昨日から、震災翌日の原子炉への海水注入が首相の一言で1時間中断していた説が、話題になっている。
事の発端は、自民党の安倍晋三元首相が、自身のメールマガジン(20日付)で、「菅首相の『海水注入の指示』は全くのでっち上げ」で、海水注入の報を聞いた菅首相が「俺は聞いていない!」と激怒して辞めさせたとしているもの。
この報道があってから、お約束どおり、国会で、やった、やってないの騒ぎが起こっているのだけれど、まず、報道前の国会答弁等を追って、少し確認したい。
まず、海水注入という処置がマニュアル化されているかどうかについては、マニュアルを見たわけではないのだけれど、廃炉が確実になる海水注入を最初からマニュアルに書いてあったとも思えないし、4月14日に関西電力が、「冷却用の淡水がなくなる緊急事態が起きた場合、各原発所長の判断で系統内に海水を注いで冷却する」と対応手順書に明記して、経済産業省への緊急安全対策として盛り込んだこと。更には、原子力安全・保安院によれば、緊急時の海水使用を定めた原発事業者は極めて珍しく、この種の緊急安全対策を報告した原発事業者は関電が初めてということから、従来のマニュアルには、海水注入は記載されていなかったと思われる。
すると、海水注入は、現場だけでは判断できないことになるから、少なくとも、東電上層部には報告と判断を仰いでいたと思われるし、3月11日の19:03には、政府が"原子力緊急事態宣言"を発令して、「福島第一原子力発電所に係る原子力災害対策本部」を設置しているから、これ以降は、上層部の判断を仰ぐ事柄については、当然政府官邸にも報告が入っていると考えるのが普通。
次に、海水注入の指示がどこから出ていたかについてだけれど、5月2日の参議院予算委員会で、福島瑞穂氏が、東電の清水社長に対して海水注入の時間を問い質し、清水社長から次のような回答を得ている。
清水社長 「まずあの、1号機であります。海水注入した時間は3月の12日の20時20分頃でございます。で、それに先立ちまして、え~、14時50分頃には、それまで入れておった、淡水を停止しております。そこで切り替えてます。したがって、その~、海水指示というのは、淡水停止の前の時間、その範囲ということは当然考えられることです。」ということで、東電上層部から、淡水の停止と海水注入指示がされていたことは間違いないだろう。そして、同じ参院予算委員会で、海江田経済産業大臣が、こう答えている。
海江田大臣 「…炉に対する海水注入でございますが、これはさきほどお話のありました18時、総理からの、これは第1号機でございます。やはりあの一番最初に1号機に注入いたしましたけれども、え~これにつきましては、先程これは社長からもお話のありましたけれども、14時53分に、まず、それまで約8万リットルですけれども、消防車を用いて、まぁ水を注入をしていたわけでございますが、これが、14時53分の時点で停止になりました。そうしますと、この真水での、この注入が終わってまいりますと、まさに炉を冷却する手法がなくなってしまいますから、そこで一刻も早く、これは真水が駄目なら海水で注入をしなければいけないということを正に、この14時53分が終わってからず~っと、議論、そして度重なる指示をやっておりまして、そして最後に、先程お話をしたように18時に総理からの指示もあり、わたくしが保安院に対して、指示文書の準備をするよう指示をしたところであります。そうしましたところ、19時ゼロ4分に、これは私どもの資料でございますが、一旦、東京電力がですね、福島第一原子力発電所の1号機の海水注入、試験です、試験の注入を、これをを開始して、そしてこれが19時25分に停止をしました。ですから20分くらい試験をやりましたけども停止をしました。そして時刻は刻一刻と過ぎていきますので、再度重ねて総理からの本格的な注水をやれということで、そこでわたくしが、さきほど答弁しましたように20時05分にですね、これで原子炉規制法64条3項の規定に基づいて、え~、福島第一原子力発電所の1号機の原子炉容器の健全性を確保することを、これ命令をしたと、そして、え~20時20分、福島第一原子力発電所1号機に対して、消化器系ラインを使用して海水、そして同時にホウ酸による、え~ホウ酸も混ぜました、これは、水素爆発の可能性もありますので、そして注入を開始したということでありまして…」
とはっきり、政府も淡水注入の停止後、海水注入のための議論と"菅首相の指示で"海水注入を命令したとなっているし、19時04分に試験注水開始と同24分に停止を行なったとしているから、21日になって、細野首相補佐官がコメントしているように「原子力安全・保安院には口頭で連絡があったが、官邸には届かなかった。首相が激怒することもない。私が知ったのも10日ほど前で驚いた」とは明らかに矛盾している。
また、政府資料にはっきりと「午後6時の首相指示」との記載があることについて、細野氏は「『海江田万里経済産業相が東電に海水注入準備を進めるよう指示した』と記述するのが正確だった」と訂正したけれど、これも海江田氏の5月2日の答弁で、菅首相の指示があって、と何度も強調していることと矛盾している。
筆者の感想では、やはり、海水注入に関する現場からの情報は官邸に上がっていて、注入の指示も官邸から出ていたのではないかと思う。
ただ、検証を要する部分があるとすれば、19時04分から開始した海水の試験注入の情報が官邸に上がっていたかということなのだけれど、海江田氏の答弁を聞く限り、「19時ゼロ4分に、これは私どもの資料でございますが、一旦、東京電力がですね」と前置きした上で、東電が試験注水したと答えているところから、海水の試験注水前に、その情報が官邸に知らされていなかったと取れなくもない。
だから、試験注水を始めたことを事後に知らされた、菅首相が激怒して止めさせた可能性もあるし、細野補佐官が言うように、注水も停止も官邸に知らされず、現場の判断で行なったという可能性のどちらも有り得る。
それでも、18時の時点で海水注入の準備を始めるようにという指示が、菅首相なのか、海江田大臣なのかは別として、政府からその指示が出たことだけは事実。
現場の立場からすれば、政府からの指示をうけて海水注入を行うにしても、使用するホースやポンプなどの注水系に問題ないかを確認するために、とりあえず、試験的に注水を行うことはごく自然の行動と思われるし、一刻も早く冷却を行わなければならない当時の状況下であったことを考えると、試験注水をして問題なければ、そのまま注水を続行するという判断も当然あっただろうと思われる。
だから、それを中断するからには、それなりの理由があるはずで、菅首相が激怒して止めさせた理由が再臨界を懸念したというのなら、そのあたりを検証する必要があるし、現場の判断で注水も停止も行なったというのなら、現場でしか分からなかった何か重大な事態が起こったのかもしれないから、そのあたりを含めた一連の判断が適切だったかどうかの検証が必要になる。
少なくとも、前者については、菅首相に問われて、再臨界の危険を指摘したといわれる原子力安全委員会の斑目委員は、「私の指示で再臨界の危険があるからやめた方がいいという発言は絶対しないと思う。」と、言ったのか言わなかったのか微妙な発言をしているけれど、はっきり発言すると、いろいろと差し障りがあるからぼやかして発言したのかもしれない。
また、後者については、今後の検証を待つ必要があると思うけれど、事故発生直後にメルトダウンしてましたなんて2ヶ月も経って発表されるくらいだから、実は、というのがあるかもしれない。
いずれにせよ、後から後から、新事実なり、曝露なり、過去の答弁と矛盾することがどんどん出てくること自体問題で、こんなことが続くのに、政府広報を信じろといわれても中々難しいのではないか。
管政権の国民の信頼度は相当落ちている。国民は醒めた目で、民主党政権を見ているのではないかと思う。


政府・東京電力統合対策室は21日の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所1号機で東日本大震災の発生翌日に行われていた海水注入が中断していた経緯を説明した。
菅首相が海水注入の是非の検討を関係部局に指示している間に、東電が海水注入の開始・停止に踏み切るなど、政府と東電の連絡体制の不備が明らかになった。
対策室が記者会見で配布した資料や説明によると、震災翌日の3月12日、それまで1号機に注入していた淡水が足りなくなったため、首相は午後6時ごろに内閣府原子力安全委員会や経済産業省原子力安全・保安院などに対し、海水注入を検討するよう指示した。これに対し、班目春樹原子力安全委員長が、海水注入によって核燃料の分裂反応が再び始まる再臨界の危険性があると指摘したため、首相は再臨界防止のためホウ酸の注入などの対策を含めて検討するよう改めて指示したという。
首相官邸での検討は午後7時半ごろまで続いていたが、東電はそれに先立つ午後7時4分、現地の判断で海水注入を開始した。ホースやポンプがきちんと動くかどうかの「試験注入」で、順調ならそのまま注入を継続する予定だったというが、官邸にいた東電担当者が現地や東電本店に政府内での協議が続行していることを伝えたため、同7時25分に注入を停止した。
注入開始、停止は官邸には報告されていなかった。東電側は、担当者が保安院に口頭で連絡したとしているが、保安院には記録がないという。
午後7時40分、保安院などが首相にホウ酸を加えた海水注入案について説明し、首相は同55分、海水注入を指示。海水注入が再開したのは午後8時20分だった。 .
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110521-00000709-yom-pol

炉心溶融を起こした東京電力福島第1原発1号機で3月12日夜、炉心を冷やすために始めた海水注入が55分間中断した問題で、政府・東京電力統合対策室は21日の会見で経緯を説明した。12日午後7時過ぎに注入を始めたのも中断したのも東電の判断によるもので、その事実を官邸は最近まで知らなかったとした。中断が冷却作業に与えた影響について経済産業省原子力安全・保安院は「現時点では分からない」としている。
説明によると、海水注入は12日午後7時4分、発電所長らの判断で始まった。前後して、官邸に詰めていた東電の武黒一郎フェローが現地と連絡を取り、官邸で核燃料の再臨界の可能性について検討中であることを伝えた。現地は「政府の判断を待つ」として同7時25分に注水を中断。その30分後、菅直人首相の注水指示が出たのを受け、同8時20分に注水が再開された。
官邸では午後6時ごろから海水注入の検討を始め、内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長の指摘に基づき、再臨界を防ぐホウ酸を投入するなど防止策を協議していた。その間に東電が海水注入を始めたことは官邸には伝わっていなかったという。ホウ酸投入は同8時45分に始まった。
細野豪志首相補佐官は会見で「当時は現地と連絡を取るのにも時間がかかった。政府内では、午後7時半ごろまでは注水は困難という前提で議論しており、7時4分に海水注入が行われていたことも後日知った」と強調した。
政府の原子力災害対策本部の資料で、午後6時に首相が「真水での処理をあきらめ海水を使え」と指示したとの記述があることについても「正確ではない」と否定。「午後6時の時点では『(海江田万里)経済産業相が東電に海水注入の準備を進めるよう指示した』というのが事実だ」と釈明した。
1号機では12日早朝には核燃料の大半が溶融、同日午後3時36分には水素爆発が発生した。原子炉を海水で冷やすという決断がどのような経緯でなされ、事態の悪化にどう影響したかは、今後の検証の焦点になるとみられる。【平野光芳、酒造唯、比嘉洋】
URL:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110521-00000099-mai-soci

東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発1号機に関し、3月12日に東電は原子炉への海水注入を開始したにもかかわらず菅直人首相が「聞いていない」と激怒したとの情報が入り、約1時間中断したことが20日、政界関係者らの話で分かった。
最近になって1号機は12日午前には全炉心溶融(メルトダウン)していたとみられているが、首相の一言が被害を拡大させたとの見方が出ている。
政府発表では3月12日午後6時、炉心冷却に向け真水に代え海水を注入するとの「首相指示」が出た。だが、政府筋によると原子力安全委員会の班目春樹委員長が首相に海水注入で再臨界が起きる可能性を指摘、いったん指示を見送った。
ところが、東電は現場の判断で同7時4分に海水注入を始めた。これを聞いた首相が激怒したとの情報が入った。東電側は首相の意向を受けてから判断すべきだとして、同7時25分に海水注入を停止した。その後海水注入でも再臨界の問題がないことが分かった。同8時20分に再臨界を防ぐホウ酸を混ぜたうえでの注水が再開されたという。
自民党の安倍晋三元首相は20日付のメールマガジンで「『海水注入の指示』は全くのでっち上げ」と指摘。「首相は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべき」と断じた。これに対し、枝野幸男官房長官は20日夜「安倍氏の発言が偽メール事件にならなければいいが」と牽制(けんせい)。首相周辺も「激怒はしていない。安全を確認しただけだ」と強調した。
URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110521/plc11052100440001-n1.htm

大震災の翌日に福島第一原発の1号機に東京電力が最初に行った海水の注入について、政府関係者らが、官邸の指示で中断した、としている問題で、政府と東電の原発事故統合本部は「事実に基づいていない」と反論しました。
「海水注入の事実そのものを官邸としては全く把握をしていなかった。総理も海江田大臣も水を止めるということについては指示をしていない」(細野豪志首相補佐官)
福島第一原発1号機への海水の注入は、3月12日の午後7時4分から始められ、7時25分に中断。その後、8時20分に再開されました。
この間の経緯について、原発事故統合本部は、「海水の注入開始自体が官邸には報告されていなかった」として、官邸の指示で止めることは起こり得なかったとの認識を示しました。
その上で、当時官邸では、原子力安全委員会の斑目委員長から、海水を注入した場合「再臨界の危険性がある」との意見が出され、これを聞いた東電の担当者が本社に伝えたことから注水の停止につながった、と説明しました。
「少なくとも私の指示で再臨界の危険があるからやめた方がいいという発言は絶対しないと思います。もしそれをしていたら、私がいかに原子力の知識がないかということになってしまう」(班目春樹原子力安全委員長)
しかし、斑目委員長自身は21日夜、JNNの取材に対し、統合本部の説明を真っ向から否定していて、官邸の指示で海水注入を停止したという関係者の話に加え、新たに食い違いが表面化しています。(21日23:31)
URL:http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4731045.html

再臨界とは、反応を停止した核燃料が再び連続的な核分裂反応を起こすことだ。
水には、燃料を冷やすだけでなく、核分裂反応で発生する中性子の速度を落として、再び核分裂反応を引き起こしやすくする働きがある。自動停止した原子炉では、中性子を吸収する制御棒が核燃料の間に挿入されており、再臨界が起きることはないが、福島第一原子力発電所1号機は冷却水が失われ、最悪の場合、核燃料が溶けて、圧力容器の下部にたまっている可能性があった。この核燃料の塊に、海水で減速された中性子が衝突して、核分裂反応が連続して起きる危険性がないとは言い切れない。
しかし、藤家洋一・東京工業大名誉教授(原子力工学)は「原子炉は、核分裂反応が起きやすいように、燃料棒の位置などを緻密に設計している。設計が崩れた状況では、反応が格段に起こりにくい。海水の注入で、再臨界が起きる可能性はほとんどありえない」と指摘する。
塩分などの違いで、海水が真水に比べて、再臨界を起こしやすくするようなことはなく、藤家さんは「何よりも、原子炉を冷やすことが最優先だった。海水の注入を中断すべきではなかった」と話している。
(2011年5月22日00時00分 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110521-OYT1T00700.htm?from=main1

福島第1原発事故を受け、関西電力は冷却用の淡水がなくなる緊急事態が起きた場合、各原発所長の判断で系統内に海水を注いで冷却すると対応手順書に明記した。同社が14日、経済産業省に報告した緊急安全対策に盛り込んだ。
通常、原子炉や使用済み燃料プールの冷却には淡水が使われ、海水を注ぐと設備が激しく傷む。同省原子力安全・保安院によると、緊急時の海水使用を定めた原発事業者は極めて珍しい。緊急安全対策を報告した原発事業者は関電が初めてという。
同省は3月末、電源を失い冷却機能が働かなくなった場合でも、燃料損傷を防ぐ対策を取るよう各事業者に指示。関電は「現場で速やかに対応できるよう、海水注入の責任を所長が持つと明確に定めた」としている。
関電は報告に、電源喪失時でも中央制御室などに給電できるよう電源車を配置し、訓練を実施したことも盛り込んだ。保安院が近く立ち入り検査し、内容を確認する。
URL:http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201104150057.html
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
二転三転の嘘付公認政府の説明を信用するのは愚か.
ストリートしては, 淡水から海水に切替えの
許可を政府に申請したのだが, 政府が中々OKを
出さないので現場の判断で注入を開始したと言うの
が本当ではなかろうか. 安倍氏の言説は事実だろう.
同様なことから, 淡水がなくなってから,
「どうしようか?」はまた有り得ない.
必ず, 淡水がなくなる時間を予想して切替え
準備も行なっていた筈だ. 従って, 淡水停止後
1時間程度で海水注入の準備はできていたと
考えるのが技術的常識だろう.
冷却水を停止してから数時間も何もせずに
待つと言うのは, 現場としては本当に心臓が
止まるような思いだったのではないか.
海水注入再開までの50分にどの様なやり取りが
あったのだろうか.
とにかく, 事故に関して誰の言っていることが
どんどん変わっていたかを見れば, 誰が人災の
大元かが分かろう.
自由民主党
sdi
空き缶殿が「オレは聞いてない」と激怒したというのもありそうな話です。なにしろ「オレは原子力に詳しい」ことを自認していた肩ですから。そして、それがが海水試験注入中止「命令」または「要請」につながった、というのならその経緯が明らかにしなければならんでしょうね。
http://www.asahi.com/politics/update/0522/TKY201105210693.html
とおる
嘘を隠蔽するために、議事録を作成せず、後からの検証用の証拠隠蔽。
・短信・虚偽答弁を許容する政府答弁書って…:イザ!
http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/1972333/
・国会での虚偽答弁の責任は「内容次第」 政府答弁書が無責任に…
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110111/plc11011119180175-n1.htm
・森雅子氏の質問主意書
質問: http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/176/syuh/s176170.htm
答弁: http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/176/touh/t176170.htm
almanos
グー
白なまず