福島原発メルトダウンの危機


一夜明けて、被害状況が明らかになるにつれて、とんでもない被害が出ていることが分かった。しかも今だに拡大している。

画像


地震もそうだけれど、そのあとの津波の被害が酷く、岩手県の陸前高田市は、津波によってほぼ全域が壊滅、宮城県の南三陸町は、町の人口の半分以上にあたる1万人と連絡が取れなくなっているという。一刻も早い安否確認を求む。

そのほかも多くの町や地域で、孤立している人々がいると言われている。ここまでの規模の巨大地震はちょっと例がない。翌日には、長野県北部で震度6の地震が観測された。

とりわけ気になるのは、福島原発。

福島第一原子力発電所の原子炉1基が、12日の午後3時半ごろ爆発。原子炉の建屋が吹っ飛んだ。

原子力発電は、構造的には、火力発電のボイラーを原子炉に置き換えたもので、火力発電が化石燃料を燃やして蒸気タービンで電気を起こすのに対して、原子力発電は、ウランを核分裂させて、発生する熱を使って蒸気タービンを回すという違いがある。

日本の原子力発電には2タイプあって、ひとつが沸騰水型軽水炉(BWR)と呼ばれるもので、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力の原子力発電所がこのタイプ。もうひとつが加圧水型軽水炉(PWR)と呼ばれるもので、北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力、日本原子力発電がこのタイプを使っている。

前者は、原子炉を冷やす冷却材に普通の水(軽水)を使用し、原子炉内を流れる1次冷却水を直接沸騰させて、その蒸気でタービンを廻している。そのため、放射能で汚染された1次冷却水を直接利用する関係上、事故の際に放射能漏れを起こしやすく、タービン室なども汚染される危険がある。

後者は、原子炉を冷やす冷却材は同じく普通の水(軽水)なのだけれど、原子炉内を流れる1次冷却水を直接沸騰させずに、2次冷却水を沸騰させるという違いがある。

そのため、2次冷却水は放射能で汚染されることはないのだけれど、1次冷却水は、加圧器で約150気圧もの圧力をかけられているために、沸騰しないまま約300度の熱水になって蒸気発生器の中に流れ込む。

蒸気発生器の中には、直径2センチほどの細い管(蒸気発生器細管)が約7千本から1万本以上も通っていて、1次冷却水はこの細管の中を通ることで、外を流れる2次冷却水を沸騰させて、原子炉に戻り、蒸気となった2次冷却水はタービンを廻したあと、「復水器」で海水によって冷やされて再び蒸気発生器へ戻る構造になっている。

この沸騰水型軽水炉は、一次冷却水が高温熱水として蒸気発生器内の細管を通るため、この細管が壊れやすく、亀裂や穴ができたり、千切れたりして放射能漏れを起こす危険がある。

画像


燃料として使うウランは「ウラン235」と呼ばれる物質で、天然ウランには、核分裂を起こさないウラン238が99.3%、核分裂をするウラン235は僅か0.7%しか含まれていない。そのため、日本で稼働している原子力発電には、この核分裂するウラン235を"濃縮"して、濃度を3%~5%にしてから使用する。

よく「濃縮ウラン」と呼ばれるものは、この天然ウランを精製してウラン235の濃度を人工的に高めたものを指す。

ウラン235に中性子が一つ当たると、ウランの原子核が二つにわれる核分裂が起こるのだけれど、この分裂のときに、また新たな中性子が2~3個飛び出し、熱が発生する。

ここで、ウラン235が核分裂した時に飛びだした中性子が、また別のウラン235にあたって、核分裂すると、そのウラン235からまた中性子が飛び出す。このように、中性子が玉突き型に次々とウラン235にぶつかると、ウラン235の核分裂が連続的に起きて、定常的に熱を発生する。これが「臨界」と呼ばれる現象で、臨界時に発生する熱は1700度から2400度と非常に高温になる。

逆に、臨界を止める、つまり原子炉を止めるためには、中性子の玉突きによる核分裂の連鎖反応を止めればよいから、炭化ホウ素やハフニウムといった、中性子を強く吸収する材料でできた、「制御棒」と呼ばれる棒を炉心に挿入または、上下させることで、吸収する中性子の数を調節して出力をコントロールしている。

実際の原子炉で使用される核燃料は、核燃料は燃料ペレットと呼ばれる長さ1cm、直径1cm弱ほど長方形の小さなセラミックに焼き固められ、この燃料ペレットをおよど350個ほど、一直線にまとめて、燃料被覆管と呼ばれる4mほどの長さの細い管に詰めこんで封印される。これが「燃料棒」と呼ばれるもので、これが炉心内で、百数十本から2百本以上間隔を空けて束にして固定される。

ここで、燃料被覆管に使われる金属には、いくつかの条件があって、蒸気を作りやすいように、熱伝導性が良いのはもちろんのこと、臨界状態を維持するために、制御棒とは逆に、核分裂の際に発生する中性子を吸収しにくい金属が用いられる。

画像


現在、燃料被覆管には、ジルカロイ合金と呼ばれる、ジルコニウムにスズ・鉄・クロム・ニオブなどを含ませた合金が使用される。

ジルコニウムは金属の中でも最も中性子を吸収しにくい金属とされ、臨界を維持するには最適な金属ではあるのだけれど、融点が1852度であり、臨界温度である1700度以上の高温では融けてしまう危険がある。

そのため、原子力発電では、燃料棒の周りに冷却水を物凄い勢いで流してやって、強制的に二百数十度まで冷やしながら運転している。

もしも、この冷却水が何らかの原因で減ったり、流れ出したりして、燃料棒が剥き出しになってしまうと、核分裂反応による熱で、燃料被覆管が融けてしまう。これが「燃料棒溶融」と呼ばれる現象。

これがもっと進んで、炉心構造物が高熱により融解または破損すると、「炉心溶融(メルトダウン)」になる。

今回の福島第一原発1号機で問題になったのは、一次冷却水の水位が低下して、燃料棒が剥き出しになり、燃料棒が融けたか、「炉心溶融(メルトダウン)」を起こしたのではないかとされる点。

原子炉がメルトダウンすると、融けた核燃料が炉の下部に溜まってゆくのだけれど、その高温によって、炉心を包む圧力容器が融けて穴があき、放射能が漏れる事故に繋がる恐れがある。

また、燃料棒を包むジルコニウムは、およそ850度で水と反応して燃え、水素が発生するから、炉心を包む圧力容器内の圧力が上昇する危険がある。もしも、圧力容器が内部圧力に耐えられずに破損してしまえば、内部の放射能が外部に露出することになる。

政府発表によれば、今のところ、圧力容器には損傷もなく、周囲の放射線濃度も上がっていないそうなのだけれど、圧力容器が損傷すればアウト。

だから、圧力容器をなんとか守ろうと、12日午後3時すぎには、福島第一原発1号機の配管の弁を開放して、圧力容器を減圧させ、今度は格納容器に海水を入れて炉心溶融を防ぐと共に、中性子を吸収しやすい、ホウ素を注入することで、少しでも核分裂反応を抑える措置を取ろうとしている。

今回の福島第一原発1号機の圧力容器の安全が確認され、放射能の露出の危険がないと判断されるまではまだまだ様子を見ないと分からないけれど、なんとか食い止めて欲しい。

【緊急追加】 放射線の種類と特徴については、こちらを参照ください。
※ http://kotobukibune.at.webry.info/201103/article_15.html





原子力資料情報室 記者会見


画像



画像 ←人気ブログランキングへ

この記事へのコメント

  • 白なまず

    今回の事故は核分裂の物理現象の問題と言うよりは冷却水を循環する電源用の発電機(ディーゼル発電機:複数機)の停止が引き金となって起こった。通常の冷却水循環では通常電源で行っていたの問題なく飛びっぱなし(オンザ・フライ)が出来ていて得に問題がなかったのであるが、想定以上の震災で電源が止まり、非常用電源の複数台が全てNGに追い込まれたのが致命的であった。仕組上や経済的理由により非常用電源を極端な想定外の環境下での運用を出来ない問題であった。今後の原子力発電の仕組は非常用電源を無くし、通常電源で発電が止まってもオンザフライできる仕組が必要と思う。
    2015年08月10日 16:47
  • sdi

    原子力情報資料室の言うことはあてになりません。あそこは以前はたしかに原子力についての情報公開を進める点で功績がありますが、仕切っていた方が亡くなって残ったのは典型的な活動家ばかりです。
    一次情報という点では経済産業省原子力安全・保安院ですが、解説付きとなるとNHKが一番あてになると思います。
    2015年08月10日 16:47
  • 日比野

    SDIさん。ご指摘ありがとうございました。「炉心溶融」と「燃料棒溶融」の違いが曖昧の表記だったので、直しました。

    格納容器が本当に大丈夫なのかどうか、心配です。いろいろと情報をあさっていますが、もう少し様子をみたいと思います。
    2015年08月10日 16:47
  • 美月

    こんばんは。取り急ぎですが、関東地方の輪番停電スケジュール表(画像化)が張ってあったページのリンクをご紹介します。対応の一助となれば幸いです。
    ⇒【画像】3/14計画停電のPDFを画像にしてあげておきます。
    http://bipblog.com/archives/2737379.html
    2015年08月10日 16:47
  • aoi

    原発と関係ないかもしれませんが
    引き寄せの法則って知っていますか?
    http://www.youtube.com/watch?v=gJE2IWz3DAw&feature=related
    人間は深層心理で望む物を引き寄せると言う事です。
    怖いのは悪い願ってもいない予想も引き寄せてしまうと言う事。
    悪い予想ほど当たると言うやつですね。

    だから何が言いたいのかと言うと、原発が最悪の事態になるんじゃないと考えない方が良い。
    考えて恐れを抱いた気持ちのままそれを抑圧しているとその気持ちが実現する可能性が高い。もし考えてしまったら否定して欲しい。
    自分はそんな事は望んでいないと。

    原発が異常をきたしてしてからはや5日目、
    これ自体十分異常な事態ですね。この事態が一週間も続くとなると
    それもかなり異常な事態です。
    一週間人々が思い悩み続けることそれはすごいエネルギーだと思います。
    結果、その最悪のシナリオが実現するのを私は恐れています。
    最悪を予想するのは良いです。ですが否定して下さい。
    自分はそんな事を望んでいないのだと
    2015年08月10日 16:47
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    原子炉では冷却水が不足すると核分裂反応が進行
    しなくなるものであった筈. これは, 冷却水が中性子
    の減速の役目もしているから, 減速されなくなった
    中性子は他の原子核にぶつからずに外へ出てしまう
    からと聞いた記憶がある.

    いま技術者が心配しているのは, 冷却水が不足して
    いるために炉心の温度が中々下がらず, それが化学反応
    爆発を引き起こしてが被害を広げることと考えられる.
    容器に重大な破損が生ずると原子炉撤去が不可能になる.

    福龍丸の経験からも, 特に強烈な放射能直射を受けない
    限りは, 安全基準を遥かに越えた放射能を浴びても人間は
    死なない. だから, 住民が恒久的な被害を心配する必要は
    ないだろう.

    それより心配なのは風評. 福島の野菜や魚介類が売れなく
    なると後々大変です.

    政府は信用しなくても, 現場の技術者は信用すべし.
    2015年08月10日 16:47
  • ヒカル

    目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、真の復興にはならない。そして、同じ惨劇を繰返さなければならなくなる。
    私たちが、今、しなければいけないことは、『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
      もう、時間がない!!
    http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html
    2015年08月10日 16:47

この記事へのトラックバック