メルトダウンと海水混入

 
5月12日、東電は福島第1原発1号機で、燃料棒が原子炉の底に崩れ落ちた可能性があると発表した。恐れていたメルトダウンしてしまっていたということ。

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もちろん何をもってメルトダウンとするのかという定義の問題もあるのだけれど、それについては、原子力保安院が4月18日の会見で次のように定義している。
「炉心損傷」  ・・・燃料棒表面の被覆管が熱で傷つき、内部の放射性物質が放出
「燃料溶融」  ・・・燃料棒内部の核燃料ペレットが溶けて崩れる
「メルトダウン」・・・溶けた燃料棒が原子炉下部に落ちた状態。多量の場合は圧力容器の底を貫通する。
尤も、東電によれば、圧力容器の温度が100~120度と高温でないことから「崩れた燃料棒は原子炉の底の水にとどまる状態」だとしているけれど、あれほど水を注入しつづけて、圧力容器内の水位が上がってなかったということは、圧力容器の底に穴が空いていて、水漏れしているとしか考えられない。

事実、東電も「圧力容器とその外側の格納容器はともに損傷があり、相当量が抜けている」とコメントしている。ただ、圧力容器は兎も角、格納容器からも水漏れしているということは、注水して放射能汚染された水が、格納容器の外にダダ漏れすることを意味しているから、格納容器の穴を塞がない限り、水棺はできなくなるし、その分、炉心冷却はますます遅れることになる。



細野補佐官は15日、1号機の水棺を断念する考えを表明しているけれど、かといって、注水を止めれば、圧力容器内の水がどんどん蒸発して、融け落ちたとされる燃料ペレットが冷却できなくなってしまうから、今は、ダダ漏れ覚悟で注水を続けるしかない。

すると、また、原子炉建屋の地下なり、タービン建屋なりに汚染水が溜まって、また、どこからか海に汚染水が漏れだす可能性があるから、「海洋汚染を乗り越える方法」のエントリーで触れたように、やはり、取水口付近の堤防に水門を作って、完全に外洋と分離して汚染水専用プールにした方が良いように思える。

そして、炉心がメルトしてしまった以上、兎にも角にも、圧力容器、若しくは、格納容器の漏れを塞がないといけないのだけれど、特殊セメントなどの注入で、穴がうまく塞がればいいけれど、なんとなれば、格納容器か建屋の周りを更に建屋で覆って、格納容器ごと水没させることも考えないといけなくなるではないか。

もっとも、このメルトダウンについて、東電は3月11日午後3時30分頃から原子炉の冷却機能が働かなかったと仮定して原子炉の炉心温度や水位を推定したところ、津波から約4時間後の11日午後7時50分頃から、燃料が圧力容器の底に落下し始めメルトダウンが始まったとの分析結果を発表している。

筆者は、3月13日の時点で「福島原発メルトダウンの危機」のエントリーを上げ、燃料棒溶融の可能性を指摘していたけれど、実際はそれ以前から始まっていたということ。

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そして、メルトダウンとは直接関係ないのだけれど、先日停止した浜岡原発5号機に起こったトラブルも気になる。

トラブルというのは、冷却系の中に、炉心から出た水蒸気を真水に戻す「復水器」に約400トンの海水が混入し、原子炉にも流れ込んでいたこと。

炉心に海水が入るということは、炉心が海水中の塩分で腐食することを意味するから、下手をすれば、その炉は使えなくなる可能性がある。福島のときも、東電は、当初、海水を注入すると、廃炉になるから躊躇したという話も聞く。

だけど、それが浜岡でも起こってしまった。しかも浜岡5号機は1999年に着工し、2005年に運転を開始した最新型のABWR(改良型沸騰水型軽水炉:Advanced Boiling Water Reactor)。

ABWRの最大の特徴は、従来型のBWRが、原子炉内の冷却水を循環させる再循環ポンプが炉の外側にあったものを、炉本体に内蔵した点。これによって、炉とポンプをつなぐ配管が不要となり、より安全性が高まったとされている。

とはいえ、蒸気タービンを回したあとの水蒸気を冷やして水に戻す「復水器」にはやはり配管があって、原子炉からの水蒸気は、直径3センチほどの海水が流れる細管で冷やすのだけれど、この細管は、熱変換効率を上げるために、肉厚が薄く、穴が空きやすい。

中部電力は今回の海水混入もこの細管の破断が原因である可能性が高いとしている。

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尤も、この復水器細管から海水が混入する事例は、今回の浜岡5号機が始めてというわけではなくて、過去にも何度かあったようだ。たとえば、平成11年4月29日に、美浜発電所の2号機の復水器の細管1本に、長さ1mm程度の貫通孔が発生し、復水器内に海水が漏れ込んだトラブルが報告されている。

関西電力は、このトラブルの推定メカニズムとして、海水を取り込んだ中にフジツボが混じっていて、細管に挟まって、残った僅かな隙間から海水が流れることで細管の浸食が進んだのではないかとしていて、同様のトラブルは平成12年4月19日に高浜原発1号機でも報告されている。

また、今年の3月7日に女川原子力発電所2号機の定期点検でも復水器細管に微細な穴が開いていたため、閉止栓を取り付けたことが報告されている

こうしてみると、構造的に細管のトラブルは起こりやすく、素人目には復水器には海水を一旦真水にしてから取り込むなど工夫が必要ではないかと思える。少なくとも、フジツボや貝殻をそのまま取り込んでしまうというのはどうかと思う。

たとえ、こうした細管のトラブルがしょっちゅう起こるものだとしても、傍目からは、最新型の原子炉でトラブルが起こるのなら、原子力発電なんてもうだめだねと思われてしまいかねない。こんなのでも放置するようであれば、地域住民の目は厳しくなるし、再稼働は難しくなると思う。

今後、浜岡を再稼働させるにしても、原子力に詳しくない一般人の目をよくよく意識しながら、こうした細かなトラブルを消しこんでゆく努力が望まれる。

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画像福島1号機「燃料棒崩落の可能性」 東電、冷却は維持 2011/5/12 12:13

 東京電力は12日、福島第1原子力発電所1号機で、燃料棒が原子炉の底に崩れ落ちた可能性があると発表した。原子炉圧力容器内の水位が極端に低いものの、容器の底に残った水で冷却は続いていると説明した。

 東電は、原子炉に注ぐ水の多くは「圧力容器とその外側の格納容器はともに損傷があり、相当量が抜けている」と話した。ただ圧力容器の温度がセ氏100~120度と高温でないことから「崩れた燃料棒は原子炉の底の水にとどまる状態」としている。

 事故収束に向け、東電は7月までに1号機の原子炉を水没冷却する計画。水位が低すぎると、原子炉を早期に安定停止できるかは不透明だ。1号機を参考に他号機の復旧を進めるとしており、計画の見直しを迫られる。

 冷却水の水位はこれまで燃料棒の上部から1.6~1.7メートル下にあるとされていた。水位計を復旧して正確に測ったところ、上部から5メートル以下と判明。燃料棒が完全な棒の形で残っていれば、すべてが露出する水位だった。

 今後、原子炉の水位を回復するため注水量を増やす方針。格納容器の水位は確認できていない。

 東電は、最も外側の格納容器の底から水が抜けている可能性があるとの見方も示している。汚染水が建屋や海に流れ出し、再び復旧作業を阻む恐れがある。

 専門家からは1号機の水没冷却の作業について「東電の説明通りなら(作業を後回しにした)2号機と同じように格納容器をまず修復しなければならない。工程表の全面的な見直しが必要だ」(奈良林直・北海道大学教授)との指摘も出ている。


URL:http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819595E3E0E2E2938DE3E0E2E7E0E2E3E39F9FE2E2E2E2



画像燃料棒の溶融、保安院が初めて認める 内閣府に報告 2011年4月18日21時32分

 福島第一原発1~3号機の原子炉内にある燃料棒は一部が溶けて形が崩れている、との見解を経済産業省原子力安全・保安院が示した。18日に開かれた内閣府の原子力安全委員会に初めて報告した。保安院はこれまで、燃料損傷の可能性は認めていたが、「溶融」は公式に認めていなかった。

 燃料棒がどの程度壊れ、溶融しているかは、被害の程度を知る重要な要素。燃料が溶ければ大量の放射性物質が漏れ出て、冷却水や原子炉内の蒸気が高濃度で汚染されることになる。

 1~3号機については、地震被災後間もなく起きた水素爆発とみられる爆発の直後から、専門家の間で燃料の溶融が指摘されていた。保安院も可能性については言及しつつ、明言してこなかった。

 保安院は、燃料棒の表面を覆う金属製の被覆管が熱で傷つき、内部の放射性物質が放出されると「炉心損傷」、燃料棒内部にある燃料を焼き固めたペレットが溶けて崩れると「燃料ペレットの溶融」、溶けた燃料棒が原子炉下部に落ちると「メルトダウン」、と定義した。

 そのうえで、検出された放射性物質の成分や濃度などから、1~3号機で「燃料ペレットの溶融」が起きていると推測。さらに、制御棒などと一緒に溶けた燃料ペレットが、下にたまった水で冷やされ、水面付近で再び固まっている、との見方を示した。

 ただし、どの程度溶けているかは「実際に燃料を取り出すまでは確定しない」とした。東電は、炉心損傷の割合を、放射線量から1号機で約70%などと推定していたが「現時点では目安にすぎない」としている。

 再び、核分裂反応が連鎖的に起きる「再臨界」が事故後に起きた可能性は、炉心に入れる水にホウ酸を混ぜており、「極めて低い」としている。

 保安院の西山英彦審議官は18日の会見で「溶融とはっきり言うけれど、基本的な考え方自体は変わっていない」とし、これまでわかったことを整理したとの立場であることを強調した。(小宮山亮磨、小堀龍之)

URL:http://www.asahi.com/national/update/0418/TKY201104180444.html



画像細野首相補佐官 福島原発1号機の冠水断念表明

 細野豪志首相補佐官は15日、メルトダウン(全炉心溶融)が起きた福島第1原発1号機について、原子炉格納容器に水を入れて燃料を圧力容器ごと「冠水」させる冷却方法を断念する考えを表明した。作業の見直しを迫られ、東京電力が先月示した6~9カ月で1~3号機の原子炉を安定状態にするとした工程表のスケジュールは、大幅に遅れる可能性がある。

 細野氏はフジテレビやNHKの番組に出演。1号機でメルトダウンに伴い圧力容器の底に穴が開き、注いだ水が漏れているとみられ、外側の格納容器からも建屋などに漏水している恐れがあることを受けて、「冠水は難しい。冠水で(結果的に)水を海に流すことがあってはならない」と指摘。「やり方を変えないといけない」と述べた。

 第1原発の事故処理において、原子炉の冷却は最重要作業。東電が先月17日に示した工程表では、6~9カ月で1~3号機の原子炉を冷やし安定状態にすることを目標に、3カ月以内に行う具体策として冠水の実施を挙げていた。1号機の冷却方法については、全長約4メートルの燃料の上まで水がかぶるよう格納容器に水を満たし冷却することになっていたが、燃料は溶け落ち、原子炉建屋地下には深さ4メートル超とみられる大量の水がたまっているのが見つかった。

 細野氏は「水を除染して原子炉に戻す大きなループを考える」と述べ、原子炉建屋のたまり水を循環させて冷却に使うシステムの構築を検討すると説明。炉心溶融については「事態は極めて深刻だが冷却そのものは順調だ。そういう状況が分かるようになってきたことも一定の前進だと理解してほしい」と強調した。

 東電は冠水に代わる対策として、圧力容器の底に溶け落ちてたまっている燃料を覆う程度まで注水を続けながら、格納容器から漏れた水を取り出す方法を検討している。

 細野氏は、17日、東電が1カ月の節目で発表する工程表の改定版と併せて、周辺地域の復旧や当面の被災者支援などの手順を盛り込んだ政府の「工程表」も公表することを言明。東電の工程表について「スケジュールは守りたい」と述べ、維持する意向を示した。

 しかし、工程表の大幅修正は必至で、東電幹部は「場合によっては少し予定より遅れることはあると思う」とした。政府が工程表通りに進めば年明けに可否を判断するとしていた避難住民の帰宅時期も不透明になりそうだ。

URL:http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/05/16/kiji/K20110516000829810.html



画像浜岡原発:「復水器」に海水400トン混入 5号機 2011年5月15日 21時40分 更新:5月16日 9時46分

 中部電力は15日、原子炉を停止した浜岡原発(静岡県御前崎市)5号機で14日、水蒸気を真水に戻す「復水器」に約400トンの海水が混入し、原子炉にも流れ込むトラブルがあったと発表した。公表は発生の約19時間後だった。中部電は「放射性物質の漏えいはなく、法律に基づく公表基準にあたらないと判断した」(広報担当者)と説明している。

 復水器は、原子炉の水蒸気を海水が流れる細管(直径約3センチ)で冷やす装置。中部電によると、トラブルは、この細管の破断が原因である可能性が高いという。

 5号機は14日午後1時に原子炉を停止。その3時間半後、冷却水の不純物濃度が急上昇しトラブルが分かったが、発表は翌15日午前11時45分だった。

 中部電はトラブルの約3時間後、別の注水ポンプを使って真水で原子炉の冷却を続け、15日正午すぎ、冷却水温が100度未満となる「冷温停止」状態になった。海水が原子炉に入ると内部の腐食が進むため、中部電は脱塩作業を進めている。

 浜岡原発は1~2号機が廃炉に向けた準備中で、3号機は定期点検中。4号機も13日に停止され、全面停止となった。【仲田力行】

URL:http://mainichi.jp/select/today/news/20110516k0000m040106000c.html?inb=fa

この記事へのコメント

  • 白なまず

    「高性能化、高効率化は正義(利益を得やすくなる)」と言う理屈に取り付かれると安全のマージンが無くなる方向へ進みやすくなるのは、経済と科学技術の高度化がそれを許容しやすくなる為でしょう。特に日本には継目のない薄い配管を製造できる技術が有りそれが強みであったが、それは高効率化を追求する事と同じであれば、極限まで薄くしてしまうのが日本人の性格。強度はギリギリで問題なければ運用できるが、予想外の事が起こってしまうと直す事が出来れば良いが、、、経済、技術、判断のせめぎ合いでトレードオフしなければいけない時に安全の判断が甘くなっているのが根本的な問題でしょう。こうやってみると原発はまるでレースカーのFー1のようですね。大量生産する製品なら犯さないようなマージン削って性能を稼ぐなんて。しかも40年以上動かそうだなんて、、、電子部品でも3年~10年位が想定寿命なのに。。。
    2015年08月10日 15:27
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    いっこうに本質的対策をとらず, 徒に東京電力を
    非難してきた菅役立たず内閣に見切りをつけて
    東京電力がとうとうバラしてしまった様に思える.
    こうなると, 責任は最初の対策の足止めをした
    菅内閣にあることになる. 東電社長のUターン問題
    と菅役立たず首相の視察飛行の問題. これらが
    なければ炉心損傷には至らなかった可能性がある.
    東京電力はそこを言いたいのではないか.
    2015年08月10日 15:27

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