読売新聞福島版で、「微生物で放射能を除去するプロジェクト」なるものが紹介されたらしい。
件の記事を読むと、どうやら「放射能を喰う微生物を校庭に撒け」のエントリーで取り上げた、川俣町のサトーファームでの土壌浄化実験のことのようだ。
ツイッターなんかだと「読売がこんなのを報道したのか?」とか「生物に放射性物質の分解など不可能だ」とか「表面に堆積したものを混ぜ込んで、希釈されただけ。」とか、色々批判がでているようだけれど、これについてもう少し考えてみたい。
1.放射線でも光合成は起こる
まず、高嶋開発工学総合研究所の説明によると、放射能を除去する微生物には、光合成細菌というものが使われているようだ。
光合成細菌とはその名のとおり、広義には光合成を行う真正細菌の総称のことを指す。
普通、光合成といえば、植物が二酸化炭素を吸って、酸素を吐き出す仕組みをイメージするのだけれど、化学反応的には次の式で表される。
水(6H2O)+二酸化炭素(6CO2) -光→ ブドウ糖(C6H12O6) +酸素(6O2)
この反応について、水と二酸化炭素が光合成において、それぞれどのように反応しているかというと、まず、水が光によって酸化されて、酸素と水素と電子に分解し、今度はその電子と水素が2酸化炭素を還元して、ブドウ糖と水になる。
2H2O → O2 + 4e- + 4H+ 【明反応】
6CO2 + 24e- + 24H+ → C6H12O6 + 6H2O 【暗反応】
前者を「明反応」、後者を「暗反応」と呼び、実は光が必要なのは前者の明反応だけ。後者の暗反応は光は必要なく、生物にとって重要なエネルギー源である「ブドウ糖」を生成する。
明反応において、水分子は光を吸収して、高エネルギー状態、いわゆる励起状態になって、電子を放出するのだけれど、この励起状態そのものは、エネルギーさえ与えてやればいいから、光でなくても、励起状態を起こせるものならその代わりになる。
もちろん放射線なんかでも励起状態は作り出せる。例えば、ガンマ線などは高エネルギーの電磁波だから、水分子にガンマ線をぶつけてやれば簡単に励起状態にもっていける。実際、水にガンマ線を照射すると、OHラジカル、水和電子、水素原子、水素分子、過酸化水素などの反応性に富む活性種を生成することが知られている。
※ 7/25訂正 光合成の主となるクロロフィルの吸収スペクトルは可視光が中心であり、ガンマ線を喰うことはできません。中には、完全暗所の440~450nmくらいでも光合成するクロロフィルもあるようですけれども、通常の光合成はガンマ線では行われません。お詫びして訂正します。ただ、チェルノブイリでは、放射線を浴びても成長する細菌が発見されていますので、光合成とはいわないまでも、全く放射線がエネルギーにならないとは言い切れないとだけ追加させていただきます。
2.光合成細菌は放射線を遮蔽する
光合成細菌が放射線も光合成のエネルギーとして使うのは良いとして、では、肝心の放射線源、すなわち、放射性物質がどうなるかという問題があるのだけれど、ここで、ある仮定をしてみる。
たとえば、放射性物質の周りに、放射線でもエネルギーにしてしまう光合成細菌を大量に撒いてやれば、放射性物質から放出される放射線をエネルギー源にしてどんどん光合成することになるのだけれど、当然、放射線のエネルギーは光合成に使われることになるから、その分、"外"に出る線量は減ることになる。
だから、この状態であっても、傍目には放射線は減ったように見えてしまう。
つまり、光合成細菌は放射性物質を喰って消去するのではなくて、そこから出る放射線だけを喰べているだけで、放射性物質はそのまま残っているということ。
だから、その状態で、放射性物質を含んだ土のサンプルを"光合成細菌ごと"線量を計ってやったとしても、放射線のエネルギーは、光合成細菌に喰われて続けているから、測定される放射線量は、当然、少なく見えると思われる。
この仮定が成立するとするならば、光合成細菌は、放射能を除去するわけではなくて、むしろ普通の放射性物質を包む「放射線のカバー」みたいなものと考えるべきではないかと思う。
その意味では、光合成細菌はいわば天然の放射能遮蔽物のようなもので、放射性物質の周りに大量に撒いておけば、急場の凌ぎくらいには使えるような気がする。少なくとも、校庭から剥した表土に撒けば、それなりの放射線"遮蔽"効果はあるのではないかと思う。
まぁ、中には、放射性物質を体内に取り込む光合成細菌や微生物もいるのかもしれないけれど、いずれにしても放射性物質は消去されるわけでもなく、そのまま残っている筈。
もちろん、光合成細菌といっても、DNAを持った生物だから、あまりにも強い放射線を浴びるとDNAが破壊されて死んでしまう。だから、実際に微生物によって放射能を遮蔽しようとすれば、光合成細菌も放射線に強いタイプのものを選ぶとか、或いは、DNAを弄って人工的に放射線耐性を持たせた光合成細菌を使ったりするのかもしれない。
尤も、この微生物による放射線除去方法を提案している高嶋開発工学総合研究所の高島博士は「複合微生物体系の複合微生物動態系解析における複合発酵法を用いた放射能・ 放射性物質分解処理方法」という特許を出していて、それによると、微生物によって、放射能・放射性物質は分解消失する、となっている。次にその特許の一部を引用する。
【0012】
複合発酵状態になると、発酵→分解→合成のサイクルが生れ、好気性及び嫌気性有害菌は抑制される。このような生態系が生じると、すべての微生物を、共存、共栄、共生させることが可能となり、フザリウム属の占有率がゼロになり、酸化、変敗、腐敗を断ち切り、生態系内における微生物群の死滅率がゼロになることによって、すべての微生物群を発酵から合成に導き、生菌数を1ミリリットルあたり10のn乗から無限大とし、同時に生菌数が1種類1ミリリットルあたり10の9乗を超えると、菌のスケールが10分の1以下となり、凝集化(固形化)を生じ、数千種、数万種の増殖が可能となる。これにより、微生物の高密度化が起こり、微生物のDNA核内に一酸化窒素、二酸化窒素及び高分子タンパク結晶による情報接合とエネルギー接合を引き起こし、その結果、微生物間でのDNA融合が生じ、融合微生物による対抗性菌、耐衡性菌により獲得した酵素及びタンパク質の高分子結合結晶が発生し、情報触媒の作用として情報とエネルギーを現生・発現させ、すべての物質、分子、原子レベルに対する分解菌並びに分解酵素を現生させて、すべての元素の原子核の陽子における分裂と崩壊の法則(β回路)を抑制し、中性子における合成と融合の法則(α回路)をハンドリングすることにより、常温超伝導、常温核分解、及び常温核融合を発現させる。以上の作用により、放射線エネルギー、放射能、放射性物質の相転移、転移、変位、昇華、消失を可能にするものである。
【0014】
さらに、第1ないし第4段階のそれぞれの微生物処理槽2の最後の部分、及びそれぞれの自然沈降型沈殿槽3、及び掻寄せ式沈殿槽6において、固形発酵(嫌気発酵)を起こさせ、地球の36億~40億年前の、大気が600℃、酸素はなく、濃硫酸の海で、放射線、γ線、X線、有害電磁波、有害物質及び重金属のみの、ほとんど有機基質が存在しない、現在で言うエントロピーのみの世界であった、そのような有機的代謝、交代がない状態で、直接エネルギーの置換と交換によって増殖していた微生物を現生させ、あらゆる物質に対する対抗性な情報接合を生じさせ、分解菌、分解酵素を現生させ、物質構造レベル、分子構造レベル、分子レベル、原子団レベル、原子レベル、イオンレベルの各段階に応じて、それぞれ分解、合成、融合を起こさせ、有害物質である放射能・放射性物質を分解消失するものである。特開2005-321365より抜粋
と、まぁ、40億年前の太古の地球の状態で生きていた微生物を作ってやれば、放射能だろうが何だろうが分解してくれるみたいなのだけれど、筆者にはまだ理解できないので、評価は保留しておく。
現時点では、放射線のエネルギーを微生物が喰うことで、放射性物質はそのままだけど、外に出る線量を低く抑える遮蔽手段として理解したい。
3.イスカンダル・バイオプロジェクト
さて、微生物が放射性物質を消去しないまでも、遮蔽してくれるだけでも十分役に立つと思うのだけれど、広島国際学院大学の佐々木健教授らのグループは、もう一歩進めて、微生物に放射性物質を吸着させる研究を進めている。
「イスカンダル作戦」と名付けられたこのプロジェクトは、放射性物質に汚染された環境を清浄する目的で10年前に研究に着手していて、一定の成果を挙げつつある。
光合成細菌の中でもロドバクター・スフェロイドと呼ばれる種類のものは、体の表面に放射性物質を引き寄せる性質があるそうで、これを利用した放射性物質吸着技術を開発している。
※ロドバクター・スフェロイドはマイナスに帯電した粘着物質を出し、それがプラスに電荷した放射性物質を引き寄せるらしい。
まず、ロドバクター・スフェロイドを培養して、軽石状のセラミックの穴にこの菌を居着かせる。その後、これを水の中に入れると放射性物質がセラミックに吸着され、水中から放射性物質がなくなるのだという。
実験では、20ミリグラムの放射性物質が含まれた1リットルの水が3、4日で放射能がほぼなくなり、水道でも、浄水場にこれをばら撒いてやれば、4~7日くらいで安全基準にまで放射能濃度が下がるはずと見込んでいる。
また、この方法のよいところは、水だけでなくて、土壌にも使えることで、土の中に埋め込んだセラミックに水を流動させてやることで、周囲10センチ程度の放射性物質が回収できるところ。
除去できる放射性物質は今のところウラン、コバルト、ストロンチウムだそうだけれど、セシウムやプルトニウムも除去できるという。
まぁ、除去といっても、放射性物質はセラミックに集まっているわけで、最終的にはそれを核廃棄物として処理することになるのだけれど、それでも土中から放射性物質を除去できるのであれば、願ったり適ったり。
だけど、残念なことに、この研究は数年前、原発安全神話による助成金カットの憂き目にあい、実用化一歩手前で打ち切られていたのだけれど、福島原発事故をうけて、再スタートした。
原発安全神話が崩れた今、与野党含めて、政府は真摯に反省し、研究の全面バックアップに動くべきだろう。
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この記事へのコメント
白なまず
またか
北斗七星
それにしても
>原発安全神話による助成金カットの憂き目にあい、実用化一歩手前で打ち切られていた・・・
日本を放射能汚染させる為か?悪意を十分に感じる。
sdi
まず効果の検証ですが微生物による放射能除去となると、個々の微生物コロニーで微量な放射線量低下しか期待できません。そうなると、その放射線量低下の原因が微生物によるものなのかは相当厳密に測定するのは必須です。当該微生物を投入した土壌とそれ以外の微生物を投入した土壌での比較実験で、多数のサンプル取得を行い統計上有意差があるか判定する必要があるでしょう。また、この手段でも放射性物質の自然崩壊速度を変えることは出来ません。放射性物質が崩壊に要する時間は変わりません。その際に放出される放射線を遮蔽もしくは吸収することができる手段だ、という点は頭にいれておかないといけないのではないかと愚考します。
マイケル
ところで元の英文ニュースの中で気をつけるべき文章があります。
「The researchers stressed these findings do not mean fungi can eat radioactive matter and somehow cleanse it. Rather, the fungi can simply harness the energy that radioactive materials give off.」
これを無視してこのニュースを元に、細菌の一種が、という話ではなく、光合成細菌(おそらく全て)が放射能(物質)を食べると表現している人が最近話題になっていたのでここにたどり着いた次第ですー。
あかまる
田崎和江金大名誉教授は26日までに、タンザニアの首都ドドマ近郊で、ウランなどの放射性物質の濃度が高い土壌中に、同物質を吸着する細菌が生息していることを発見した。福島第1原発事故後、放射性物質で汚染された土壌の処理が大きな課題となる中、「微生物が放射性物質を固定して拡散を防ぐ『ミクロ石棺』として役立つ可能性がある」としており、今月中に福島県で土壌調査を実施する。
日比野
確かにクロロフィルは可視光で光合成ですね。中には、完全暗所の440~450nmくらいでも光合成するクロロフィルもあるようですけれども、通常の光合成(細菌)ではガンマ線での光合成は無理そうです。
お詫びして訂正いたします。
ただし、チェルノブイリでは、放射線を浴びても成長する細菌が発見されているようなので、光合成とはいわないまでも、全く放射線がエネルギーにならないとは言い切れないかとおもいます。
http://karapaia.livedoor.biz/archives/51065937.html