SAR観測技術とひび割れる日本
東日本大震災の震源域の東側で、マグニチュード(M)8級の巨大地震が発生する可能性が高い、と複数の研究機関が分析を進めている。
中でも、京都大防災研究所の遠田晋次准教授によると、全地球測位システム(GPS)の測定データから、海のプレート内部で引っ張られる力が強くなっていて、早ければ、1か月以内に津波を伴う地震が再来する危険があるという。
現在、地表の動きを衛星軌道から観測する技術として、SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダ)と呼ばれるものが使われている。
通常、レーダーによる対象物の観測は、アンテナから電波を照射し、対象物に当たって反射された電波を受信することで観測するのだけれど、反射波の強さから対象物の大きさや性質、反射波が返ってくるまでの時間を見ることで対処物の距離を測定する。
このとき、地表をどのくらい細かく観測できるか、すなわち分解能が問題になるのだけれど、分解能を上げるためには、アンテナを大きくする必要があって、たとえば、地表で10メートル以上の分解能を持つためには、人工衛星上のアンテナ開口部は1キロ以上必要になるという。だけど、こんなアンテナは現実的に衛星に乗せられない。
そこで、人工衛星が移動しながら、ポイント毎に電波を送受信して、結果を合成して、結果的に大きな開口を持ったアンテナの場合と等価な画像が得られるようにする技術がこの合成開口レーダー。
実際は飛びながらのデータを送受信するため、それぞれの時間差を調整する必要があり、膨大な計算が必要になるのだけれど、近年のコンピュータ性能の発達によってようやく可能になった技術だとも言える。
欠点としては、広範囲にレーダーを照射し必要なデータのみを浮かび上がらせる方法であるため、一点に集中するより雑音を拾いやすいことがあるようだ。
SARによるレーダーの反射波は、その強度に加えて位相も得ることができる。レーダーなどで使われるマイクロ波などの電波は、波の一種でもあるから、当然山と谷がある。
ところが、観測した反射波は、山と谷のどの部分にあたるのかは分かっても、山や谷が"何個分"あるのかまでは分からない。だけど、同じ地点を2回測って、それぞれの差を取ることで、1回目と2回目のズレがどれくらいあるかを測定することができる。
これが干渉SAR技術と呼ばれるもので、これを使うとセンチメートル単位の精度が出せるそうだ。
干渉SARによって観測された、地殻変動の地図は、位相差を示す"虹色の縞模様"で表されるのだけれど、位相だから360度一周すれば、元の色に戻ってくる。したがって、縞模様の幅が狭くなればなるほど、短い距離で一周することになり、移動の幅が大きいことを示し、逆に縞模様の幅が広くなれば、あまり地殻変動していないことになる。
この干渉SARによって、震災前後の地殻変動を観測した結果が、国土地理院から発表されている。こちらのPDFを参照されたい。
これをみると、見事に3.11の震源地から同心円状に地殻が移動していることが分かる。特に女川原発のある牡鹿半島付近のズレが大きい。
こちらのブログでは、宮城県牡鹿半島の先端にある金華山をグーグルアースで見たものを紹介しているけれど、牡鹿半島は亀裂だらけだそうだ。よくこれで、女川原発は無事だったと思う。
SARの観測結果と、実際の牡鹿半島の亀裂を考え合わせると、SAR画像で幅の狭い干渉画像の地域は同じように、亀裂が入っている可能性があるし、震源地に近い海底部分だともっとヒビ割れているかもしれない。しかも、そのヒビ割れがたとえ地上には見えなかったとしても、地下でヒビ割れている可能性も考えると、日本列島の東側は相当なダメージを受けているのではないかと思われる。
独立行政法人の産業技術総合研究所は、3.11の地震後に起きた、M6以上の地震について報告しているけれど、その中で、震源地をプロットした図を公表している。引用して次に示す。
これを先ほどの国土地理院のSAR画像と重ね合わせると、3.11以降の大規模な地震は、縞模様の細かいところではなくて、ある程度の幅のある部分で起こっている。地殻変動の大きいところだけとは限らない。
その意味では、京都大防災研究所の遠田准教授が指摘する、海のプレート内部で引っ張られる力が強くなっているというのは、非常に大きな警告と受け止めるべきではないかと思う。
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津波伴うM8級、1か月内にも再来…専門家
東日本大震災の震源域の東側で、マグニチュード(M)8級の巨大地震が発生する可能性が高いとして、複数の研究機関が分析を進めている。
日本海溝の東側で海のプレート(岩板)が引っ張られる力が強くなっているためで、早ければ1か月以内に津波を伴う地震が再来する危険がある。
M9・0の東日本大震災は、押し合っていた海のプレートと陸のプレートの境界面が破壊されて起きた。そのため周辺の地殻にかかる力が変化し、東日本全体で地震が誘発されている。
京都大防災研究所の遠田晋次准教授(地震地質学)は全地球測位システム(GPS)の測定データから、海のプレート内部で引っ張られる力が強くなっていることを突き止めた。明治三陸地震(1896年)の37年後、昭和三陸地震を起こしたメカニズムと共通しているという。「今、昭和三陸規模の地震が起きると、仙台市で10メートルの津波が押し寄せる計算になる」と言う。
(2011年4月14日19時01分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110414-OYT1T00112.htm
東大教授「日本全国どこでも危ない」 地震の場所や時期など予測は不可能 04月14日 19時04分 提供元:J-CASTニュース
「日本の地震研究を見直すときがきた」と提言する研究者が現れた。東京大学のロバート・ゲラー教授は、東日本大震災の発生を受けて、長年にわたる日本政府の地震予知政策に異論を唱える、衝撃的ともいえる論文を発表した。
過去30年間、日本で大きな被害を出した地震は、政府の予測とは違った場所で起きている。そもそもいつ、どこでどの程度の規模の地震が起きるかなど予測できるはずがない――。ゲラー教授は鋭く指摘する。
30年以上起きない「東海地震」はミスリード
ゲラー教授の論文は2011年4月13日、英国の権威ある科学誌「ネイチャー」電子版に掲載された。冒頭で「日本政府は、地震の発生を確実に予測することは不可能だと国民に対して認めるべきだ」「誤解を招く『東海地震』という用語の使用をやめること」「1978年に制定された大規模地震対策特別措置法の廃止」の3点を要旨に掲げている。
文部科学省に設置されている地震調査研究推進本部は、毎年、「全国地震動予測地図」を発表している。2010年5月20日の最新版では、今後30年以内に震度6弱の地震が起こる確率が高い地域として静岡県や愛知県、紀伊半島東部から南部、四国南部が挙げられた。いわゆる東海地震、東南海地震、南海地震が起きるとされている場所にあたる。
ゲラー教授はこの地図と、1979年以降に国内で発生した地震で10人以上の犠牲者を出した規模のものがどこで起きたかを重ね合わせた。1993年の北海道南西沖地震や95年の阪神大震災、2008年の新潟県中越沖地震など該当する地震は9件あるが、いずれも「予測地図」に示された東海、東南海、南海地震の場所から大きく外れているのが分かる。東日本大震災に関しては、宮城県の一部が地図上で高確率地域となっているものの、震度6強を観測して大きな被害を受けた岩手県や福島県、また栃木県や茨城県北部は「発生率6%以下」と低い確率に区分けされている。
この点をゲラー教授は指摘し、「30年以上にわたって日本政府や、地震調査研究推進本部とその前身の組織は『東海地震』という用語を頻繁に用いてミスリードしてきた。マスコミは、この地震が本当に起きるもののように報じて、国民は『東海地震』の発生が時間の問題だと信じ込むようになった」と批判。巨大地震がいつどこで起こるかは、今の研究レベルでは予測することは不可能だと断言した。
東日本大震災「過去の歴史から想定できた」
テレビ番組でもゲラー教授は、政府が「東海地震」の危険性を強調するあまり、それ以外の地域の人々は、「自分が住む場所は地震なんて起きないだろう」と思い込むのが危ないと警鐘を鳴らす。
むしろ「日本全国どこでも、地震の危険性はある」というのが同教授の考えであり、東日本大震災は決して想定外ではなかったという。今回の震災で壊滅的な被害を受けた三陸沿岸は、歴史的にも頻繁に大規模な地震や津波が起きている点を説明。1933年の昭和三陸地震では死者が1500人以上に達したほか、1896年に発生した地震で「高さ38メートルにも及ぶ津波に襲われて2万2000人以上が亡くなった」という。さらに歴史をさかのぼって、平安時代にあたる869年の「貞観津波」についても、論文で触れている。
「地震発生の場所や時間を特定することはできないが、世界各地の地震活動と、東北での過去の記録に基づいて地震発生の危険度を予測したのであれば、3月11日の東日本大震災は『想定』できたに違いない」
と、同教授は主張する。
東海地震に関しては、現在も気象庁が該当地域の地殻変動の様子を観測し、頻繁に結果を公表している。これは「大規模地震対策特別措置法」(大震法)に基づいているのだが、そもそも地震の予知は不可能と考える同教授は、東海地震の予測などナンセンスとして「大震法の廃止」を訴える。そのうえで、地震研究は官僚主導ではなく、物理学に基づいて日本のトップ研究者が進めていくべきだと論文を締めくくっている。
URL:http://news.so-net.ne.jp/article/detail/571653/?nv=r_cmn_photo
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
強度はどんなものだろうか. 素人考えでは,
引っ張り歪みでM8クラスの地震が起きるとは
ちょっと思えないのだが.
日本の地殻なんて元々傷だらけだから, 大きな
地震があれば亀裂が生ずるのは当然だろう.
だから, 日本近辺の地殻は大きな引っ張り力を
蓄えることはできないと思う. 塑性変形と
弾性変形の区別は観測から分かるのだろうか.
白なまず
【ロシア科学者、東日本大地震を14年前に予測 「極東で続発の可能性も」】
http://www.epochtimes.jp/jp/2011/03/html/d96447.html