再臨界の可能性はゼロではない

 
来月、6月1日に、自民党が内閣不信任案を提出する方向で検討していることが明らかになった。

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これは、もともと、会期末である来月22日までに内閣不信任案を提出する積りでいたところ、公明党などから、前倒しで提出するべきだという意見が相次いだためだそうなのだけれど、ようやく、谷垣総裁も腹を固めたようだ。

昨日、5月23日、衆議院震災復興特別委員会で、自民党の谷垣総裁は質疑に立ち、福島第一原発1号機への事故当時の海水注入について、しつこく質問していた。

報道では、谷垣氏の迫力不足だ、とか追及が甘いとかいう論調が多いようだけれど、質疑の様子を見る限り、筆者には、谷垣氏が達観しているようにも見えた。菅首相の「逃げ管」答弁など百も承知だ、と。

つまり、菅首相とは、何を質問しても、まともな議論にはならないことは十分に分かり切ったうえで、聞くべきは聞くけれども、不信任案提出そのものは、もう決めていたのではないかという気さえしている。

なぜかというと、谷垣氏の質問は、菅政権を追及するというよりは、事故対応に対する政府の責任の部分を問うていたから。一度記者会見まで開いて、「原子力安全委員長から再臨界の危険性があるという意見が出されたので」と言っておきながら、原子力安全委員長の班目氏の抗議を受けて、「可能性はゼロではない」と訂正できる神経が理解できないと重ねて質問していた。

班目氏は、当時、官邸の会議について、"海水注入について、問題点をすべて上げろと言われたから、考えられることはすべてあげた。塩が析出して注水系が詰まる可能性等々いった中で、おそらく菅首相からだと記憶しているが、再臨界を心配しなくていいのかという指摘があったので、その可能性はゼロではないと答えた"と発言している。

それに対して、谷垣氏は、それは、海水注入すべきでないと発言したのか、と班目氏に重ねて質問したのだけれど、班目氏は、6時からの会議のずっと以前から、格納容器を守ってください、そのためには炉心を冷やす必要があり、真水がなければ海水でも結構です、とにかく冷やしてくださいとずっと言っていた、と答えている。

つまり、班目氏は当初から海水を使ってでもよいから、炉心を冷やすべきだと進言し、ただ、あらゆる可能性を考えた場合、その中のひとつに、「再臨界の可能性はゼロではない」があったということに過ぎず、単なるワンオブゼムだったということ。



それなのに、政府は、わざわざ「再臨界の可能性はゼロではない」ではなくて、「再臨界の危険性がある」として発表し、班目氏の抗議を受けて、あっさり「再臨界の可能性はゼロではない」と訂正した。

そんなことが出来るのであれば、ワンオブゼムの中から特別に取り上げた「再臨界の危険性」が非常に意味の軽いものになってしまう。だから、政府の責任逃れ、その場しのぎのために、「再臨界の危険性」と言ったのではないのか、と谷垣氏は質問していたと思う。

それに対して、菅首相は、いろんな可能性を専門家に聞くのが何が悪いのか、と、いつもどおり、質問に答えない、かみ合わない答弁をしていたけれど、もしかしたら、谷垣氏の質問の意味を理解してなかったのかもしれない。

まぁ、谷垣氏としては、政府は責任逃れのために、「再臨界の危険性」と嘘をついて、安全委員会に責任をなすりつけようとする姿勢を浮かび上がらせる狙いがあったのかもしれない。実際、谷垣氏は質疑後、記者団に対して、「嘘の上に嘘を塗り固めている。不十分だ」と答えている。

だけど、惜しいかな、一般の人にとっては、今回のロジックは少し分かりにくかったのではないかと思う。ぱっと聞いているだけだと、谷垣氏は何でそんなに再臨界に拘って質問したのか、といった印象だけが残ったかもしれない。

事実、福島第一原発から避難している大熊町の住民から、「言った言わないで騒いでも、あんなのどうしようもない」という声があったそうだから、本当にそう思われている可能性がある。

ただ、それでも、谷垣氏の言うように嘘の上に嘘を塗り固めるやり方は、いずれ綻び、破綻するのが世の常。こんなやり方を続ければ続けるほど、自分で自分の首を締めるだけのこと。

ともあれ、ようやく不信任決議が出される見通しが出てきた。民主党の各議員は踏み絵を踏まされることになる。


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画像来月1日にも不信任案 党首討論後に提出検討(05/23 14:57)

 最大野党の自民党は、来月1日にも内閣不信任案を提出する方向で検討していることが明らかになりました。

 関係者によると、内閣不信任案をめぐって、自民党は民主党内の「反菅グループ」の情勢を見ながら、来月22日の国会会期末までに提出するタイミングを図っていました。ただ、公明党などから、会期末を待たずに前倒しで提出するべきだという意見が相次いだため、菅総理大臣がフランスで行われるG8サミットから帰国した後の来月1日に提出する方向で検討に入りました。自民党としては、1日に予定されている震災後初めての党首討論が終わった後に、菅総理には政権担当能力がないことなどを理由に内閣不信任案を提出したい考えです。

URL:http://www.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/html/210523022.html



画像“菅災”責任転嫁に班目「侮辱だ!」海水注入中断の真相は?2011.05.23

. 東日本大震災の翌3月12日、東京電力福島第1原発1号機への海水注入が55分間中断した問題が、菅直人政権を揺さぶっている。先週末、「首相意向で」と報じられたことで官邸は火消しに躍起。班目(まだらめ)春樹原子力安全委員長に責任を転嫁しようとしたが、当の班目氏は「侮辱だ!」と猛反発。前代未聞の政府発表訂正となった。政権の統治能力欠如を象徴するドタバタ劇。国会で「菅災」の実態や責任が追及された。

 「第1原発の対応は、日本国内だけでなく、世界中が見ている。菅首相と班目委員長の発言はまったく違い、政府発表が1日でコロコロ変わる。致命的なねつ造をして、日本の信頼を損なっているのではないか」

 23日午前の衆院東日本大震災復興特別委員会。トップバッターとして質問に立った自民党の谷垣禎一総裁は、海水注水中断をめぐる醜態をこう指弾した。確かに、一連の騒動はお粗末すぎる。

 読売新聞は21日朝刊の1面トップで「首相意向で海水注入中断」「震災翌日、55分間」「事態悪化の可能性高い」という衝撃的記事を掲載した。事実なら、菅首相が事故対応を妨害し、メルトダウンや原子炉損傷などを引き起こした可能性が浮上する。即、進退問題に直結しかねない。

 このため、政府と東京電力で作る統合対策室(事務局長・細野豪志首相補佐官)は報道当日、事実をまとめたという資料を発表。≪中断前の注入は東電による試験注入≫≪班目氏が、海水注入による再臨界の危険性を指摘し、菅首相が検討を指示した≫などとしたが、これが火に油を注いだ。

 責任転嫁された班目氏は「原子力の専門家として、そうしたこと(=海水注入による再臨界の危険性)を言うわけがない」「原子力の『げ』の字も知らない素人だと侮辱された!」などと猛反発。菅首相との差し違えも辞さない強硬姿勢に、官邸はひるんだ。

 民主党の歴代代表や幹部に仕え、「新風見鶏」と評される細野氏の巧妙な知恵なのか、対策室側は22日夕、班目氏が発言したとされる「危険性」という言葉を「可能性」に訂正。あいまいなまま手打ちを図ったが、これで一件落着とはなりそうにない。

 23日の国会審議で、谷垣氏はまず、海水の注水中断が事態の悪化を招いた可能性もあるとみて、注水中断の経緯や菅首相の関与をただすとともに、政府発表の訂正について「都合のいい発表をして、都合のいい説明をしているのではないのか?」などと追及した。

 これに対し、菅首相は3月12日午後6時から、官邸で開かれた東電関係者や原子力安全委員会などとの協議について、「再臨界の危険性も含めて、海水注入の問題点を洗い出すよう検討を指示した」と説明。ただ、最初の海水注入は東電側から報告がなかったと主張し、「報告が上がっていないものを、私が(注水を)やめろとか言うはずがない」と否定した。

 谷垣氏はまた、菅首相が同日朝、第1原発を視察したことで、原発から放射性物質を含んだ蒸気を排出する「ベント」(排気)が遅れたと指摘されている点も、「最高司令官が現地に行ったことで、足を引っ張った。ベントを遅らせて水素爆発につながり、取り返しのつかないことになったのでは」と質問。

 菅首相は「そう思わない。何度も『ベントを急げ』と言っていた。技術的な問題があったかもしれないが、私の視察とは関係ない」と反論した。

 一体、海水注入中断の真相はどうなのか?

 政府関係者は「官邸での協議に出席していた東電幹部が現場に連絡し、中断につながった」と指摘。与党関係者は「菅首相のイラ菅ぶりが混乱を招いたのでは」といい、こう推測する。

 「菅首相は震災前から、閣僚や官僚に対し、『お前の言うことなど聞いていない』『俺に指図する気か!』と怒鳴り散らかし、周囲は『触らぬ神にたたりなし』という雰囲気だった。菅首相は聞き間違いか、思い付きで『海水注入=再臨界の危険性』に関心を持ち、検討を指示した。周囲は『科学的根拠は乏しいが、イラ菅に反論すると面倒だ』と放置した。これを東電幹部が忖度(そんたく)して注水を中断したのではないか」

 原発事故以来、菅政権については「情報を隠蔽している」「迅速に対応できない」と国内外から懸念が示されている。今回の騒動で、改めて、信頼が低下するのは間違いない。

URL:http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20110523/plt1105231620004-n1.htm



画像東電:海水注入中断は官邸の「再臨界の可能性」検討を受けた   5月23日(ブルームバーグ)

東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理は23日夕の合同会見で、福島第一原子力発電所1号機への海水注入が3月12日夜に一時中断されたことについて、「官邸で再臨界の可能性が検討されているということが東電の東京本社に伝わったため、一時中断した」と述べた。

松本氏は、だれが海水注入停止を指示したかなどについて、「はっきりしたことは分かっていない」と述べた。

福島第一原発1号機は3月12日午後3時36分に水素爆発を起こし、原子炉を冷やすために同日午後7時4分に海水注入が開始された。その後、官邸内で再臨界の可能性などが議論されていることが伝わり一時中断された。

URL:http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=a6YFKDAeQb9s

この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    谷垣氏も石破氏も「変に」玄人過ぎる.
    もっと国民の目で見て欲しいものだ.

    民主主義は代表者が国民に訴えることから始まる.
    「変に」玄人過ぎると言う面は, 国民と向き合う
    ことができないことに現因するのかも知れない.
    ならば, 民主党と同じで, 世代の限界と言えるだろう.

    国民と向き合える政治家に出て欲しいものだ.
    2015年08月10日 15:27
  • とおる

    > 事実、福島第一原発から避難している大熊町の住民から、「言った言わないで騒いでも、あんなのどうしようもない」という声があったそうだから、

    被災者の立場のみを考えれば、「言った、言わない」よりは、目の前の生活が優先するのでしょう。
    しかし、航空機に乗っていて、機長・パイロットが、逆噴射で墜落させようとしている時に、乗客が「食事が回ってこないぞ!」と騒いでも、食事をした後で墜落してしまえば、食事もさほど重要性のあるものでは無くなってしまいます。こういう時は、緊急時だとしても、機長・パイロットを変えるしか無い。
    2015年08月10日 15:27

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