超伝導直流送電(超伝導直流送電技術 後編)

 
昨日のエントリー「電気抵抗と超伝導」のつづきです。

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4.送電ロス

送電において、より損失なく流す方法として、電気抵抗を限りなく小さくするというのがあるのだけれど、そのためには、周囲温度を低くしてやって、元々の金属原子の振動を小さくしてやるか、電線を短くしてやるか、はたまた、電線を太くするしかない。だけど、そんなことは、常温超伝導が実用になるか、発電所を都市部にバンバン作らないといけなくなるし、電線が太くなると、重くなって敷設が大変になるし、費用もかかる。

電力は電圧と電流の積、電圧は電流と抵抗の積だから、電力は電流の自乗と抵抗の積として表される。(P=E・I、E=R・I、P=R・I^2)

仮に、発電所から400Wの電力(P=400)を送電するとき、電線の抵抗値が1Ωだとすると、必要な電流値は20Aになる。(400=1*20^2)

ここで、抵抗値が4倍の4Ωになったとき、それでも400Wを送電しようとすると、必要な電流値は、半分の10A(400=4*10^2)になる。

要するに、抵抗値が4倍になっても、電流値を半分にすれば同じ電力を送れるということは、電線の抵抗値を減らせなくても、電流値を減らしてしまえばよいことになる。しかも電流値を減らしたほうが自乗で効果がある。

抵抗値が増えても、電流を減らせば同じだとなれば、いいことのようにも思えるのだけれど、世の中そんなに甘くない。電力は電流と電圧の積だから、同じ電力を送るために、電流値を減らすということは、その分、電圧を上げなければならないことを同時に意味してる。

水とホースの喩えでいうならば、今まで使っていたホースより、細いホースに変えても、今までと同じ水量を送るためには、蛇口をもっと開けて勢いよく水を出してやらなければならないのと同じ。高圧送電線がある理由はこれ。

もちろん、前提として、発電した電気を一度、超高電圧に上げて送電し、家庭に届ける直前に電圧を下げるといった、電圧の変換を行うことは必須。

現実の送電は、発電所に併設されている変電所で50万ボルト、100万ボルトといった超高電圧に昇圧してから、小さな電流で送電し、途中にいくつか設けられた変電所で降圧しながら家庭に配電している。

現在、送電方式が交流である最大の理由は、変圧が容易であること。これは、送電ロスを抑えるために必須な変圧にはうってつけ。だから、交流による送電が行なわれている。

今の日本の電力網全体の送電ロスは、エネルギー庁の報告によれば、2005年度時点で、5%とされているけれど、これは、OECD諸国の7%、非OECD諸国の20%、そして、イギリスの11%と比べても随分少ない。

とはいえ、日本の年間発電量は2004年度時点で9705億kWhもあるから、5%とはいえ馬鹿にはならない。

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5.交流は長距離送電には向かない

勿論、交流送電に欠点がないわけじゃない。

交流送電の欠点には大きく2つあって、ひとつは、実効値の問題。交流は、電流の向きが周期的に変わる伝送方式だから、電流方向がプラスからマイナス、マイナスからプラスへと切り替わる瞬間が存在するわけで、その瞬間は電圧値はゼロになっている。つまり交流には電圧が多くかかる時間とあまり掛からない時間が交互にある。だから、たとれば100Vの電圧で電気を送ろうと最大値プラスマイナス100Vで送電しても、電圧ゼロの区間がある分、均してみると100Vにはならない。もうすこし、4割増ほど電圧を上げなくちゃ、均して100Vにはならない。(実効値)

だから、100Vの送電線にしても、実際は141Vの電圧に耐えるものが求められることになるから、それがコストアップの要因になる。

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もうひとつの欠点は、先ほども触れたけれど、交流を送電することそのもので電力損失が発生するという点。

先に説明した電気抵抗は、送電線という導体そのものに関わる抵抗だから、直流だろうが、交流だろうが等しく発生するのだけれど、それ以外にも、交流であるがゆえに発生する抵抗がある。それが、誘導性リアクタンスと容量性リアクタンスと呼ばれるもの。

誘導性リアクタンスとは、これは、送電線や変圧器、いわゆるトランスの部分で発生する抵抗のこと。トランスとは、単純にいえば、環になった鉄心の両側から別々に電線を巻きつけたもので、片側の巻線に交流電流を流すと、電磁誘導によって反対側の巻線に電気が流れる仕組みになっていて、それぞれの巻数を変えてやることで、自由に電圧を変えることができるのだけれど、コイル状に巻いた電線には、電源電圧とは逆向きの自己誘導起電力が発生し、電力ロスが出てしまう。

そして、容量性リアクタンスとは、コンデンサーのことで、その構造は、絶縁物を挟んで金属板を向かい合わせるだけの単純なもの。だけど、コンデンサーには、電荷を蓄えたり、放出する働きがあって、自身につながった電位が高くなると、電荷を蓄えて電位を元に戻そうとし、逆に電位が低くなると、蓄えた電荷を放出して、これまた電位を元に戻そうとする。要するに、周囲の電位変化に対して、それを妨げる働きをする。

交流は流れる方向が逆転する電流、つまり、プラスとマイナスの間を電位変化を起こしながら電流を流す方式だから、交流送電線にコンデンサーがついていると、その分だけ電流の流れはコンデンサーによって打ち消される方向に働いてしまう。

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では、送電線のどこにコンデンサーがあるのかというと、実は、送電線と地面の間がコンデンサーとなっている。送電線と地面との間は基本的に空気などの絶縁物。地面は文字通り"アース"となって電気を通すから、地面の上に周りを被覆で囲った、送電線ケーブルかなんかを置いておくだけで、送電線丸ごとコンデンサになってしまう。もちろん、これは、送電線を高架に上げて空中を這わしても同じ。コンデンサの容量は減っても、コンデンサそのものが無くなるわけじゃない。

コンデンサの容量というのは、電荷を蓄える、又は放出できる量のことで、もちろん、送電線が長くなればなるほど、コンデンサ容量も大きくなってゆく。

仮に、長距離を一本の電線、又はケーブルか何かで送電する場合、送電線が長くなればなるほど、送電線やケーブルにつくコンデンサの容量はどんどん増えてゆく。そして、コンデンサの容量が余りにも大きくなってしまうと、いくら電気を送っても、その電気はコンデンサの充放電にどんどん使われてしまって、電力ロスがどんどん大きくなる。もちろんロス分を見込んで、更に高電圧にするなり、電流を増やすなりすれば、カバーはできるのだけれど、その分電力コストもかさんでゆく。

これら、容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスは、交流のように常に電圧変化、電流変化を起こすものに対して発生するものであるのに対して、基本的に電位・電流変化を起こさない直流には起こらない。

こうした理由などから、交流による送電は長距離になると不利とされていて、技術的限界は、直流で約7,000Km、交流で約4,000Kmであろうと指摘されている。(CIGRE:1984Session,”PRESENT LIMITS OF VERY LONG DISTANCE TRANSMISSION SYSTEM” by L.Paris etc

だけど、実際は技術的問題よりも、建設コストのほうがもっと重要で、ある見積もりによると、送電距離が600~800km以上になると、直流送電のほうがコストが安くなるといわれている。

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6.超伝導直流送電

これまで直流が送電に使われなかった理由として、電圧変換が難しかったというのがあったのだけれど、近年の半導体技術の向上によって、それらの問題が大分解決されるようになってきた。

1987年ごろに、当時東北大学の西澤潤一氏が静電誘導サイリスタを開発し、それを使用すれば、98%という高変換効率での直流から交流への変換が可能となることから、直流送電が見直されるようになってきた。

最近では、特に海底ケーブルなどのように、途中に変電所を入れられない長距離送電には、直流で行なわれるケースが増えてきている。

たとえば、日本なら、本州と北海道を結ぶ北本連系や本州・四国間の紀伊水道直流連系などがある。北本連系の送電距離は167kmで、ケーブル長は43km、紀伊水道直流連系の送電距離は100kmでケーブル長は49km。

無論、海外でも同様に直流送電は使われている。

中国では、2010年7月8日から、向家堤-上海間の1907kmを直流送電しているし、アフリカのコンゴ共和国でも、コンゴ川の河口に近いインガダム水力発電所と、カタンガ州銅山都市コルヴェジを結ぶ1700kmの直流送電を行なっている。これらは、世界1位と2位の直流送電距離を誇る。

また、ヨーロッパでも海を隔てた隣国間を、高圧直流送電で相互接続している。

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それでも、直流送電は、交流と較べて、電力損失が少ないとはいえ、送電線自体の電気抵抗がやはりあるわけで、それによる電力ロスは避けられない。

送電線による配線抵抗を減らすには、送電線を太くしてやればよいのだけれど、当然材料費が嵩んでしまってコストアップしてしまう。

そこで、登場してきたのが、直流送電線を超伝導状態にしてやって、電気抵抗をゼロにしようという試み。

これは、新たに開発された、直流超伝導ケーブルを使うもので、ケーブルの中には銅製のフォーマーと呼ばれる管を通した中空構造になっている。その外側には、幅4㎜で厚さ0.2㎜の銀とビスマス化合物のリボン状の超伝導体があり、電流はそこを流れるのだけれど、100A程度の電流までは流せるそうだ。

ケーブルには、このリボン状超伝導体39本を2層に重ね、更にその外側に、液体窒素を流すパイプと断熱のために真空にするパイプが取り巻く構造を持つのだけれど、超伝導体リボン自身が0.2mmととても薄いために、これくらいの多層構造を持つケーブルでも直系はわずか150mmに収まるのだという。

2010年3月には、中部大学の超伝導・持続可能エネルギーセンターが、このケーブルを使って、直流電流を200メートル送電する実験に、世界で初めて成功している。

ただ、この超伝導体リボンの材質に銀が使われているということで、やっぱり、ケーブルコストが高価にならないか気になるところなのだけれど、このケーブルの開発者である、中部大学の山口教授によれば、超伝導によってケーブルが細くなることで、送電線建設のために必要な土地が少なくなって、電流量あたりのコストは、超伝導直流送電のほうが安くなるのだそうだ。

中国やコンゴの例をみると、常温でも既に2000km程度の直流送電ができている。だから、超伝導直流送電にすると、もっと送電距離が伸びることは間違いない。

送電距離を伸ばすことができれば、たとえば、沖ノ鳥島に海洋温度差発電プラントでも作って、そこから直流送電で日本列島にまで送電してやることだって出来るようになる。

今や、一般家庭で使われる電力の7割は直流で動く製品ばかり。パソコン、薄型テレビ、DVDプレーヤにLED照明などなど。交流のままで動くのは白熱電灯、電気ストーブとかくらい。

直流で動く家電は交流から直流へ変換して使っているけれど、変換するときには、やはり少しずつ電力をロスしているし、発電所では、発電された直流を一度交流にしてから送電しているから、「直流→交流→直流」と2回変換してから使っていることになる。

将来的にスマートグリッドを使うにしても、無駄な変換で電力をロスしていては、その効果も半減してしまう。更に、家庭で発電した余剰電力を電力不足の地域に供給したくても、太陽光パネルは直流発電だから、直流送電線を敷設するか、交流に変換しなくちゃいけない。仮に家庭で発電した直流を交流に変換したとしても、低電圧での交流送電はロスが大きいし、かといって、住宅地に何十万ボルトにも昇圧する変電所をバカスカ作るわけにもいかない。やっぱり、直流送電網が必要になってくる。

これからの電力使用を考えると、まず、都市部からでも直流送電網の整備を進めておく必要があるだろう。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    導体を冷やす部分のロスと安全性は如何?
    大災害で冷却装置が駄目になると復旧まで
    の時間がかかる. 電線を張れば電気を送れる
    システムの頑強性も重要ではなかろうか.
    経済性を重視し過ぎるのは危険かも.
    「スマート」グリッドの安全性には不安もある.
    「スマート」というのはどうかね?
    2015年08月10日 15:27
  • 白なまず

    最近の家電製品の多くは実は12V以下の電圧があれば大体足りていて、例外としてはモーター、コンプレッサー等の動力関連くらいかな~。これも、直流の低電圧で動作する物で作り替える事は可能だし、、、そうすると、従来の交流100Vを電化製品の電源回路で一々直流12Vに変換する回路が、直流**Vを直流12Vの変換(安定化回路)になり、直流電圧変換の効率は件のような98%の様な効率が可能で交流を直流に変換する従来の家電の電源回路の非効率(熱で相当逃げている)な電力消費も減りいいと思います。蓄電池(12V、24V)とかありますが、実は1.2Vとかの乾電池程度の電圧を積み上げて実現しているので、再デザインを考えると、直流24V程度の蓄電池を使うことを前提とし、太陽光パネル等の蓄電や家電製品の電圧を一々大きく電圧変換しなくて済むので送電線だけでなく家庭内でも直流化は大幅な節電に繋るとおもいます。
    2015年08月10日 15:27

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