放射線専門は一人だけの安全委員会

 
「専門的な知識がないので国の目安に基づいて対策を行っているが、その元になった専門家が目安を容認できないということだったので、非常に驚き衝撃的だった。大切な子どもの命を預かる現場としては、しっかりした基準に基づいて安全・安心に取り組みたいが、今は毎日手探りで不安と向き合わざるをえない」
福島県伊達市小国小学校・柳沼雅俊校長

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小佐古敏荘氏の内閣官房参与辞任が波紋を呼んでいる。福島県の佐藤知事は、小佐古氏が辞任会見で小中学校などの屋外活動を制限する「年間20ミリシーベルト」の基準に異論を唱えたことに対して、「国の基準に従って一生懸命やってきたのに、これでは県民が困惑する」と強い不快感を示している。

また、福島県の窓口にも「年間20ミリシーベルト」を疑問視する問い合わせが相次いでいて、学校関係者も戸惑いを隠せないようだ。

郡山市に続いて、伊達市の小国小学校でも、4月30日から表面の土を取り除く作業を始めている。小国小学校は、安全が確認できるまで校庭の利用を控え、5月に行われる運動会も体育館で行うことにするという。賢明かつ致し方ない判断といえる。

伊達市でも、小中学校の放射線測定を公表しているのだけれど、地表50cm、100cm高さで、屋外、屋内、体育館と3つの場所でそれぞれ測定していて、小国小学校は4/28時点で、屋外で5.21uSv/hと年間積算で45mSv/yと高い線量になっている。

しかも、伊達市で高い線量を示しているのは、この小国小学校だけじゃなくて、他にもあるから、何処で線を引くのかは分からないけれど、他の小中学校でも表土を剥がす作業は順次行われる可能性はある。

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さて、小佐古氏は辞任に際して、政府の対応を「法律や指針を軽視したその場限りの対応」と批判していたのだけれど、その点について、国会で追及された菅首相は「参与の議論も含めた助言を得て、決して場当たり的な対応はしていない」と反論してみたものの、そもそも、小佐古氏を任命する時点で、特に面識もなく、民主党の空本議員から推薦されただけで任命しているし、小佐古氏が辞任にあたって、菅首相に最後の面会を求めていたのに応じなかった

要するに、任命から辞任までノータッチで決めている。少なくとも、しっかりと計画して熟慮した上の人事じゃない。これをもって、"場当たり的でない"というのなら、その証明、すなわち、参与を含めた議論の議事録なりなんなりを公開して、それ相応の説明が要る筈。

尤も、菅首相の答弁では、「最終的には原子力安全委で一つの見解をまとめ、政府に助言する仕組みになっている」とのことなので、原子力安全委員会の判断が優先すると思われる。

そこで、原子力安全委員会で、どのような議論が交わされたのかについてなのだけれど、原子力安全委員会のHPで会議資料等が公開されている

この資料を見る限り、20ミリシーベルトの安全基準の根拠となる議論されたかどうか、今一つ分からないのだけれど、唯一、4月10日に開催された、原子力安全委員会で、20mSvについて発言が見られる。発言は放射線影響学を専門とする久住静代委員のもので、次に該当部分を引用する。

○久住委員 ご承知のとおり、原子力災害対策本部において同心円状に避難と屋内退避を決めているというのは、事故当初の線量を回避するためのものと理解しております。ですから、このように継続的に放射性物質が放出されている事態においては、ICRPのいわゆる緊急状態におけるバンドである100から20ミリシーベルトという範囲で、いかにそこの中で線量を下げていくかという工夫をする時期に入っていると思いますので、この時期に見直しをされるというのは非常に適切であると考えます。それでどのようにしていくかということですけれども、只今申しましたとおり、100から20のバンドの中で一番低い20mSv/年という所を目指して努力をするというのが、まず大変重要であろうと思います。私はこの20mSvという一年間の積算線量で、今回、防護対策を決められるのが適切でないかと思います。ただ一つはっきりと申し上げておきたいことは、私どもは非常に保守的に1年間に1mSvを一般公衆の被ばく線量として目指しておりますので、20mSvに急に上がるということに大変心配されるのではないかと思います。しかし、あくまで1年間に100mSvまでは確定的影響という被ばくをしたときに、短期間に現れる身体影響も、長期的に起こってくる晩発的影響、確率的影響も起こらないことをはっきり皆様に理解していただきたいと思います。特に今回は、急性被ばく、一度の被ばくではなく、継続している慢性被ばくですから、影響はより少ないというふうに考えられます。100mSv以下では心配は無いのだということをご理解していただいた上で、それでもなおかつ、できるだけ低い線量を目指すということで、ICRPのいう20mSvを目標にするという考え方で防護区域をもう一度考えていただくというのが適切ではないかと思います。

と、久住氏は「100mSv以下では心配は無い」とした上で、ICRP勧告の緊急状態における線量バンドである20mSv~100mSvの低い方を目指すのが適切と発言している。



以前にも何度か触れたけれど、年間100mSv以下の領域における、晩発障害を含む、確率的影響について、少なくとも、ICRPは放射線防護の観点から安全側に立って、被ばく線量と発がんの確率の関係は直線的に増加する、いわゆるLNT仮説を採用している筈で、心配はないと言い切るのは少し乱暴ではないかと思う。

だけど、その後の議論は、久住氏の発言の20mSvでもう決まったかのような前提で議論が進み、そのまま終わっている。

なぜ、20mSvについて、どこからもツッコミがなかったのか不思議に思うのだけれど、実は、原子力安全委員のメンバーの中で、放射線の影響を専門とするのは久住氏だけ。その他は原子力熱工学だとか、原子炉工学だとかが専門で、久住氏のほか放射線の専門家はいない。であるが故に、誰も久住氏に突っ込みが入れられなかった可能性はある。

それに、久住氏が、100mSv以下では心配ないとした発言自体もよくよく読めば、微妙な言い回しだったりする。その微妙な部分とは次のとおり。

「年間に100mSvまでは確定的影響という被ばくをしたときに、短期間に現れる身体影響も、長期的に起こってくる晩発的影響、確率的影響も起こらない」

上記発言の前半部分では、確定的影響という観点で、100mSvの被曝までは身体的影響、晩発障害も起こらないとしていて、それは正しいのだけれど、最後にこそっと、"確率的影響も起こらない"なんて発言している。"確定的影響という被曝"で話を始めて、最後に全く別の確率的影響を持ち出して、"起こらない"と言っている。本当なのか。ロジック的に非常に違和感を覚える。

本当は、こうしたことをチェックするために、内閣参与という存在があって、そこに突っ込みや修正を入れてしかるべきなのだけれど、参与を辞任した小佐古氏によれば、「極めて短時間にメールで審議し、強引にものを決めるやり方」だったようだから、20mSvに反対意見を出しても、殆ど聞き入れられなかったのだろう。

ただ、原子力保安委員のメンバーの専門を見る限り、放射線影響学を専門に持つのは久住氏だけであることと、4/10の議事進行からみて、放射線防護基準については、久住氏の意見で殆ど決まってしまわないかという懸念は拭いきれない。

放射線防護を専門とする小佐古氏が参与を辞任した以上、原子力安全委員会に、別の放射線医学を専門とする委員を加えるか、参与を任命してチェックを入れられるようにしないといけないのではないかと思う。

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画像辞任参与の批判に戸惑いの声 4月30日 21時43分

文部科学省などが、福島県の小学校などの校庭での活動を制限する目安を、1年間の放射線量の累積で20ミリシーベルトとしたことを、内閣官房参与を辞任した小佐古敏荘氏が批判していることについて、福島県の学校関係者からは戸惑いの声が上がっています。

このうち、文部科学省の今週の調査でも目安の放射線量を上回った福島県伊達市の小国小学校では、校庭の利用の再開を目指して、30日から表面の土を取り除く作業を始めました。この小学校では、安全が確認できるまで校庭の利用を控え、今月15日の運動会も体育館で行うことにしています。小国小学校の柳沼雅俊校長は「専門的な知識がないので国の目安に基づいて対策を行っているが、その元になった専門家が目安を容認できないということだったので、非常に驚き衝撃的だった。大切な子どもの命を預かる現場としては、しっかりした基準に基づいて安全・安心に取り組みたいが、今は毎日手探りで不安と向き合わざるをえない」と話しています。また、同じく校庭の表面の土を取り除いた郡山市の薫小学校の森山道明校長は「誰にとっても全く初めてのことだと思うので、とにかく早めに対策を取っていくしかない。どうしたらいいのか分からない状況だが、放射線の状況に小まめに気をつけながら子どもたちの安全をどう守るか考えて行きたい」と話していました。

URL:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110430/t10015649891000.html



画像福島第1原発:内閣官房参与辞任で不快感表明…福島県知事

 小佐古敏荘(こさことしそう)・東京大教授(放射線安全学)が福島県内の小中学校などの屋外活動を制限する「年間20ミリシーベルト」の基準に異論を唱えて内閣官房参与を辞任したことについて、佐藤雄平知事は1日の県災害対策本部会議で、「国の基準に従って一生懸命やってきたのに、これでは県民が困惑する」と国の足並みの乱れに対し、不快感を示した。

 佐藤知事は出席した国の担当者に、「政府側の正しい専門的な知見の中で、われわれに指示があると思ってやっている。そこを改めて政府側に申し上げていただきたい」と注文をつけた。佐藤憲保県議会議長は「県民が大きな不安の中で生活している状況を政府が認識しているのか疑問だ」と強い口調で抗議した。

 会議では、県の放射線に関する相談窓口に小佐古氏辞任に関する問い合わせが相次いだことも報告された。県によると、4月30日だけで「国の基準は本当に大丈夫なのか」「県独自にもっと安全な基準を設定すべきだ」など現行の「年間20ミリシーベルト」を疑問視する問い合わせが20件あった。県は「基準は1日8時間屋外にいることを前提にしているので、非常に安全な基準であるとお答えして、県民の不安の解消に努めている」と話した。【松本惇、蓬田正志】

URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110502k0000m040082000c.html



画像校庭利用基準を見直し=首相、原発対応「場当たり」批判に反論

 菅直人首相は30日午前の衆院予算委員会で、福島第1原発事故に伴い、周辺の学校の校庭利用の放射線量上限を年間20ミリシーベルトとする政府の安全基準について、「子どもの健康が最優先だ。これで大丈夫というより、ここをスタートにして、線量を下げる努力をしなければならない」と述べ、基準を厳しくする方向で見直す考えを表明した。社民党の阿部知子氏が基準を厳しくするよう求めたのに答えた。
 同基準をめぐっては、29日に内閣官房参与の辞表を提出した放射線安全学を専門とする小佐古敏荘東大大学院教授が記者会見で「間違い」と指摘。政府の原発事故への取り組みを「法律や指針を軽視したその場限りの対応」と批判していた。
 首相は、小佐古氏の辞任について「専門家の間の見解の相違で辞任した。大変残念だ」と述べるとともに、「参与の議論も含めた助言を得て、決して場当たり的な対応はしていない」と「場当たり」批判に反論。さらに「最終的には原子力安全委で一つの見解をまとめ、政府に助言する仕組みになっている」と述べ、安全委の結論を尊重した政府の判断に問題はないとの認識を示した。
 これに関連し、枝野幸男官房長官は記者会見で「年間20ミリシーベルトまでの被ばくを許容したものではなく、小佐古氏の誤解だ」と述べた。政府は30日付で、小佐古氏の辞表を受理した。
 首相は阿部氏のほか、自民党の小里泰弘、公明党の富田茂之両氏に答えた。(2011/04/30-12:42)

URL:http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011043000109



画像小佐古氏と面識なく参与に任命 参院予算委で首相 2011.5.3 00:25

 小佐古(こさこ)敏荘(としそう)東大大学院教授が東京電力福島第1原発事故への政府対応に抗議して内閣官房参与を辞任した問題で、菅直人首相は2日の参院予算委員会で「以前に面識はなかった」と述べ、事前に会わずに参与に任命したことを明かした。

 首相は、民主党の空本(そらもと)誠喜(せいき)衆院議員から推薦されたことを認めた上で「大変高い知見をお持ちの方だと聞き、推薦者の見方を尊重して任命した」と説明した。

 小佐古氏の慰留に関して「私は議論に同席したり詳しく関わっていたわけではない。細野豪志首相補佐官に『話をしてくれ』と依頼した」と語り、細野氏に任せっきりだったことを認めた。さらに「私は予定を決めてお会いするかどうかを決めようと思ったが、結果的に辞表を置いていかれた」と打ち明けた。

URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110503/plc11050300300001-n1.htm

この記事へのコメント

  • sdi

    「仕分け」の時もそうでしたが民主党の立ち上げるプロジェクトチームに編成における、その分野の本当のスペシャリストのもつ知識・経験・ノウハウへの敬意の無さを私は感じます。
    同時にそれは、毛沢東が文化大革命で「知識や技術よる格差」を抹殺しようとしたことに通じるものがあるように思えてならないのです。
    2015年08月10日 16:46
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    基準値を上げることは一つの考え方だが,
    12回の安全委員会の全会議時間は約7時間, 平均30分.
    これで国民の健康は守られるのかな?

    「海軍反省会」という面白い本を読んでいるのだが,
    旧海軍の反省として, 戦時体制を考えずに組織作りを
    していたと反省している. 安全委員会も原子力発電の
    安全をお祈りする会だったのかもしれない.
    2015年08月10日 16:46
  • 日比野

    ちび・むぎ・みみ・はなさん、どうもです。

    >12回の安全委員会の全会議時間は約7時間, 平均30分.
    これで国民の健康は守られるのかな?

    そうなんです。会議が長けりゃいいもんじゃないというのは、確かにそうなんですけど、事これに関しては、議論すべき内容に対して、時間が足りなすぎるように思います。1回30分~1時間程度では、報告と承認で終わりです。
    2015年08月10日 16:46

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