浸透膜発電と混合エントロピーバッテリー
今日は、また発電技術についてのエントリーを。
2年ほど前、ノルウェーで世界初の浸透膜発電の実証プラントが運転を開始した。
浸透膜発電とは、淡水と海水との塩分の濃度差を利用した発電方式のこと。具体的には浸透圧を利用する。
普通、塩水と淡水といった、塩分濃度が異なる液体を混ぜると、塩分は混ぜた液体全部に均質に拡散していって、最終的には、液体のどの部分でもだいたい同じ塩分濃度になる。
この時、塩水と淡水をそのまま混ぜないで、塩水に溶けている塩は通さずに、水は通す小さい穴の開いた膜(半透膜)で仕切ってやると、塩の分子は膜を通過できないから、塩水側に取り残されるのだけれど、水分子は膜を通過できるので、淡水側から塩水側、または塩水側から淡水側へと、双方向に移動する。
ただし、淡水側から塩水側への水分子の移動は普通に起こるのだけれど、塩水側の水分子が淡水側に移動するときには、溶け込んだ塩の分子に邪魔されて、水分子の移動は鈍くなってしまう。
すなわち、淡水側から塩水側へはスイスイと水分子が移動するけれど、塩水側から淡水側への水分子の移動はゆっくりとしたものになって、塩水側の水がどんどん増えていくことになる。この水の移動差が圧力となって見えてくる。
これがいわゆる「浸透圧」と呼ばれるもので、互いの溶液の濃度差があればあるほど、この場合、塩水の塩分濃度が高ければ高いほど、浸透圧も高くなる。
浸透膜発電とは、この圧力を利用してタービンを回して発電を行なうもの。ただ、ノルウェーの実証プラントで発電できる電力はコーヒーメーカー1台分程度とささやかなもので、まだまだこれからの技術なのだけれど、ノルウェーは2015年までに25メガワットの発電を目指しているそうだ。
また、これとは別に浸透膜を使わずに、淡水と塩水から発電する方式も開発されている。
これは、先頃、スタンフォード大学の研究チームが、淡水と海水の塩分濃度の違いとナノテクノロジーを利用して充放電する「混合エントロピーバッテリー」と呼ばれるもので、陽極に二酸化マンガン、陰極に銀を使用して、海水に浸けると、海水中に溶けている、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)がそれぞれの電極と反応する仕組みを利用している。
二酸化マンガンの陽電極はナトリウムイオンと反応してナトリウムとマンガンの酸化物を生成し、銀の陰電極は、塩化物イオンと反応して、塩化銀を作る。つまり、電極を塩漬けにすることで電気を作っている。もちろん、電極を塩漬けにした分、海水からは塩は抜かれることになる。
そして、電極の殆どが反応しきったあとで、真水につけてやれば、今度はそれぞれの電極からイオンが抜けて、逆向きの電流が流れる。このとき、電極についていた塩化物等が真水に溶け出すので、真水にはほんの少し塩分が混ざる。要するに、真水を使って電極の塩抜きをすることで発電する。
こうして、海水と真水を交互に入れ替えることで充放電を繰り返すことができるのが、この混合エントロピーバッテリーの特徴。
この電池を開発したスタンフォード大は、カリフォルニア沿岸の海水と、シエラネバダのドナー湖の真水で実験し、発電効率は実に74%をマークした。しかも海水と淡水の入れ替えを100回以上おこなっても効率が低下しなかったという。
ただし、今の段階で陰極に銀を使っているため、コストが高く、実用化には、別の安価な材料を探す必要がある。
また、発電能力は、研究チームの試算によれば、毎秒50立方メートルの淡水を使用して、100メガワット(=10万kW)発電できるとのことなのだけれど、先日停止の決まった浜岡原発の4号機が113.7万kW、5号機が138万kWの発電能力があることと比較すると、10分の1以下。
だけど、日本には毎秒50立法メートルもの流量を確保できる河川はそれほど多くなく、また、季節による流量変化も激しいので、中々日本で大々的にというのは難しいと思われる。研究チームもさまざまな地域、国に対して見積りを行なったところ、アマゾン河のある南アメリカが最も有望だとしている。(アマゾン河の年間平均流量は22万2千立法メートルで全世界の川の流量の20%を占めている。)
とはいえ、淡水と海水の入れ替えで発電できるのはシンプルかつ環境に優しいと思われ、それなりに魅力的ではある。万一のバックアップ電源程度には考えられるかもしれない。
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世界初の浸透膜発電の実証プラントが稼働、ノルウェー 2009年11月25日 15:24 発信地:トフテ/ノルウェー
【11月25日 AFP】ノルウェー国営電力会社スタットクラフト(Statkraft)は24日、世界初の浸透膜発電の実証プラントの運転を開始した。式典にはメッテ・マリット王太子妃(Crown Princess Mette-Marit)も出席し、運転開始を祝った。
実証プラントは、首都オスロ(Oslo)から南に約60キロのオスロ・フィヨルドの岸辺にある、かつての塩素工場に建設された。
このプラントは浸透作用という自然現象を利用している。1枚の浸透膜(塩分は通さないが水は通す薄い膜)を隔てて淡水と海水が出会うと、淡水は海水の方に引き寄せられる。このとき海水側にかかる圧力でタービンを回転させて発電するという仕組みだ。浸透作用はこれまで海水の淡水化に利用されてきた。
浸透膜発電には多くの利点がある。まず、風力や太陽光といったほかの再生可能エネルギーとは違い、天候に関係なく安定した発電ができる。また、淡水と海水があれば発電が可能なので、発電所は、川が海に流れこむところであればほぼどこへでも設置することができる。
こうした技術には、米航空宇宙局(NASA)も宇宙ステーションでの利用を視野に入れて、強い関心を寄せている。
今回稼働した実証プラントが当面発電できる電力はコーヒーメーカー1台を動かせるだけに過ぎないが、浸透エネルギーの世界全体の潜在量はEU加盟国の総エネルギー生産量の半分に相当する年間1700テラワット時にのぼると推定されている。実用化にはエネルギー効率の高い浸透膜の開発が不可欠だ。
スタットクラフトは、発電容量が25メガワットで約1万世帯に電力を供給できる初の商用浸透膜発電所の建設を2015年にも始めたいとしている。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes
URL:http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2667521/4944966
淡水と海水の塩分濃度の差により充放電するバッテリーが開発される 2011年05月08日 18時00分
スタンフォード大学の研究チームが、淡水と海水の塩分濃度の違いとナノテクノロジーを利用して充放電する「混合エントロピーバッテリー」を開発したとのこと。
混合エントロピーバッテリーを開発したのは、Yi Cui准教授(材料工学)が率いる研究チーム。バッテリーは2つの電極を持つ単純な構造で、陽極に二酸化マンガンのナノロッド、陰極に銀を使用している。このバッテリーに淡水を満たして「充電」し、淡水を排出して海水に入れ替えれば電力を取り出すことが可能となる。放電後は海水を排出して淡水に入れ替えれば再度充電される。毎秒50立方メートルの淡水を使用できれば、10万世帯分の電力供給に相当する100メガワットの電力を取り出すことが可能だという。
この技術を応用した発電所の建設に適しているのは河口付近だが、排水による自然環境への影響を十分に考慮する必要がある。また、陰極として現在使用している銀は高価なため、実用化に向けて安価な代替素材を探しているとのこと。なお、淡水は川の水に限らず雨水や各種排水なども使用できるので、Cui准教授は処理済の下水利用について研究したいとも述べている。
URL:http://slashdot.jp/hardware/article.pl?sid=11/05/08/0851253
この記事へのコメント
sdi
本記事の件は知りませんでした
実のところ、本当に本気で自然エネルギーを日本のエネルギー供給体系に組み込むなら日本独自の供給源を考えなくてはモノにならんと思います。なぜなら、日本のような気象・気候・地形・面積etc(以下『風土』と呼称)の条件を備えた国は日本しかないからです。それほど国によって『風土』が違います。日本の場合、先進諸国のなかで一番四季の変化があるためそれに伴う気象変化が激しいのが最大のネックではないかと考えています。とりあえず投下した資本、資材、エネルギーに見合うのは現状では地熱発電ぐらいでしょうか。
浸透膜発電は波力発電の一種と考えて、無人灯台や離島でのバックアップ電源として使えるかもしれません。ただ、メンテナンス・運用コスト、特にマンアワーコストがどれくらいになるかにもよりますね。
白なまず
1)海上プラントで太陽熱で海水を蒸発させて蒸留水と塩や不要物質を分離する
2)海水と塩を混ぜて高濃度の塩水を作り混合エントロピーバッテリーで発電する
3)放電後のバッテリーの塩抜きを蒸留水で行う。この際、熱や添加物を工夫して塩抜きの効率をあげる
4)以上のサイクルを行う。
日本の領海に巨大な発電プラントを作り電気を供給する。プラントを中心に海中には養殖のお魚、回りに水上都市、農園、ホテル、、、ついでに台風の風で発電を可能にする特殊な風力発電や、雷様の電気を貯める混合エントロピーバッテリーなど夢の世界ですね、もし可能なら。
日比野
>日比野殿の日毎の調査とそれたいする分析についての努力、頭が下がります。
本記事の件は知りませんでした。
ありがとうございます。いやぁ。私も自分で納得するまで調べたい性質なもので…ついつい調査に時間をかけてしまいます。
やはり自然エネルギーは発電容量の小ささと安定度のなさがネックとなりますので、どうしてもメインの発電手段にはできそうにないというのが現時点での感想です。
おっしゃるとおり、地熱は安定しているので、これがコストに見合うだけの電力が出せればよいのですが、EPRをみると原発は28.2でダントツです。地熱は6.8で石炭並み。波力は1.9、風力3.9ですし…。
ただ、無人島は離れ小島で実験&バックアップ電源を持つのは悪くないと思います。