昨日のエントリーに関連してもう少し…。
日本の原油輸入量は1990年代から、およそ2億から2億5千万キロリットルで推移しているのだけれど、そのおよそ9割が中東からの輸入に頼っている。(もっといえば、サウジアラビアとUAEで半分を占める)
石油の主な消費分野は、2007年度のデータでは、自動車用燃料が全体の36.4%、化学用燃料が20.9%、家庭・業務用が14.5%となっている。
だから、もしも、中東からの石油が途絶えたりなんかすると、ガソリンや化学燃料が無くなってしまい、国内外の輸送・運搬がストップしてしまう。
たとえ、電気自動車の開発が進んで、ガソリン車が全部電気自動車に置き換わったとしても、今日明日でできる話ではないし、飛行機は電気では飛べないはずだから、現時点で、石油が全く必要としない社会は有り得ない。
一方、日本の石油備蓄は、1972年の民間備蓄60日計画から始まり、第一次オイルショック後の1976年には、石油備蓄法を施行し、民間会社に90日分の備蓄を義務付けている。民間の石油備蓄義務量は年を追って段階的に引き下げられたものの、それでも現在70日分は備蓄義務を定めていて、また、国家備蓄についても、1978年に石油公団によって開始されている。
2009年11月末の石油備蓄量は、民間備蓄が87日分、国家備蓄が112日分の計199日分でおよそ半年分。
これを長いとみるか、短いとみるかは、仮に中東からの石油が途絶えた場合に、その問題を半年以内に解決できるかどうかに拠る。つまり、中東からの石油輸入を復活させるか、代替手段を確立できるかどうかということ。
たとえば、リビアみたいにサウジアラビアとかUAEが内戦なんかになって、石油輸入がストップしたときに、半年でそれが解決されるのか、若しくは、中東以外の諸国からの石油生産及び輸入でカバーできる体制を半年で構築できるかを考えると非常に厳しいものがある。
もっとも、現実には、内戦というような非常事態よりも、海賊によるタンカーの襲撃のほうが恒常的に発生しているのだけれど、これに対する対策はちゃんとやっておく必要がある。
昨年、中国漁船の尖閣沖衝突事件の際、中国が日本を攻める手段として、一番効果的な方法のひとつに石油を日本に入れさせないことによる兵糧攻めがある、と指摘したことがある。次に引用する。
日本の領土そのものを攻めることなんかしなくても、シーレーンと東南アジアを支配下においてしまえば、日本を石油の面で締め上げることが可能になります。そうなったら、日本は、大西洋か北極経由で石油を持ってくる算段をつけるか、事実上の中国の経済属国になるしかありません。
つまり、日本の国防戦力は温存したまま、それを使わせることすらさせずに、日本そのものを戦略的に「死んだ石」にすることが出来るということです。
ですから、たとえ、独自外交だ、独自防衛だと意気込んで、そうしたとしても、戦略レベルでそれを無効にされてしまう危険があるわけですね。
無論、これは、中国が地域覇権を狙っているという前提での話ではありますけれども、日本が将来、国防に力を入れることになったとしても、そのメンタリティーが一国平和主義のままでは危ういと思うのです。2010.09.11 日比野庵本館「威力偵察と実行支配と一国平和主義」
このように、石油がストップしてしまえば、やれ空母建設だ、やれF22やF35を輸入して配備だなんて、いくら自衛隊を増強したところで、動かすことのできない、実寸大のプラモデルになってしまう。
もしも、中国がわざと、海賊を装って、すなわち、便衣兵ならぬ、便衣"海賊"になって、日本向けのタンカーをかたっぱしから襲撃したらどうなるのか。
もしそれが、ソマリア沖あたりでやられてしまうと、本物の海賊なのか、中国の仕業なのか、訳が分からないうちに、半年、一年なんかあっという間に過ぎて、日本は干上がってしまう。
以前、シーレーンに絡んだエネルギー戦略として、いくつかアイデアをエントリーしたことがある。次に引用する。
この直流送電技術をシーレーンの補完として活用できないだろうか。
シーレーンで送るものは、何も石油でないといけないということはない。中東に超大規模発電所を作って、中東から海底ケーブルで直接日本に電気を送ってはどうか。無論完全に石油を輸入しなくてもいいなんてことにはならないけれど、全部が全部石油でなければならないこともない。
サウジアラビアと日本は直線距離にして、約9000Km。海底ケーブルなら一万数千キロになるだろうけれど、途中の島々に大型の燃料電池タンクを設けた中継所でも作ってやれば、十分日本に電気を送れるのではないか。
海底ケーブルなら、海賊の心配もしなくていいし、シーレーンの制海権も気にしなくていい。シーレーンじゃなくてサブマリンレーンを引いてやる。
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ロシア経由で新幹線で石油天然ガスを運ぶ方法なんかもあっていい。
ロシアは2030年を目標とする鉄道整備計画を策定していて、その中にはシベリア鉄道の近代化もあるという。そのシベリア鉄道の近代化に向けて、日本に協力を打診しているそうだ。そこへ新幹線を使って、シベリア鉄道で天然ガスを運べばいい。、これもシーレーンの補完の一つになるだろう。2009.02.04 「サブマリンレーンとシベリア新幹線」
サブマリンレーンとシベリア新幹線のアイデアは、いわば、海賊の手の届かない代替手段を考えるという方法で、サブマリンレーンは、現地で石油を電気に変えて、海底ケーブルで日本に直送するやり方だし、シベリア新幹線は、シーレーンを使わずに、ロシア経由で石油や天然ガスを持ってくるという方法。
更に、今は、地球温暖化で海氷が少なくなったロシア沿いの北極海・北東航路 を利用して欧州やロシアとアジアを結ぶ海上輸送が増えてきているから、むしろ、こちらのほうが現実的かもしれない。
また、日本が水資源を使って、中国に取引を持ちかける手段も考えられる。次に引用する。
日本が尖閣諸島に海洋温度差発電プラントを建設するといえば、中国は猛反発するだろうけれど、バーター取引を持ちかけることで牽制する手がある。水を売るというのがそれ。
中国は、急速な工業化によって工業用水の不足が慢性化し、飲用水の需要も爆発的に伸びている。さらには、折からの旱魃の影響もあって、穀倉地帯でも農業用水不足が深刻化している。
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実は、海洋温度差発電プラントには副産物がいくつかあって、その中のひとつに淡水が作れるというのがある。
電気を起こしながら、海水から真水も一緒につくれてしまう。
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現在の一人一日あたりの水使用量は、世界平均で165リットルだから、もし、尖閣諸島に10MW規模の海洋温度差発電プラントを作ることができれば、約6万人分の水を供給できることになる。
中国には尖閣諸島で作った淡水を売ってやればいい。
日本にとって海洋温度差発電には、戦略的意義が物凄くある。2009.05.17 「戦略的海洋温度差発電プラント建設」
これは、海洋温度差発電の副産物である、真水を対中国への取引材料に使うと同時に、尖閣に海洋温度差発電プラントを建設することで、尖閣の実効支配をより強化しようという案なのだけれど、中国が石油の面から日本を締め上げるならば、日本は"水"で対抗することを検討しておいても損はない。
更には、尖閣または、宮古島あたりで、海洋温度差発電を大々的に行って、生成した電気を海底ケーブルで日本本土に直流伝送してやれば、多少の足しにはなるだろう。
いずれにせよ、石油の確保という意味では、まだまだ必要だろうし、同時に、以前紹介した、石油を作る藻の開発を、国家として強力に推進する必要があるのだと思う。
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この記事へのコメント
すみれ
ス内パー
海賊の件に対してはEU、NATO系列の多国籍護衛部隊みたいなの作らせてそこに資金提供だけして多大な利益を得る(金だけ出して人を送らないで済む、前線基地の港インフラで一儲け、運用上中東和平に目を光らせないといけないので向こうで勝手にドンパチ沈めてくれる、EUにとって対ロシア海軍の演習になりロシアが極東にコミットする余裕が消えるなど)かつての自由と繁栄の弧西端分みたいなのが現実的ですかね。
ちび・むぎ・みみ・はな
代替物質を広く日本近海に求めるために,
経済水域の確保が重要になる.
また, 今までの米国追従を改めて, 安倍・福田・
麻生時代の全方位外交を再建する必要がある.
外務省に任せると, 役人は面倒を避けるので,
どうしても支那貢朝・米国追従外交になるから,
世界と付き合うことのできる視野の広い若い政治家が
必要になる.
ふみか
白なまず
日比野
送電についてですが、確かに従来の交流送電だろロスが大きくて長距離送電は難しいようですが、直流送電だと可能性はあるようです。
これについては、また取り上げてみたいと思います。