「あなたが子供だった時、東京の「放射能」は一万倍」について

 
週刊新潮の4月14日号に"あなたが子供だった時、東京の「放射能」は一万倍!"という記事が掲載されたのだけれど、これについて。

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記事の詳細はそちらを参照していただきたいのだけれど、一言でいうと、1950年代半ばから1960年代半ば頃の米ソ冷戦時代に行われていた大気圏内核実験による放射性物質が日本に降ってきていて、その濃度は、福島原発前の日本のそれとは最大で1万倍の開きがあるという内容。

このデータというのは、気象研究所が1950年代後期から40年以上の長期間、大気中の人工放射性物質の観測を行っていたものが元になっていて、ネット等々で指摘されている、こちらの論文がソースだと思われる。この中から、月ごとのストロンチウム90とセシウム137の降下物量の観測データを次に引用する。

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上図のうち、黒丸がセシウム137、白丸がストロンチウム90を示しているのだけれど、1960年代から時代が下るにしたがって、降下量が減っていく様子が示されている。ヨウ素131のデータがないのは、半減期が8日と短いために、一か月間の積算データを取るのには適していないのがその理由のようだ。

たとえば、1955年から1965年あたりの降下量を見てみると、セシウム137、ストロンチウム90共に、平方メートル当たり、10万ミリベクレル、即ち、1キロベクレルオーダーの降下物があることになるのだけれど、1990年以降は、平方メートル当たり、10ミリベクレルオーダーになっているから、確かに、"あなたが子供だった時、東京の「放射能」は一万倍!"という見出しも嘘ではない。

これらは1ヶ月の積算データなので、一か月を30日とすると、一日あたりの降下物量は、それぞれ平均で約33Bq/㎡になる。

セシウム137は、ベータ線を出しながら崩壊して、その約95%が、バリウム137の準安定同位体であるバリウム137mになり、ガンマ線を放出する。

また、ストロンチウム90は、ベータ線を放出してイットリウム90になり、そのあと、もう一度ベータ線を出しながら、ジルコニウム90になる。半減期はセシウム137が30年、ストロンチウム90が28.9年と共に長い。

そして、ヨウ素131は、ベータ線を放出して、キセノン131になったあと、ガンマ線を放出する。

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放射線が人体にどれくらいのダメージを与えるかを見積もる目安として「実効線量」という値が使われるのだけれど、これは、放射線の種類や人体のどの臓器にどのくらい取り込まれてしまうかといったそれぞれのパラメータを計算して割り出したトータルの線量のこと。

たとえば、セシウム137を体内に取り込んでしまったときの実効線量は、1万ベクレルあたり0.13ミリシーベルトで、ストロンチウム90を取り込んでしまったときの実効線量は0.28ミリシーベルト/万ベクレル。そして、ヨウ素131は、0.22ミリシーベルト/万ベクレル。

だから、体内被曝したときの危なさは、ストロンチウム90>ヨウ素131>セシウム137の順になる。

仮に、毎日1ベクレルのセシウム137とストロンチウム90を体内に取り入れていたとするならば、その実行線量は合計して、0.041マイクロシーベルトになるから、年間で14.965ミリシーベルト。

また、毎日1ベクレルのセシウム137とヨウ素131を体内に取り入れていたとすると、その実行線量は合計で0.035マイクロシーベルト、年間だと12.775ミリシーベルトになる。

1960年代前半の日本人は、一日あたり、1ベクレル以上のセシウム137とストロンチウム90を摂取していたとされるから、この15ミリシーベルトとか、12.8ミリシーベルトといった線量は、今の一般人の被曝限度線量である年間1ミリシーベルトの10倍以上ではあるけれど、健康被害が見られるとさせる線量の年間100ミリシーベルトには全然届かない。

では、今回の福島原発事故による放射性物質の飛散状況はといえば、文部省のモニタリング結果から作成した図を次に示す。

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これは、新宿での大気降下物と水道蛇口からの放射性物質のモニタリング結果をプロットしたものなのだけれど、3月20日から23日あたりをピークとして、徐々に下がってはきているのだけれど、セシウム137で見ても、ピーク時の値は60年代よりも10倍近く大きくなっているから、一時的に、濃度の高い日があったということになる。

ただし、60年代はセシウム137やストロンチウム90を33Bq/㎡の濃度で毎日降らせていたことを考慮すれば、今回の原発事故による放射性物質の量のほうが少なくなるものと思われる。

その意味では、ひとつの目安として、自分の住んでいる地域の毎日の定時降下物の濃度が33Bq/㎡程度であれば、60年代と大体同じで、実効線量に換算すると年間で13ミリシーベルト程度と見なすことができると思う。

一応、60年代を子供として過ごした人たちの健康被害の有無については調べていないけれど、3人に1人は癌で死亡するとも言われる今の日本の現状が許容されているのであれば、年間15mSv程度(環境放射線分を加算)の被曝であっても、許容されるのかもしれない。

ただし、3月22日前後の大気降下物濃度の高い時期や、水道水の放射性物質濃度が高い時期に取り込んでしまってしたら、その分、実効線量は増えてしまうけれど、それを今更言ってもどうしようもないし、数日のことなので、そんなに極度に気にすることはないように思う。

福島原発がいつ終息するかは分からないけれど、炉心の冷却に、冷戦のように10年もかかるとは思えないし、毎日の大気降下物や水道水に含まれる放射性物質の濃度が今の水準、すなわち10ベクレル程度以下で推移するのであれば、実効線量は、政府の引き上げ目標とされる一般個人の被曝上限の20mSv/y以下になる可能性は高いと思われる。(もちろん生活スタイルによる変動はある。)

現実を認めた上で、ここから先は、もう個人の判断に委ねるしかないと思う。




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この記事へのコメント

  • ds

    3月に降ったセシウム、過去最高の50倍超 気象研観測

    12月2日(金) 0時59分配信 朝日新聞

     気象庁気象研究所(茨城県つくば市)は1日、福島原発事故で放出され、3月に観測したセシウム137は1平方メートル当たり3万ベクレル弱(暫定値)で、核実験の影響で過去最高を記録した1963年6月の50倍以上だったと発表した。船を使った調査で、北太平洋上に広く降ったこともわかった。

    つくば市に降ったセシウム137は4月には数十分の1に減り、夏には1平方メートル当たり数十ベクレルとチェルノブイリ事故後のレベルになったという。環境・応用気象研究部の五十嵐康人室長は「福島原発事故前の水準に下がるまで数十年かかるのでは」と話している。過去最高値は同550ベクレル(移転前の東京都で観測)

     4~5月に海水を採った調査では、福島原発から大気中に出た放射性物質は北太平洋上の広範囲に降り注いだことがわかった。米西海岸近くでも降っていた。

     大気中から降るものとは別に、福島原発から海に流れ出たセシウム137とセシウム134は、それぞれ少なくとも3500テラベクレルと試算した。

     表層では北太平洋を東
    2015年08月10日 16:46
  • 失礼、データの読み間違いがあるようなので指摘してお

    気象研究所のデータでは、60年代のCs濃度のピークは10^5~10^6にプロットされていますが、あたたが文部省のモニタリング結果から作成したプロット(このグラフは非常に分かりやすく情報価値が高いと思いますが)では、10000(=10^4)~100000(=10^5)にプロットされています。10倍ではなく、10分の1だと思うのですが。
    2015年08月10日 16:46
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    今回の災害は, 災害以外にも疲れることが多過ぎるますね.

    > 3人に1人は癌で死亡するとも言われる今の日本の現状
    > が許容されているのであれば、

    日本では癌で死ぬ人が多いと言うのか, 癌になるまで生きて
    いる人が多いと言うのか.

    本人はポックリ行きたいと願うのだから, 癌は嫌われる.

    しかし, 家族から見ると癌だとお世話ができる.
    両親や叔父を80過ぎで送ったものとしては, 元気だった
    頃に比べると随分と平穏な時間が流れた気がします.
    叔母は植物人間になった祖母の看護疲れで早死したので,
    脳内疾患で植物人間になるよりは遥かに良いと思います.

    まあ, それでも自分ならポックリ行きたいですな.
    行きそびれると大変だが.
    2015年08月10日 16:46
  • 日比野

    失礼、データの読み間違いがあるようなので...様。

    コメントありがとうございます。

    >気象研究所のデータでは、60年代のCs濃度のピークは10^5~10^6にプロットされていますが、あなたが文部省のモニタリング結果から作成したプロットでは、10000(=10^4)~100000(=10^5)にプロットされています。10倍ではなく、10分の1だと思うのですが。・・・

    グラフが見づらくて申し訳ありません。

    気象研究所のデータなんですけれども、Cs濃度のピークである10^5~10^6の単位はmBq(ミリベクレル)/㎡で、私がプロットした文部省のモニタリング結果のグラフはBq/㎡です。

    気象研究所のデータをミリベクレルからベクレルに換算すれば、1000分の1になりますから、10^2~10^3Bq/㎡。

    私のプロットでのCs(赤線)のピークは10^3~10^4Bq/㎡辺り。

    なので、10倍と読み取ったのですが・・・、間違いあればご指摘ねがいます。

    ※ 気象研究所のデータは1ヶ月の積算で、今回の事故での文部省のモニタリング結果は日毎単位なので、本当は、そちらも合わせて比較しないとい
    2015年08月10日 16:46

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