3月7日のエントリー「海賊対策とシーレーン」のコメント欄で、ス内パー様から、電力ロスの件で御指摘をいただき、その解決策のひとつとして、直流送電があるとお返事させていただいたのですけれども、今日、明日と2回シリーズで、直流送電についてエントリーしてみたいと思います。
1.電気とは水の流れに例えられる
関西電力は、この夏、電力不足に陥る可能性を鑑み、昨年と比べて、一律15%の節電を要請する方向で調整に入ったとの報道があった。
管内の企業では、自家発電設備をフル稼働させたり、製鋼所など電力を多く使用する工程を夜間に回すなど、ピーク電力をズラす工夫などを行おうとしている。
7府県でつくる関西広域連合では、5月26日に、電力需要が増える6月22日~9月23日を対象として、節電を家庭やオフィスに呼びかける方針を決め、5~10%の電力削減は可能としていたのだけれど、今回の関電の15%節電要請は、事前に各府県と調整していなかったらしい。
激怒した橋下大阪府知事は、6月11日、大阪市内での民主党への予算要望説明会で、「15%の削減策について何の調整もなかった」と不快感を示し、大阪府は協力しないとコメントした。
関電は関電の都合、大阪府は大阪府の都合があるのだろうけれど、両者にすれ違いがあった場合は、互いに歩みよるか、上位の国が調整すべきだと思うけれど、まぁ、今の政府では望みは薄い。
今年の夏は、現状でなんとかするしかないのかもしれないけれど、やはり来年、再来年を考えると電力供給の手段は考えておく必要がある。
現在、発電所で発電された電気は、交流による送電で、各家庭に送られる。交流とは、時間とともに周期的に大きさと向きが変化する電流のことで、電圧が波のように、プラスとマイナスの間を行ったり来たりしながら送電される。それに対して、乾電池のように電流の流れる方向、つまり時間によって大きさが変化しても流れる方向が変化しない電流を直流と呼ぶ。
もともと送電に交流が使われるようになったのは、1880年代に、エジソンとテスラによる電流戦争と呼ばれる技術競争があり、それにテスラが勝利したから。
電気の送電においては、交流だろうが、直流だろうが、電気は電線を伝わって、各家庭や工場などに送られる。だから、当然、送電するときの損失が少ないほうがいい。
電気が損失するというのは、何も電気が消えるというわけではなくて、電気が送電線のルート以外に流れたり、熱エネルギーなどの別のエネルギーに変わってしまって、電気のまま工場や各家庭送電される量が目減りしてしまうことを指す。
電力を水に例えて考えてみると、例えば、ダムから家庭にまで長いホースを引っ張ってきたとき、ダムの高さが電圧に、ホースの口から出る水流が電流にあたり、流れてくる水量の単位時間あたりの合計が丁度電力量にあたる。※直流的説明ですが。
だから、短時間で大電力を供給しようとしたら、ダムの高さをうんと高くしてホースから流れる水の勢いを増してやるか、ホースの口をうんと大きくしてやって、じゃばじゃば水が流れるようにするかのどちらかになる。すなわち、電力(水量)は電圧(ダムの高さ)と電流(水流)の積で表される(W=E・A)
もう少し細かく例えると、このホースは一本のホースで直接家庭にまで届くのではなくて、途中で何度か別のホースを繋ぎ足す部分、すなわち、ジョイントにあたる部分(変電所)があって、繋ぎ足すホースの口を少しずつ大きく(変圧)してやって、水の勢いを落としている。なぜなら、ダムから流れ落ちる勢いそのままで家庭に届けてしまうと勢いがありすぎて(電圧が高すぎて)危ないから。
2.電気抵抗
金属原子は元々、電気的にはプラスにもマイナスにも帯電していない中性なのだけれど、電流が流れている間は、自身の電子が飛び出してしまう(伝導電子、自由電子として説明されることもある)ので、プラスに帯電している。
電流というのは、要するに、金属などの導体中を流れる伝導電子の流れになるのだけれど、移動する伝導電子は、導体中の金属原子の間をすり抜ける形で移動してゆく。
電子はマイナスに帯電しているので、伝導電子が金属原子に近づくときには、金属原子のプラス電荷に引かれて加速し、離れていくときには、逆に金属原子のプラス電荷に引っ張られて減速してしまう。
これだけみると、伝導電子が金属原子の間を通過するスピードはプラスマイナスゼロになる筈なのだけれど、実際は、金属原子はじっとしているわけではなくて、周囲の温度によって、微妙に振動している。この振動が曲者で、自由電子が通過するときに、常に金属原子との距離が変わるために、伝導電子の軌道が乱されて、まっすぐに通過することができなくなってしまう。この金属原子による伝導電子の通過の妨げを「電気抵抗」と呼ぶ。
したがって、真直ぐに飛ばない伝導電子の見かけ上のスピードは金属原子の間を通過する度に遅くなるのだけれど、導体の両端には電圧がかかっているから、それに引かれて、また加速してゆく。こうして、減速と加速を繰り返しながら伝導電子は移動してゆく。
また、電子が通過された側の金属原子も、電子のマイナス電荷による影響を受けて、より振動が激しくなるのだけれど、この原子の振動は、外からは熱として観測される。(ジュール熱)
通常、金属原子の振動は、温度が高ければ高いほど激しくなるので、その分、伝導電子の通過軌道の乱され方も激しくなるし、伝導電子が通過する金属導体が長ければ長いほど、伝導電子の通過軌道が乱される頻度が高くなる。電気抵抗の値が温度と導体の長さに比例して大きくなるのは、これが原因。もちろん、導体の切り口の表面積を大きくしてやれば、電子の軌道が乱されても、通過する電子の数そのものが、面積に比例して増えることになるから、電気抵抗は面積に"反比例"して小さくなる。
3.超伝導
「水銀は新たな状態へと遷移した。この状態の特異な電気的特性から、これを超伝導状態とでも呼ぼう」ヘイケ・カメルリング・オネス
ところが、原子の振動が局所的にしか起こらないとき、電気抵抗がほとんどゼロになる場合がある。
まず、原子があまり振動していない状態で一個の電子が原子間を通過すると、周囲の原子が電子のマイナス電荷に引き寄せられて、狭まってくる。そうすると、局所的に原子のプラス電荷が密になった空間が出来上がる。この空間は、電子が離れていくにつれて当然その状態が解消されるのだけど、そのとき、周辺の原子は元の位置に戻ろうとして、わずかな振動を起こすことになる。
ところがここで、最初の電子が通過した後、周辺の原子が元の位置に戻るまでの間は、局所的な原子の密集によるプラス電荷が密になった空間がそのまま残っているから、そのプラス電荷に別の電子が引き寄せられてくる。
もちろん、導体そのものには電圧が掛かっているので、最終的には、その引き寄せられた別の電子も電極方向に引っ張られて移動してゆくのだけれど、この最初の電子が通過した後の原子の密集によるプラス電荷が2番目の電子を引き寄せてくる現象を、最初と2番目の電子が互いにセットになって導体内を移動していると捉えると、この「電子対」は、丁度、一列に整列したような形で、原子間をお行儀良く、真直ぐに通過する動きをしていると解釈できる。
これが、いわゆる「超流動」と呼ばれる状態で、この状態になると、電子は勝手な運動ができなくなってしまう。つまり、電子は自分の軌道を乱されることがなく、原子間を通過することになるから、結果的に、見かけ上の電気抵抗はゼロになる。
この「超流動」のミソは、電子が通過する周囲の原子だけが振動を起こすことで始めて、最初と2番目の電子が電子対を作ってくれて、真直ぐに飛んでいくことにある。もし、これが、原子全部が熱振動を起こしているような状態になると、各々の電子のはそれぞれの原子振動の影響を受けてしまって、電子対を作ることが出来なくなる。即ち、電気抵抗が発生してしまう。
この、電子が通過する周囲の原子だけ振動するということは、電子が通過しない状態では、どの原子も殆ど振動していないということだから、要するに、導体を原子の熱振動が殆ど起こらないくらいまで冷却しなければならないことになる。これが超伝導にはマイナス百何十度とかいう極低温にしなければならない理由。
最初に超伝導現象を発見したのは、オランダの物理学者のヘイケ・カメルリング・オネスなのだけれど、それは水銀を液体ヘリウムで冷やしてゆくという実験で、抵抗値ゼロ(正確には10万分の1Ω)になった温度はマイナス269℃(4.19K)だった。
その後、水銀以外でも超伝導状態が起こることが次々と確認され、近年では、高温超伝導体と呼ばれる、マイナス200℃より高い温度でも超伝導状態となる、銅酸化物を組成とする高温超伝導物質が発見されている。
このマイナス200℃というのは、丁度、窒素が液体になっている温度で、高温超伝導体は、高価な液体ヘリウムで冷やさなくても、安い液体窒素でも、十分に超伝導状態に持っていけることになり、実用化への期待が高まっている。
明日につづきます。
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この記事へのコメント
SHIN
自公両党は、民主党の政権公約(マニフェスト)の見直しで民主党から大幅な譲歩を勝ち取り、
倒閣への機運を高めたい考えだが、先行きは不透明だ。
会談で、民主党の玄葉政調会長は、子ども手当の「つなぎ法」の期限切れとなる
10月以降も当面、同手当を継続したいとの考えを示したが、
自民党の石破政調会長は「子ども手当以外の政権公約の見直しも行うべきだ」と主張して譲らず、
議論はかみ合わなかった。
民主党の岡田幹事長ら執行部は、首相退陣と引き換えに特例公債法案に協力するよう
水面下で自公両党に働きかけているとされる。16日には与野党党首会談を打診するなど、
自公両党の取り込みに躍起だ。
これに対し、自公両党は、首相が退陣時期を明示しない限り、民主党の誘いには応じない構えだ。
讀賣新聞 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110617-OYT1T00239.htm
自民党はもう創価学会なしでは戦えなくなってしまいました。
sdi
直流と交流の優劣論争は、エジソンVSステラのころにすでにやっていましたが、21世紀になって再び再燃するとおもいませんでした。
私は直交変換のロス削減がこの技術の肝だと思っています。明日の続きにも期待しています。
空き缶殿の開き直り等政治ネタはその手の記事のコメント欄で突っ込むことにします(笑)