海洋汚染を乗り越える方法 ~Future Gazer~

 
今日は、昨日のエントリーの続きでありますけれども、海洋汚染による水産物への対策について考えてみたいと思います。

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1.シルトフェンスでは汚染水を完全には防げない

5月11日、東京電力は、福島第1原発3号機の取水口近くの立て坑(ピット)の海側部分のひび割れから高濃度の放射性物質汚染水が海へ流出したと発表しました。

東電は、ひび割れをコンクリートで塞ぐ工事を同日中に行い、汚染水の流出を止めたものの、近くの海水の濃度は一時、周辺の数千倍になったようです。

まぁ、原子炉に水を注入し続け、且つ、その水を循環できてない現状では、その水はどこかへ行くしかありません。だから、冷却水の循環が出来るようになるまでは、今後も何らかの形で汚染水が海に流出してゆく可能性があります。

一体いつになったら、冷却水の循環ができるようになるのかは分からないですけれども、長引けば長引くほど、海洋汚染は続くことになります。下手をすれば、魚が食べられなくなる時がくるかもしれません。

では、どうすべきか。

それは、もう、汚染された海水と汚染されてない海水とを分離することですね。汚染された海水の区域を最小限にとどめればとどめるほど、その分汚染されてない海水が残ることになります。

実際、福島第一原発の取水口付近には、汚染水の拡散を防ぐために、4月11日から14日にかけて、シルトフェンスと呼ばれるカーテン状の仕切りを、1~4号機の取水口付近に設置しています。

福島第一に設けられたシルトフェンスの総延長は540メートル。直径30センチの筒状になった浮きの下にカーテンを垂らしたものなのですけれども、大きさが規格外だったため、メーカーに特注して作成してもらっています

ただ、カーテンを垂らす形状のため、カーテン下部が海底に接地しているわけでもなく、また、海底にも凸凹があるでしょうから、海底下部ではシルトフェンスの内も外も繋がっています。ですから、完全な分離というわけではないですね。

もともと、シルトフェンス自身、土砂用につくられているもので、メーカーも「放射能汚染水に対しどれほどの効果があるか分からない。少しでも汚染水が海に流れ出る速度を遅らせることができれば」とコメントしています。

今回、汚染水が流出した、3号機取水口にも、もちろんシルトフェンスが設けられていましたけれども、シルトフェンス内側の海水の汚染濃度は、ヨウ素131が190ベクレル/立方センチ、セシウム134が1900ベクレル/立方センチ。シルトフェンス外側の海水では、ヨウ素131が96ベクレル/立方センチだったそうですから、大体、フェンスの内と外で大体半分くらいですね。

ですから、このやり方では、やはり限界がありますね。

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2.水門と防波堤で海を区切れ

シルトフェンスによる分離が完全でないのであれば、もう、いっそのこと、完全に外洋から仕切ってしまうほうがいいかもしれません。

シルトフェンスは、防波堤内の取水路付近に設けられているようですけれども、防波堤内に水門を作って、完全に分離してしまえばよいと思いますね。防波堤内を汚染水を溜めておくプールにするというわけです。こうすれば、今後また汚染水の流出があっても、プール内にとどめることができますし、そこからタンカーなりメガフロートなりに汚染水を移すことだってできると思いますね。

もしかしたら、汚染濃度が高くて工事できないのかもしれないのですけれども、シルトフェンスが設置できるのですから、水門をつくるくらいできそうに思うのですけれども、どうなんでしょうか。

また、これは、半分以上妄想系の話になるのですけれども、この防波堤及び水門による仕切りをもっと大がかりにして、安全な海を部分的にキープしておく方法も考えらます。

たとえば、諫早湾には諫早湾干拓潮受堤防がありますけれども、同じように、太平洋岸などで養殖をしている海域を囲うように、水門付の防波堤で外洋と区切ってやることもできると思います。

運転停止が決まった浜岡原発では安全対策として防波堤を強化するようですけれども、浜岡原発周辺だけではなくて、各地の養殖場を水門付の防波堤で完全に囲ってやって、その内側で養殖ができるようにすれば、海洋汚染からある程度守ることができると思いますね。

今回の震災の被災地復興でも、一段と安全性の高い防波堤を検討するのでしょうから、それこそ、もう、諫早湾の干拓潮受堤防のように広い範囲で防波堤をつくって、その内部の海を有効利用するように考えてもよいと思います。

更に妄想を逞しくすれば、鳴門海峡や佐多岬に超大規模な可動式堤防でもつくってやって、瀬戸内海を太平洋から分断できるようにしてやれば、瀬戸内海を丸ごとイケスにしてしまうことだってできますね。

まぁ、これは、太平洋の殆どが放射能汚染されて、魚が全く食べられなくなってしまうといった、SFマンガのような状況にでもならない限り考えなくてよいとは思いますけれども、妄想ついでに書いておきたいと思います。

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3.好適環境水

海を堤防なり、水門なりで仕切るやり方とは別に、もう完全に海から切り離してしまう方法もあります。要するに、陸地に海をつくってしまうという発想です。

まぁ、陸地に海を作るといっても、何も穴を掘って海水を溜めるというわけではありません。人工水槽で海水魚の養殖をするということです。

これまでも、陸上で、人工海水を使った海水魚の養殖は、大分県などで試みられたことがあったのですけれども、人工海水を作ったり、冷暖房費のコストが高く、あまり進んでいませんでした。

けれども、こうした問題を解決する技術がもう開発されています。たとえば、一部ではすでに有名だと思うのですけれども、「好適環境水」というものがあります。

これは、岡山理科大学の山本俊政アクアリウム学科長らが開発した、"魔法の水"で、これは淡水にカリウム、ナトリウムなどを溶かしたもので、甘くないスポーツドリンクのような味の水だそうなのですけれども、この好適環境水を使うと淡水魚と海水魚が一緒に養殖できるのですね。

普通、海水魚は淡水には住めませんし、淡水魚は海水では生きられません。なぜなら、海水魚と淡水魚では、それぞれ正反対の浸透圧調整を体内で行っているからです。

塩分濃度の濃い海水をそのまま取り込んでしまうと、浸透圧の関係から、体内から水分が抜けていくのですけれども、それを防ぐために海水魚は、取り込んだ海水中の塩分をエラから出して、浸透圧の調整をしています。また、淡水はその逆で、そのまま淡水を取り込んでしまうと、水分が体内にどんどん入ってくるので、淡水魚は尿を大量に出して、余分な水分を排出し、必要最低限の塩分のみとエラから取り入れています。

この仕組みのために、海水魚と淡水魚は同じ水槽では飼育できなかったのですけれども、岡山理科大学の山本氏は、今ほど海水の塩分が強くなかった、太古の海に注目したのですね。



太古の海では、海水魚の祖先も淡水魚の祖先も一緒に生息していたと考えられ、山本氏は太古の海を研究した結果、魚にとって必要な成分はカリウム、ナトリウム、その他数種類の成分があれば、魚は生きられることが分かりました。

必要最小限の成分だけ溶かした水では、魚自身も浸透圧の調整も必要ないので、海水魚も淡水魚も一緒に棲むことができるのですね。

また、魚にとっても、浸透圧の調整は負担になるらしく、その調整に3割ほどのエネルギーを使っていました。それが好適環境水では要らなくなる分、成長が早くなるそうです。

更に、好適環境水では、海水魚の病原体と淡水魚の病原体の両方が死んでしまうために、魚も病気にかかりにくくなり、養殖で薬が要らなくなります。

確か中国で養殖している鰻は、 クロロマイセチン、フラボマイシンなど十数種の薬品で薬漬けになっていると聞いたことがありますけれども、好適環境水ではそんなことはしなくてよいのですね。

更に、好適環境水は、水に少しの成分を溶かすだけですから、人工海水に比べて、60分の1のコストで済む上に、公的環境水を浄化する時に出た汚れは、肥料としても利用できるそうです。いいことづくめですね。

今では、好適環境水による養殖も進んでいて、トラフグやヒラメ、タイなどが養殖されています。実際に地元の料理店にも出荷されていて、その味も天然と遜色ないようです。




4.温泉トラフグ

また、この好適環境水と似たような発想で、温泉水で海水魚を養殖しているところもあります。

よく、温泉宿なんかにいくと、その温泉の効能などが謳ってありますけれども、温泉にはいくつも種類あって、アルカリ単純温泉ですとか、硫黄泉ですとか、いろんな成分が溶けているわけです。

温泉の中には、"ナトリウム塩化物泉"という塩分が溶け込んだ温泉があるのですけれども、これはもう、その名のとおり塩分が溶けているわけですから、ある意味、海水の成分が混ざっているわけです。

そこで、この海水に近い温泉を海水魚の養殖に使えないかという発想が生まれたのですね。

栃木県の那珂川町には、このナトリウム塩化物泉の源泉があり、これを使ってのトラフグの養殖がおこなわれています。この温泉の塩分濃度は、1.2%で、海水の塩分濃度3.6%の1/3ほどなのですけれども、1.2%というのは、生理食塩水の塩分濃度の0.9%に近いですから、フグにとっても浸透圧の調整が楽なんですね。

また、温泉は、海のように四季による水温の変動もありませんから、その分成長が早いようです。天然だとトラフグの養殖に1年半かかるところ、温泉トラフグは1年で出荷できるそうですから、効率もよいですね。

浸透圧の調整を不要にする、という意味では、この温泉を使っての海水魚の養殖も、好適環境水と同じと言えます。

尤も、天然温泉には、塩分以外に他の成分も含まれていますから、それらも考慮したうえでないと養殖はできないのですけれども、この那珂川町の温泉成分を分析した結果、塩分以外の成分は、飲料水や養殖基準を満たしていて、特には問題ないようです。

ですから、他のナトリウム塩化物温泉でも、塩分以外の成分が基準値を満たしているか基準値以下にまで調整することができれば、他の温泉水でも、同じように海水魚が養殖できる可能性があります。

こうした、陸地でも海水魚を養殖できる技術が開発されているのですから、被災地の復興や、海洋汚染に備えて、こうした技術を国としても、バックアップしておくことも大事だと思いますね。




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画像高濃度汚染水、再び海に 福島第1原発3号機立て杭から 2011年5月12日 01時23分

 東京電力は11日、福島第1原発3号機の取水口近くの立て坑付近で高濃度の放射性物質を含んだ水が海へ流出したと発表した。東電の工事で水は同日中に止まったが、近くの海水の濃度は一時、周辺の1000倍になった。高濃度汚染水の海洋流出は、4月上旬の2号機以来。

 東電によると、立て坑の開口部は幅1・4メートル、奥行き1・1メートル。深さ2・4メートル。11日昼に作業員がこの立て坑に水が流れ込んでいるのを見つけた。水位が上がっておらず、近くの海に漏れ出していると判断した。

 立て坑内の水からは、3号機タービン建屋地下の高濃度汚染水とほぼ同水準で、法令で定める海水の放射性物質の濃度限度の10万倍を検出。放射性物質別ではセシウム134が62万倍、同137が43万倍だった。

 流出経路について東電は「建屋地下から地下のトンネルに汚染水が流れ込み、電線を通す直径10センチの管を12本束ねた『電線管』を通じて立て坑に入った。立て坑に亀裂があり、海へ漏れ出た」と説明。2号機のケースとほぼ同じだと話している。

 東電は立て坑の側壁にある電線管の穴に布を詰め、立て坑をコンクリートで固めて水を止めた。経済産業省原子力安全・保安院は東電に再発防止を指示した。

(中日新聞)

URL:http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011051290012351.html

この記事へのコメント

  • 白なまず

    海の浄化についてインスピレーションを頂きましたので、、、大祓詞、稚日女(倭姫)より、

    (天津神・天照大神の御神力をうけて、その御加護のもと)平和で無事な国家としてご統治なされようとする国土の中に、年代が経(た)つに随って、自然に生まれ、益々殖えていく国民たちが、知らない間や故意に過ち犯した数々の罪悪は、天つ罪・国つ罪など沢山な罪が現れるでありましょう。このように幾つもの罪禍が現われ出てきたならば、天上の神様の宮殿で行われてきた神聖な儀式に倣(なら)い、木の枝の元と尖端を切り中程を取って蔓(つる)を編んで結束した置台の上に、多くの祓えものを置き、清い菅麻(すがそ)を木の枝と同じように元と末とを切り捨て、中程の良い部分を取り、針で細かく割き(祓(はらい)串(ぐし)のようにして祓いの神事を行い)天つ神のお授けくださいました、神秘なお働きをする祓いの祝詞(のりと)を申し唱えなさい。
    2015年08月10日 15:27
  • せみまる

    原発事故はいまいましいものだ。あなたに欠けている視点は原発問題に関する自民党政権の責任だ。
    2015年08月10日 15:27
  • クマのプータロー

    海洋汚染対策は急を要します。二正面作戦で行くほかはないでしょう。選択と集中はそのあとです。
    2015年08月10日 15:27
  • 日比野

    せみまるさん。

    私は、菅批判は、原発事故に関係なくしていますし、民主党政権になる以前から民主党に対して、批判すべきはしてます。同時に、鳩山政権時代ですけれども、鳩山政権をポジティブに捉えたらどうみえるかというエントリーもしてますね。

    代替エネルギーについては、原発事故以前から何度か取り上げていますし、放射能汚染については、流石に原発事故以降ですけど、早くから取り上げている積りです。

    なので、スタンスは昔から変えてはいないですね。念の為申し添えておきます。
    2015年08月10日 15:27

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