装置を備えたりすることも目指しているというから、非常に将来性があるのではないかと思われる。



また、波力発電でもこれまでのように、タービンを回す方式とは全く違った形の波力発電が研究・開発されている。その一つが、神戸大学の神吉教授らが開発を進めている、高効率ジャイロ式波力発電システム。

これは、波で海面が上下する力を利用して発電するもので、たとえば、高速で回る独楽が乗った台を斜めにしても、独楽は倒れずにそのまま回り続けるけれど、そこには、元の姿勢を保とうとする力が働いている

この力(復元力)を応用したものが、このジャイロ式波力発電システムで、何でも、波の揺れと発電機の回転数と位相を動機させることで、発電機を駆動しつづけることができるらしい。

この発電システムの特徴は、従来の波力発電より小型で、かつ、効率良くエネルギーを得られるほか、安く作れるという長所があるという。

この発電システムでは、波の大きさが0.5mから最大4mまでであれば、常に発電し続け、2006年にテストされた試作機は直径6m、高さ1.5mで10tで、発電容量は5.5kW。次の開発機で、大きさ9m×6m、高さ1.5mで13t、発電容量は20kWにもなるという。

日本の全海岸線に打ち寄せる波のエネルギーは、国内総発電量の1/3にも上る約3600万kwもあるそうなのだけれど、これまでの実験の結果、日本海側に比べ、一定の波が得られる太平洋側の方で実用化の可能性があるようだ。

わずか、10m四方にも満たないブイのような発電機で20kWも発電できるのは物凄い。今の日本の一世帯あたりの月間電力消費量は、およそ300kW程度だから、一日あたり10kWとして、この高効率ジャイロ式波力発電システムを1基浮かべておくだけで、2世帯分の電気が賄えてしまう。

なんとなれば、沿岸部にこのジャイロ式波力発電システムを繋げて何万個も浮かべておけば、それだけで、付近の住宅の電気が供給できてしまうことになる。

このように、海上で発電してしまう、という発想に立てば、意外と大きな可能性を日本が持っていることに驚かされる。

原発をあきらめて、全部風力や波力発電にしろとは言わないけれど、今回の計画停電で困らないためのバックアップとしても、いろいろな発電設備を持っておくというのもひとつの選択肢のように思う。



画像



画像 ←人気ブログランキングへ

この記事へのコメント

  • かせっち

    sdiさん:

    >「パンがなければ食べなければいいじゃないか。一食くらい抜いても死にはしない。」

    だとするならば、関東中心に行われている計画停電が全国規模で行われるということになります。一般家庭なら我慢もできるでしょうが、企業の生産活動にも影響を与えることになります。下手すりゃ廃業、或いは低廉で安定した電力を求めて企業の海外移転が進み、日本の雇用環境に悪影響を及ぼすかもしれません。彼らはその可能性をも考慮にいれているのでしょうか?

    …あ、そうか、それを望んでいるんだな(冷笑)
    2015年08月10日 16:46
  • sdi

    風力発電で原発56基分得られる計画ってこの図のことですか?
    http://plixi.com/p/87174646
    この図の赤で着色された海域にくまなく風力発電所を設置すればそれだけ賄える可能性がありますよ、という話ではなかったでしょうか。

    あと、ヘックス状メガフロートは形状から考えて強風を期待できる外洋(太平洋及び日本海)に面する海域に置けないでしょう。波浪と強風に対する耐性がない。しかし、波の穏やかな湾内などに設置すれば間違いなく海上交通の邪魔になります。それに当然ですが波が穏やかな海域になればその分得られる風力も落ちます。なにより台風襲来に耐えられると思えません。
    2015年08月10日 16:46
  • 日比野

    sdiさん。どうもです。
    >風力発電で原発56基分得られる計画ってこの図のことですか?
    http://plixi.com/p/87174646

    でしょうね。環境省の試算は、そうだと思います。ヘックス状メガフロートの波と強風に弱い件、いろいろと指摘されていることは承知してます。巷に出回っているイメージ図ほどのものは、ちと苦しい。

    私も風力発電で全部賄おうなんて思っていませんけれども、湾ならずとも、湖とかなら可能性あるかも…ですが、確かに台風は厄介です。風が強くなったら、プロペラを畳めるとか、何某かの工夫は要りそうですね。
    2015年08月10日 16:46

この記事へのトラックバック